機関誌『水の文化』30号
共生の希望

進化する工場の水処理思想
水屋が提案する省水型産業の共生

オルガノはイオン交換の原理を用いて、 非常にきれいな水をつくる技術を産業界に広く提供してきました。 廃棄物処理や地球温暖化をストップするための 省エネが求められる現代、 水屋を自認するオルガノに望まれる仕事も、 様変わりしようとしています。 さらなるステップを標榜する、産業界の水利用についてうかがいました。

今岡 孝之さん

オルガノ株式会社 プラント事業本部
プラント事業部企画管理部長
工学博士
今岡 孝之 (いまおか たかし)さん

イオン交換は省エネ

オルガノの創業者は軍医で、野戦病院での治療にきれいな水が必要ということで、濾過した水をイオン交換をして治療に使っていました。

平和な時代になっても、終戦直後はなかなか衛生的な状態ではなかったため、特に病院や分析をする会社にイオン交換樹脂をお売りしたり、簡単な装置を提供したというのが、事業の発端です。今年で創業62年目になります。創業地が長野県の諏訪というのは、たまたま創業者の故郷だったからです。もちろん精密産業との縁もあったと思います。

イオン交換の原理は、液体の中に入っている不純物などをイオン交換樹脂にくっつけたり、外したりすることで分離を行ないます。イオン交換樹脂との仲の良さ、つまり親和性によってくっつき易さやくっつきにくさ、外れ易さがあるんですね。これを上手に使いますと、ごちゃ混ぜにいろんなものが入った液体の中から出てくる順番ごとに一定の物質を取り出すことができます。これをクロマト分離といいます。リトマス試験紙に液体をしみ込ませるとだんだん成分が分離していくのを、昔、理科の実験でやった方もいるのではないでしょうか。

クロマト分離という方法を使いますと、多成分、何種類かの成分が混ざったものから、単成分で取り出せる。つまり精製ができるんです。例えば砂糖をつくるときに、液糖の中から不純物を取って上白糖にする、というようなときにも使われてます。

オリゴ糖とか、今注目されている砂糖以外の成分を抽出するところでもイオン交換樹脂が使われるようになりました。実は今まで、オリゴ糖などは副生成物として捨てられてたんですが、注目されるようになり、純度が高くできるということでクロマト分離が利用されています。

医薬品の業界では、先端医療の開発に伴い、少量で高価なものを抽出して、精度の高いものをつくるようになっています。

このように各産業の中で、新しい活用の仕方が見出されてきました。お客さんが困っていることに一緒に取り組んだ結果、新しい使い方のアプリケーションが見つかることもありますし、我々が思いついて提案する場合もあります。

イオン交換樹脂というのは、くっつけて離れるという成分との相性だけでやってますから、エネルギーを食わないんですね。非常に省エネです。

例えば水の中の不純物を分離するときに、蒸留、つまり蒸発させて揮発しないものは残すといった分離方法だと、熱エネルギーをすごく使いますよね。真空で引いて蒸発させてもいいんですけれど、これもやはりエネルギーを使う。でもイオン交換樹脂っていうのは流すだけ。溶けていたものをイオン交換樹脂に吸着させ、水はそのまま抜けていくというのが基本です。膜ろ過とか、生物処理、有機物の分解といった非常に省エネのものを組み合わせて使います。

イオン交換樹脂には、たくさんの種類があります。同じ量でたくさんくっつけられるものや、例えばお砂糖をきれいにするためにはお砂糖の成分が好むものを選びます。

樹脂にはものすごい数の種類がありますが、大きく分けるとカチオンとアニオンという2系統です。

  • イオン交換樹脂。 イオン交換樹脂にもいろいろあり、水処理用、精糖用、化学工業(触媒)用など多くの種類がラインアップされている。

    イオン交換樹脂。 イオン交換樹脂にもいろいろあり、水処理用、精糖用、化学工業(触媒)用など多くの種類がラインアップされている。

  • イオン交換樹脂。 イオン交換樹脂にもいろいろあり、水処理用、精糖用、化学工業(触媒)用など多くの種類がラインアップされている。

きれいな水を求める産業

戦後、日本の産業はまず化学工業や機械工業が、1970年代からは電子産業が発展して、それに伴いエネルギーが必要になって発電所がたくさんできました。

発電所は巨大なボイラー。原子力だろうが石油だろうが水を沸騰させて蒸気にしてぐるぐる羽を回す。水の中に汚れが入っていると、沸騰させたときにスケールと呼ばれる不純物がタービンの羽や配管にこびりつきます。これがひどくなると発電効率を低下させたり、羽などの損傷につながります。だから、きれいな水が必要になります。

化学工業、鉄鋼業もまずはボイラーで水を沸騰させて蒸気にします。蒸気タービンを回すことで発電したり、熱を使ったりします。

半導体産業も非常に細かい加工をしますので、さらに超純水という、ものすごくきれいな水が必要とされます。

発電所や化学工業、鉄鋼業では水を循環して使いますので、もともと有効利用してきたんですね。半導体産業、液晶産業というのは、かつては水の回収ということにはあまり頓着しないで大量に使っていましたが、今は、もちろんそうではありません。

半導体産業は微細化というのが命題で、同じ面積の中にどれだけ詰め込むかということが求められます。半導体チップは、厚さは1mm、直径が30cmのシリコンウェハーの板の中につくり込むため、不純物を排除した、よりきれいな水が必要なんですよ。

半導体は回路ですから、簡単に言ってしまえば電線をつないでつくるようなものです。コンデンサーとコンデンサーをつなぐ電線を、回路にたくさん詰め込んだのがLSI(集積回路つまりICの内、素子の集積度が1000個〜10万個程度のもの。飛躍的に集積度が高まった技術や製品を区別するために1970年代に生まれた呼称)です。もし微細でも不純物が入った水で洗ったら、その不純物が残って、後に回路がショートしてしまうわけです

現在、世界最先端といわれる会社でつくっている半導体チップは、電線と電線の間隔が45nm(ナノメートル=1ミクロンの1000分の1)です。

その会社では2年前は65nmだったんで3分の2になったということなんですが、2、3年後には22nmを目指しているんです。同じ板の中で配線の幅が半分になると、同じ性能のものが4つもできるんですよ。そんな感じで板は大きくせずに、どんどんどんどん小さくなっていく。小さいことに意義があります。我々が提供する水も、小さくする必要があります。22nmの間を洗うことが要求されてくるわけですから。

しかし、回路を焼き付ける操作は、写真プリントの技術と原理は一緒です。小さいものに焼き付けても、大きなものに焼き付けても、焼き付けるという行為は同じですから、いっぺんにたくさんのものに露光したほうがコストがかからないんです。

ですからウェハーを大きく、回路は小さいものしてやると、1つのウェハーの中に100個できていたものが、200個つくれるようになります。そうすると、回路のチップ1枚あたりのコストは半分になります。

それに対して、TV産業ではモニターの大型化を目指します。液晶TVは、確か2年前ぐらいだと32インチで30万円強。1インチで1万円ぐらいしていましたが、今は5000円ぐらいから出ています。

なんでそんなに安くなったかというと、生産技術の進化でコストダウンに成功したからです。

液晶画面はマザーガラスという板からつくっていきます。2年前の第7世代のころは、畳2畳分ぐらい、1.5m角ぐらいだった。その中に30インチだったら6枚とれますよ、という生産をしてたんですね。マザーガラスが1.5m角だと、42インチや48インチは3枚しかとれないから無駄がいっぱいできてしまったんです。

現在は第10世代になっていて、最先端の工場では、約3m角。1.5m角の4倍の面積になっています。

排水回収の損益分岐点

液晶は大きな材料を使わなければならないんで、ものすごくエネルギーを消費しますね。材料そのものもたくさん使うし、熱も水もたくさん使う。だからいかに省エネ・リサイクル型の工場にしていくかということを、必死で考えています。私たち水屋は、いかに水の回収率を上げるかという側面からサポートしています。

薬品とか現像液とか、使ったあとの水に混ざっている不純物をイオン交換樹脂を使って分離して、成分ごとに回収します。ただ、これ以上回収しようとすると逆にエネルギーを使いすぎて本末転倒だね、と思われるような損益分岐点があります。液晶の場合、現在それが70%ぐらいといわれています。

半導体工場は立地によって違いますが、水の回収率のピークが90%ぐらいで、それ以上回収しようとするとコストが高くなってきます。

ものを洗うときって、すすぎ始めは濃くて汚く、すすぎを進めていくと最後はほとんど使っている水と同じものになる。だから超純水を使ったら、出てくるものもほとんど超純水なんですよ。なので、ほとんどコストをかけないで回収できる分が3割ぐらいある。

その先は、より濃度の濃いものから水を搾り出そうとしてコストが増えるから、損益分岐点が出るんですね。

相容れない省エネと廃棄物低減

環境対応の中には、省エネと廃棄物低減の2種類があります。

排水や排ガスといった廃棄物を出すことは、近隣への影響が大きく、省エネというのは地球規模での影響の話になります。

その2つをどう合わせるかというのが問題になりますが、省エネと廃棄物低減は原理的には両立しないんですね。それをみなさん勘違いしていることが多いです。

もう一滴も水を捨てられませんとなったら100%回収までもっていかなくてはなりません。そういう工場は、クローズド工場と呼ばれています。もしも工場をクローズドにしようとすると、100%回収するためにエネルギーを大量に使わなくてはなりません。

そのために例えば工場の屋根に太陽電池を置いて、クリーンな電力で回収しています、と謳う場合もありますが、実は現時点で、太陽電池は製品化までに使うエネルギーよりも、製品がつくり出すエネルギーのほうが少ないんです。だからまだまだなんです。それでも政府がお金をかけてどんどん奨励しているのは、技術の進歩を期待しているからなんですね。

排水を出さないでやることはもちろん可能です。最後に残った濃い部分の液は汚いわけではなくて、分別して濃いところまでもっていきますと、元の薬品に近づいていくんですね。現像液は現像液、フッ酸はフッ酸で、すすぎのところでは水とまざって薄まるけれど、汚くはないんです。濃くした液体を再利用する。有価物としての再利用です。

しかし結局、いくらやっても最後はいろいろ混ざった濃厚なものが10%とか20%残ります。それをドライヤーと呼ぶ方法で蒸発させます。大気中には水蒸気しか出ていきません。残る残渣は産業廃棄物になります。

水を扱うプラントのコストっていうのは、ほとんどが電気代なんですね。

電気代って何かというとエネルギー。

イオン交換でくっつけたり離したりすることにエネルギーはかからないんです。何にエネルギーがかかるのかというと、水を動かすためのポンプ。運ぶためのエネルギーがかかるので、いろいろなプロセスを繰り返せば繰り返すほど、エネルギーがかかります。それに加えて、最後に蒸発させるのに熱エネルギーがかかります。

クローズド化する技術は、私たちは1990年代に既に持っていました。しかし、2000年を超えたときに地球温暖化の問題のほうが実は大きな問題なんだと気づかされました。

身近な問題としては排水を出さないでほしいけれど、自分の子供がどうなる? というのを考えたら地球との共生も併せてやらなきゃだめだよね、と。

工場の水回収と省エネルギー対策

工場の水回収と省エネルギー対策

ゴミの分別と同じ

私たちがしようとしているのは、この損益分岐点を少しでもグラフの右側に寄せる努力です。それにはユーザーと我々ユーティリティメーカーとの協力が必要なんですが、これはゴミの分別と同じなんです。濃いもの薄いもの、それから種類を分けましょうということです。

例えば現像液とエッチング(線を彫る)のためのフッ酸を混ぜないとか、すすぎ排水を濃度別にするシステムをつくります。配管を別々にしたり、途中に濃度計をつけて、薄いときはこっち濃くなったらこっち、と交通整理をするわけです。そうするとより低コスト、低エネルギーで分別することができます。

触媒利用は、数十年前からある方法ですが、省エネにとても有効です。反応しやすくしてあげる物質が触媒ですね。本当は熱を500度まで上げなければいけないところを、100度でできれば、400度分のエネルギーが得になります。その原理の応用です。

例えば、アクリルガラスを合成するときに、Aという油とBという油からつくるのに200度で1時間かかります、というときに触媒を使いますと、120度で30分で反応する、という具合です。

よくエネルギーの踏み台っていわれるんですけど、そういうお助け役なんですね。自分は何もかわらない。好きな人同士をくっつける仲人のような存在です。

イオン交換樹脂として、触媒を20、30年前からそういう使い方してきているんですが、省エネ、低コストでたくさんのものができますし、触媒として使ったあとも基本的には消耗せずに、繰り返し使えるのが特徴です。

それじゃあここから先はどうするんだというと、私たちが水屋の土俵でやれることはもうかなりやりつくしてきたんですね。あとはもう、水を使う量を減らしてもらうしかない。絶対量を減らしてもらう。もっと言うと1個の製品をつくるのに使う水の量を減らしてもらう。それは水屋として、自分の首を締めることにもなるんですけど。

私たちはユーティリティとして必要な水を必要なだけお届けします、出てきた排水は処理します、そこら辺が境目だったんですけど、お客さんの製造プロセスに乗り込んでいかなければならなくなってきた。

洗浄をどうやってるんですか、じゃあこれをこうしたら水半分でできますよ、って。

「水が半分になったらおたくは儲からないじゃない、いいの?」「良くはないですけど」っていう漫才をやらなければならない。

次のステップは機能水

今は、もう1つ上の概念に挑戦し始めました。たまたま日本産業機械工業会という経産省の団体から、優秀環境装置表彰の経産大臣賞をいただきました。この賞は、廃棄物低減ですとか回収率向上につながるようなものが対象になります。私たちが今回受賞した「酸還王」は、半導体の洗浄水量を場合によっては10分の1にするというものなんです。今から20年以上前から開発を手掛けてきました。

水を電気分解したり、オゾンとか水素を混ぜて酸化力や還元力をもたせた機能水は、軽い油汚れを落としてくれます。水素を混ぜて超音波をかけますとナノバブルがぱぁーっとできてゴミをパンパンと弾くんです。シリコンウェハーの表面にゴミが付いているときにも、きれいに取れるんですね。

今までは洗剤を使っていたし、大昔はフロンを使ってました。それがハイドロカーボン系の洗浄剤になって無機系のもの、酸を使ったりアルカリを使ったり、いずれにしても薬品を使うわけです。

超純水というのは、基本的には薬品や洗剤を使った後のすすぎ水なんです。薬品を使わなければすすぎはいらないのです。いきなり水でゴミをとってしまえばもうすすぎはいらない。

グラフの話でいくと、できるだけ右のほうへいっても省エネでいたい、と理屈はそうなんですけど、そう簡単には行き着かない。それなら全体量を減らすしかありません。そういう次のステップにいかないと、私たち自身もビジネスとして生き残れないな、と。

日本では、超純水を1tつくってせいぜい数百円。工業用水は1t買うと安いところで20円、家庭用の水道水だと60円〜70円ぐらい、下水道は1t捨てると200円とか250円ぐらい、高いところは800円ぐらいします。要するに、水自体は安い。

そのせいか、水も価値のある大切なものなんだけど、身近にあったものなので、どうしてもじゃぶじゃぶ使ってしまう傾向にありました。これは、世界の中で非常に特殊な日本の状況です。これを改めなくてはなりません。

日本は、水をきれいにする非常に高い技術を持っています。地球規模で起こっている水不足による砂漠化、安全な水が手に入らないインド、中国、アフリカなどに安全な水を安い値段で、ということで貢献できますね。

ただ、今、目の前で叫ばれている水不足対策には、海水淡水化、ドン、で終わり。1プロセスなんです。

海水淡水化プラントというのは水を逆浸透膜という膜を使って真水に変えるんですけど、水量はすごく多いですが、1プロセスで完了するんです。巨大な工場の中にずらーっと膜を並べて配管を全部並列で引いて、ドンってやると真水ができる。

オルガノが得意としているのは、工場用水をろ過をして、殺菌をして、イオン交換をして、有機物を分解して、超純水をつくって使う、そこで使われたものを分別して、濃度で分けて、きれいにしたものをまた元に戻して、と直列ループ型なんですよね。

今の水不足には、まず海水淡水化をやって量で確保することです。

質を求められた水というときになってはじめて、私たちの創業者が最初やったような、少なくても安全な水をつくるという装置を供給したり、それが工場レベルでつくるのであれば私たちが出かけていってサポートする。そういう貢献の仕方になると思います。

私たち社員は、みんな「水」というキーワードでつながってるんですね。職業に貴賤はありませんが、何か誇れる部分があると思います。そういう意味で水にかかわる仕事をやっているということは、人間としてすごく気持ちが安らかなんですね。

その中で、ビジネスですから当然他社と競争し、お客さんと協調して、お客さんの役に立つことをして利益を上げましょう、ということになります。これを続けていけば、私たちの仕事はたぶんなくならないと思います。食べ物と水とエネルギーっていうのは絶対なくならないですからね。

時代時代で厳しい状況にあった産業が良い水を欲しがった、という経験が私たちの技を磨いてくれたのです。今は、それが環境という厳しさと両立していかなければならないということ。総合水処理会社、トータルエンジニアリングと私たちは言っていますが、水にかかわる一通りのことを、最先端からある程度のレベルまで何でもできますという会社は、日本にしかないし、日本の中でもたぶん2、3社しかないでしょう。

世界規模で、もう少し水不足に対していろんな段階を踏んだあとに、産業が成長していくようなときになったら、きっと私たちの水が必要になるだろうと思います。

そういうことを考えると、今やっていることは何十年後とかに必ず役に立つだろうし、百年単位でずっと続くんだろうなと思いますね。

オルガノグループ 企業行動指針

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