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富山 それにしても、昔の浦島と現代版浦島ではずいぶんと変わってきていますね。
君島 何回か変化していますけれど、『御伽草子』が一応大きな変化でしょうね。浦島太郎になったり、竜宮が出てきたり、乙姫様が出てきたり。その前は、たとえば『風土記』
だったら亀姫でしょう。それから、『万葉集』だったら神の乙女。それはね、中国の場合でも同じこと古くは水神、竜神、河伯などで、竜王や竜宮は出てこないのです。それが、仏教が入ってきても民衆まで一般化するのに時間がかかりますので、いろんなところの水神が竜王になり、住まいが竜宮になるのは、唐の時代あたりなのです。ですから日本ではさらに遅れて『御伽草子』で竜宮が出てくるんですね。ですから柳田国男さんがね、「日本
の竜宮には竜王がいない」とおっしゃっているのです。竜宮があったら竜王がいるはずで、乙姫だけだったらおかしいでしょう。しかも乙姫って二番目か末娘なのに、乙姫ひとりしかいない(笑)。
富山 でも今の私たちにとっては要するに乙姫様とのロマンスと、年を取ってしまうという土壇場のどんでん返しがあればいいんでしょう(笑)。信仰とは関係あるのですか。

浦嶋子伝記をお話しくださる、
浦嶋神社宮司の宮嶋淑久さん。
写真下は浦嶋神社本殿。
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君島 お話の中に道教も出てくるし、仏教が浸透してくれば仏教も関係ありますよ。では、竜王、竜女より昔の話をしますとね。ある男が湖のほとりをほろ酔い加減でやってくるとあまり暑いので、水の中に入り石を枕に眠ってしまった。すると、水神の使者が迎えに来て、立派な宮殿に伴われていくのです。水神が現れ「娘の婿に迎える」といわれ、美しい姫と婚礼の式を挙げる。三日間滞在後、姫からおみやげをいろいろもらって帰る。それらは現世で役立つものばかり。だから水神の世界と時間の差はない。ただ気になるのは、別れ際に水神の娘が「お別れはつらいが、十年たったら迎えにゆきます」と言う。その後は何も書いてないけど、たぶん彼は迎えがきて、水中の世界へ行ってしまうと思うの。
この話は、水神の世界が水中にあるのかどうか描写が曖昧だけど、はっきりしている話もあるのです。『捜神記(そうじんき)』(注16)に、湖を渡っていた男が、突然湖の中に広い道ができて、水神からの使者が現れ宮殿に導かれる。以前に男がこの湖を渡るとき、ものを投げ入れ、水神への贈り物としたからなの。
男は歓待され、「お礼に」と「如願」というものをもらって帰る。この品物は、願いをかなえるもので、おまけに、美しい女が出てきて妻になる。まさに現世型。この頃、すでに水中の世界が想定され、水神の館があり、美しい娘があり、美しい娘がいて、贈り物をくれる。ここまでそろっていれば、もう、水神が竜王に、娘が竜女と呼ばれるようになるのはたやすいことでしょう。
では、この辺で、ちょっと面白い話をしましょうか。ある男が船に乗って帰る途中、美しい娘が小舟を漕いで近寄ってきた。とっぷりと日が暮れ、雨も降りだしたというのに娘は傘もない。男は娘を自分の船で雨宿りさせ、小舟を船につなぐと、娘は男の船に入って仲良く寝た。やがて雨があがり、月明かりでふと見ると、大きな亀がひじ枕で寝ていたというんです。
この話を学生の頃、学会で発表したら、後で男の先生たちから、「亀がいったいどういう格好で寝ていたのか、想像したらおかしかった」と笑われました。この美女は不覚にも亀の正体がばれてしまい、川に飛び込んでしまいましたが、つないだ小舟は枯れ木だったということです。美女になって男を誘うスッポンの話もけっこうありますよ。
富山 亀は、日本における沼とか川の竜神みたいな意味があるのですか。
君島 さあどうかしら。今私が話している亀が美女に変身して男を誘い、共に一夜を過ごした話というのは、いくつもありますよ。六朝の頃の伝承には。ですから亀姫が、ここの浦島さんを誘って行ったというのは、ずいぶん昔からそのモチーフはあるわけですね。
富山 亀というのはいつごろからありがたい存在になっていくのですか?

現代に伝わる“玉手箱”の中身
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君島 かなり古いですね。四神といわれる玄武、朱雀、青竜、白虎のうちの玄武。あれは亀で蛇が巻き付いている形をしている。霊獣の一種です。また、麟、鳳、亀、竜の四霊のひとつにも入っていて、万年の寿命を持つといわれています。亀は大昔、殷の時代に、占いに用いられた。有名な「甲骨文字」がそれです。亀の甲に占いの文字が刻みつけられている。最も古い中国の文字です。なにしろ紀元前千三百年頃のことですから。
富山 日本の、「鶴は千年、亀は万年」というのは関係がありますか。
君島 ありますよ。その言葉は中国製ですから。「亀千歳」というのが『史記』の亀策伝にあるし、「亀は万年」も古い文献にある「亀は齢万歳を経る」からきています。亀も鶴も長生きだ、というところから人の長命であることを「亀鶴之寿」などと言いますものね。
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