機関誌『水の文化』16号
お茶の間力(まりょく)

中国茶 もてなされ写真紀行

編集部

お茶のルーツを探る意気込みで「最古の茶樹」を訪ねて中国は上海へ渡ったのが去年の8 月。が、「みんな自分の産地の木が最古だと言ってるよ」と軽くいなされ、肩透かしをくった。以降は、自分の味覚と嗅覚だけが頼りの中国茶写真紀行。いかがなりますやら。

中国茶と日本のお茶の最大の違いは、1 煎で茶葉を替えず、何回もお湯を注いでその都度の味と香りを楽しむところにある。普段、1 番茶とか1 番ダシを良しとしている者には実感しにくい感覚だ。1 煎目は、茶葉の産毛や埃を飛ばすために捨て(このときの茶は、茶器を温めるのに用いられる)、2 煎目から頂く。茶館で派手に繰り広げられる淹れ方は「工夫茶(こんふーちゃ)」と呼ばれるやり方で、聞香杯(もんこうはい)(香りが残りやすいように細長く作られた茶碗)を使うのは台湾から逆輸入されたスタイル。小さな急須に驚くほど大量の茶葉を入れ、何煎も楽しむ。ガラスのコップに直接茶葉を入れて湯を注ぐやり方は最近の流行で、せっかちな上海の人々が始めたとか。茶葉を糸で束ね、花が開くように細工したお茶など、見た目に美しいものにふさわしく、全国に普及してきた。

地方都市からさらに奥まった町にある小さな宿であろうとも、部屋には必ず、この形の魔法瓶が、訪れる人を待っている。

地方都市からさらに奥まった町にある小さな宿であろうとも、部屋には必ず、この形の魔法瓶が、訪れる人を待っている。

茶館で頂くお茶は、路地で食べる朝食の60倍ほどの値段。しかし、観光客以外でも賑わっているところを見ると、ここでの「もてなし」はそれだけの価値があると認められている証だ。パフォーマンスと笑顔だけでなく、立地、空間、書籍や菓子といったしつらえが、幾層にも用意されている。

お菓子が付いてくるのは、どこの茶館でも当たり前。杭州の店では大きな茶菓子バイキングテーブルに水菓子が10種類以上、乾燥果実や木の実、簡単な料理まで盛りだくさん。
茶館のもう一つの当たり前は、本棚が充実していることだ。本屋さんの本棚を持ってきたようなものもあれば、ブティックのショーケースのようなものもある。




8月の東洞庭山(蘇州の南、太湖に突き出た半島)に、瑠螺春(ピールオンチュン)という茶葉の産地を訪ねた。日本の茶畑の風景は見えないが、良く目を凝らしてみると、ミカンや栗、枇杷などの果物の木に混じってお茶の木も生えている。 東山鎮緑化委員会、叶利友氏の説明によれば「単一作物は土に良くない。長い間、岩の間にわずかに広がる土地を有効に利用してきた、私たちの歴史がこの作付け方法を作り上げたのです」。「ここのお茶は、微かに果実の香りがします。1煎目は捨て、味も香りも素晴らしいのは、実質は4煎目ぐらい」確かに、2煎目よりは3煎目のほうが、色も濃い。

「収穫時期はとっくに終わってしまったので、資料をお見せしましょう」といって出てきたのが、左の収穫からの写真。丁寧に手作業でお茶を作っている様子がよくわかる。




上海駅北口の斜め前、西側のガードを潜る路に沿って茶葉のマーケットが500mぐらい続いて圧倒される。アーケードの中が正規の市場だが、その周辺にも店は広がる。約150ほどの店の多くが、上海企業の卸売りではなく、茶葉名産地の出張所。ほとんどが国営なので、役場の出張所のようなものだ。出張所は単一銘柄を細かく等級に分けて売り、上海卸売り企業は各地の銘柄をそろえる。

何をどう買ったらいいかわからないので戸惑うが、英語を勉強中の若い女の子の店で勇気を出して買ってみた。試飲を勧められ、半端な茶館より数段おいしいのにびっくり。見せ方にも工夫があって、緑茶系の茶葉の上には、色を引き立たせるために、昼間から水銀灯が灯してあった。




西湖西岸を少し離れ、有名な龍井(ろんじん)茶の産地へ向かう途中に中国茶葉博物館がある。さまざまな歴史的資料が展示されているが、特に目を引かれたのは、数多くの絵画だ。宴にお茶とともに並べられた、茶菓子、水菓子、料理のメニューまで解説されている。

長い口を持ったやかんは今も現役の形。夜行列茶の車内販売で売られたお茶やインスタントコーヒーにお湯を注ぐのに、実際に使われているのを目撃したが博物館にも収蔵されていた。売りっぱなしではなく、少なくなったお茶にお湯を足しに来てくれるのは、いかにも中国式(お湯を注ぎ足し注ぎ足しして、5煎ぐらい飲むのが中国茶の正しい飲み方)。混み合った車内で、その長い注ぎ口が威力を発揮していた。

緑色に塗られた部分が、中国の茶葉の主な産地。
下左:中国各地のお茶にかかわる生活シーンも展示してある。
下右:カボチャではない。直径1mはゆうにある、プーアール茶。後発酵のプーアール茶は、こういう形で運搬されていたようだ。形の由来がわからず、残念。




上・左:西湖湖畔の目抜き通り、美術大学の並びには若者が夜な夜な集まる珈琲館がある。
コーヒー1杯の料金は茶館の高級茶に匹敵するが、菓子はつかない。しかし、そのしつらえや演出は、茶館の流れをしっかりと受け継いでいる。深々と身を沈められるソファーやコーヒーが、現代の茶館を演出する道具として、若者たちに認められたのだろう。クラブのミーティングらしき連中の速射砲のような会話や恋人たちのささやきが、夜更けまで延々と続く。

上海でも外資系のコーヒー店が次々に現れ、エスプレッソマシンが増殖している。イタリアンコーヒーの流行は、世界的な傾向と実感。




紹興の病院に隣接する薬局。医者から処方箋をもらってから薬を頂くシステムは同じだが、この高貴な空間演出は日本では見られない。
入口(下左)を入ると(下右)ガラス屋根に覆われた待合スペースに出るのだが、この瞬間、どんな薬を買おうと、その薬効の絶対性を信じてしまうぐらいの衝撃が走る。 これも、もてなしの形の1つではないだろうか。



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