機関誌『水の文化』17号
雨のゆくえ

透水性舗装と排水性舗装はどこが違う 雨を通す道路舗装

登 芳久さん

著述業・元日本鋪道株式会社勤務
登 芳久 (のぼり よしひさ)さん

1939年生まれ。 主な著書に『高速道路』(技報堂出版、1993)、『アスファルト舗装史』(同、1994)等。

舗装にはアスファルトとコンクリートがある

道路の歴史は古く、紀元前2600年ごろにエジプトのピラミッド建設用に道を造ったことがわかっています。また、舗装も紀元前1600年ごろにはクレタ島で敷き詰めた石をモルタルで固め、両側に排水溝を備えたものがあったそうです。

ただ、石畳は歩行用で、石の間は空いていてもいいのですが、車輪の場合は都合が悪い。現代の舗装道路、つまり、車輪が使われるようになり、自動車道に対応するための舗装は19世紀ごろから始まります。最初は鉄輪を使った馬車、のちには自動車が走ると舞い上がる土埃を防ぎ、でこぼこができないように、表面を塗り固めるようになります。1814年にイギリスのテルフォードという人が考案した、テルフォード式舗装が始まりです。

イギリスで18世紀後半から鉄道が敷設されますが、舗装の発想の原点は鉄道レールにあったようです。車輪が通る所だけ鉄道レールのように舗装すれば、材料も少なくてすみますしね。それがすぐに全面舗装に移行します。

馬車の車輪は当初鉄輪で、走るうちに砕石土が砕けます。それに雨が加わると、砕石の屑と水が化学反応を起こして硬くなります。水硬性という性質ですが、これにヒントを得てセメントコンクリート舗装が始まりました。産業革命のころの話です。今は粘土を含む石灰石を焼成したセメントと、砂と水を混ぜて使います。

舗装には、今お話ししたセメントコンクリート舗装とアスファルト舗装の2つがあります。そもそも正式にはアスファルトコンクリート、セメントコンクリートという名称で、それぞれアスファルト、コンクリートと略するのも専門家からすればおかしいのです。コンクリート舗装は表層と重量を支える基礎部(路盤)が一体型で15 cmほど、アスファルト舗装は表層がアスファルトで4cmほど、基礎部はコンクリートです。

セメントコンクリート舗装は、1区間づつセメントを流し込んで固まるまで2週間ほど待つ必要があります。区間の境目にできる目地が盛り上がり、つなぎ目が滑らかにできないというデメリットもあります。しかし、アスファルトはすぐに冷えて固まるし、目地もできません。このため戦前まではほとんどセメントだった舗装がアスファルトに置き換えられて、今ではセメントコンクリート舗装は全体の5%ほどです。

戦後、世界銀行から借款を受け高速道路を造ることになり、外国の調査団が来て費用の調査をしたことがあります。ヨーロッパ、アメリカは平地ですが、日本では河川、山岳が多く、橋とトンネルが必要になるため当初の予想よりかなり費用が高かった。最初の世界銀行の計画では、ドイツのアウトバーンのようなものを考えていたわけですが、あれはコンクリート舗装で値段も高い。そこで、もっと安くなる方法はないかと思案した結果、アスファルト舗装になり、それがもとでアスファルト舗装が全国に普及するようになったわけです。

  • 排水機構を持った路面には水が溜まることがなく、黒く見える。

    排水機構を持った路面には水が溜まることがなく、黒く見える。
    水と舗装を考える会編『よくわかる透水性舗装』(山海堂1997)より

  • 排水機能を持った舗装道路の断面図

    排水機能を持った舗装道路の断面図

  • 排水機構を持った路面には水が溜まることがなく、黒く見える。
  • 排水機能を持った舗装道路の断面図

路盤に水を浸透させるわけにはいかない

舗装というのは防塵とタイヤへの摩擦を減らすことが目的ですので、コンクリートでもアスファルトでもよいわけです。

砂利を結合させるための材料がアスファルトかセメントかの違いです。混ぜる砂利は粒が平均していると、均一に圧力がかかって壊れにくいので、石を砕き一定粒度にして噛み合わせるという、アメリカで行われていた方式を導入しました。

車両の重量を支えているのは、舗装の下の路床で、厚みも1mほどはあります。そこが痛むと、上のアスファルトがたわんでしまうので、表層を防水加工して絶対に水が浸透しないように作っていました。

路盤に水が通ると悪さをします。例えば、山岳道路で山肌を削って道を造ると、地下水系を分断することになり下の路盤を流してしまうため、空洞になった道路が突如陥没するということもあります。舗装の寿命は、今も10年ほどです。長距離輸送が鉄道からトラック輸送にシフトし、トラック台数が大幅に増加。しかも、昭和40〜50年代は過積載車が多かった。昭和40年代には一般道の舗装厚は5cmだったのですが、10cm、15cmと徐々に厚くなります。積載重量の規制が厳しくなってきたのは昭和60年ころで、舗装の寿命も伸びました。高速道路では一般道より負荷がかかるので、10cmから15cmに厚さが増しました。重量規制は、日本の高速道路維持のためにも、必要だったわけです。

透水と排水は違う

東京都が街路樹育成を目的に「透水性舗装」を歩道にほどこしたのは1970年ごろからです。これはアスファルト舗装の砂利の粒度をうまく組み合わせて間に隙間ができるように開発されたもので、表層に雨水が浸透します。それまで雨が降るとぬかるんで困っていた歩道で採用されました。自動車のように重量を支える必要がないので、砂利の間に隙間があっても、あまり道路が傷みません。それでも使っていると目詰まりしてきますので、上から水圧をかけて洗滌し、目詰まりを取り除く機械もできてきました。

一方、車道の方には「排水性舗装」が使われており、結果として、低騒音効果も生み出しています。

車道の場合はまず重さを支えねばなりませんから、歩道のように雨水を浸透させていたら、すぐに路盤が傷んでしまいます。そこで、浸透性の表層の下にもう一面防水面を造り、そこで溜まった雨水を排水桝へ集めます。排水桝から地下浸透するシステムと、下水道に直接排水するシステムとがあります。これが排水性舗装です。地盤に直接水が浸透したら、とても自動車の重量に耐えられませんから、こうした工夫が必要なのです。

舗装の今後

今は、排水性舗装の耐久性も向上し、広く普及しています。排水性舗装のメリットは、騒音防止、雨水の地下浸透、車の水撥ね防止の3点が挙げられるでしょう。

また道路や公園の設計分野にも女性が進出し、舗装に色をつけたりした景観舗装の試みもいろいろとなされています。

結局、舗装にとっては、上に車輌が通るということが大前提でして、それを外して舗装は考えられません。ですから透水性舗装といっても、雨水を地下浸透させるには、雨水桝にいったん水を集め、そこから地下浸透させていかざるをえないと思います。

【都市の中で、雨が地下に浸透しない面積】

雨水が地面に到達すると、その行く手は二つに分かれます。道路や下水道完備地域の屋根など地下に浸透しない「不浸透域」と、森林、庭など土が露出した「浸透域」です。前者では雨の多くが下水道に流れ込み、後者では地下水となります。

不浸透域の面積はどの程度なのでしょうか。地面の広さに対する不浸透域の割合を「被服率」といいますが、東京都の調べ(1997)によると、東京23区のほとんどで被服率は80%を上回っています。郊外に行くと徐々に落ち、八王子市などでは35%となっています。スムースで効率的な移動、運搬のために不可欠な舗装ですが、地下水枯渇、都市型洪水などの弊害が起きていることも事実です。透水性舗装の活用で、雨水をうまく地下浸透させる必要が求められています。



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