機関誌『水の文化』24号
都市公園

都市公園の常識を変革するワークショップ <岐阜県各務原市(かかみがはら)> パークレンジャー

各務原市の水と緑の回廊計画

各務原市の水と緑の回廊計画


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岐阜県各務原市では、2001年(平成13)に緑の基本計画を定めました。 緑の基本計画とは、それまで国が主導してきた緑化政策を、新たに地域自治体が主体となって進めるためのマスタープランで、都市公園整備も含まれたものです。 全国でこの緑の基本計画がつくられていますが、各務原市は自らの計画を「水と緑の回廊計画」と名づけ、パークシステムという理念と、住民が公園を元手に活動を拡げる仕組みづくりに着手しています。 「緑の回廊計画」ではなく、敢えて「水と緑」と謳った理由を、各務原市都市建設部に聞きました。

編集部

公園都市各務原市

岐阜県各務原市は、名古屋から名鉄線に乗って約1時間ほどの距離にある。駅を降りると、ゴォーと飛行機の離発着音が聞こえてきた。ここは航空自衛隊基地があることで全国的に知られた所だ。

人口は約15万人。高齢化率(人口に占める65歳以上人口の割合)17.7%というのは、現状の日本では若い部類に入るだろう。市の南側に木曽川が流れており、境川・新境(しんさかい)川、大安寺川が市を貫いて、木曽川に流れ込んでいる。市の水道は100%地下水からの取水だ。住民の水への意識は、高いに違いない。

各務原市役所を訪問すると、「公園都市」というキャッチフレーズがつけられたパンフレットが置いてあった。

公園都市。

この言葉は、全国の市で使われている。「公園」という言葉の響きの良さも手伝って、緑地整備に力を入れている自治体が好んで使う言葉だ。

ただし、各務原市の場合は少し事情が違う。

自らの「緑の基本計画」に、「水と緑の回廊計画」と名前をつけて、これまで公園整備や緑地整備にはあまり入ってこなかった、水の要素を加えているからだ。それはいったい、なぜなのだろうか。

「水と緑の回廊計画と言われても、最初はピンときませんでしたね」と語るのは、各務原市都市建設部水と緑推進課課長の河田敏弘さん。

「水と緑の回廊計画は、2001年(平成13)から始まりました。慶應義塾大学の石川幹子先生にも協力をいただいて、議会の支持を得て進めてきました」と言う。

日本の都市公園は、1956年(昭和31)に施行された都市公園法に則った公園の種別で、何度かの公園整備等五箇年計画が定められ、種類も拡充し、整備されてきた。国の整備方針にしたがって公園の数や緑地の面積を増やすのが公園行政担当者の仕事だった。

ところが、2004年(平成16)の「景観緑三法」成立以降は、住民を主人公にした緑の基本計画を策定し、緑地も都市公園も統一的に住民の役に立つように計画・実行する立場に変わったのである。※くわしくはこちらの図を参照(PDF)

公園行政担当者も、それまでと比べて考え方を180度転換する必要が生じた。いかに市民の求めに応じた都市公園を整備するかが河田さんたちの腕の見せ所となったわけだ。

  • 各務原市シンボルマーク

    各務原市シンボルマーク

  • 各務原市都市建設部水と緑推進課課長の河田敏弘さん

    各務原市都市建設部水と緑推進課課長の河田敏弘さん

  • 各務原市シンボルマーク
  • 各務原市都市建設部水と緑推進課課長の河田敏弘さん

公園を管理するのはパークレンジャー

「水と緑の回廊計画」については、各務原市のHPの内容と進捗で紹介されているので、くわしくはそちらを見ていただきたいが、パークシステムをつくるために、市内の各地域を「まちの回廊」「川の回廊」「森の回廊」と役割を意識した計画が策定されている。(http://www.city.kakamigahara.lg.jp/shisei/shisaku/148/153/001105.html

中でも川の回廊は、豊かな緑の帯をつくるとともに、市内の水循環の核となる計画対象として位置づけられてる。緑地整備ではなく、水と緑を一体として考えようではないかと謳っているのだ。

このことが象徴的に現れている場所がある。新境川に隣接した各務原市民公園だ。

この新境川の堤防は桜並木で、花見の名所ともなっている。その横に約6.5haのオープンスペースが広がっている。もともと岐阜大学農・工学部跡地だった所を公園にしたのだが、そのために、すでに都市計画決定がなされていた道路計画を廃止した経緯がある場所だ。さらに、JR名鉄線をはさんで北部には「学びの森」が隣接し、こちらには池やせせらぎがつくられ、気持ちの良い空間となっている。

この市民公園をはじめ、市内の公園を守っているのが、パークレンジャーと呼ばれる市民ボランティアだ。

「行政だけで公園を管理するのには限界がありましたから、2001年(平成13)にまず住民のボランティアを30名ほど募りました。市民公園の南東の角にある花壇を、自由に使ってくださいと呼びかけたのです。これをきっかけに、公園ボランティアを登録するパークレンジャー制度ができ、翌年には90人、そして現在は約1300名に増えています。メンバーにはホタルを育てているという中学生もリタイア後の人もいます。川のボランティアも現れています」と河田さんは言う。

基本的には住民自らが部会をつくる等して、あまり行政はしばらないのが原則だ。水路や園路の掃除も率先して行なわれている。

こうしたパークレンジャーが、6年の間に1300名に増えたというのだが、これは、市の人口の0.9%。だが、65〜74歳の人口約15000人に占める割合としては約9%となって、決して少ない数ではない。ちなみに、パークレンジャー以外にもさまざまな分野のボランティアを合計すると、その数は1万8千人に及ぶという。

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  • パークレンジャー団体一覧表

    パークレンジャー団体一覧表
    (2006年4月1日現在)

  • まちの風景はパークレンジャーと呼ばれる市民ボランティアがつくっている、といっても過言ではない。

    まちの風景はパークレンジャーと呼ばれる市民ボランティアがつくっている、といっても過言ではない。
    公園、緑道、山の中にまで、パークレンジャーの手が入っている。 上の写真は各務原市からお借りしたパークレンジャーの活動の様子。

  • 縁台将棋ならぬ公園将棋はよく見る風景だが、水の流れと木陰がセットという贅沢には、なかなかお目にかかれない。

    縁台将棋ならぬ公園将棋はよく見る風景だが、水の流れと木陰がセットという贅沢には、なかなかお目にかかれない。

  • 縁台将棋ならぬ公園将棋はよく見る風景だが、水の流れと木陰がセットという贅沢には、なかなかお目にかかれない。

    縁台将棋ならぬ公園将棋はよく見る風景だが、水の流れと木陰がセットという贅沢には、なかなかお目にかかれない。

  • パークレンジャー団体一覧表
  • まちの風景はパークレンジャーと呼ばれる市民ボランティアがつくっている、といっても過言ではない。
  • 縁台将棋ならぬ公園将棋はよく見る風景だが、水の流れと木陰がセットという贅沢には、なかなかお目にかかれない。
  • 縁台将棋ならぬ公園将棋はよく見る風景だが、水の流れと木陰がセットという贅沢には、なかなかお目にかかれない。

新境川のウォークラリー&ワークショップ

パークレンジャーの充実とともに、水と緑の回廊計画も5年が経過。まちの回廊、森の回廊の整備は成果を挙げつつあるが、残っているのが川の回廊の整備だった。そこで、2006年度は、ボランティアに新境川を歩いてもらい、このオープンスペースの使い方をみんなで考えてもらおうではないかと、「新境川ウォークラリー&ワークショップ」が気候もちょうどよい5月20日、6月17日に開催された。水と緑の回廊計画を一貫して支えてきた慶應義塾大学の石川幹子研究室チームも、このウォークラリー&ワークショップを支援している。

新境川周辺を歩いた、この日の参加者は約200名。4グループが2つのコースに分かれ実際に歩いた後、地図の上に、「自分が発見した魅力」、「課題」、「将来に向けたアイデア」を付箋に記し、貼っていった。

この結果は、今年度末には発表されるが、市民からは「川と公園を一体的に利用したい」というような声も挙がっているという。

実際にウォークラリーに参加した上屋真美(かみやまさみ)さん(73歳)は、子どものころからこの地で育ってきたパークレンジャーだ。

ワークショップに参加した感想として「子どもが親しまれるような水辺にしたい」と語ってくれた。

子どもの存在は重要だ。大人たちが常識だと思っている点も「なぜ?」と問い、目からウロコを落としてくれる。

また「行政の誘導はありませんでした。正直なところ、行政に対する批判が出ることも覚悟はしていたんですが。公園と川を一体化して整備したいという気持ちを共有できました」と河田さんは言う。

  • 桜並木が美しい新境川の堤防。

    桜並木が美しい新境川の堤防。コンクリートの一部分に植えられている芝は、市の取り組みとして、コンクリートを覆う実験だ。この芝生ですべてのコンクリート護岸が覆われたらさぞかし美しい景観になるだろうが、もしも落水したときには這い上がる手がかりがなくなるので、救助の仕組みや施設などさまざまなことを考える必要がある。このように公共空間をデザインするときは、ワークショップ方式でみんなの知恵を集結させるのも有効な手段ではないだろうか。

  • 左:芝をよく見ると、下から3割程度、色が違っている。右:パークレンジャーであり、ウォークラリーにも参加した上屋真美さん。

    左:芝をよく見ると、下から3割程度、色が違っている。右:パークレンジャーであり、ウォークラリーにも参加した上屋真美さん。

  • 桜並木が美しい新境川の堤防。
  • 左:芝をよく見ると、下から3割程度、色が違っている。右:パークレンジャーであり、ウォークラリーにも参加した上屋真美さん。

ワークショップでの公園づくり

これまで、水の文化楽習のコーナーでは何度も「ワークショップ」の事例を紹介してきた。ワークショップは、経験を共有して意見を出し合う過程を大切にして、徐々に関係をつくり、発言に対する責任や場における役割を身につけていくという働きを持っている。

各務原市では、公園整備の計画づくりにこのワークショップ方式を用いている。

これは、公園づくりにはもってこいの手段と思われる。コミュニケーションという面から見れば、ワークショップと公園はたいへんよく似ているからだ。

公園というのは、不特定多数の人が利用するオープンスペースだ。「使い方」を調整しなくてはならない場所ともいえる。その公園を自分たちで管理することで、「苦情を言う」から「自分たちで解決する」へと変っていくのである。

ただ、忘れてはならないのは、ワークショップはただ行なえばいいというわけではないということだ。各務原の場合でも、もし緑の基本計画という意見を活かす仕組みができていないままワークショップが開かれていたらどうなっていただろう。「自分の意見は、どうせ市政に活かされない」と、ボランティアのやる気が失せ、参加者は減っていったかもしれない。

あるいは、石川研究室のような外部の人間が入っていなかったらどうだろうか。お互いが遠慮し合いながら、言いたいことも言えずに消化不良のまま終わっていたかもしれない。

地域活動に取り組む人たちのあいだには、こんな格言がある。

「地域活動がうまくいくには、若者、ばか者、ヨソ者が必要だ」

若者は、新鮮な考えを持つ次の世代。いわば後継者。ばか者とは、しゃにむになって真剣に取り組む人。そうするとまわりの人が皆、真剣になる。ヨソ者は、自分たちの活動を客観的に判断して、刺激を与えてくれる人だ。言い換えれば、自分たちの常識を疑ってみようと後押しするのがヨソ者だ。

そういうヨソ者が入った今回のワークショップで、「川も公園も一緒に整備できれば」という住民の声が出てきた。この声を受けて、市民の支援者である各務原市は、また新たな局面を迎えている。

なぜ「緑の基本計画に水を加えたのか」、という質問に、河田さんはこう答えた。

「各務原市にとって、水は大切な存在です。新境川の源流を公園整備したりして『まちの回廊』や『緑の回廊』が整えられていくことで、水の重要性が一層明確になりました。水のあるところでは、子どもたちが本当に生き生きと遊んでいます。もちろん、大人も同様です。これからは水と緑がキーワードだという手応えを、絶えず市民と一緒に行動することで、実感しているところです」

ワークショップの普及は、公園づくりの常識を変え、水と緑の都市公園のつくり方・利用の仕方をも変えるかもしれない。それは、利用者の常識を問い直し、新たな知恵を集めるだけではなく、利用者と行政担当者との関係をも変化させる可能性を秘めている。

これまでの伝統や常識をワークショップで変革して、あらたな公園の常識をつくる。いわば革新的継承というこうした方法も、水の文化楽習の一つなのだということを、各務原市のケースは教えてくれる。

境川の源流にある各務野自然遺産の森は、パークレンジャーの団体が7つも関わりボランティアの働く姿が見えない日はないそうだ。

境川の源流にある各務野自然遺産の森は、パークレンジャーの団体が7つも関わりボランティアの働く姿が見えない日はないそうだ。



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