機関誌『水の文化』34号
森林の流域

森を守るために消費地が今できること

用材を使いながら森を守ることには限界があるのではないか、という仮説に真っ向から挑戦しているのが〈森の町内会〉の活動を推進する半谷栄寿さんです。 「市場経済の力で、日本の森林はまだまだ救える」と企業人の立場から、さまざまな仕組みを考え出しています。 日常性の中で、継続的な「森への貢献」の意識づけを醸成する、その仕組みの数々を紹介します。

半谷 栄寿さん

環境NPOオフィス町内会事務局代表
半谷 栄寿 (はんがい えいじゅ)さん

1953年、福島県生まれ。1978年、東京大学法学部卒業、東京電力(株)入社。1989年、同社総務部文書課副長、社内の古紙リサイクルに取り組む。
1991年、環境NPOオフィス町内会を設立し、以降、事務局代表を務める。1996年(株)Jヴィレッジ 取締役企画営業部長。
2000年、マイエナジー(株)取締役副社長。2005年、東京電力(株)事業開発部長を経て、2008年、同社執行役員。

需要サイドから供給サイドに

〈森の町内会〉は、約1年間の準備期間を持って2005年(平成17)の12月に発足しました。

簡単に言うと、紙パルプとして間伐材の利用を推進するのが、〈森の町内会〉の活動です。

しかし、伐採や運搬コストを考えると、安価な輸入材にかなわないので、間伐しても利用されずに切り捨てたまま放置されている山が多いのです。もちろん、間伐自体が行なわれずに荒廃した森林もあります。

そんな現実を打破しようとする〈森の町内会〉の仕組みをご説明しましょう。

私たちは「需要サイドから供給サイドに行っている」と表現していますが、この発想が〈森の町内会〉の仕組みを動かす鍵になります。

市場側がまず間伐促進費を上乗せしたグリーン購入の仕組みをつくるところからスタートしています。

使用する紙に間伐促進費を上乗せした製品を指定→間伐促進費を上乗せした間伐材チップを製紙メーカーが仕入れる→森林組合に間伐促進費が支払われる、という仕組みです。

間伐促進費は紙を指定したユーザーによって先に支払われますから、製紙メーカーも安心して割高な間伐材チップを仕入れられますし、森林組合も間伐促進費を受け取ることで、利用せずに切り捨てていた間伐材を、輸送して商品化までできるんですね。

これがもし供給サイドからの流れで、何ha間伐した→不承不承だけれど、割高な間伐材チップを製紙メーカーが買ってくれた→そのコストを載せた割高な紙をつくってはみたけれど売れませんでした-ということになると、1回で終わってしまいます。

志はありながら、従来うまく機能していなかったグリーン購入の仕組みは、このような供給サイドからの働きかけだったように思います。

クレジット方式(注1)を採用

私たちは、1kgあたり15円の間伐促進費を上乗せしたこの紙を〈間伐に寄与する紙〉と呼んでいます。〈間伐に寄与する紙〉を使用することで、間伐促進費が貯まります。製紙メーカーは、貯まった分だけ割高な間伐材チップの仕入れをします。

仕入れは1年間で帳尻を合わせることにしています。

一昨年は東京の企業71社が415tの〈間伐に寄与する紙〉を使用して約30haの間伐を促進しました。〈間伐に寄与する紙〉という製品名からもおわかりいただけるように、紙に含まれる間伐材の含有量はまったく問題にしていません。紙の使用が先に行なわれますから、使われた紙には極端な話、協力関係にある岩手県の岩泉町・葛巻町及び、青森県の三沢市の間伐材が1gも入っていないということも起こり得るのです。

要するに環境ブランドを冠する紙の重量と間伐材チップの重量が同じであること、つまり間伐そのものを促進することを重要視しているんです。同重量のクレジット方式と考えていただくとわかりやすいと思います。

〈間伐に寄与する紙〉というのは、簡単に言ってしまえば1kgあたり15円の間伐促進費=環境価値が付加された、品質のちゃんとした普通の紙なのです。

(注1)クレジット方式
クレジット(credit)の語源は、ラテン語のクレド(cred)で「信用」を意味する。
京都議定書で約束した排出削減目標を達成するために、途上国における排出削減事業(CDM)の実施により創出されたクレジット(CER)の取引を京都クレジットと呼び、同様の信用取引を「クレジット方式」と呼ぶようになっている。

需要サイドから林業再生を支援

需要サイドから林業再生を支援
森の町内会資料をもとに編集部で作図

1kgあたり15円の環境価値

1kgあたり15円という金額が、山側にどんな意味を持っているかについてご説明します。

一般的に木材はリューベ(1m3の業界用語。立方メートルを立方米と記述したものを立米〈りゅうべい〉と呼ぶところから)で取引されます。1リューベ、つまり1m3の間伐材チップから、通常555kgの紙がつくれます。これに15円の間伐促進費を掛けてやると、1m3あたり8325円になります。

間伐材というのは樹種や立地によっても変動がありますから、一つの例としてとらえてもらいたいのですが、赤松の場合、伐り出せばリューベ(1m3)あたりの市価が6000円ぐらいで買い手がつきます。スギで3000円、檜(ひのき)なら2000〜3000円です。

下図の例では、赤松をリューベ6000円で買ってもらっても、支出が98万円に対して収入が61万円で、37万円の赤字が出るんです。

それで先程の8325円を思い出してください。ここでは48m3間伐していますから、8325円×48m3=39万9600円の間伐促進費が支払われます。これに61万円の収入をプラスすると、100万9600円になって、支出をクリアして間伐と間伐材の利用ができるのです。

間伐を停滞させる要因 〈間伐に寄与する紙>の使用量と間伐促進面積の拡大

左図:間伐を停滞させる要因 森の町内会資料をもとに編集部で作図
右図:〈間伐に寄与する紙〉の使用量と間伐促進面積の拡大 森の町内会資料をもとに編集部で作図

気軽に続けられる環境貢献

しかも1kgあたり15円という間伐促進費は、製紙メーカーの持ち出しではなく、間伐サポーター企業の出したお金です。ですから紙を通しているんですけれども、企業が山側に直接寄付をしているようなものです。しかしこれは紙の購入であって寄付ではありません。製紙メーカーも原料の購入ですから、寄付ではありません。

これも〈森の町内会〉の工夫の一つです。寄付は税制上の処理がとても煩雑です。支援額が最も多い企業で年間70万円になりますが、これを何回かの寄付に分けてしたら、その会社の総務部は、きっと嫌になっちゃいますよ。

しかも、10万円単位で寄付するというのは、結構きつく感じます。かといって1000円の寄付というのも、企業としてはあまり考えられませんよね。

ですから企業が出しやすい費用として、継続的に続けられるような仕組みを考えたわけです。費用化したことが目的ではなくて、企業のみなさんに活動にスムースに入ってもらうことを意図しています。

紙を媒介にしているのは、日常的に使うものですし、どこの企業も使うものですし、継続性があるという点からも優れていると考えたからです。

また紙代が10%上がったところで、印刷物の制作費に占める紙代はわずかなものですので、あまり大勢に影響が及ばないということもあります。立派な冊子の場合も、ほとんどが制作にかかる企画料や人件費で、紙代など20%以下ではないでしょうか。ですから紙代が10%程度上がっても、企業は印刷物として発注するわけですから、印刷費としてはせいぜい1〜2%アップで済むから、無理なく続けられるということです。

2008年(平成20)は71社が285回、印刷用紙を使ってくださいました。紙代は5780万円に相当します。そこに間伐促進費が560万円乗っています。

71社のうちの最大は70万円ですが、使用量の少ない会社では間伐促進費が2000円ぐらいのところもあるのです。しかし金額の多少ではなく、志はみなさん同じです。そして、ご自分たちの状況にあった無理のない形で貢献していただくことができるというのは、この仕組みの良いところだと思います。

初めはだいたいCSRレポートの印刷からスタートするんですが、その内、月に1回の社内報に利用するようになったりして、拡大していく。年間23回も利用している会社もあるのですが、月に2回ペースで使っていただいているということになります。

営業用のチラシにまで使っている会社もあります。こういうご時世ですから、営業のチラシなんか、少しでも経費を下げようとするところですが、敢えて〈間伐に寄与する紙〉を使ってくださる。

1社だけで森の整備までできてしまう規模の企業もありますが、そういう規模ではない企業もあるわけですから、別々では「○○の森の間伐に協力しました」なんていうことはできませんよね。そういう意味で、〈町内会〉という名前の由来はみんなで助け合ってあるロットをつくり出す、というところにあるんです。

森林作業の効率を考えたら、1回に1haは間伐したいんですよ。1haに相当する〈間伐に寄与する紙〉を単独で使う企業もありますが、ほとんどの企業は1haを割ってしまう。じゃあ、その会社に10倍とか20倍の紙を使ってください、といったって、現実的には不可能です。それでもみんなが集まって協力することで、効率のいい間伐作業が可能になる、ということです。

コピー用紙も始める

一方で、コピー用紙を是非ともやってほしい、というお話はよくいただくのでつくったのですが、これは間伐促進費が10%乗ったらダイレクトに10%上がります。当たり前のことですね。

コピー用紙の場合は、一般的に安いものを、という要望が多いと思うのですが、利用してくださる企業さんは「社員教育だ」と言ってくださいます。印刷物の場合は対外的なアピールに役立ちますが、コピー用紙の場合は、主に社内的な位置づけになります。

コピー用紙はアスクルさんで取り扱っています。アスクルさんにお願いしたのは、あそこのネットワークで不特定多数の方に使っていただけるんじゃないかと期待したからです。

コピー用紙も始める

コピー用紙も始める

信頼関係があってこそ

1kgあたり15円の間伐促進費は大きすぎる金額ではないというものの、必ずしも小さい金額であるとは言えません。ですから、間伐サポーター企業さんに対して、どのようにトレーサビリティを確保して、間伐促進費をきちっと管理するかということは、この仕組みの信頼の大前提になります。

そのご説明が下表です。

青色の矢印がトレーサビリティ、赤色の矢印がお金の流れです。紙販売会社でお金が二つに分けられて、紙のベースになるところは通常通り製紙メーカーに支払われ、間伐促進費が〈森の町内会〉にいったんプールされます。その後、製紙メーカーに間伐促進費が紙の生産量に応じて納められ、間伐材チップの代金と間伐促進費が合算された金額が森林組合に支払われる、という仕組みです。

〈紙の重量〉についてのクレジットの管理を〈森の町内会〉が行なうため間伐促進費の移管を受け、いったんお金をプールしています。そこから製紙メーカーにお金を支払うのは、〈間伐材の重量〉についてのクレジット管理料です。

間伐促進費は、その全額が間伐に充当されます。では〈森の町内会〉活動の事務局経費がどこから出ているかというと、〈環境NPOオフィス町内会〉の古紙回収の事務局経費の中でまかなっています。

間伐促進費の流れとトレーサビリティ

間伐促進費の流れとトレーサビリティ
杜の町内会資料をもとに編集部で作図

スタートはオフィス町内会

私が〈環境NPOオフィス町内会〉の活動を立ち上げて19年経ちます。この19年間、会社から兼務することに理解をもらっていて、現在、東京電力の執行役員の立場にあります。ですから私にとって環境活動は、ボランティア活動です。しかし、〈環境NPOオフィス町内会〉の古紙共同回収のモデルが新しい仕組みとして世の中に刺激を発し、一定の成果を上げたように、市場経済を刺激するボランティア活動をやろうとしています。

本業の方々が、新しい仕組みづくりが難しいと諦めていることを、私たちがやってみてうまくいくと、それがモデルとなって市場経済を刺激していく。最終的には、本業の方々にバトンタッチして社会経済の仕組みとする。そういうボランティア活動をやろうとしています。今流に言うと、ソーシャルワーカーとか社会起業家といえるかもしれません。

オフィス町内会が始めた古紙回収システムは、最近も青森市のシステムとして取り入れられるなど、社会的に定着してきています。

また、私たちが提唱した「白色度70%」という適度な紙の白さの基準が、2001年(平成13)のグリーン購入法に組み込まれました。再生紙の啓蒙活動は法的な仕組みとして、社会的に実現したといえます。

〈環境NPOオフィス町内会〉に三つの経済性というものがあり、1991年(平成3)に設立した当初からの特徴となっています。このことで1994年(平成6)に内閣総理大臣賞(リサイクル推進功労者等表彰)を受賞しています。

企業や団体が紙ゴミを捨てると、輸送費と処理費がかかります。東京都の現在の平均でいうと、1kgあたり32.5円かかります。一方、〈オフィス町内会〉では1kgあたり12.4円で共同回収しています。これだけのコストダウンがあるからこそ、活動が19年間も続いているのです。

ではそのお金をどう使っているかというと、回収会社に1kgあたり5.9円の回収経費を支払って古紙を回収しています。

古紙は有価物です。有価物を出して、経費まで払うという初めての仕組みをつくったのが〈環境NPOオフィス町内会〉です。

実はスタート時はバブル経済の最中で、中小の古紙回収会社さんは、みなさん廃業の危機にありました。しかし、この業界は静脈産業(使い終わった製品を回収し、再利用や再生を行なったり、廃棄することにかかわる産業)として大切です。

ところが一般的な利益ベースで考えると、この業界は存続が難しいという側面がありました。回収業は運送業ですから、運送費用分を古紙を出す企業側が負担することにしたわけです。

〈環境NPOオフィス町内会〉の事務局経費は、古紙1kgあたり5.7円を確保しており、一昨年は古紙回収実績が4780tですから、5.7円×4780tで約2720万円を捻出しています。ちなみに税金も納めています。

この活動は、古紙をリサイクルしてゴミを減らすということはもちろんですが、企業にとっても廃棄するより、はるかに安い経費で古紙の再利用に貢献できるというメリットがあります。

ですから、一つ目に会員企業は経費が節減できる。二つ目には回収会社が回収経費を確保できる。三つ目には事務局が独立採算で運営できる、という活動を継続するための三つの経済性を持っているのです。

このような三つの経済性は、毎年度、会員総会で認めていただいています。

〈環境NPOオフィス町内会〉の会員企業1100事業所の古紙回収を活動のベースとして独立採算体制をとった上で、新しい環境貢献として〈森の町内会〉の活動を2005年(平成17)から開始しました。

オフィス町内会の古紙回収はコストダウンにも役立っていますから、事務局経費を頂戴しても賛意が得られやすい。ところが〈森の町内会〉は若干といえどもコストアップしていますから、事務局経費をいただいていません。本来であれば、〈森の町内会〉からも事務局経費が出る仕組みが各地での展開を図る上ではふさわしいのですが、それはこれからの宿題です。

〈森の町内会〉の地域展開とマインド改革

〈森の町内会〉は、東京の支援企業103社が〈間伐に寄与する紙〉を年間500t使用することにより、岩手県岩泉町・葛巻町・青森県三沢市で年間40haの間伐ができるまでになりました。協力メーカーは三菱製紙です。

東京をモデルとして、2009年(平成21)10月には〈ふじのくに 森の町内会〉が発足しました。これは地産地消です。静岡県内の企業が〈間伐に寄与する紙〉を使うことで、静岡県内の間伐を促進します。

また、2009年(平成21)12月から大阪で〈森の町内会〉がスタートしました。大阪の企業に〈間伐に寄与する紙〉を使っていただくことで、岡山県で林業再生にチャレンジしている西粟倉村(にしあわくらそん)の間伐を促進しようとしています。こちらは日本製紙が協力します。

なぜ、〈森の町内会〉のネットワークを各地に展開していきたいかというと、「木を伐ることは悪いことだ」という感覚を改めて、健全な森林育成につなげたいからです。熱帯雨林の違法伐採が大きく報じられ、一般の人の中には「国内の木を伐ることも悪いことだ」と思い込んでいる人が少なくありません。しかし、間伐をしたり、伐採適期になった木を伐り出して、森林を更新させるからこそCO2を吸収する元気な森林となるのです。

そして、木を伐らないことには使えないのですから、「木を伐ることは悪いことだ」という感覚が抜けないうちは木を積極的に使っていこうというマインドは生まれません。

ハウスメーカーや製紙メーカー・バイオマス関連業界といった供給サイドが木材利用の活路を見出そうと頑張っているのですが、需要サイドが意識を変えて「国産材を使おう」としなければ、日本の荒廃した森林は救われません。マーケティング的にいえば「国産材を使ったヒット商品」というようなイメージが浸透していけば、市場経済の中で国産材需要が拡大してくる。そうすれば林業も復活するし、森林整備も進みます。私たちはこうしたマインド改革の拠点として、主要都市に〈森の町内会〉を立ち上げていこうとしています。

事務局の在り方

静岡県庁と組むことになったきっかけは、一昨年の林野庁長官賞受賞です。いろいろな所で事例発表をさせていただき、自治体の方もたくさんいらした。静岡県庁の方が真っ先に着目してくださって、立ち上げまで漕ぎ着けました。

静岡県庁では、専従スタッフを1名確保してくれました。事務局というのは、ノウハウとマンパワーなんです。私たちのNPOはボランティアでノウハウを提供させていただき、静岡県が自前でマンパワーをそろえてくださった。

一方、ノウハウとマンパワーというのは一体なんですね。それだったら、このNPOにマンパワーを拡大したほうが合理的だな、と思うようになりました。それで大阪の場合は、直営という形をとりました。しかも、森林認証などを主事業とするアミタ(株)の応援も得ることができました。

今後の展開は、ノウハウとマンパワーをセットで提供するという方法をとっていきたいと思います。幾つかの自治体や企業と、その方向で話し合いを進めているところです。というのは、その自治体や企業がその都市で私たちのNPOと協働する事務局をやるということです。そのための予算を組んでいただいています。

私たちは営利が目的ではありませんが、活動の推進に不可欠な事務局がどういう在り方であったらいいのかという宿題に、活動しながら答えを見出してきたところです。

需給をバランスさせる

私たちは、10%の人のマインドが変われば、相乗効果で国産材利用の拡大につながる、と想定しています。〈森の町内会〉は、消費者の意識改革に力点があるんです。

それの目指すところは、需給をバランスさせることで、森林を健全なところに持っていく、つまり、それは林業が立ち直るということなんです。

印刷用紙やコピー用紙だけではなく、私としては、不特定多数の方に使ってもらえるノートを是非やりたいと思っています。ノートは普通200g程だそうです。1kgあたり間伐促進費は15円ですから、200gで3円。このノートを使うと間伐が促進される、という環境価値を持ったノートが3円の負担でできる。理念を共有できるノートメーカーさんとやっていきたいと考えています。太陽光の買い取り制度のように、間伐促進費は外出しにしてもらいます。

利用者に信頼をいただくためには、幾ら山に行っているかが明確に見えなくてはなりません。〈森の町内会〉は、その年に使った〈間伐に寄与する紙〉の総重量を明記し、それによって成し遂げられた間伐面積を証明した証書を発行しています。

従来からある〈間伐材を使った紙〉というのは、間伐材の含有量にはこだわっているんですが、どういう仕組みで間伐に貢献しているかを見せる仕組みにはこだわってこなかった。〈森の町内会〉は逆に、その紙には間伐材は1gも入っていないかもしれないが、同量の重さの間伐材の利用に寄与していることを〈見える化〉しています。

さらにご信頼をいただくため、間伐サポーター企業の方には、少なくとも年に1回、間伐をした森林に来ていただいています。

ところで、キッザニアが間伐サポーター企業でもあるんですが、2009年(平成21)から3年連続で子供たちが間伐体験をするプログラムを一緒にやり始めました。都会に住んでいたら、間伐という概念もないし、間伐の必要性もわからない。何かしたくてもどうしたらいいのかわからないですよね。子供のときから、日本の森林の現状を見て、知ってもらうのは、意義のあることだと思います。

間伐材の利用に寄与していることを〈見える化〉。1年間の実績を証書として発行している。

間伐材の利用に寄与していることを〈見える化〉。1年間の実績を証書として発行している。

国内版森林吸収クレジット

J‐VER(注2)は国内の認証制度なので国際的には認められないのですが、国内の森林を元気にするという意味では、役立ちます。

ですから〈森の町内会〉方式で間伐した40haに対してCO2の吸収クレジットを申請しました。2010年(平成22)2月に環境省の第三者認証機関が実際に現地検査に入ります。手入れをされた健全な森林1haでは7tのCO2を1年間に吸収するのですが、〈森の町内会〉の場合も280tのCO2を吸収する森林を間伐でもたらした、と認められるはずです。

多分2010年(平成22)3月に280tのJ‐VERクレジットを取得しますから、紙の製造時に発生するCO2の一部(10〜30%)をオフセットできます。

間伐を促進することに貢献することに加えて、環境省のJ‐VER制度で製造時に発生するCO2の一部をオフセットした紙を使う、というのは企業のCSRとしては、充分魅力のある話だと思います。

(注2)J‐VER
国内のプロジェクトにより実現された温室効果ガス排出削減・吸収量をカーボン・オフセットに用いられるクレジットとして認証するオフセット・クレジット。2008年(平成20)11月に、J‐VER制度として創設された。VERとはVerified Emission Reductionの略。

「森への貢献」の意識づけ

J‐VERによって環境価値が一段と上がるわけですから、私たちとしては、この紙を使ってくれる企業や団体や個人が増える、と期待しています。そうすれば間伐できる面積も増えますから。

〈森の町内会〉は、間伐という環境価値を、見える化して上げていく。また、ブランディングしていく。活動を始めた当初、5年前はブランディングなどということには思いが至りませんでしたが、やり続けてきて、結局これは環境価値のブランド化なんだな、ということを、最近自分でわかるようになってきました。

「用材林を守ることと森を守ることに差異が出てきた」と一部でいわれていますが、〈森の町内会〉は、市場経済でやれる限界値まで活動を追求していきたいと思っています。

森林という資源は、木材という形で、建材や紙として利用されます。私の本業である電力会社の立場で言えば、火力発電所で木質ペレットを石炭燃料の代替としていく、ということも真剣に検討しています。

京都議定書で約束した排出削減目標の内、3.8%を森林が担うことが危うくなっているということで、長年放置されてきた日本の森林を何とかしようと注目され始めているわけですね。それで、日本の森林の問題は極めて加速度的に官民挙げて関心が高まって、供給側もいろいろな努力をしようとしています。

京都の日吉町の森林組合の湯浅さんが推進する団地化・大型化による林業の効率化や、〈森の町内会〉が大阪で連携する岡山県の西粟倉村の村長さんのように、山主から施業委任契約を取りつけて、村全体で林業を復活させようと取り組んでいるなど、いろいろな動きが供給サイドに起こっています。

西粟倉村は、2000人ほどの村民のみなさんの中で、山主さんが600人ぐらいいたと思います。村長さんが10年間の施業委任契約を取つけて、所有権と利用権を分けて林業再生を目指している村です。

農地を放棄している場合と同じように、山主さんが森林保全の意欲を放棄しているようなケースもありますから、所有権と利用権を切り離すことも必要になっているんです。

〈森の町内会〉が間伐に最初に取組んだ森林は、岩手県の岩泉町でした。ここを選んだ理由は、モデルをつくろう、と思ったからです。

岩泉町は、町としては日本で一、二を争う広い面積の町です。その90%以上が森林で、間伐が進まないことを町長さんはじめみなさんが懸念されていて、新しい取り組みに熱心だった。そういう町であれば、私たちが新しい仕組みを需要サイドから展開するのに際し、そのモデルづくりに積極的に参加してくださるのではないか、と思いました。

〈森の町内会〉がやろうとしているのは、国産材の利用を促進して、その経済的な力で森が循環できるようにする。そして、そのことで森が本来の多面的な機能を発揮できるようにする、ということです。私たちはその突破口として、企業のCSRを重要視し、バーゲニングパワーとしているのです。

そして、それがやがてCSRを超えて、いわば「自ら選ぶ環境税」のように社会全体が納得して浸透していけば、健全な森づくりにどんどん貢献できる。

紙は、ペーパーレスになるといわれながら、不可欠なものです。企業でも家庭でも、身近にあって毎日使われています。〈間伐に寄与する紙〉を使うことで、森林の保全、林業の活性化に一役買っているんだ、と感じられることは重要なことです。日常性の中で、これほどまでに継続的な「森への貢献」の意識づけは、他にはちょっとないんじゃないでしょうか。

私たちは間伐面積の「量」にもこだわっていますが、それ以上に社会的な役割だと思っているのは、「日常的」に「自然な形」で、「自分は国産材を使うことで日本の森づくりに役立っているんだ」という意識を醸成することです。

この繰り返しが、家をつくるときには国産材を使おう、というように、国産材利用のマインドとして社会に定着していくのではないでしょうか。〈森の町内会〉の本質的な役割は、そこなんです。



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