機関誌『水の文化』43号
庄内の農力

庄内の農力

編集部

わかったつもり

縁あって庄内を訪れ、海の幸、山の幸を堪能した。

大規模圃場で日本の農業を牽引している一方、「生きた文化財」ともいわれる在来野菜を大切に育て続けている人がたくさんいることがわかった。日本一長い砂丘からの飛砂を防ぐために、幅300mもの防風林帯を築き上げた苦労にも触れた。

農業への幅広い姿勢は、この地が、厳しい自然環境に鍛えられるのと同時に豊かな恵みも受けてきた現われでもある。

食や農だけでなく、戊辰戦争を戦った庄内藩士が西郷隆盛を敬慕したことや、明治維新後の産業活性化という志を持って、地元の松ヶ岡や北海道・札幌の原野を開墾したことも知った。

そして、今回は取り上げられなかったが、伝承500年といわれる国指定・重要無形民俗文化財の黒川能をはじめ、藤島の獅子踊りや神楽など、伝統芸能の里であることを知ることもできた。

情報は、単に聞いたり読んだりしただけだと、右から左に通り過ぎてしまいがちだ。現地に行って、見て、出会うことの大切さは、人の顔を思い浮かべることで我が事に引き寄せられる点にある。

日本には、まだまだ魅力的な地域がいっぱいある。わかったつもりにならないで、その地に足を運ぶことの大切さを学んだ経験だった。

プラスに転じる底力

庄内平野は言わずと知れた米どころ。「米づくりに適した土地柄なんだろう」と思ってしまいがちだが、実はそれだけではない。それは、先進的な圃場整備と用水確保によってかなえられている。

日本全国、河口部に開けた平野は河川の扇状地。流路が固定される以前は、暴れ川による洪水被害に悩まされた場所だ。

庄内平野は、赤川と最上川、日向川、月光川などの流出土砂の堆積などによって形づくられてきた。最上義光(もがみよしあき)が赤川を東遷させ、旧河川を青龍寺川(しょうりゅうじがわ)として農業用水路に利用したのが庄内平野開発の端緒、と前川勝朗さんはいう(「庄内の里川 赤川と赤川頭首工」参照)。

耕作面積が増えたり、耕作方法の変化などによって水使用量が増えるたび、新たな水資源開発が大変な苦労の末に実現されてきた。現在の農村は、そうした施設を更新しながら使い続けているところがほとんどのはず。

庄内の場合、先人の残してくれた遺産に新しい命を吹き込みながら使い続けてきた努力が、米どころとしての位置づけを高く保っているのだろう。

経営マインドも

大地主の本間家が北前船で米を商品として扱ったことから、庄内の米には、年貢としてだけでなく換金作物としての価値があった。農村通信社の佐藤豊さんが「緻密な土づくりと稲の生態を知った肥培管理、及び水管理という稲作技術の積み重ねが庄内米の品質を維持してきた」と言うように、生産者が米づくりにしのぎを削ってきた(「庄内の米づくり」参照)のは、そういう伝統にも裏づけられている。

そんな庄内米にも、明治維新後に品質が低下し、評価が下がるという危機があった。米商会所(米穀取引所)と倉庫業(山居倉庫)の二段構えで徹底した品質管理を行ない、失墜した庄内米の評判回復のために、旧藩主 酒井家が貢献している(「藩校〈致道館〉に見る庄内人気質」参照)。大変な苦労を伴う事業を敢えてしたことから、庄内において米が特別な存在だったことが推し量れる。

現代になって、米に対する消費者の関心は、量から味へ、そして安心・安全へと移り、生産者には新たな手間やコストがかかるようになった。しかし、生産者には「おいしくて良い米を届けたい」という気持ちがあるので、余計な手間だと言って無視することはできない、という心意気がある。

量を追求していた時代にはつくるだけでよかった農業だが、ブランド構築への努力や販売にも力を入れていかねばならないようになった。山居倉庫の経験がある庄内だったら、そうした新たなチャレンジにも取り組んでいかれることだろう。

幅広い農の在り方を

しかし、庄内の農は米だけではない。徹底した効率化を図る米づくりの一方で、おいしいから効率度外視でつくり続けてきた在来野菜の宝庫でもあるのだ。

大量にはつくれないし規格どおりにいかないから流通しづらい在来野菜だが、地域限定・季節限定のおいしさに価値が認められつつある。

あまりに有名で今回は取り上げなかった〈だだちゃ豆〉も1988年(昭和63)には700万円だったJA鶴岡の売上が、キャンペーンのお陰で知名度が全国区になり、2003年(平成15)には6億7000万円に伸びている(農林水産省の「農林水産物・地域食品における地域ブランド化の先進的取組事例集」より)。在来野菜を守るモチベーションが高まる今、可能性のある品種に目配りしていきたい。

生産者の努力に対して、買って、食べて応えることも大切。現地に行って、見て、地域の良さを味わってみたいものだ。



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