機関誌『水の文化』44号
しびれる水族館

しびれる水族館

編集部

希望の星

現在、水族館には一言でくくれないほど、多様な個性があります。

そんな中、マリンピア松島は長らく地元の子どもたちにとって、かけがえのない存在であり続けました。マリンピア松島に行く、と言ったら、「懐かしいなあ」「パンダイルカがね」と、思い出を語る人が何人もいて、みんなの愛着がよくわかりました。

東日本大震災後に早々と復旧できたのも、みんなに希望を与える存在だったから、頑張れたのかもしれません。残念ながら閉館が予定されていますが、その前に、是非訪ねてほしい水族館です。

水の魅力を支える人

沖縄美ら海水族館(以下、美ら海と表記)の宮原館長からは、こんなしびれる言葉が飛び出しました。

「こんなに不便な所にあるのにたくさんのお客様が来てくださるのは、なぜなんだろうと考えてみたんですが、やはり沖縄の青い海、水の魅力なんだろうと思います」

新鮮な海水が近くで調達できない水族館では、完全閉鎖式といって、循環させた水で海の生きものを飼っています。餌の残滓は水を汚しますから、餌の量を控えたり、汁が出ないように餌を洗ってから与えたりすることもあるのだそう。

美ら海では、目の前のきれいな海の沖合300m、水深20mの所から新鮮海水を採っていて、〈サンゴの海〉水槽では100%新鮮海水を1日24ターン、〈黒潮の海〉水槽では新鮮海水と濾過海水をミックスして使っています。7500m3の巨大水槽全部の水を、なんと約2時間で入れ替える能力があるのだそうです。

新鮮海水には貝の幼生や魚の卵なども混じっているため、ポンポン型の濾過材(「沖縄 水と空の魅力」参照)で濾過。循環海水は好気性微生物を利用して、硅砂(珪酸分に富む石英砂)で濾過し、62基の濾過器がフル稼働。さしずめ工業プラントのようなバックヤードが、水族館を支えています。

万が一の事態に備え、自家発電設備も常備。点検のときには停電しますが、魚たちにとって電気が使えない状態は6〜7時間が限度、と感じているそうです。

「異常のシグナルは、音や臭いに表われます。だから、一番頼りになるのは人間の五感。機械には任せられないんです」

こういうことを肌で感じながら、機器類の点検がなされています。

学芸員の活躍

魚だけでも水だけでもなく、湖と人の暮らしとのかかわりを発信する琵琶湖博物館では、学芸員も型破り。

金尾滋史さんは、前の職場で地域の有線放送のパーソナリティーをやったり、おじいちゃんにパソコンの修理を頼まれたり、はては女子高生の恋愛相談にのったりするようになったそうです。こうした奮闘を続けるうちに、町民のみなさんが気軽に博物館に来てくれるようになったとか。

「『何かあったときには博物館に聞いてみよう』と、みなさんの暮らしの中に博物館という選択肢ができた瞬間でもありました」

本来の学芸員の仕事の範疇を超えて、と金尾さんは言っていましたが、結果的には学芸員として正しい働きだったのかもしれません。

小宇宙を広げよう

鈴木将広さんは生態系のバランスを取ることで、自身の水槽で持続可能な水循環を再現しようとしています。ホームアクアリウムが魚の飼育や鑑賞を越えて、小宇宙になっていることに本当に驚きました。鈴木さんは「小さい水槽ではバランスを取るのが難しい」と言っていましたが、地球規模でも日本国内でも実現が難しい健全な水循環が、ここで実現できているのは逆に小さい世界だからかもしれません。この小さい水槽を少しずつ大きくしていった先に、地球規模での持続可能な社会がある、ということがわかりました。

水の魅力がモチベーションを高くする

今号では、日本の水族館の歴史を熟知し、戦後、水族館が変貌する渦中を歩んでこられた鈴木克美さんがコツコツと調べた「日本の水族館開館年表」をマップにしてみました。(「日本の水族館とともに」参照)

鈴木さんは、海の危機と衰退をも見せて、それを防ぐ決意や方法を語りかけることは、海からたくさんの恵みを享受してきた水族館の責務である、と指摘されています。

日本人の多くは、水の世界はあくまでも清らかであってほしい、と願っています。その気持ちが、海へのご恩返しを可能にするのではないでしょうか。

科学が進化した現在でも、海洋は宇宙並みに未知の世界。その解明と保全のために、水族館は努力しています。

また、生きものを飼育する中で、健全な水循環を保とうという努力も惜しみません。そして、それらを支えるバックヤードには、人の想いと技があることを知りました。



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