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水の文化 49号 変わりゆく養殖

水の文化書誌 40
淡水魚の増・養殖を図る

古賀 邦雄

古賀 邦雄
(こが くにお)
古賀河川図書館長
水・河川・湖沼関係文献研究会

1967年西南学院大学卒業。水資源開発公団(現・独立行政法人水資源機構)に入社。
30年間にわたり水・河川・湖沼関係文献を収集。2001年退職し現在、日本河川協会、筑後川水問題研究会に所属。
2008年5月に収集した書籍を所蔵する「古賀河川図書館」を開設。
2014年(平成26)公益社団法人日本河川協会の河川功労者表彰を受賞。

淡水魚はたんぱく源である

 戦後の間もない時期まで、水田は用排水の分離がほとんどなされず川と水田はつながっていた。農薬も少なく、そのため、淡水魚であるフナやナマズなど、初夏の水田の水口には、うようよと群れ、カエルが鳴いていた。秋になると、川干し、池干しが行なわれ、大きく成長したフナやコイを捕え、夕食の膳を賑わし、たんぱく摂取の源になった。しかしながら戦後70年農業の近代化が進み、このような現象もだんだんと消えてしまった。

 最近、特に自然環境の大切さが見直されてきた。農村環境整備センター企画『田園自然再生』(農文協・2009)には、よみがえる自然・生命・農・地域の象徴として、ホタルが生息できる水路と田んぼの復元、小規模水田魚道の設置方法と遡上効果、メダカを守り育てる、棚田を守る、コウノトリと共生する環境保全型農業を論ずる。進士五十八は、「人が健全に育ち、暮らし、楽しみと期待を抱いて過ごす日々のために、田園自然再生活動は、いわば永遠にその手を緩めることはできない。21世紀は都市を農村化する時代だ。エコロジカルな社会システムへの変革だ」と強調する。

 水田とそのまわりの水域と陸域からなる農村環境を取り戻す、生態系保全型整備事業を論ずる、水谷正一編著『水田生態工学入門』(農文協・2007)には、水路と水田に生息するコイ、フナ、タナゴ、ドジョウ、ナマズ、メダカ、イトヨなどの魚類を挙げる。それらの魚類の生活史、すなわち、卵の時期、仔魚期、稚魚期、若魚期、成魚期、老魚期まで捉え、魚類の保全や増殖を図るハビタット(生息場所)を指摘する。東京都日野市の農業水路ではコンクリート護岸をはがして石積みに変え、河床に木杭や蛇籠(じゃかご)を配置しワンドを造成し、魚類の増殖を図った事例を述べている。

 水谷正一・森淳編著『春の小川の淡水魚 その生息場と保全』(学報社・2009)、高橋清孝編著『田園の魚をとりもどせ!』(恒星社厚生閣・2009)は、ともに、魚類の繁殖場、生育場、越冬場の保全対策を掲げている。宇根豊著『田んぼの学校 入学編』(農文協・2000)、市川憲平/文/写真『メダカ・フナ・ドジョウ』(農文協・2012)、前畑政善/文/写真『ナマズ』(農文協・2014)をひも解くと、まさしく淡水魚にとって、田んぼは生息場であり、増・養殖場の宝庫といえる。

水谷正一編著『水田生態工学入門』(農文協・2007)

淡水魚 増・養殖の歴史

 長田芳和・細谷和海著編『よみがえれ日本産淡水魚 日本の希少淡水魚の現状と系統保存』(緑書房・1997)には、日本列島に分布する淡水魚はコイ科、ナマズ科を中心とする純淡水魚約90種、サケ科、ハゼ科、カジカ科からなる周縁性淡水魚約110種、合計約200種から構成されるという。残念ながら、スワモロコ、ミナミトミヨが絶滅しているが、これ以上、淡水魚を絶滅させてならない。

 淡水魚の増・養殖技術の歴史を追ってみよう。垂仁天皇(第11代)、灌漑(かんがい)の溜池溝を開き、自然養魚池を兼ねるとある。大島泰雄編著『水産増・養殖技術発達史』(緑書房・1994)には、古代から現代まで、マダイ、ボラ、クルマエビ、アコヤガイなどの海水魚、コイ、アユ、ウナギなどの淡水魚の蓄養の歴史を詳細に綴る。野村稔編『淡水養殖技術』(恒星社厚生閣・1982)によると、養殖の技法は、一定の区域を専有し、その区域内で自己所有の魚族の環境管理を行い、繁殖と成長を図る。一方、増殖の技法は、法律や取締を制定し、漁獲の制限・禁止・禁魚期、禁漁区の設定、種苗の放流、魚族の生育環境を行なう。隆島史夫・村井衛編『水産増養殖システム 淡水魚』(恒星社厚生閣・2005)では、具体的に食料、環境、文化などと密接に絆をもつ日本の淡水魚に関する、イワナ、イトウ、サケ、コレゴヌス(シナノユキマス),ニジマス、アマゴ(サツキマス)、ヤマメ、ヒメマス、アユ、ワカサギ、コイ、カワチブナ、タナゴなどに関して、その増・養殖生産過程を論ずる。

 さらに、増井好男著『内水面養殖業の地域分析』(農林統計協会・1999)の構成は、内水面養殖研究の意義と目的、先進養鰻産地(浜名湖など)の形成と展開、稲作を転換とした徳島県吉野川下流地域の新興養鰻産地の形成と展開、長野県塩田地域の養鯉産地の形成と展開、静岡県富士宮地域・長野県明科(あかしな)地域の養鱒産地の形成と展開、内水面養殖業の課題からなる。内水面養殖業の発達した理由として、稲作の生育条件が不利な地域であったことと、結論づけていておもしろい。

大島泰雄編著『水産増・養殖技術発達史』(緑書房・1994) 増井好男著『内水面養殖業の地域分析』(農林統計協会・1999)

三面川(みおもてがわ)のサケ

 北九州筑豊を流れる遠賀川の上流福岡県嘉麻(かま)市大隈の地に、鮭神社が鎮座する。境内には自然石のサケの埋納塚、拝殿にはサケの魚拓や絵馬が奉納されている。サケは海神の使いとして川を遡る。2014年(平成26)には4匹のサケが遡上した。鮭神社では毎年12月13日サケを神前に供えて、「献鮭祭」が行なわれる。

 新潟県村上市における三面川のサケの歴史は古く、平安時代の記録に表れており、江戸期に入り、本格的にサケの増・養殖が図られてきた。三面川は朝日連峰に源を発し、朝日村を流れ下り、流域に恵みをもたらし、村上市の瀬波と岩ヶ崎の間で日本海に注ぐ、延長50qの河川である。児童書近藤弘著『鮭よ、もどってこい』(岩崎書店・1982)に、宝暦初年頃、青砥武平次が三面川の種川にサケの産卵場を造り、サケの増殖業の発展を促がし、村上藩の財政を潤すことになる。須藤和夫著『三面川サケ物語』(朔風社・1985)は、サケの保護制度を確立した青砥武平次、明治時代の動乱を乗り越え、自ら人夫となってサケ川の改善に取り組んだ旧村上藩士たちを描き、さらに荒廃したサケの川の復元に立ちあがった、現代の村上市民たちを描いている。横川健著『越後村上―三面川の鮭』(朝日新聞社・2005)は、サケの採卵、ふ化、放流し、4年の後に三面川に戻ってくるサケを写真で表す。帰ってきたサケを捕る漁法としての、居操り網漁、引き網漁、ウライ漁を著し、なおかつ、日本で最初のサケの博物館イヨボヤ会館、こどもサケ科学館、サケ料理まで捉えている。また、資料編として、塩引きサケを生む風と湿度と気温、平均雨量、偉大な自然遺産魚つき保安林、三面川サケ漁実績と稚魚放流数を示している。三面川の鮭育成に尽力した人々を描いた(財)村上城跡保存育英会編・発行『鮭の子ものがたり』(2006)もある。

 北海道を中心としたサケ、マス増殖については、小林哲夫著『日本サケ・マス増殖史』(北海道大学出版会・2009)、田中哲彦著『さけ・ますふ化場―15年間の体験記』(成山堂書店・2012)がある。その他に佐藤重勝著『サケ―つくる漁業への挑戦』(岩波新書・1982)、渓流に生息する魚の保全を図った井田齊・奥山文弥著『サケ・マス・イワナのわかる本』(山と渓谷社・2012)が刊行されている。

横川健著『越後村上―三面川の鮭』(朝日新聞社・2005)小林哲夫著『日本サケ・マス増殖史』(北海道大学出版会・2009)

天然アユを育てる

 アユの書は、宮地伝三郎著『アユの話』(岩波新書・1960)があまりにも有名であるが、治水利水のための堰やダムの築造、河川改修が進み、アユの生息地に変化を及ぼしてきた。古川彰・高橋勇夫編『アユを育てる川仕事』(築地書館・2010)には、アユは川と海を往き来する回遊魚で、川の下流部で秋に卵から孵ったアユの仔魚は海に下って冬を沿岸部で過ごし、春先に海から川をさかのぼりはじめ、夏には中上流部にたどり着きなわばりをつくって、成長を続け、秋口には降下を開始し、下流部で産卵を終えたアユは1年だけの命を終える、とある。そして、1980年(昭和55)ごろには、アユの遡上しない川が増え、多くの川が放流アユ頼みの釣り堀状態になったと、指摘する。

 これらの問題に対処するための、全国で天然アユを増やす取り組みと河川環境の保全活動に関し、この書は論じる。高津川漁協のアユの産卵保護、矢作川漁協の越戸ダム施設と共同して天然アユの復活、猪名川漁協の一庫ダムと協働による環境対策(下流に砂利を流す対策、貯水池内の外来魚の駆除など)、鏡川・天然アユ100万匹をめざす高知市役所の事例が並ぶ。

 同様な書に、高橋勇夫著『天然アユが育つ川』(築地書館・2009)があり、漁協の河川環境の整備の努力によって、天竜川、矢作川、日野川(鳥取県)は天然アユが増えた。物部川漁協もアユの産卵場を整備し、河口閉塞にも対処してきた。物部川は下流部に香長平野を擁し、取水量も多く、田植期に濁るが、漁協と農協はお互いに歩み寄り、天然アユによるお米のブランド化として、「物部川漁協推薦、天然アユ100%物部川清流米」を提案する。アユの書として、島津忠秀他著『養魚講座3鮎』(緑書房・1968)、依光良三他著『土佐のアユ』(高知県内水面漁協・1989)、常見勝也編著『あゆ 川魚料理』(第一出版・1978)を挙げる。

 さらに、ウナギについては、井田徹治著『ウナギ 地球環境を語る魚』(岩波新書・2007)、筒井功著『ウナギと日本人』(河出書房新社・2014)、廣瀬慶二著『うなぎを増やす』(成山堂書店・2001)がある。

古川彰・高橋勇夫編『アユを育てる川仕事』(築地書館・2010)

淡水漁の保全対策

 前記の書には淡水魚の保全対策をも論ずる。だが、外来魚による川や湖沼の侵入は、アユなどの生態系への悪影響を及ぼしている。外来魚に関しては、松沢陽士/写真/図鑑執筆・瀬能宏/監修/解説執筆『日本の外来魚ガイド』(文一総合出版・2008)、日本魚類学会自然保護委員会編『ブラックバス』(恒星社厚生閣・2002)、秋月岩魚著『ブラックバスがメダカを食う』(宝島社新書・1999)、細谷和海監修『ブラックバスを科学する〜駆除のための基礎資料』(リバーフロント整備センター・2007)がある。

 また、アユなどの遡上を阻害する魚道は最近改善されてきた。中村俊六著『魚道のはなし 魚のすみよい川づくり』(山海堂・1995)、安田陽一著『技術者のための魚道ガイドライン』(コロナ社・2011)を挙げる。  最後に、全国内水面漁業組合連合会から『内水面漁場環境・利用実態調査報告書』(1987)、『魚を育む豊かな流れ〜河川生物資源保全流量調査報告書』(1989)、『魚をほどよく放流するための手引き』(1992)が刊行されており、アユを含む淡水魚の保全対策と増・養殖を図っている。

〈若鮎の二手となりて上りけり〉   (正岡子規)

日本魚類学会自然保護委員会編『ブラックバス』(恒星社厚生閣・2002)中村俊六著『魚道のはなし 魚のすみよい川づくり』(山海堂・1995)

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目次

ひとしずく(巻頭エッセイ)
「おらほのカキ」が奏でる新しい食文化
高成田 享
総論
市場も文化もこれから変わる
有路昌彦
Report 1
養殖魚の味を変えた特産品「かぼす」
大分県漁業協同組合
Report 2
養殖に対する〈負のイメージ〉を変えていく
近畿大学水産研究所
Report 3
過疎に悩む地域を救うか?「温泉とらふぐ」
株式会社夢創造
Report 4
カキとアマモのハーモニー
日生町漁業協同組合
編集部 体験講座
養殖魚をおいしく食べるコツ
上田勝彦
Interview
エサの変遷とこれからの養殖
山本剛史
文化をつくる
「適魚適食」が広まる日
編集部
水の文化書誌40
淡水魚の増・養殖を図る
古賀邦雄
食の風土記 1
気候と純度の高い水が育む吉野葛
編集部
魅力づくりの教え 1
歩くほどに物語が生まれる場
中庭光彦
Go!Go! 109水系
人の力で〈川の恵み〉を取り戻せ!物部川
坂本貴啓

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