機関誌『水の文化』39号
小水力の底力

ものづくりの底力

35Wから10kWまでのラインナップ。

35Wから10kWまでのラインナップ。機能的なものが、造形的にも美しいという見本のような製品だ。

生産拠点の海外移転による、日本国内でのものづくりの空洞化。長年、日本の経済基盤を支えてきた中小企業は、厳しい状況に陥っています。スカイ電子の廣林孝一さんは、そんな逆境を逆手に取って、技術力によって、新機軸を見出しています。中小企業にとって希望の星となる〈コアレス発電機〉は、小水力発電にとっても、救世主になるかもしれません。

廣林 孝一さん

株式会社スカイ電子代表取締役社長
廣林 孝一(ひろばやし たかかず)さん

1941年山口県生まれ。1959年北村電機工業所(のちに株式会社旭電機製作所)入社。1967年旭電機新見工場操業に伴い、本社より工場責任者として出向。1973年旭産業株式会社設立に伴い、取締役部長として出向。1977年台湾旭電機股份有限公司設立に伴い、総経理として出向。1980年旭電機新見工場へ常務取締役として復社。1981年旭産業へ専務取締役として出向。1984年旭電機高知工場操業に伴い、専務取締役工場長として出向。1986年同社を退社し、1987年スカイ電子工業を設立。3月に株式会社に組織変更。

海外生産品との闘い

弊社は、今年、創業25周年を迎えます。それ以前は大手企業の協力会社で電子部品メーカーに勤務して、製品開発や新工場立ち上げに携わりました。1984年(昭和59)に四万十町(旧・窪川町)への新工場設立をきっかけに、高知に住居を移しました。約2年半後、新部門の立ち上げの話があったとき、今がターニングポイントであると考え、独立してスカイ電子を設立。CDのヘッドの駆動コイルやハードディスク用のコイルを手がけ、1993年(平成5)ごろまでは右肩上がりに販売を伸ばしておりましたが、その後、徐々に取引先の海外進出が進み、1994年(平成6)にCDのピックアップ関係の仕事が海外にシフトしてしまい、販売金額4億円ほどの仕事が、1億5000万円ほどの減収益になってしまいました。それで何かほかの仕事での補填を考え、携帯電話市場に向けて、扁平型の振動用モーターの駆動コイルを開発することにより回復を図りました。国内では現在、ほとんど円筒形の振動用モーターが使われているのですが、韓国のメーカーでは扁平型が使われています。

ピーク時には全種類生産数600万個、振動用モーターコイルを月産で300万個ぐらいメーカーに供給していましたが、一年半もするとこれも中国での生産に移行。1994年(平成6)時の売り上げまで回復することができていたのですが、今度は2億円程度の減収益になってしまった。もう、アップダウンの繰り返しですよ。

取引先が海外移転する度に、一緒に行かないか、と声をかけていただいたのですが、やはり国内に残りたいという気持ちがあって留まってきました。

それでもハードディスクの生産が伸びていたために堪えていたのですが、1997年(平成9)にとうとう主力のハードディスクドライブメーカーがシンガポールに進出。それで、コイルをベースに事業転換して、販売の確保を考えないといけないということで、中小企業創造活動促進法に応募し認定企業となり、補助金を受け1999年度(平成11)から3年計画で、特殊な小型センサー関係の仕事を開発しましたが、思う程の伸びはありませんでした。

ローカルクリーンエネルギー研究委員会

そうした中、並行して産官学でローカルクリーンエネルギー研究委員会(高知県産業振興センター)という勉強会がスタートしたのです。これも1999年度(平成11)から3年計画で参加させていただき、風力発電の開発に携わりました。

弊社ではコイルを巻く技術を持っていましたので、発電機部門を担当させていただくことになり、このプロジェクトで、風力発電の研究で知られる足利工業大学の牛山泉教授(現・学長)や高知工科大学、高知工業高等専門学校の指導を得ることができ、 2002年(平成14)2月に〈コアレス発電機〉の第1号が完成したのです。

一時期は地元企業、異業種3社で風車まで供給していたのですが、このまま続けても見通しが立たないということで、発電機の供給は継続という条件で、いったん撤退させていただきました。〈コアレス発電機〉単体は、2004年(平成16)から外販を始めています。

アウターローターコアレス発電機の開発

「コアレス」で「弱風で高出力」というのが、弊社の発電機の最大の特徴。コアレス発電機は従来、300W未満のものしかなかったのですが、弊社は35W〜10kW発電機を生産しており、現在も5kW以上は弊社のみで、大いに注目されています。

発電機は、コイルローターを軸に固定し、両側から円盤状の磁石ではさみ込んだ構造でシャフトを固定し、外装ケースが回転する〈アウターローター〉と呼ばれる発電機です。磁石が回転することで内側のコイルに電圧を発生させます。

コイルは巻き方や巻数によって効率がまったく変わります。コアレス発電機で最も重要なのは、コイルの巻数と形状、磁石との間隔。特殊精密コイルの専門メーカーとして培った技術が、この製品に結実しました。

風力利用から入ったので、風力の最大の弱点ともいえる弱い風の克服が、最初の課題でした。風速1mぐらいでは、ちょっとしたコギング(Cogging:モーターにおいて電機子と回転子との磁気的吸引力が回転角度に依存して細かく脈動する現象)があると全然回転しないのです。

通常の発電機では、コイルを通過する磁密度を大きくするため鉄芯にコイルを巻きますが、鉄芯を使用しないコアレス構造なら磁力の引き合いがなく、滑り出しが滑らかになり、低トルクで回転が可能なため、風速1m以下からでも回り出します。

最初はSKY-B350でスタートしたのですが、今はSKY-HR125(35W)からSKY-HG600(10kW)まで10機種のラインナップがあります。品番の数字は外径寸法を表わしています。

発電機というのは周速(回転したときの外周のスピード)が要で、直径125mmでは、35W出力するために600回転(rpm以下同)させなくてはならないのです。SKY-HR160は500回転で100W。SKY-HR200は350回転で200W。このように、大きな発電機のほうが低回転で効率良く発電できます。

SKY-HR250は300回転で300Wが定格ですが、このクラスで1500回転させたら10倍の出力、3kWの発電が可能です。回転数が上がれば電圧が比例して上がり、出力も2乗でアップしますが、電流を制御しないと発電機は焼けてしまいます。電流を許容範囲の約80%に抑えてもらって使う必要がありますね。SKY-HG600のような大型の発電機が高速で回転したら、恐いぐらいですよ。現在は、インナーローターコアレス発電機(外装ケース固定でシャフトが回転するタイプ)の開発を進めております。

外販を始めた初年度は20台しか売れなかったものが、2005年(平成17)から徐々に動き出し、いっきに100台になりました。その背景には、1997年に開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議)で採択された京都議定書があります。以降、販売台数は多い年で400台、平均すると200〜250台で推移しています。問い合わせの半分ぐらいが成約していますね。リーマンショック後の問い合わせは、450件から600件に増えていますが、成約は少なくなっています。自然エネルギーの利用を検討され、新規事業開拓を進めておられる企業など、あらゆる分野から問い合わせがあります。また、個人の方からの問い合わせも多くなっていて、みなさん熱心に検討されていることがわかります。

小水力発電の利用では、一昨年ぐらいから引き合いが増えてきており、水車メーカーさんにも供給しています。それまでは年に10件ぐらいだったのが、いっきに3倍以上になっています。おそらく国の方針で、水利権の扱いを簡略化しようという動きが出てきたのに呼応しているのでしょう。

風力は風がなかったら何の役にも立ちません。吹いたところで、風速1mのエネルギーなんて本当に微々たるものなのです。しかし、水は常時発電可能ですし、エネルギーは風の約800倍以上あるわけですから、水が豊富にある所は、それを利用しない手はありません。

2006年(平成18)新幹線のグリーン車に常備されている『WEDGE』という月刊誌に取り上げられ、全国各地からお問い合わせをいただきました。震災後は、一気に問い合わせが増えて、手応えを感じています。もちろんマーケットがあれば大量生産を目指すメーカーとの競争を避けられません。 目下の課題は、競争に負けない技術を確立することです。

  • アウターローターコアレス発電機の中身。構造がよくわかる。

    アウターローターコアレス発電機の中身。構造がよくわかる。

  • 低トルクで動き始める風力発電が、コアレス構造のきっかけとなった

    低トルクで動き始める風力発電が、コアレス構造のきっかけとなった

  • 折りたたみ式でワンタッチで着脱可能な自転車発電機〈エネトレ〉は、別売りのインバーターを使用し自転車にセットすれば100Vの電源としてテレビを映すことも可能。

    折りたたみ式でワンタッチで着脱可能な自転車発電機〈エネトレ〉は、別売りのインバーターを使用し自転車にセットすれば100Vの電源としてテレビを映すことも可能。〈エネトレ〉の発電量競争に挑戦しているのは、高知県小水力利用推進協議会会長の篠和男さん。

  • アウターローターコアレス発電機の中身。構造がよくわかる。
  • 低トルクで動き始める風力発電が、コアレス構造のきっかけとなった
  • 折りたたみ式でワンタッチで着脱可能な自転車発電機〈エネトレ〉は、別売りのインバーターを使用し自転車にセットすれば100Vの電源としてテレビを映すことも可能。


(取材:2011年8月2日)

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