機関誌『水の文化』52号
食物保存の水抜き加減


機械乾燥

農家の女性が生み出した
カラフルな乾燥野菜

カラフルな乾燥野菜(大根、アスパラガス、にんじん、わらび)を用いた石焼ビビンバ。

カラフルな乾燥野菜(大根、アスパラガス、にんじん、わらび)を用いた石焼ビビンバ。大根は色の違うものを10種類以上育てている

古来の知恵に現代の技術を応用することで、今のニーズに対応した「新しい芽」のような事例を探した。すると、畑作・稲作を中心とする農家を切り盛りする女性たちが色彩を重視した大根やじゃがいも、にんじんなどを機械で乾燥させ、料理しやすい形で提供し、注目されはじめていることを知った。手軽に、しかし華やかな食卓が可能になる「乾燥野菜」だ。当初は共働きの夫婦を対象に考えていたが、実は生野菜が食べきれない一人暮らしの人やお年寄りにも評判がよいという。

北海道美唄市

現代の食卓に合う新しい乾燥野菜

札幌から特急で30分ほど北上した、北海道の中央部に位置する美唄(びばい)市。農業が盛んなこの地で、4年前から乾燥野菜づくりに取り組んでいる女性グループがいる。「つむぎ屋」だ。

つむぎ屋は、「簡単」「すぐに使える」をキーワードに、現代の食卓に合った新しい乾燥野菜を提案している。野菜の生産から乾燥野菜の加工、販売までをすべて手がけ、6次産業化を実現した事例として地元の新聞やテレビなどでたびたび紹介されている。

「乾燥野菜は切る手間もなく、もどさずにそのまま使うこともできる便利な食材です。手軽に野菜を摂ることができて、料理の時間短縮にもつながるので、忙しい方には特にお勧めです」と語るのは、つむぎ屋の代表を務める要覚(ようかく)忍さん。

まるでお菓子のようなしゃれたパッケージに入った、大根やきゅうり、アスパラ、ミニトマトなど、色とりどりの乾燥野菜が並ぶ。つむぎ屋の乾燥野菜は種類が多く、価格も手ごろで使いやすいと、口コミで人気が広がっている。

運営メンバーは5人。もともとは「紬(つむぎ)の会」という農業女性の生活改善グループの仲間だった。皆で集まってみそやせっけんなどを手づくりして楽しんでいたが、それぞれ子育てが一段落し、親が引退して自分たちが家業を担う世代になると、農家として外の世界に何かを発信したいと考えるようになった。

「そのころ、東日本大震災で避難所生活を強いられていた方たちが、『おにぎりはあるけど、野菜がないのが辛い』という話をされていました。いつでも、誰でも野菜が食べられるようにするために、生産者である私たちにできることを考えてたどりついた答えが、生の野菜が出回らない時期に、手軽に使ってもらえるおいしい乾燥野菜をつくることでした」

種から育ててパッケージングしたつむぎ屋の「乾燥野菜」。単品だけでなく、炊き込みごはんやスープなどのセットものまでそろっている

種から育ててパッケージングしたつむぎ屋の「乾燥野菜」。単品だけでなく、炊き込みごはんやスープなどのセットものまでそろっている

おいしい野菜を適した時期に加工

実は北海道には、野菜を干して保存するという文化はほとんどないそうだ。日照時間が短く、美唄市の夏は意外と湿度もあるので、天日干しには不向き。だからつむぎ屋として乾燥野菜をつくろうと決めた際も、当初から天日干しは考えに入れず、メンバーでお金を出し合ってまずは業務用の大型乾燥機を購入した。

「野菜を切って乾燥させるだけだと簡単に考えていましたが、実際にやってみるとわからないことだらけです」と要覚さんは苦笑いする。

一番の問題は、正解がないことだった。野菜の種類や切り方によって、乾燥する時間も温度も異なる。どれくらい水分を抜けばいいのか。どんな仕上がりが正しいのか。規格も基準となる数値もない。結局、自分たちで試行錯誤するしかなかった。

切る厚さを変えて違いを見たり、できあがったものを窓際や車に置いて日もちを確認したりと、さまざまな実験を重ねた。失敗も経験するうち、やがて自分たちが納得できる、つむぎ屋ならではの乾燥野菜づくりのポイントが定まっていった。

それは、おいしい状態の野菜を加工すること。一つは、野菜はたいていとれたてがおいしい。さらに畑で余った野菜を使うのではなく、乾燥野菜用として野菜を育て、旬の時期に収穫。その日のうちにカットして機械で一気に乾燥させる。本業の農作物の収穫時期と重なるため、ピーク時は一日中、休む暇もない。

「大変なことを始めてしまったな、と自分たちでもあきれています。でも実際に比べると、時間が経ってから乾燥させた野菜は色や香りがまるで違ってしまうのです。やはりこのタイミングは絶対に外せません」

一方で、大根や白菜は秋に収穫せず、そのまま土のなかに置いておき、冬、積もった雪から掘り出してそのつど加工する。美唄市ではこれを「いける」というそうだが、昔から伝わる食物保存の知恵である。甘みが増すうえ、雪が天然の保冷庫となって春先まで保存できるのだ。

(人物右から)要覚忍さん、熊谷聖子さん、高橋志津子さん、鈴木美美(みみ)さん。所用で参加できなかった田中美保さんを含めて5名で乾燥野菜を世に送り出している

(人物左から)鈴木美美(みみ)さん、高橋志津子さん、熊谷聖子さん、要覚忍さん。所用で参加できなかった田中美保さんを含めて5名で乾燥野菜を世に送り出している

主婦だからわかる「彩り」の重要性

保存性や風味を高めるため、水分をできるだけ完全に抜くことも徹底した。乾燥させた野菜は、元の重量の3%から5%の重さしかない。1kgの大根がわずか30gになる計算だ。

乾燥野菜づくりを始めてから、野菜にとっていかに水分が重要であるか、要覚さんは改めて気づかされたという。

「普段は意識しませんが、野菜ってほとんどが水なんですよね。土と離れた瞬間からどんどん鮮度が落ちていきますが、収穫してすぐに水分を飛ばして乾燥すれば、風味や香りがギュッと閉じ込められる感じがします。おもしろいのは、再び水分がもどれば、しっかりと風味も復活すること。野菜の力ってすごいなと感心します」

つむぎ屋の乾燥野菜は、色がきれいなことが特徴の一つ。例えば「カラフル大根」という商品は、白や緑、赤、紫など色とりどりの大根が入っていて、これを使うだけで簡単に食卓が華やかになると好評だ。色にこだわるのは、料理に彩りが重要であることを、主婦として自分たちが実感しているから。機械で短時間に乾燥させることで色あせしにくく、野菜のきれいな色が残せるのだという。

野菜の種類の多さもつむぎ屋ならではだ。お客さんに「こんな乾燥野菜もあるのか」という驚きや、選ぶ楽しみを感じてもらいたくて、毎年30種類以上の野菜を育てている。

「種から畑で育てられるのが、私たち野菜農家の強みです。最近は野菜の品種もたくさんあるので、片っぱしから種を注文しては育て、乾燥するとどうなるか試しています」

常によりよい品種を探していて、トマトだけでも色やうまみの違うものを毎年10種類は育てるという。

「素人だからこそ、固定観念にとらわれずにチャレンジできると思います。でも、いつもよい結果が得られるとは期待していません。農業をしていると、どんなにがんばっても最後は自然任せ。天候には逆らえない。だから、うまくいかなくても気にしないし、いいものができたらありがたいという気持ちなのです」

あくまでも本業は農業。だから夏野菜が旬となる6月から10月までは、乾燥野菜を一切販売しない。旬の時期には、一番おいしい生の野菜を食べてほしいとの思いからだ。

  • つむぎ屋が育てているカラフルな大根。

    つむぎ屋が育てているカラフルな大根。

  • つむぎ屋のトマト。食卓が地味にならないように「きれいな野菜をつくりたい」(要覚さん)と考えて、いろいろな種を仕入れている

    つむぎ屋のトマト。食卓が地味にならないように「きれいな野菜をつくりたい」(要覚さん)と考えて、いろいろな種を仕入れている

  • つむぎ屋が育てているカラフルな大根。
  • つむぎ屋のトマト。食卓が地味にならないように「きれいな野菜をつくりたい」(要覚さん)と考えて、いろいろな種を仕入れている

炊き込みごはん用などセット商品が売れ筋に

取材の日、つむぎ屋の皆さんが乾燥野菜を使った昼食を用意してくれた。野菜のパスタ、石焼ビビンバ、玉ねぎのマリネ、トマトの炊き込みごはんなど、乾物料理の地味なイメージを覆すカラフルな料理がずらりと並ぶ。食べてみると、野菜はどれも予想以上にしゃきしゃきとした歯ごたえで、野菜本来の味と香りもした。副代表の高橋志津子さんに乾燥野菜の料理のポイントを聞いた。

「独特の歯ごたえを楽しむことでしょうか。例えば石焼ビビンバは、生野菜には出せない乾燥野菜ならではの食感が味の決め手になっています」と高橋さん。また、炊き込みごはんは乾燥トマトを米と一緒に炊くだけの簡単料理だが、乾燥野菜はうまみが強く、だしいらずなのだそうだ。「調味料が少なくて済みますし、戻す手間もいりません。また、生野菜と違って料理中に水分が出ないので、水加減も不要。乾燥野菜はいいことずくめです」(高橋さん)。

つむぎ屋の商品は、美唄や札幌市内のいくつかのショップに置かれている。お客さんとじかに接することができる対面販売にも積極的に出かけるようにしているという。

「私たちは、購買層として忙しい主婦を想定していました。きちんと料理をつくって家族に食べさせたいと思いながら、『仕事や子育てが忙しく時間がない』という女性が増えていると感じていたから」と要覚さん。

ところが実際に売り場に立ってみると、主婦のほかにも一人暮らしの若者や単身赴任者、高齢者など、さまざまな人が乾燥野菜を買い求めていくことがわかった。

「一人暮らしの人は、生の野菜は使いきれないし料理も面倒だから買わないけれど野菜不足は心配なんです。お年寄りの方からは『生の野菜は重いから買って帰れない』という話も聞きました。乾燥野菜に対する潜在的なニーズは、私たちが考えるよりもすそ野が広そうです」(要覚さん)

このような多様な客層に合わせ、料理に不慣れな人でもすぐ使えるよう、パッケージの裏にそれぞれの野菜のお勧めの使い方を掲載したところ、とても喜ばれているという。「そのまま使える簡単なものがほしい」という声に応えて「炊き込みごはんの具」や「とん汁の具」など、必要な野菜がすべて入っているセット商品も開発し、売れ筋になっている。

「私たちは小さいグループで、できることも限られています。まずは身近なところから乾燥野菜のファンを増やしていこうと今、簡単でおいしい乾燥野菜のレシピをまとめて本にすることを考えています」(要覚さん)

いずれは販売ルートを確保して東京にも商品を展開したいと、要覚さんは将来の展望を語る。つむぎ屋がつくる手軽でおいしい乾燥野菜が、時代のニーズに合った新しい食材として人々の食卓に受け入れられる可能性は十分にありそうだ。

  • つむぎ屋の皆さんが用意してくれた昼食。色鮮やかな乾燥野菜が食卓に映える

    1 つむぎ屋の皆さんが用意してくれた昼食。色鮮やかな乾燥野菜が食卓に映える

  • 「紫玉ねぎのサーモンマリネ」は皿に並べた乾燥紫玉ねぎの上にスモークサーモンを重ねて、ドレッシングをかける。20分置くとできあがり

    2 「紫玉ねぎのサーモンマリネ」は皿に並べた乾燥紫玉ねぎの上にスモークサーモンを重ねて、ドレッシングをかける。20分置くとできあがり

  • 色違いのトマトを用いた「大根餅トマトごぼうスープ」

    3 色違いのトマトを用いた「大根餅トマトごぼうスープ」

  • キュウリとメロン、山クラゲ、塩糀でつくる「乾燥野菜の塩糀和え」

    4 キュウリとメロン、山クラゲ、塩糀でつくる「乾燥野菜の塩糀和え」

  • 色の違う大根おろしを用意して食べる「大根餅」

    5 色の違う大根おろしを用意して食べる「大根餅」

  • なす、ズッキーニ、トマトを使った「パスタ」

    6 なす、ズッキーニ、トマトを使った「パスタ」

  • 「ささがきごぼうのドレッシング和え」。ささがきは手作業だと時間がかかるため、生産効率を高めるため機械の導入も考えている

    7 「ささがきごぼうのドレッシング和え」。ささがきは手作業だと時間がかかるため、生産効率を高めるため機械の導入も考えている

  • 細かく刻んだ乾燥ミニトマトにオリーブオイルと塩を炊飯器に入れるだけの「乾燥ミニトマトの炊き込みごはん」

    8 細かく刻んだ乾燥ミニトマトにオリーブオイルと塩を炊飯器に入れるだけの「乾燥ミニトマトの炊き込みごはん」

  • つむぎ屋の皆さんが用意してくれた昼食。色鮮やかな乾燥野菜が食卓に映える
  • 「紫玉ねぎのサーモンマリネ」は皿に並べた乾燥紫玉ねぎの上にスモークサーモンを重ねて、ドレッシングをかける。20分置くとできあがり
  • 色違いのトマトを用いた「大根餅トマトごぼうスープ」
  • キュウリとメロン、山クラゲ、塩糀でつくる「乾燥野菜の塩糀和え」
  • 色の違う大根おろしを用意して食べる「大根餅」
  • なす、ズッキーニ、トマトを使った「パスタ」
  • 「ささがきごぼうのドレッシング和え」。ささがきは手作業だと時間がかかるため、生産効率を高めるため機械の導入も考えている
  • 細かく刻んだ乾燥ミニトマトにオリーブオイルと塩を炊飯器に入れるだけの「乾燥ミニトマトの炊き込みごはん」


(2015年12月14日取材)

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