機関誌『水の文化』47号
つなぐ橋

わたしの里川
川医者の里川診断

島谷 幸宏さん

ミツカン水の文化センター アドバイザー
九州大学工学研究院教授
島谷 幸宏(しまたに ゆきひろ)さん

私のように、全国を飛び回り川のお医者さんのような仕事をしていると、毎年、新しい里川との出会いがある。

奄美大島にはリュウキュウアユというアユの亜種が生息している。本土のアユよりちょっと小ぶりで、うろこは少々大きい。昔は腐るほど捕れていたそうであるが、名前の由来である沖縄ではすでに絶滅、奄美大島でも絶滅の危機に瀕している。リュウキュウアユが生息する役勝川(やくがちがわ)の河口にはマングローブ林が広がり、その中を川が蛇行して流れている。カヌーでその川を下ると、マングローブが林立する、人工物と人工の音がまったくない、静謐な神秘的な空間である。リュウキュウアユはこのマングローブ林で稚仔魚のときを過ごす。マングローブ林の消失がリュウキュウアユの減少の一因である。現在は、多くの人が川を大切に思い、リュウキュウアユの保全運動をしている。

奄美大島の山は深く、大人になるまで海を見たことがない人たちがついこの前までいたそうである。そういう人たちにとって、川は重要なタンパク資源を捕る場所であり、子どもたちの遊び場でもあったのだ。奄美大島は世界でも有数の美しいサンゴ礁で有名な島である。だから奄美大島では川はそっぽを向かれているのではないかと思っていたが、それは大きな間違いであった。奄美大島にも里川はあった。

京都の先斗町(ぽんとちょう)を流れる白川は、伝統的建造物保存地区にもなっており、名前の通りの清い流れと石の護岸、周辺の街並みが調和し誠に風情がある。この白川を地域の住民の方々からどのような川にしたらいいのかと相談を受け、案内していただいたことがある。上流部はコンクリートの3面張りの誠に無機質な川で、下流部との違いに驚いた。しかし、このコンクリートで固められた川であっても地元の人にとっては大切な川であり、環境再生の活動が行なわれている。コンクリートで固められたからと言ってあきらめてはダメだと思った。コンクリートで固められた川も里川だったのである。

私が今住んでいる福岡市の西区には室見川という川が流れている。福岡市民に愛されている河川である。人口150万人の大都会の川であるが、下水道が整備され清流である。春にはシロウオが遡上し、川面にシロウオ料理屋が登場する。この踊り食いもなかなかうまい。5月の連休には河口干潟は潮干狩りで賑わう。なにせ無料である。我が家も毎年、自転車で室見川までアサリ捕りに出かける。河口干潟を沖のほうに進み、せっせとアサリを捕る。1時間半ぐらいでバケツ一杯になるのでそれを持って帰り、洗って、一部は冷凍しておく。とてもおいしいアサリで、だいたい半年ぐらいはアサリを買わなくて済む。この川も里川である。

このように里川は日本中にある。しかし川のお医者さんの目で見ると、昔に比べて一様に弱っているように思う。


え●岩田健三郎



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