機関誌『水の文化』59号
釣りの美学

外来魚
外来魚

釣って食べて学ぶ外来魚

「プレコ」と呼ばれるマダラロリカリア。南米原産のナマズの仲間。今、沖縄本島の川で大繁殖しているという

「プレコ」と呼ばれるマダラロリカリア。南米原産のナマズの仲間。今、沖縄本島の川で大繁殖しているという

海外から人の手によって移入された魚を「外来魚」と呼ぶ。1925年(大正14)、釣りの対象および食用として神奈川県の芦ノ湖に導入されたブラックバス(オオクチバス)が有名である。こうした外来魚による在来種や生態系への影響が問題視されるなか、日本各地で外来魚を釣って食べている若者がいる。「五感を通じて生物を知る」をモットーとするライターの平坂寛さんだ。「珍生物ハンター」を自称する平坂さんは、なぜそのような活動をしているのだろうか?

平坂 寛さん

インタビュー
珍生物ハンター/ライター
平坂 寛(ひらさか ひろし)さん

1985年長崎県生まれ。琉球大学理学部海洋自然科学科卒業。筑波大学大学院生命環境科学研究科環境科学専攻博士前期課程修了。大学院在学中にライターとして活動を開始。珍生物を自ら探し、捕らえ、味わい、その体験をWebサイト「デイリーポータルZ」などで発信。著書に『外来魚のレシピ〜捕って、さばいて、食ってみた』『深海魚のレシピ〜釣って、拾って、食ってみた』『喰ったらヤバいいきもの』がある。

ブラックバスから学んだこと

――釣りを始めた時期を教えてください。

小学校5年生です。物心ついたころから魚や昆虫を捕まえるのが好きな子どもでした。生まれ故郷の長崎には釣りに適した川がないので、自然が好きな父と佐賀の川まで行き、網で魚を捕るのが楽しみでした。

5年生のときに、母の知り合いの留学生が簡易的な釣り竿をくれました。海に持って行って試してみると、簡単に8cmほどの魚が釣れたのです。「釣りってずるい!」と思いました。網では小さな魚を捕ることにも苦労したのに、釣りなら簡単に大きな魚を捕まえられるのですね。エサでおびき寄せて鉤(はり)で引っ掛ける。こんなにずるいテクニックが存在していたのかと、そのときの感動と衝撃で一気に釣りにはまりました。

――外来魚との初めての出合いもそのころですか?

それは中学校1年生のときです。やはり父と行った佐賀の溜め池に、それまで釣ったこともないような大きな魚がウヨウヨいて、これが噂に聞くブラックバスかと。釣ってみると外見がそれまでに捕まえた魚とあまりに違ったので、「これ、うまいのかな?」なんて父と話しながら持ち帰って、ブラックバスということは内緒で母にフライにしてもらったのです。それが、おいしくて。

佐賀ではフナを甘露煮で食べる文化がありますが、ブラックバスは川魚特有のくさみもなく、スズキやハタに近い淡白な味わいでした。それもそのはず、調べてみるとブラックバスは二次淡水魚(注)に分類される魚でした。味が海の魚に似ているのは至極当然のことなんですね。

そのときの僕はブラックバスの進化の歴史を味で読みとったのです。食べるという行為が「おいしい・まずい」だけではなく、なんらかの情報を得るきっかけになると初めて気づいた出来事でした。

母と兄には後々ブラックバスだったということがバレて、「変なものを食べさせるな」と怒られることになったのですが。

(注)二次淡水魚
真水に順応した魚。本来は海水魚だったが、地殻変動などによって内陸部に取り残された経緯から、短期間なら海水でも生存できる。メダカやカダヤシなど。

  • 北米原産のブラックバス(オオクチバス)を釣り上げた平坂さん。釣り少年の血が騒ぐ

    北米原産のブラックバス(オオクチバス)を釣り上げた平坂さん。釣り少年の血が騒ぐ

  • ブラックバスのフライ

    ブラックバスのフライ
    白身のブラックバスは外見に似ずとても美味。スズキの仲間と聞いて納得

  • ブラックバスの煮付け

    ブラックバスの煮付け

  • ブラックバスのうまさに思わずにんまり

    ブラックバスのうまさに思わずにんまり(提供:平坂 寛さん)

  • 北米原産のブラックバス(オオクチバス)を釣り上げた平坂さん。釣り少年の血が騒ぐ
  • ブラックバスのフライ
  • ブラックバスの煮付け
  • ブラックバスのうまさに思わずにんまり

方向性を決定づけた沖縄での光景

――琉球大学では、なぜ淡水魚の研究を。

進学当初は、魚の研究をしようとは決めていませんでした。

父が古本屋を営んでいた関係で、幼いころから生きもの図鑑や写真集を眺めるのが何よりの楽しみだった僕は、色鮮やかで巨大な生きものがたくさん棲んでいるアマゾンなどのジャングルに、強い憧れを抱いていました。熱帯の生きものを研究したいと思ったときに、もっとも近いことをやっていたのが琉球大学でした。

魚を研究対象に選んだのは、幼いころから親しんでいたのが魚だったこと、もう一つは、大学内の人工湖で衝撃的な光景を見てしまったからです。

というのも、その人工湖には外来魚のプレコが何百匹と群れていました。よく見ると、それ以外にもティラピアなど、日本の魚ではないものがたくさんいたのです。

さらに大学だけではなく、沖縄全体がそうした状況でした。例えば那覇の国際通り付近の溝には、グッピーやナイルティラピア、コンビクトシクリッドなど、北米や南米、アフリカ原産の魚が多くいます。さまざまな本で生物の知識を仕入れていたはずなのに、まったく知りませんでした。

当時は外来魚といえばブラックバス、ブルーギルということくらいしか報道されず、こうした真実は伝えられていなかったのです。

その光景を見て、「もっといろいろな外来種が日本にいる現状を人々に伝える必要がある」と思ったことも、淡水魚の研究を選んだ理由です。

――平坂さんの「釣って(捕って)食べる」スタイルはいつから?

学生時代からやっていましたが、本格化したのは20代前半です。

大学院生のとき、研究の一環でブラジルのパンタナルという湿地帯に行きました。意気込んで釣りをしたところ、魚の力が強すぎて糸は切れるわ鉤は折れるわ、最終的にはリールまで壊され、コテンパンにやられました。それまで「釣りって楽勝」とさえ思っていたのに……。その悔しさで帰国後に本格的に釣りも勉強したのです。

一方で、生きものの本を書くことが夢でもあったので、ウェブ媒体に記事を持ち込んで書かせてもらうようにもなりました。

  • 鶴見川に1年近く通ってようやく釣り上げた北中米原産のアリゲーターガー。これでも小さい方だという

    鶴見川に1年近く通ってようやく釣り上げた北中米原産のアリゲーターガー。これでも小さい方だという

  • アリゲーターガーはうろこが硬くて剥がせないため、カセットコンロに網を載せて直火で丸焼きに

    アリゲーターガーはうろこが硬くて剥がせないため、カセットコンロに網を載せて直火で丸焼きに

  • アリゲーターガーを食べる平坂さん。微妙な表情をしているのは、身がパサパサしていて味も薄いから

    アリゲーターガーを食べる平坂さん。微妙な表情をしているのは、身がパサパサしていて味も薄いから(提供:平坂 寛さん)

  • 鶴見川に1年近く通ってようやく釣り上げた北中米原産のアリゲーターガー。これでも小さい方だという
  • アリゲーターガーはうろこが硬くて剥がせないため、カセットコンロに網を載せて直火で丸焼きに
  • アリゲーターガーを食べる平坂さん。微妙な表情をしているのは、身がパサパサしていて味も薄いから

食べることで生きものを深く知る

――そもそも、日本にこれほど外来魚が持ち込まれた理由とは?

すごく簡単にいうと「かっこいい」からです。外来魚の多くが観賞目的で持ち込まれています。わざわざ外国からコストとリスクを冒して連れてくるわけなので、見た目がいい、繁殖力が強い、おいしいなど何かしらの価値や魅力があったということです。

ただし、本来日本にいるべきではない生きものですから、釣り上げるたびに「お前を祖国で見たかった」と複雑な気持ちになります。

――これまでに何種類ほどの外来魚を釣って食べたのですか?

自分で釣って食べたものは20種類ぐらいです。

――なぜ、食べるのでしょう。

中学生のころにブラックバスを食べて二次淡水魚というルーツに気づいたように、一匹の獲物から可能な限りの情報を得たいのです。そうすることで生きものをより深く知ることができます。

触るのはもちろん、毒がある生きものならわざと噛まれてみたり、針を自分の腕に刺してみて死なない程度に毒を受けてみる、食べていいものであれば食べるなど、できることは全部やります。食べておいしいかまずいかは、学ぶ要素が多いポイントでもあります。

――これまで食べた外来魚のなかで、特においしかったものは。

ブラックバスはおいしかったですし、そのほかでは東南アジア原産のウォーキングキャットフィッシュです。ウォーキングキャットフィッシュは、その名の通り「歩く」のです。正確には「這う」ですね。水場が干上がると陸を這って別の水場へ移動します。環境の変化に強く丈夫なので、世界中で養殖されています。

本来食用なので脂がのっていて、蒲焼きにすると抜群にうまいです。現地では蒲焼きやカレーに入れて食べるほか、甘辛いタレで焼いたものが屋台で売られています。

そうそう、魚ではないですが、カミツキガメを釣って食べたらとてもおいしかったですよ。

――ご自身のなかで食べ方のルールはあるのですか?

生きもの本来の味や食感を知りたいので、最初はできるだけプレーンな方法で調理します。海の魚は刺し身で食べますが、川魚は体内に危険な寄生虫がいる場合が多いので、刺し身ではなく塩焼きやソテーに。まずかったらフライや煮つけなどおいしく食べる方法を考えます。捕まえた者の責任として、「捕ったら完食する」ということが大前提なので。よく誤解されるのですが、お腹を満たすために食べているわけではありません。

多くの外来魚は独特のくさみや酸味などがあるため、和風の調理法が合いません。しかし、原産国で用いられている調理法をまねすると、見違えるようにおいしくなります。

食用で持ち込まれた外来魚もいますが、外国の川魚を食べるなんて普通に考えればかなりの冒険ですよね。安易に食材として連れてきても、現地の調味料や調理法、つまり食文化も一緒に持ち込まなければ、日本の食卓に定着させるのは難しいと思います。

  • 沖縄で釣り上げた東南アジア原産のウォーキングキャットフィッシュ。

    沖縄で釣り上げた東南アジア原産のウォーキングキャットフィッシュ。左のマーブル個体、右のアルビノ個体ともに人為的に生み出された「変異個体」。かつて観賞魚市場に出回ったものが遺棄され沖縄で野生化しているのだ

  • 1週間ほど泥抜きをしてから調理する

    1週間ほど泥抜きをしてから調理する

  • ウォーキングキャットフィッシュの切り身。サケのように鮮やかなオレンジ色だが、個体によって色は大きく異なるそう

    ウォーキングキャットフィッシュの切り身。サケのように鮮やかなオレンジ色だが、個体によって色は大きく異なるそう

  • ウォーキングキャットフィッシュの蒲焼き。

    ウォーキングキャットフィッシュの蒲焼き。

  • これほど蒲焼きに合う外来魚は初めてだと笑みを浮かべる平坂さん

    これほど蒲焼きに合う外来魚は初めてだと笑みを浮かべる平坂さん

  • 沖縄で釣り上げた東南アジア原産のウォーキングキャットフィッシュ。
  • 1週間ほど泥抜きをしてから調理する
  • ウォーキングキャットフィッシュの切り身。サケのように鮮やかなオレンジ色だが、個体によって色は大きく異なるそう
  • ウォーキングキャットフィッシュの蒲焼き。
  • これほど蒲焼きに合う外来魚は初めてだと笑みを浮かべる平坂さん

「駆除」すべき?外来魚をどう捉えるか

――外来魚に対して私たちはどのように考えるべきでしょうか。

外来魚は生物多様性を脅かす要因の一つですが、彼らは人間による無理な導入の被害者です。よって「罪のない魚を駆除すべきでない」との論調もありますが、それは間違いです。辛い思いをしてでも駆除するのが、連れてきたわれわれ日本人の責任です。

ただし、「何が何でも駆除すべき」と決めつけるのが必ずしもいいとは限りません。特に、義務教育課程の子どもが学校でそう教われば素直に受けとってしまいます。子どもたちには、なぜ駆除が必要なのか、ほんとうに駆除が必要なのか、駆除する以外に道はないのかということを、自分の頭で考えてほしいのです。そのためには、まず興味をもつことが大切です。

だから僕は、エンターテインメント性のある「釣って(捕って)食べる」ということを続けています。学校の勉強とはまた違った柔らかな切り口で、おもしろおかしく外来魚のことを伝えることにしました。「こんなのが日本にいるんだ?」「おいしそう!」など、少しでも多くの人が外来魚に興味をもつ入口になればうれしいです。

それに釣って食べることは、罪悪感なくいろいろなことを学べます。例えばブラックバスを釣ってその場で駆除するところを子どもには見せたくないですよね。命をただ奪うだけですから。だから釣って食べるということは、子どもにとっても意外にいい落としどころなのです。外国の魚を捕まえた経験をより特別なものとして記憶に残すためにも、お勧めしたいです。

――平坂さんにとって水辺とは。

「学校」のような存在です。学校といっても、小学校や中学校かな。

例えば、真冬の山は動物も冬眠していて生きもの好きの僕には少し寂しいのですが、水辺に行けばどんなに寒い時期でも水鳥や魚など何かしらの生きものがいて発見があります。学校も同じで、行けば友だちがいて、新しい学びや経験にワクワクしますよね。

今後やりたいことは、「水辺をフィールドにした少人数制の野外活動」です。外来魚に興味をもってもらうには直接ふれあっていただくことが一番ですし、何よりも本で見るより、本物を捕まえるのは楽しいですよ!

  • 「プレコには『怪獣的なかっこよさ』がある」と平坂さん。たしかに魚とは思えないシルエットだ

    「プレコには『怪獣的なかっこよさ』がある」と平坂さん。たしかに魚とは思えないシルエットだ

  • プレコを用いた「ペイシャーダ」。原産国の調理法で料理すると失敗が少ないという

    プレコを用いた「ペイシャーダ」。原産国の調理法で料理すると失敗が少ないという

  • 特定外来生物のカミツキガメも何度か釣っている。

    特定外来生物のカミツキガメも何度か釣っている。平坂さんいわく「ものすごくおいしい」。ただし、カミツキガメの捕獲には危険が伴うので、まねしない方が賢明だろう

  • カミツキガメの唐揚げ。大きな爪が主の痕跡をとどめている

    カミツキガメの唐揚げ。大きな爪が主の痕跡をとどめている

  • 「プレコには『怪獣的なかっこよさ』がある」と平坂さん。たしかに魚とは思えないシルエットだ
  • プレコを用いた「ペイシャーダ」。原産国の調理法で料理すると失敗が少ないという
  • 特定外来生物のカミツキガメも何度か釣っている。
  • カミツキガメの唐揚げ。大きな爪が主の痕跡をとどめている

釣りと外来魚

特定外来生物とは?

外来生物(海外起源の外来種)であり、かつ生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、及ぼす恐れがあるもののなかから指定されている。2018年5月時点で魚類はブラックバス(オオクチバス)など26種類が指定されている。

特定外来生物は釣ってもよい?

釣りをすることはできる。禁止事項は、次の通り。
① 釣った魚を持って帰って飼うこと
② 釣った魚を移動させて放流すること
したがって釣った特定外来生物をその場で放す「キャッチ&リリース」は問題ないが、条例で禁止している都道府県もある。また、釣った特定外来生物をその場で締めたうえで、持ち帰って食べることも問題ない。

環境省HP「日本の外来種対策」、環境省・農林水産省パンフレット「外来生物法」を参考に編集部作成

(2018年4月27日取材)

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