桶と樽の主材は木なので最終的には自然に還るというイメージがある。では、その桶と樽を受け継いだプラスチックなどの素材を用いた容器について、3R(リユース、リデュース、リサイクル)の観点からどう捉えたらよいのだろうか。廃棄物焼却時の熱エネルギー利用を研究する国立環境研究所の藤井実さんに、現代で使われる容器の処理と、そこから得られるエネルギーの回収方法についてお聞きした。
インタビュー
国立研究開発法人 国立環境研究所
社会環境システム研究センター
環境社会イノベーション研究室 室長
藤井 実(ふじい みのる)さん
1972年岡山県生まれ。資源のライフサイクルアセスメント(LCA)に着目。化石燃料の使用が今後著しく制限されるなか、廃棄物のエネルギー利用の効率を高め、資源を適材適所で利用することで、社会全体として資源の効率化を実現するための研究に取り組む。専門分野は化学工学、システム工学。環境分野では循環型社会、地球温暖化対策。
木に代わる素材としては鋼板やプラスチック、FRPなどがあり、飲料容器としてはPET樹脂を用いたペットボトルが主流です。PET樹脂は2種類の分子からなっていて、うち1種類はエタノールからつくられることが増えています。供給量や価格の面から今は石油由来が多いものの、いずれ100%植物由来になることも技術的には可能と思います。
ペットボトルは基本的にリサイクルしやすくて、例えばワイシャツにするならペットボトルを融かして糸にすればよいのです。しかし、そこで大事なのは「そうすることでどれくらいのエネルギーを節約できるのか」という点です。
容器の本質とは「中身の価値を守ること」だと思います。酒でもしょうゆでも、つくるにはエネルギーと手間がかかりますので、中身を保管できない容器では台なしです。中身が貴重なものであるならばその価値は守るという観点から、容器に費やす資源やエネルギーなどの環境負荷をどの程度にするかを考えればよいのです。
ペットボトルに関しては、本体も蓋も以前よりかなり薄くなっています。原料がそのぶん減りますから、これはよいことですね。
容器を使い終えたらどう処理するかは重要な課題です。3Rで一般的に望ましいとされる順位はリユース、リデュース、リサイクル。そしてリサイクルにも3種類あります。(1)素材のままで再資源化するマテリアルリサイクル、(2)化学処理して再生利用するケミカルリサイクル、(3)廃棄焼却時の熱エネルギーを利用するサーマルリカバリーです(注)。まずはサーマルリカバリーについて紙とプラスチックを例に説明します(図1)。
上級印刷紙は化石燃料を使って製造されますが、副産物の黒液を燃料として使えます。PET樹脂はやや複雑な分子構造なので製造エネルギーを費やし、さらに燃やしてもさほどエネルギーを回収できません。それに比べると、商品パッケージを始め用途の広いPP樹脂(ポリプロピレン)は製造時のエネルギーが少なく素材のもつ発熱量も大きい。したがって、きれいに集めやすいPET樹脂はマテリアルリサイクルがよいですし、食品などと混ざって集めにくいPP樹脂は焼却してエネルギーを回収するという考え方もあるのです。
また、工場の生産工程では200゚Cくらいの蒸気がよく用いられます。しかし化石燃料という質の高いエネルギーからその程度の温度の蒸気をつくるとやはり効率が悪い。化石燃料を燃やして蒸気に変えた段階で、およそ8割、あるいはそれ以上をロスすることになります。
この現状を踏まえると、廃棄物は素材として活かせる方が好ましいものの、それが難しい分については、焼却した熱をエネルギーとして回収して、産業のプロセスのなかでできるだけ活かすしくみをつくることが望ましいのです。
実際に家庭から出る焼却も可能なごみのマテリアルリサイクルは2割にも満たず、ほとんどが焼却です(図2)。日本の焼却炉の発電効率は平均12%ほど。つまり焼却時の熱利用を効率化する余地はまだまだあるのが現状です。
(注)リサイクル3種の詳細
(1)廃プラスチック類の廃棄物を、破砕溶融などの処理を行なった後に同様な用途の原料として再生利用する。(2)廃プラスチック類を化学的に分解することでガスや石油状にして原料等(元の製品であるかは問わない)として再利用する。(3)廃プラスチック類を主燃料あるいは助燃材として利用することにより、その燃焼により得られる熱を発電や工場での製造工程などに有効利用する。
そうなんですが、日本には「焼却熱を工場で使う」という発想がありませんでした。ようやく検討が始まった段階ですが、韓国・蔚山(ウルサン)の工業団地では清掃工場から近隣の化学工場への熱供給がすでに行なわれています。工場でのボイラー燃料の消費削減効果は大きく、5~9カ月で蒸気用パイプの敷設費用を回収できています。
ただし、すべての廃棄物をうまく活用しても、日本の温室効果ガスを2%減らせるかどうか。ゆくゆくは再生可能エネルギーをもっと活用しなければ真の脱炭素化とはなりません。その過程として「廃棄物の焼却熱」という導入しやすいことから着手して、みんなで設備をシェアして導入費用を抑制しつつ、再エネ・省エネ設備を付加していくのが現実的です。
マテリアルリサイクルですべて循環させるのが理想ですが、それは難しい。そこで、自然環境になるべく負荷をかけずに経済活動も続けるためには、素材から製造方法、さらに廃棄物から得られる熱エネルギーまで漏らさず組み合わせて、新たなしくみをつくっていくことが求められています。
(2019年10月1日取材)