機関誌『水の文化』67号
みずからつくるまち

水の余話
現代に生きる海中渡御

提供:法政大学エコ地域デザイン研究センター

       
          陣内秀信

陣内秀信(じんない ひでのぶ)

1947年福岡県生まれ。法政大学特任教授。中央区立郷土天文館館長。アマルフィ名誉市民。イタリア建築・都市史を主な研究領域とする。著書に『水都 東京』(筑摩書房)、『東京の空間人類学』(筑摩書房)、『都市を読む・イタリア』(法政大学出版局)、『ヴェネツィア──水上の迷宮都市』(講談社)などがある。

       
     

海に囲われた日本には、各地に神輿を海に入れる海中渡御(とぎょ)が受け継がれている。小学生の頃、2年間住んだことのある神奈川県・茅ヶ崎の海岸で、神輿(みこし)が海に入る「浜降祭」を見て驚いたのを記憶している。そして、真鶴の「貴船祭り」では、この町に調査に通った陣内ゼミの学生達が、地元の男どもと一緒に神輿を担いで海に入ったのには、近くで見ているこちらも興奮を抑えられなかった。

だが、何と言っても凄いのは、この大都会、東京のベイエリアで今なお海中渡御が行われているという事実だ。十数年前の6月、私はお台場海浜公園の入り江で行われる品川・荏原神社の海中渡御を間近で見た。スペインのサラゴサで開催された水をテーマとする国際博覧会のために、水都東京の映像制作を依頼され、プロの映像作家とカメラマンにこのシーンを撮影してもらったのだ。

品川を出航した10艘ほどの船が東京湾の水上を厳かにパレードしながら、人々が待ち受けるお台場公園の入り江に入ってくる。舳先を浜に向けて船が勢揃いしたところで、神輿が降ろされる。海の中で男たちの担ぐ神輿が威勢よく揉まれ、太鼓と笛の音が水辺に高揚感を生む。背後には、レインボーブリッジとその向こうの高層ビル群が控える。誰もが恍惚感にひたりながら、小一時間ほどであろうか、劇的な海中渡御の祭礼が続いた。巨大都市、東京のなかで信じられない光景を目の当たりにし、日本文化の不思議さに私は大きな感動を覚えた。

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