機関誌『水の文化』42号
都市を養う水

「青い金」水源と地下水についての考察

連載「青い金」は、生活者が水へ関心を寄せるきっかけになりました。「都市化が進んで、水がどこからくるのかについて無関心な人がほとんど。水道の水源が危ない、ということがわかれば身近な水に危機が忍び寄ってきていることを訴えられる」と牧野容光さん。水と密接だった安曇野には、地域固有の水使いが健在です。全国一律のルールづくりに苦言を呈し、「水は誰のものか」を検証します。

牧野 容光さん

信濃毎日新聞社記者
牧野 容光(まきの ひろみつ)さん

1978年兵庫県に生まれる。2005年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、2005年信濃毎日新聞社入社。信濃毎日新聞連載「青い金」1、2、5、7章を担当する。

水資源の連載「青い金」

信濃毎日新聞は、2012年(平成24)1月から6月まで「青い金―水は誰のものか」と題して、地下水をはじめとする水資源の保全・利活用について連載しました。

連載前から既に、長野県東部の軽井沢町にある別荘地近くの水源地で、外資が土地を大規模に買収していることが、地域住民の間で騒ぎになっていました。また、NHKの連続テレビ小説「おひさま」で全国に名水の郷として知られるようになった県中部の安曇野市で、地下水を汲み上げるミネラルウオーター会社が乱立し、地下水の保全が行政課題になっていました。

軽井沢町と安曇野市をめぐる問題を皮切りに、水資源を守り生かすために、今、何が必要かという問題点を整理し、国や地方公共団体、民間企業、地域住民に提言することを最終目標に、取材をスタートさせました。

取材を通じて、軽井沢町の「水源地買収対策」も、安曇野市の「地下水保全」も、財産権や土地の所有権を定めた憲法や民法の改正まで含めた議論をしないと、根本的な解決にはならないことがわかりました。

民法は第207条で「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と定めていますから、土地の下を流れる地下水は、土地所有者に所有権があると解釈されます。さらに、憲法は第29条で「財産権は、これを侵してはならない」と謳い、個人に非常に強い財産権を与えています。

こうした法律によると、地下水に対する土地所有者の所有権は、非常に強いものだと考えられるのです。

提言への反応

「青い金」の取材班は本紙社会面で60回余の連載を経て、今年6月に水を守るための八つの提言を出しました。

国には、地下水の無秩序な汲み上げを規制したり、外資による水資源の独占を防いだりするため、法律を整備するなどして地下水を「公の水」と定めるよう求めました。水への意識や利用方法は地域によって異なるため、実情に即して地域ごとに水の使い方のルールをつくるよう呼び掛けました。みんなが水を大切に思い、身近に感じられるよう「水を学ぶ」場づくりも求めました。

読者からは「よく書いてくれた。大切なことだ」「これからも紙面を通じて、行政や住民に継続的に水資源の保全を訴えてほしい」などと大きな反響がありました。提言を受けて、長野県や一部の県内市町村は、水資源を守るための専門委員会を設立したり、条例を制定したりしました。取材は大変でしたが、紙面化できて良かったとつくづく思います。

青い金 水は誰のものか 八つの提言

(信濃毎日新聞取材班)

  1. 地下水を「公の水」に
  2. 水源地買収対策は「二段構え」で
  3. 水源地の公有化を
  4. 水資源の実態把握を
  5. 水の「利用者責任」に向き合おう
  6. ルール作り、流域ごとに
  7. 広域圏に「水利用会議」を設けよ
  8. 行政・NPOの連携で「水を学ぶ」場づくりを

水道水源地の調査

「青い金」の取材班は、軽井沢町など各地の水源地買収の事例を追うのと並行して、長野県内で自治体などが運営するすべての水道水源地の保全状況を調査しました。

水道事業を実施する県内市町村などへのアンケート調査の結果、県内には914カ所の水道水源地があり、そのうち1割強にあたる102カ所では、法律や条例による開発や買収対策への規制がないことがわかり、ことし1月4日付の朝刊1面トップ記事で特報しました。

一部の村では、民有地の湧き水を水道用に使っているにもかかわらず、村と民有地の所有者との間で、土地の賃貸借や水利用をめぐる契約すら結んでおらず、所有者との口約束で湧き水を水道に使わせてもらっている例もありました。こうした水源地では、所有者が亡くなり子孫に所有権が移ったときに「そんな約束は知らない」と言われれば、水が使えなくなります。何より、第三者が悪意を持って水源地を買収すれば、地域の水道が干上がる恐れすらありました。

全国各地で水道が普及し、水がどこからくるのか無関心な人がほとんどです。新聞で「水源地買収の恐れ」と訴えても、実感が湧かない人もいるのではないでしょうか。ですが、「水道の水が飲めなくなる恐れがある」と書くことで、水資源問題が極めて身近なものだと感じてもらえたのではないか、と思います。

水道水源をめぐる信濃毎日新聞の特報を受けて、水源域や河川の源流部に位置する自治体などでつくる全国組織〈全国水源の里連絡協議会〉が、同協議会に加盟する全国165市町村での水道水源地の保全状況の調査に乗り出しました。

国も同協議会のように、水道水源の保全状況について、全国調査に乗り出すべきです。水道を所管する厚生労働省や都道府県には、全国の水道水源地がどこにあるかわかる台帳があります。法律や条例で、どの地域にどんな規制がかかっているかは、行政機関がすべての情報を把握しており、調査自体は簡単にできるはずです。

国土地理院基盤地図情報(縮尺レベル25000)「長野、富山、岐阜」及び、国土交通省国土数値情報「河川データ(平成19年、20年)、鉄道データ(平成23年)、高速道路時系列データ(平成23年)、行政区域データ(昭和25年、平成24年)」より編集部で作図

国土地理院基盤地図情報(縮尺レベル25000)「長野、富山、岐阜」及び、国土交通省国土数値情報「河川データ(平成19年、20年)、鉄道データ(平成23年)、高速道路時系列データ(平成23年)、行政区域データ(昭和25年、平成24年)」より編集部で作図

危機感の背景

取材で各地の水源地を歩くと、「日本の水資源が、水が乏しい海外の資本に収奪されてしまう」という声が聞かれました。私は、水資源が危機にさらされる典型例として、二つのケースがあると考えています。

一つは、水源地そのものが買収されるケース。もう一つは、飲料水工場を買収されるというケースです。

一つ目の水源地買収の問題の根底には、土地取引をめぐる制度があります。日本をはじめとして先進国の多くでは、外国人であっても土地を自由に買うことができます。WTO(World Trade Organization :世界貿易機関)の下、自由経済が原則だからです。ただ、水源地の保全は外交・防衛上、必要です。水源地の売買に一定の規制をかけることは、自由経済の原則に反するものの、水資源を守る有効策の一つだと思います。土地取引を規制する実例として、農業国のケニアは、外国人の農地取得に対して厳しい規制をかけています。北朝鮮に隣接する韓国では、軍施設の周辺の土地は、取引自体が制限されています。長い海岸線で太平洋に面したチリは、海岸線沿いの土地の売買を規制しています。各国の実情に即して、土地取引には規制があるのです。

「青い金」の中で、水源地買収に関する事例として取り上げたのは、軽井沢の別荘地7haと長野県に隣接する群馬県・嬬恋村の四十数ha。登記簿によると、所有者は上海やシンガポールに住む個人でした。所有者の登記簿上の住所地などを訪れ、取材を申し込んだのですが断わられました。ですから、所有者が「水が目的で土地を取得した」とは断定できません。ただ、嬬恋の場合、登記簿に湧き水の「湧出量の4分の1」を使う権利が明記され、水を目的に買っていることが推測できました。

一方、軽井沢の例は、別荘開発の可能性も否定できませんでしたが、地元の別荘地の住人は近くに水道の水源があり、「自分たちの水がなくなるかもしれない」と危機感を持ち、対策に乗り出していました。連載では、住人の危機感に焦点を当て、記事を書きました。

もう一つの「飲料水工場を買収される」という問題については、県内や北陸地方の飲料水工場で、飲料水の大量買い付けについて取材しました。長野県内でも500mlのペットボトルを月に300万本、中国やサウジアラビアに輸出したい、といった注文が来た、などと話す飲料水工場の経営者が複数いました。また、外国人が経営者になっている会社が、水工場を買収している例も実際にありました。

ミネラルウオーターを製造すること自体は、純然たる経済活動で、自由が保障されるべきです。ですが、国内の水資源が、知らぬ間に大量に国外に持ち出される可能性もあります。飲料水工場などによる水資源の利用状況について、行政機関がある程度の調査や把握を行なう必要があるかもしれません。

法律と条例のジレンマ

佐久市は6月、地下水の取水を規制する条例をつくりました。安曇野市は来年の3月、同様の条例を制定する予定です。いずれも、水資源を守るための条例です。ただ、両市の担当者とも、憲法や民法の整合性にとても敏感になっています。

先程も話しましたが、民法と憲法は土地所有者に対して、地下水の所有権を認めています。にもかかわらず、条例で過度に地下水利用を制限したり、水源地の売買を規制したりすれば、地下水の利用者から条例が憲法や民法に反しているとして裁判を起こされるリスクがあり、条例を制定した地方公共団体が敗訴する恐れがあるからです。

長野県が2008年(平成20)に改正した廃棄物条例はその一例です。改正前は、廃棄物処理施設を計画する業者に〈地元同意書〉を行政指導で求めていました。しかし国は、廃棄物処理法改正を機に地元同意書は「法の許可要件を超える規制」だとして、見直しを県に求めていました。判例などによると、同意書の未提出を理由に許可申請を受け付けなかったり、不許可としたりした場合は、業者側との裁判で敗訴する可能性が高いのです。このため、廃棄物条例改正で、地元同意書を廃止としました。

水資源の保全をめぐり、地方公共団体の担当者は危機感を持ち、条例制定に汗をかいています。ですが、抜本的な対策には法律の改正や制定が必要です。中央省庁は地方の現実に耳を傾け、地方公共団体と連携して対策を進めるべきだと思います。

扇状地としての安曇野の歴史

安曇野市は、全国から登山客が訪れる北アルプスのふもとに広がる扇状地です。「塩の道」で知られる千国(ちくに)街道の宿場町が発祥の豊科町と穂高町、犀川の舟運で栄えた明科町、川沿いに農村集落が発達した三郷村と堀金村の5町村が2005年(平成17)10月に合併して発足しました。

扇状地のため水が地下に染み込みやすく、農業用水が確保できないため、かつては荒れ地が広がっていました。水路ができるまでは、川から直に水を引いてきて稲作をしていたそうです。ですから、集落は川沿いにクラスター状に発達し、集落ごとに水の使い方を決めました。江戸時代以降、農業用水路がつくられて新田開発が進み、今では、長野県内で最大の米の産地です。

連載中、水にまつわる祭祀の研究者にも話を聞きました。日本には、日照りが続いたりして農業用の水を乞う祭はあっても、飲み水を欲する祭は見当たらないそうです。飲み水には困らなかったのかもしれません。改めて、日本の水の豊かさを痛感しました。

等高線に沿って流れる横堰ができて、扇央部の灌漑が可能になった。その象徴的存在の拾ヶ堰(じっかぜき)は、今は観光の目玉でもある。松本市の奈良井川で取水し、梓川の地下を横切り、烏川(からすがわ)まで続く。

等高線に沿って流れる横堰ができて、扇央部の灌漑が可能になった。その象徴的存在の拾ヶ堰(じっかぜき)は、今は観光の目玉でもある。松本市の奈良井川で取水し、梓川の地下を横切り、烏川(からすがわ)まで続く。

問題にされる背景には

安曇野市で地下水の保全が話題に上ったのは、全国一の水ワサビの産地だったからです。水ワサビの生産は、湧き水を使います。ところが近年、湧き水の減少による不作を訴える農家が相次いでいました。

安曇野市でワサビの生産が始まったのは明治初期。当時、この辺りは、梨の一大産地でした。農家では、水はけをよくするため、畑に深さ2〜3mの溝を掘りました。元々、地下水位が高かったため、溝のあちこちで湧き水が出ました。

農家は梨を県内各地で売り歩きました。山間地に出かけたときに、自生しているワサビをもらって安曇野に持って帰り、試しに梨畑の溝に植えてみました。すると、日陰できれいな水が豊富にあるという、ワサビの生育に適した条件がそろっていたため、大変良質なワサビが穫れたそうです。

1902年(明治35)、旧・国鉄篠ノ井線が全線開通し、安曇野から東京の市場に梨とワサビを売りに行かれるようになりました。すると、梨よりワサビのほうがずっと高く売れました。そこで農家では梨の木を全部切って、梨畑だった地面を、地下水が湧き出る地下2〜3mまで掘り下げて、ワサビ畑にしました。

2〜3m掘り下げた地面には、湧き水がとうとうと流れます。そこに畝(うね)をつくり、ワサビの苗を植えました。全国でも珍しい〈平地式〉と呼ばれる栽培方式です。

全国各地の水ワサビの産地は、大半が山間地にあります。山の湧き水を引き込み、人工的につくった〈棚田〉に湧き水を流してワサビを栽培しています。これに対し、安曇野市の〈平地式〉は平野部で栽培できるため、大規模な栽培面積を容易に確保できるメリットがありました。ただ、地下水位が下がると湧き水が出なくなり、栽培できなくなる、というリスクを抱えているのです。

平地を掘り下げ、地下水の中に生けられたワサビ。

平地を掘り下げ、地下水の中に生けられたワサビ。紗布を掛けて日陰をつくり、大規模に栽培できるようになった。大王わさび農場は、観光農園としても開放されている。

感覚的な危機感

ワサビ農家たちは、安曇野市に相次いで進出したミネラルウオーター工場を問題視しました。ですが、ミネラルウオーター製造による地下水の汲み上げと、ワサビ畑の湧き水減少の因果関係は、はっきりしていません。

同市に初めて水工場ができたのは1991年(平成3)。長野県でも有数の飲料メーカーが工場を建てました。その後、包装用品会社や商社、ゴルフ場経営といった異業種からの参入が相次ぎました。

安曇野市は良質な地下水が豊富で、ミネラルウオーター工場以外にも地下水を汲み上げる工場がたくさんあります。半導体工場やフリーズドライの加工工場、金属めっき工場など、枚挙にいとまがありません。中には、ミネラルウオーター工場よりも汲み上げ量が多い工場もあります。ですが、「湧き水減少」のやり玉にはなぜか、一番にミネラルウオーター工場が挙がりました。

ペットボトルに水を詰めてトラックで都会に出荷したり、人が飲んで消費するという「絵」が思い浮かべやすかったから、やり玉に挙がったのだと感じました。一般の人は、半導体を洗浄するために大量の水を流すことや、熱を帯びたフリーズドライの製造機器を冷却するために水を使うことなどをあまり知らないから、という理由もあるかもしれません。

ですから、ミネラルウオーター工場の進出が、期せずして住民に地下水の重要性を気づかせた、という言い方もできるのかもしれません。

安曇野市地下水保全対策研究委員会

ワサビ田で湧き水が減っている、との声を受け、安曇野市は2010年(平成22)7月、安曇野市地下水保全対策研究委員会(以下、研究委と表記)を発足しました。地域の地下水量の実態把握を進め、地下水を守り、生かすための方策を考える委員会です。

メンバーは25人。市内のワサビ農家や稲作農家、地下水を使う工場や養魚場の経営者、市役所の水道や観光、財政部門の課長級職員、国土交通省の出先機関の職員らが選ばれました。

研究委は、国土交通省や農林水産省の地下水位の測定データを根拠に、安曇野市内には180億t以上の地下水があるが、最近約20年間は、1年間に600万tのペースで減少している、と結論づけました。

そこで研究委は減少傾向を食い止めるため、①地下水の取水を規制する方法、②地下水を育む方法、③地下水を育むために必要な経費をまかなう方策について、延べ19回の会合を開いて議論し、今年8月に「地下水資源強化・活用指針」にまとめ、安曇野市長に提出しました。

①では、市内の井戸の実態調査を進めるほか、地域で著しい地下水減少の影響が出る恐れがある場合は、市が井戸利用者と取水規制を協議することなどを市に提言しています。

②では、雨水浸透ますの設置促進や、冬の田に水を張って染み込ませる〈冬水田んぼ〉、休耕田に水を張る〈休耕田湛水〉、農業用水路の自然護岸化などの具体策を盛り込みました。

③では、地下水利用者から、利用量や財政力に応じて〈協力金〉を集めよう、との結論に至りました。

市は研究委が提出したこの指針に沿って、来年3月に地下水を守り、生かすための条例を市議会に提出し、制定を目指しています。

研究委では、いわゆる行政主導の議論ではなく、出席者が本音で考えをぶつけ合っていたように思います。そして皆、地下水を守るために真剣だったと感じました。

例えば、農業用水路の自然護岸化の議論では、以下のようなやり取りが交わされました。

研究委の委員の一人で、地下水学を専門とする大学教授が提案した、②の地下水涵養の有効策に対して、農業者代表の委員が激しく反発しました。安曇野市は扇状地で水が地下に染み込みやすく、昔の農業用水路は土水路でしたから、川から水を入れても、水路の下流に行くと流れが細り、水が下流まで届かないこともしばしば。ですから、農業者は農業用水の確保に苦労した経験を持ちます。

昭和30年代ごろまで、代かきなどの時期には、夜中に勝手に誰かが自分の田の水の取り入れ口をふさいだりしないよう、徹夜して見張りに出たそうです。朝起きたら横に寝ているはずの奥さんがおらず、お父さんが「あれ、うちの母ちゃんがいない」とびっくりして外に探しに出たら、田んぼの水の取り入れ口の前で横になったまま眠り込んでいた、なんて話もよく聞きました。今でこそ笑い話ですが、当時は水の確保は大変なことだったのですね。

現在のコンクリート三面張りの水路は、そうした歴史を経てできたもの。ですから、農業者を代表して研究委に出ていた委員は、普段は非常に穏やかな方なのですが、このときばかりは声を荒らげて顔を真っ赤にして、「農業の歴史を知らんのか!」と怒りました。

〈冬水田んぼ〉は、実は河川法の定める水利権が絡み、実現は非常に難しいそうです。そうであれば、制度改正を含めて、市役所から県や国に働きかけようと決めました。これなどは、既存の枠組みの中で物事を考える行政関係者だけでは、絶対に到達できない結論です。

③の〈協力金〉の負担方法については、大変揉めました。不景気で企業は1円でもコストカットしたい時代です。また、地下水が豊富な安曇野市には、良質な地下水をじゃんじゃん使えることが前提で成立した産業が少なくありません。

代表例は養魚業者でしょう。卵の孵化(ふか)には、ウィルスの混在がない地下水を24時間汲み上げることが不可欠です。大きな養魚場の中には、ミネラルウオーター工場の数倍の地下水を汲み上げている例もありました。こうした利用者が同じ土俵に乗って、どうやって〈協力金〉を出し合うべきかを話し合いました。侃々諤々(かんかんがくがく)の議論でした。利用量や財政力に応じて、本業に支障を来さない範囲で負担するとの大枠の結論に至りましたが、詳細は決められませんでした。

〈協力金〉をとることで、外国資本による水資源の独占を防ごう、との意見もありました。ですが、国内資本と外国資本を線引きする理論的根拠が乏しいことや、外資が国内資本を装ってきた場合への対処などが詰め切れませんでした。

水は誰のものか

「青い金」というタイトルには、水が黄金にたとえられるほどの価値を持つ時代が近づいている、というメッセージが込められています。

連載では、東日本大震災と東京電力福島第1原発の事故を経て、清浄な水を求める人が殺到し、安曇野市などのミネラルウオーター工場が24時間フル稼働している現実や、外国資本による森林買収を取り上げました。慢性的な水不足に悩む中国や中東諸国が、日本の豊かな水源地を狙っているとの噂も絶えません。また、原発事故後のエネルギー政策の転換を見据え、長野県内の河川や農業用水で小水力発電を試みようとするNPOなどの取り組みを通じて、既存の水行政の枠組みでは水利権制度がネックとなってなかなか物事が進まない現状も伝えました。水の価値は今後、ますます高まっていくと思います。

取材に応じてくれた人は、それぞれの立場から「水は誰のものか」を語ってくれました。「地域共有の財産だ」「石油と同じように、井戸を掘って汲み上げた人のものだ」「人間だけのものではない」などさまざまです。

連載を終えた今年6月まで、取材班の記者はデスクを中心に、数え切れないほどの議論を重ね、「水は誰のものか」を考え続けました。そして、これからの私たちに必要なのは、こんな考え方ではないかと結論づけました。

それは、「水は次世代との共有財産だ」という視点を大切にすることです。

石油資源と異なり、水は海や川から蒸発し、雨となって再び大地に注ぐことで循環します。その理想的な循環のあり方は、長野県のような山岳地方や、海沿いの地域など、地域で異なるはずです。次世代に水資源を受け継ぐため、水を守り、生かす方策の議論を、一日も早く始めるべきです。

(取材:2012年8月27日)

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