機関誌『水の文化』72号
温泉の湯悦

水の文化書誌62
地球温暖化・気候危機・気候崩壊を論じる(下)

古賀 邦雄

古賀河川図書館長
水・河川・湖沼関係文献研究会
古賀 邦雄(こが くにお)

1967年西南学院大学卒業。水資源開発公団(現・独立行政法人水資源機構)に入社。30年間にわたり水・河川・湖沼関係文献を収集。2001年退職し現在、日本河川協会、ふくおかの川と水の会に所属。2008年5月に収集した書籍を所蔵する「古賀河川図書館」を開設。
平成26年公益社団法人日本河川協会の河川功労者表彰を受賞。

地図・絵図・データで見る地球温暖化

地球温暖化は、大干ばつ、熱波襲来、ヒートアイランド現象などのほか、水を育む森林の火災、氷河の減少、海面上昇、暴風雨の襲来、大洪水など、水に関して大きな影響を与えるものである。

カースチン・ダウ/トーマス・ダウニング共著『温暖化の世界地図(第2版)』(丸善出版・2012)では、変化の兆候、変わりつつある気候、気候変化を駆動するもの、想定される結果、変化への対応、国際的な行動及び活動、解決策への約束、気候変化のデータを掲げる。

K・S・シュライバー・文『気温が1度上がると、どうなるの?地球の未来を考える―気候変動のしくみ』(西村書店・2021)は人間の活動によって気温が1℃上がると、生活に不都合が生じてくると唱える。

ダン・フッカー著『地球があぶない!地図で見る気候変動の図鑑』(創元社・2021)は、気候変動の原因を人口の増加、化石燃料を燃やす、農業からの炭素の排出、森林の減少、自動車・飛行機の利用を挙げ、現象は異常気象、北極・南極の氷の減少、海水温の上昇、サンゴ礁の消滅、山火事の増加と記す。これらの気候変動への取り組みについては、太陽・風力の利用、森林の再生、生活の仕方を変える、政治を変えていく、地球にやさしい食事をすることを挙げる。このような活動の変化が地球を救うことにつながってくる。

渡部雅浩著『絵でわかる地球温暖化』(講談社・2018)は、人間活動が起こす気候変化の科学的なしくみがわかるように、気象・気候の基礎知識から最先端研究の課題まで解説する。三冬社編・発行『地球温暖化&エネルギー問題総合統計』(2021)は、世界の年平均気温偏差の経年変化、日本の年平均気温偏差の経年変化、主要先進国温室効果ガス排出量などを記載する。

  • カースチン・ダウ/トーマス・ダウニング共著『温暖化の世界地図(第2版)』

    カースチン・ダウ/トーマス・ダウニング共著『温暖化の世界地図(第2版)』

  • ダン・フッカー著『地球があぶない!地図で見る気候変動の図鑑』

    ダン・フッカー著『地球があぶない!地図で見る気候変動の図鑑』

海の温暖化

海は膨大な熱や物質を蓄え、輸送し大気との間で交換することを通じて、気候の維持と変化に本質的な役割を果たしている。そして海もまた温暖化の影響を受けている。

日本海洋学会編『海の温暖化―変わりゆく海と人間活動の影響』(朝倉書店・2017)では、人類が産業活動によって排出した二酸化炭素の一部が海に溜まることで、海水の酸性化が地球規模で進んでいると記す。酸性化によって、甲殻類や貝などの生物が育たなくなってくる。海洋酸性化によって海の生物多様性は低くなり、海の生態系がもつさまざまな価値や機能が下がる。北極海では、温暖化による海氷融解や水温上昇によって植物プランクトンの一次生産や物質循環が変化しており、その影響は地球規模に及ぶことになる。

エリザベス・ラッシュ著『海がやってくる』(河出書房新社・2021)は、温暖化による海面上昇をもたらした崩壊の風景を描く。野崎義行著『地球温暖化と海―炭素の循環から探る』(東京大学出版会・1994)もある。

EUは世界の海洋環境保護をリードする。佐藤智恵著『EU海洋環境法』(信山社・2021)によると、EUの環境政策は、発生源において除かれるべきこと、汚染者が負担すべきであること、という原則を基礎としている。エネルギーとして洋上風力発電にかかわる海洋環境保護の必要性を説く。大塚直編『環境法研究 第13号』(信山社・2021)は、気候変動の適応に関するEU、アメリカ、イギリス、中国の各国の法制とESG投資と循環型社会という2つのテーマを取り上げている。

ノルウェーのエネルギー開発大手企業が、北海道檜山管内沖などの4海域で、国内最大級風力発電所計400万キロワットの洋上風力発電所を建設する計画が進んでいる。

日本海洋学会編『海の温暖化―変わりゆく海と人間活動の影響』

日本海洋学会編『海の温暖化―変わりゆく海と人間活動の影響』

異常気象と温暖化

地球温暖化に伴って、気候変動から急激な異常気象を起こしている。それはスーパー台風、豪雪、ゲリラ豪雨、線状降水帯の発生や猛暑だ。気候変動による水害研究会著『水害列島日本の挑戦』(日経BP・2020)は、西日本豪雨、東日本台風、令和2年7月豪雨を捉える。

河宮未知生監修『異常気象と温暖化がわかる―どうなる?気候変動による未来』(技術評論社・2016)は、地球クライシス異常気象の猛威が世界を襲うとして、2015年(平成27)台風13号が台湾や中国に大被害を及ぼし、同年インドでは連日40℃を超える猛暑日が続き、熱波が道路のペンキをも溶かした。同年オーストラリアでは大干ばつで農地が干上がった。このような状況から未来の地球を取り戻す緩和策として、大気中の温室効果ガスを減らすこと、省エネルギー対策と再生可能エネルギーの普及拡大を図る必要があり、また新しい気候に合わせること、すなわち農作物や木材、水産物、家畜などを、温暖化した地球でも育つように品種改良することを挙げている。

異常気象に関する書として、森 朗著『異常気象はなぜ増えたのか―ゼロからわかる天気のしくみ』(祥伝社新書・2017)。川瀬宏明著『極端豪雨はなぜ毎年のように発生するのか』(化学同人・2021)。日本気象協会編『トコトンやさしい異常気象の本』(日刊工業新聞社・2017)。ゴムドリco.文『異常気象のサバイバル1』(朝日新聞出版・2010)、同『異常気象のサバイバル2』(朝日新聞出版・2010)がある。

河宮未知生監修『異常気象と温暖化がわかる―どうなる?気候変動による未来』

河宮未知生監修『異常気象と温暖化がわかる―どうなる?気候変動による未来』

食糧の安全保障

穀物、豆類、野菜、果樹などの作物栽培、牛や豚や鶏などの畜産といった食糧生産の営みも、気候・気象を含む環境条件に依存している。大気中の二酸化炭素濃度の増加と気候変動は、栽培適地の変化、収穫の変化、家畜の成長など、日本においても農業に影響を及ぼすようになってきた。

2020年(令和2)時点、日本の自給率はカロリーベースにおいて37%に落ち込んでおり、これは主要先進国のなかでも最低の水準である。わが国の食糧安全保障は、地球温暖化に伴いさらに憂慮される。

行友 弥編『気候変動下の食料安全保障』(農政ジャーナリストの会・2020)、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構編『地球温暖化と日本の農業―気温上昇によって私たちの食べ物が変わる!?』(成山堂書店・2020)は、地球温暖化が進むと暖かい地方の特産品が北国でとれることにもなり、水稲では高温耐性品種、適期植え付け、深耕の技術が考えられるという。農山漁村文化協会編・発行『どう考える?「みどりの食料システム戦略」』(2021)も挙げておく。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構編『地球温暖化と日本の農業―気温上昇によって私たちの食べ物が変わる!?』

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構編
『地球温暖化と日本の農業―気温上昇によって私たちの食べ物が変わる!?』

気候温暖化への対応策

アメリカの環境法をリードしてきたカリフォルニア州の取り組みについて、辻雄一郎ほか編著『アメリカ気候変動法と政策』(勁草書房・2021)は、カリフォルニア州における気候変動防止政策の制度的条件、アメリカの環境アセスメントにおける気候変動影響評価、カリフォルニア州のゼロカーボン電源100%政策―日本の再生可能エネルギー政策への示唆を求めて、気候正義と訴訟、アメリカ気候変動訴訟の意義と市民・自治体の役割を論じる。日本にとっては有意義な提案である。

炭素税については、吉田文和・池田元美編著『持続可能な低炭素社会』(北海道大学出版会・2009)、ウィリアム・ノードハウス著『気候カジノ―経済学から見た地球温暖化問題の最適解』(日経BP社・2015)、巽 直樹著『カーボンニュートラル―もうひとつの“新しい日常”への挑戦』(日本経済新聞出版・2021)がある。

ナオミ・クライン著『地球が燃えている』(大月書店・2020)は、気候崩壊から人類を救うために、ニューディールの提言を行なう。平田仁子著『気候変動と政治―気候政策統合の到達点と課題』(成文堂・2021)は、地球温暖化の解決策に政治力の大切さを探究する。

ポール・ホーケン編著『ドローダウン―地球温暖化を逆転させる100の方法』(山と渓谷社・2021)では、気候変動の解決策を集め、包括的なリストを作成し、排出の削減・大気中の炭素を隔離する方法を分析する。環境保全型農業、微生物農業、水素・ホウ素核融合・二酸化炭素の直接空気回収を論じる。マイケル・ブルームバーグ/カール・ポープ共著『HOPE―都市・企業・市民による気候変動総力戦』(ダイヤモンド社・2018)がある。

平田仁子著『気候変動と政治―気候政策統合の到達点と課題』

平田仁子著『気候変動と政治―気候政策統合の到達点と課題』

気候変動に立ち向かう世界の子どもたち

アクシャート・ラーティ著『気候変動に立ちむかう子どもたち―世界の若者60人の作文集』(太田出版・2021)では、政治家たちは権力やお金じゃなくて市民の命を優先するべきだよ、と訴える。国際環境NGO FoE Japan編『気候変動から世界をまもる30の方法』(合同出版・2021)、高橋真樹著『こども気候変動アクション30』(かもがわ出版・2022)がある。マレーナ・エルンマンほか著『グレタたったひとりのストライキ』(海と月社・2019)、ヴィヴィアナ・マッツァ著『グレタ・トゥーンベリ』(金の星社・2020)の環境活動家の書がある。

最後に、辻 信一監修『ハチドリのひとしずく―いま、私にできること』(光文社・2005)を掲げる。この書は、森の火事に対してたった一羽、水のしずくを落としつづけるハチドリを見て、森の動物たちはそんなことをして何になるかと笑う。ハチドリは私にできることをしているだけと答える。このハチドリの物語は、南アメリカの先住民に伝わる話である。

地球温暖化の解決には、世界中の一人ひとりが自身にできることを行なうことに尽きるように思われてならない。地球温暖化は水問題と密接に結びつく課題でもある。1冊でもよいから読んでもらいたい。

〈CO2出さない国が水没し出しているのに自覚なき国〉(熊本直弘)

  • アクシャート・ラーティ著『気候変動に立ちむかう子どもたち―世界の若者60人の作文集』

    アクシャート・ラーティ著『気候変動に立ちむかう子どもたち―世界の若者60人の作文集』

  • 辻 信一監修『ハチドリのひとしずく―いま、私にできること』

    辻 信一監修『ハチドリのひとしずく―いま、私にできること』

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