機関誌『水の文化』70号
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龍と亀

かつて白川で使われていた「石刎(いしはね)」。亀の甲羅のように石を積み上げ、水の勢いを弱めて川岸を守る。加藤清正が治水工事でよく用いた工法とされる

かつて白川で使われていた「石刎(いしはね)」。亀の甲羅のように石を積み上げ、水の勢いを弱めて川岸を守る。
加藤清正が治水工事でよく用いた工法とされる

島谷 幸宏

島谷 幸宏(しまたに ゆきひろ)

1955年山口県生まれ。熊本県立大学共通教育センター特別教授。専門は河川工学、河川環境。住民参加の川づくりや多自然型川づくりに取り組む。熊本県「緑の流域治水アドバイザー」も務める。著書に『河川環境の保全と復元―多自然型川づくりの実際』(鹿島出版会)などがある。

 

もうかなり前になりますが、老荘思想などがご専門の蜂屋邦夫先生と龍と亀を題材に河川技術の思想について対談したことがあります(注)。近年の気候変動による洪水の頻発を見ていると、龍と亀の思想、特に亀の思想が重要になりつつあるのを感じます。

蜂屋先生は龍に代表される河川技術を「疎の技術」と呼びました。用水路のことを疎水と呼ぶように、水を通すこと、すなわち速やかに水を排出させる技術です。この技術は明治時代以降の日本の河川技術の主流となり、すべての場所の水を速やかに排出し、集めて河川で処理する技術です。

一方、亀は盛り上がった形状をしており、ゆっくりしています。すなわち、亀技術とは水を塞ぎ、溜め、ゆっくりと水を流す技術であると言えます。近世までは、日本には水を速く流す技術とゆっくりと流す技術の両者がありそれらが組み合わされていました。大きな岩に水をぶつけて水の勢いを削ぐ、川底に亀のような大きな石を置いて流れを遅くする、霞堤(かすみてい)などにより水田に洪水を導き貯水するなど亀技術がたくさん見られました。

気候変動により、広範囲で豪雨が降ると、龍の技術のみでは、川に水が集まりすぎて処理できなくなっています。流域全体への治水へと、国も大きく舵を切りましたが、この流域治水を行なうためには亀技術のことを十分に理解することが重要であると考えています。

(注)
詳細は第6回里川文化塾「龍と亀 日本の治水術と中国の治水史」開催レポート参照。
https://www.mizu.gr.jp/bunkajuku/houkoku/006_20120621_ryutokame1.html

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