機関誌『水の文化』69号
Z世代の水意識

ひとしずく
ひとしずく(巻頭エッセイ)

未曾有の大震災の狭間で

地域の学校や市民団体、企業などと連携して子どもたちに水辺体験や環境学習の機会を提供するNPO法人 とどろき水辺(写真は2013年7月の活動)

地域の学校や市民団体、企業などと連携して子どもたちに水辺体験や環境学習の機会を提供するNPO法人 とどろき水辺
(写真は2013年7月の活動)

ひとしずく

市民社会創造ファンド 理事長
山岡 義典(やまおか よしのり)

1941年旧満州国生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。同大学院数物系研究科にて都市計画学を専攻。都市計画の実務に従事したのち、トヨタ財団プログラム・オフィサーに着任し市民活動への助成の基礎をつくる。1992年からフリーのコンサルタントとしてNPO・市民活動に関する調査研究や政策立案にかかわる。1996年11月、多くの関係者と協力して日本NPOセンターを設立。2001年4月、法政大学現代福祉学部教授に就任。2002年4月、市民社会創造ファンドを設立。

マーケティングの世界では、Z世代が注目されている。1990年代中ごろから2010年初頭に生まれたデジタル・ネイティブの人たちだ。今の年齢ではおおむね10代から20代半ばまで。身近なイメージでは「今夏の東京オリンピックで活躍した世代」と考えれば視覚的にも理解しやすい。社会史的に見ると「団塊世代(1947~1949年生まれ)の孫世代」となるが、三世になると年齢幅も広がり、塊は平準化する。だからその特徴は見えにくい。

私にとって一番ピンとくるのは、阪神・淡路大震災(1995.1.17)と東日本大震災(2011.3.11)という「未曾有の大震災の狭間に生まれた世代」という位置づけだ。阪神・淡路大震災の記憶をもつ人はいないだろうが、東日本大震災については半数がなんらかの記憶をもっているはず。中には自ら被災した人や身近な人を失った人もいるだろう。同じZ世代でも、大震災への思いや意味は、年代や体験によってもかなり異なってくるに違いない。

この「大震災の狭間」という時期は、その後の日本社会を支える2つの非営利法人制度が確立した時代としても大きな意味がある。法人制度とは、組織が「法律」によって「人間」と同じような契約主体になれるしくみのこと。組織的な活動を持続して行なうには、重要な意味がある。その法人の代表例が株式会社だ。これは株主に配当するために利益をあげないといけないから、営利目的の法人という。

「大震災の狭間」に成立したのは、配当をしない非営利目的の法人だ。これには明治時代以来の公益法人(社団法人と財団法人)があったが、政府から独立した民間の自由な活動には限界があった。

そこで、自由な民間活動を保証する新たな非営利法人制度が必要になる。そのしくみを実現しようと1990年ごろから立法運動が起こり、1995年の阪神・淡路大震災におけるボランティアの活躍を背景に、1998年にはNPO法(特定非営利活動促進法)が成立、施行された。Z世代の多くは未だ生まれていないが、NPO(Nonprofit Organization)に携わる仲間にとっては重要なマイル・ストーンだった。小さな市民団体でも簡便な手続きでNPO法人(特定非営利活動法人)になることができる。今、5万以上のNPO法人が日本各地でさまざまな自主活動に取り組んでいる。「水」のキーワードで検索したら、途上国の飲料水確保を支援するウォーターエイドジャパンなど2800件余りが検出された。

NPO法施行からちょうど10年目の2008年には、110年続いた公益法人制度そのものが抜本的に改革、施行され、登記のみで設立できる一般法人が誕生した。必要なら審査機関を通じて公益法人になることができる。一般法人新設の動きは目覚ましく、2011年の東日本大震災でも一般法人が大活躍した。今では10年先輩のNPO法人を追い抜き、6万以上も誕生している。運営のしくみはNPO法人に比べて難しいので、どちらを選択するかは、人それぞれ、組織それぞれとなる。

この2つの非営利法人制度の意味は大きい。行政でもなく企業でもなく、民間の営利を目的としない活動を後押しする。Z世代はそのために用意された行動力ある世代だと信じている。

何かおかしいと問題を感じたら、工夫を凝らして社会的課題の解決に取り組むもよし。何か楽しいことを思いついたら、仲間に呼びかけて自由な発想で社会的価値の創造に取り組むもよし。その時こそ、得意のデジタル・スキルを駆使し、いずれかの法人制度をうまく活用して社会的なムーブメントをつくり出してほしい。

同時代に生まれた2つの非営利法人制度のことを、これからの長い人生を生きるためにも、ぜひ覚えておいてほしい。

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