機関誌『水の文化』69号
Z世代の水意識

水の文化書誌59
プラスチック・ごみ問題を考える

現代のわれわれは、大量生産・大量消費・大量廃棄社会のなかで、日常生活を過ごしている。生活上、必ずスーパーやコンビニで肉や魚、豆腐などの食品を購入するが、使用済み包装紙、トレイ、ジュースの容器プラスチックなどは使用済みとなればごみとして処分するのが一般的であるが、気候変動にもかかわってくる。環境に負荷を及ぼすごみについて追ってみたい。

古賀 邦雄

古賀河川図書館長
水・河川・湖沼関係文献研究会
古賀 邦雄(こが くにお)

1967年西南学院大学卒業。水資源開発公団(現・独立行政法人水資源機構)に入社。30年間にわたり水・河川・湖沼関係文献を収集。2001年退職し現在、日本河川協会、ふくおかの川と水の会に所属。2008年5月に収集した書籍を所蔵する「古賀河川図書館」を開設。
平成26年公益社団法人日本河川協会の河川功労者表彰を受賞。

ごみ収集業務

坂田裕輔著『改訂版 ごみの環境経済学』(晃洋書房・2009)によれば、ごみは、グローバル化する社会において、生産されたさまざまな財の終着点であるという。消費する財をエネルギーに変えて考えれば、膨大な化石燃料を燃やしつづけることによって発生するといわれる気候変動問題につながってくる。また、貧困についていえば、大量廃棄される食料の問題がある。食料の大部分が輸入されているから世界の飢餓、貧困の問題となっている。

田中勝・寄本勝美他編『ごみハンドブック』(丸善・2008)は、ごみ問題を総合的に捉えている。その内容は、廃棄物の発生、廃棄物の分類、廃棄物の処理、分別、収集・運搬、焼却、埋め立て、廃棄物計画、市民参加、廃棄物処理における法体系となっている。

実際に研究者が新宿東清掃センターにて、清掃車に乗った9カ月間の清掃現場体験の記録が生々しく綴られている書がある。

藤井誠一郎著『ごみ収集という仕事』(コモンズ・2018)では、2016年6月13日、7時40分ミーティング、7時50分マンションに設置されたごみ集積場で、大量のごみが入った大きなビニール袋を小型プレス車の回転盤に細心の注意を払いながら入れる。手が巻き込まれると取り返しがつかない事故となる。独特な匂いがしてくる。次の集積場は車には乗らず、小走りで移動する。雨が降りしきるなか次から次へと集積場を移動する。大量のごみに圧倒される。天候不順の雨、雪、夏の炎天下での業務は大変である。

ごみ問題について、広瀬立成著『物理学者はごみをこう見る』(自治体研究社・2011)、松藤敏彦著『科学的に見るSDGs時代のごみ問題』(丸善出版・2019)、ゴムドリco.・文/韓賢東・絵『漫画 ゴミの島のサバイバル』(朝日新聞出版・2020)を挙げる。

  • 改訂版 ごみの環境経済学』

    坂田裕輔著『改訂版 ごみの環境経済学』

  • 藤井誠一郎著『ごみ収集という仕事』

    藤井誠一郎著『ごみ収集という仕事』

ごみ減量の挑戦

日常生活においては、可燃ごみ、不燃ごみ、家具や自転車などの粗大ごみが生じてくる。

服部美佐子著『ごみ減量―全国自治体の挑戦』(丸善・2011)によれば、東京都多摩市では2008年に有料指定袋によるごみ収集とプラスチック製容器包装の分別収集が始まった。有料指定袋の売り上げを原資にして集団回収の補助金を引き上げた。大型マンションに奨励金を支給。市民はトレイ、紙パックなどを店頭に返却すればごみ袋が節約できる。ごみを減らせば得をするという発想である。買い物ついでに資源を持ち込むリサイクルステーションを設置した愛知県豊田市、生ごみの堆肥化からリユース瓶まで取り組む「環境モデル都市熊本県水俣市」、40%の世帯まで浸透した生ごみリサイクルの香川県善通寺市は、減量に取り組む。

山谷修作著『ごみゼロへの挑戦』(丸善出版・2016)、同著『ごみ効率化―有料化とごみ処理経費削減』(丸善出版・2014)。同著『ごみ減量政策―自治体ごみ減量手法のフロンティア』(丸善出版・2020)によれば、ごみ収集システムの見直しとして、高齢化が進むなかでごみ出しの負担を軽減できる戸別収集も考えられるという。武本かや著『ゴミは会社を救う!』(カナリアコミュニケーションズ・2016)は環境と会社によいことをして儲かる会社をつくる方法を教える。

服部美佐子著『ごみ減量―全国自治体の挑戦』

服部美佐子著『ごみ減量―全国自治体の挑戦』

プラスチックごみ

インフォビジュアル研究所著『14歳からのプラスチックと環境問題』(太田出版・2019)によれば、2015年までにつくられたプラスチックは世界で83億トン。その大半がごみとして埋め立てられ、焼却され、わずかにリサイクルされているが、天然素材と違って土に還らないことから自然環境の悪化を招いている。プラスチックは、川から1億5000万トンが海へ流れ込み、そしてプラスチック容器年間800万トンが新たに海に入り、海を汚染しつづけている。時間が経つにつれ劣化し、マイクロプラスチックという小さな粒に姿を変え、クジラ、ウミガメなどの海洋生物に悪影響を及ぼしている。

栗岡理子著『プラスチックごみ問題入門』(緑風出版・2021)では、誤食によりサンマの腹からプラスチックが出てくる。利便性のためストローや口紅やリップクリームにも使用されている。デポジット制度を設け、脱プラ生活として3R(リデュース、リユース、リサイクル)を強く提言する。

古澤礼太・宗宮弘明編『プラスチック社会を考える』(中部大学・2020)で那須民江はプラスチックの長所と短所について語っている。長所として、食品貯蔵寿命の延長、重量軽減による輸送燃料の削減により容器包装品が大量に使用されるようになった。短所として、石油消費においてプラスチックに占める割合が増加し、その生産は地球温暖化とかかわり、さらに海洋プラスチック汚染にもつながる。

レイチェル・サルト著『脱プラスチック データで見る課題と解決策』(日経ナショナルジオグラフィック社・2021)の内容は、プラスチックの科学、自然破壊、ストローはいりません、リユースとリサイクル、大量生産/消費への決別、汚染のない未来へ、となっている。そのなかで気にかかるのが、プラスチックは気候変動をもたらす二酸化炭素(CO2をライフサイクルのあらゆるポイントで排出している点。2015年だけでも製造と廃棄によってCO2が17億トン出ているという。地球温暖化の要因となっている。

高田秀重監修『プラスチックの現実と未来へのアイデア』(東京書籍・2019)、ナタリー・ゴンタール、エレーヌ・サンジエ共著『プラスチックと歩む―その誕生から持続可能な世界を目指すまで』(原書房・2021)、シャンタル・プラモンドン、ジェイ・シンハ共著『プラスチック・フリー生活』(NHK出版・2019)を掲げる。

  • インフォビジュアル研究所著『14歳からのプラスチックと環境問題』

    インフォビジュアル研究所著『14歳からのプラスチックと環境問題』

  • 栗岡理子著『プラスチックごみ問題入門』

    栗岡理子著『プラスチックごみ問題入門』

  • レイチェル・サルト著『脱プラスチック データで見る課題と解決策』

    レイチェル・サルト著『脱プラスチック データで見る課題と解決策』

海洋プラスチックごみ汚染

磯辺篤彦著『海洋プラスチックごみ問題の真実』(化学同人・2020)は、十数年間にわたって、小笠原諸島、五島列島、石垣島、佐渡島などにおける海洋漂着ごみ(ボトルのキャップ、ロープ、ペットボトル、食品容器、ブイ、ポリ袋)を根気よく調査研究した成果を綴る。プラスチックごみの何が問題かと問う。まず景観汚染、ウミガメ・海鳥の誤食、プラスチックごみが絡まったアザラシやオットセイの死、汚れたプラスチックに付着した添加物が溶けてくること。安くて大量に捨てられ、軽くて、世界中の海を汚染する。使い捨てのプラスチックの削減の取り組みとして、レジ袋の無償配布の禁止、発泡スチロール製の食器、プラスチック製のカップやストローの使用禁止が進んでいる。

中嶋亮太著『海洋プラスチック汚染』(岩波書店・2019)は、プラスチックを減らすには排出量をコントロールして管理を徹底すること、発生を最小限にして削減・再使用し、リサイクルを図ることと提言する。グンター・パウリ、マルコ・シメオーニ共著『海と地域を蘇らせるプラスチック「革命」』(日経BP・2020)は、ごみの解決策として廃棄するごみを活用する。ごみに価値を与え、プラスチック汚染を終わらせる。自然界の海藻の活用を提案する。重化学工業通信社・石油化学新報編集部編『海洋プラごみ問題解決の道』(重化学工業通信社・2019)、堅達京子+NHK BS1スペシャル取材班著『脱プラスチックへの挑戦』(山と渓谷社・2020)がある。

磯辺篤彦著『海洋プラスチックごみ問題の真実』

磯辺篤彦著『海洋プラスチックごみ問題の真実』

廃棄物処理における法体系

環境政策の基本理念として「環境基本法」(1993)が制定され、さらに循環型社会の形成に向けて「循環型社会形成推進基本法」(2000)が成立した。循環型社会の姿を、①廃棄物等の発生抑制、②循環資源の循環的な利用、③適正処分の確保として規定する。堀口昌澄著『廃棄物処理法虎の巻 2017年改訂版』(日経BP・2017)は、廃棄物の処理および清掃に関する法律であって、排出事業者の事務担当者には必携の書である。同著『廃棄物処理法のあるべき姿を考える』(環境新聞社・2012)。1991年の資源有効利用促進法制定により、再生資源のリサイクル、分別回収のための表示、副産物の有効利用が促進された。小賀野晶一代表編『リサイクルの法と実例』(三協法規出版・2019)、信山社編集部編『容器包装リサイクル法』(信山社・2020)を掲げる。

以上、プラスチック・ごみ問題は気候変動にもかかわってくる。スウェーデン人の環境活動家、グレタ・トゥーンベリは「動物の絶滅や森林伐採、海洋の汚染と酸性化、これらはすべてわたしたちの生活スタイルがもたらした災いです。災いの生活すべてをSTOPしよう」と警鐘を鳴らす。

堀口昌澄著『廃棄物処理法虎の巻 2017年改訂版』

堀口昌澄著『廃棄物処理法虎の巻 2017年改訂版』

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