機関誌『水の文化』71号
南西諸島 水紀行

水の文化書誌61
地球温暖化・気候危機・気候崩壊を論じる(上)

古賀 邦雄

古賀河川図書館長
水・河川・湖沼関係文献研究会
古賀 邦雄(こが くにお)

1967年西南学院大学卒業。水資源開発公団(現・独立行政法人水資源機構)に入社。30年間にわたり水・河川・湖沼関係文献を収集。2001年退職し現在、日本河川協会、ふくおかの川と水の会に所属。2008年5月に収集した書籍を所蔵する「古賀河川図書館」を開設。
平成26年公益社団法人日本河川協会の河川功労者表彰を受賞。

水問題と直結する地球温暖化

地球温暖化とは、人間活動を通じて排出される温室効果ガスによって地球が温暖化し、異常気象にかかわる気候の激化や海面上昇が人類や生物にさまざまな深刻な影響を与える地球規模の環境問題である。地球温暖化は水問題とも直結している。

2021年(令和3)、地球温暖化に関して、2つのトピックスが話題を呼んだ。

12月、米国プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さんは、気候変動の予測研究においてコンピュータによる計算で、大気中に二酸化炭素が増えつづけると地表の気温が上昇することを明確に実証した功績で、ノーベル物理学賞を受賞した。さがら邦夫編『地球温暖化は阻止できるか―京都会議検証』(藤原書店・1998)には、真鍋淑郎氏のインタビューが収められている。

同年10月にはイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃以内に抑える努力を追求することが示された。2050年ごろには世界全体の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることが明示され、足並みがそろってきた。地球温暖化について追ってみたい。

不都合な真実

私が地球温暖化の問題を意識しはじめたのは、アル・ゴア著『不都合な真実―地球温暖化の危機』(ランダムハウス講談社・2007)の書と映画上映によってである。アル・ゴアは指摘する。今、私たちが直面している問題とは、人間が膨大な量の二酸化炭素やその他の温室効果ガスを排出していることから、この大気の薄い層がだんだん厚くなり、厚くなるにつれ本来ならば大気を抜けて宇宙へ出ていくはずの赤外線放射の多くを逃さなくなる。その結果、地球の大気や海洋の温度は危険なほど上昇しつつあり、世界的に自然災害が起こっている。このことを気候危機、気候崩壊という。

二酸化炭素は温室効果ガス排出量全体の約80%を占める。家庭や自動車、工場などで石油・石炭・天然ガスの化石燃料を利用することによって、また、森林の伐採やセメントを製造したりすると、大気中に二酸化炭素が排出される。産業革命前、二酸化炭素濃度は約280ppmだったのが、2005年(平成17)では二酸化炭素濃度は381ppmになっていた。

その結果、1970年代に比べてキリマンジャロの雪と氷河が激減。1997年(平成9)米国グレイシャー氷河が減少、2001年(平成13)スイス・チェルバ氷河の減少などを映し出す。海水温が上がると暴風雨の勢力が強まる。2004年(平成16)フロリダは4つのハリケーンに襲われる。2005年(平成17)夏、ハリケーンがカリブ海とメキシコ湾を襲った。さらに世界的に大洪水や山火事の災害も増加した。

アル・ゴアは前作の10年後に『不都合な真実2』(実業之日本社・2017)を発表した。彼は、地球温暖化を防ぐために多くの国々を訪れ同志を募り、活動を続けた。化石燃料業界からの「人々を混乱させ現実的ではない」との主張に対してもめげずに、破局的な災害を防ぐために私たちは変わらなくてはならない、私たちは変わることができる、私たちは変わるという信念を貫いた。

地球のことを考えながら食物のことも考えている。食物の栽培、加工、輸送、廃棄にかかわる電力、輸送、農業分野からの排出量も大きな役割を占める。肉を食べる量を減らし、地元産を買うよう、買い物や外食をするときも、農業とその副産物を考えるべきである。さらに土地開発に伴う森林伐採につながらない食べ物を買うことが必要だと指摘する。

アル・ゴア著『不都合な真実―地球温暖化の危機』

アル・ゴア著『不都合な真実―地球温暖化の危機』

地球温暖化の探究

地球温暖化をどう捉えたらいいのだろうか。独立行政法人(現・国立研究開発法人) 国立環境研究所地球環境研究センター編著『地球温暖化の事典』(丸善出版・2014)は、地球温暖化に関する基本的かつ重要な事項をできるだけ網羅的に系統立てて解説する。

①気候変化の将来予測、②温室効果ガス(二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素・ハロカーボン・エアロゾル)、③地球システム(気象と気候・大気圏・水圏・地球の熱収支・大気海洋大循環、モンスーン)、④気候変化の予測と解析(社会経済・排出システム・大気海洋結合気候モデル・地球システムモデル・予測される気温変化)、⑤地球表層環境の温暖化影響(水循環・海面上昇・海洋酸性化・極端現象)、⑥生物圏の温暖化影響(温暖化と生物多様性・温暖化と外来生物・海洋生物)、⑦人間社会の温暖化影響と適応(水資源・利用・農業・水産業・健康障害)、⑧緩和策(需要と供給対策・非CO2・森林減少の防止・中長期温暖化対策)、⑨条約・法律・インベントリ(気候変動枠組条約・条約国会議・地球温暖化対策の推進に関する法律・排出源・吸収源・排出主体の排出量)、⑩持続可能な社会に向けて(持続可能な発展の取り組み・低炭素社会と循環型社会・生物多様性と社会)という内容となっている。

日本気象学会地球環境問題委員会編『地球温暖化―そのメカニズムと不確実性』(朝倉書店・2014)の内容は、①問題の背景と本書の目的、②地球温暖化に関する観測事実、③温室効果と放射強制力、④産業革命以降の気候変動の検出と要因分析、⑤気候の予測とその不確実性、⑥気温・降水・大気大循環の変化、⑦日本周辺の気候の変化、⑧温暖化で起こる地球表層の変化、⑨海面水位上昇、⑩長い時間スケールの気候変化、となっている。地球温暖化が顕在化しはじめた今日、そのなかで暮らすわれわれが現象を正しく理解するための書である。

鬼頭昭雄著『異常気象と地球温暖化―未来に何が待っているか』(岩波新書・2015)は、人類が経験したことがないような暖かい世界に向かって進んでいると説く。温暖化は徐々に起こる災害で、手遅れにならない対策をとる必要性を強調する。小西雅子著『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』(岩波書店・2021)では、エネルギーの働きは仕事する力(ものを動かす力)のことで、熱を出す、光を出す、動かすことであって、この過程で多くの化石燃料を利用することによって二酸化炭素を排出する。すべてのエネルギーの長所と短所をあぶりだし、経済的に安全性を持った、ベストミックスエネルギーを考える。また、同著『地球温暖化は解決できるのか―パリ協定から未来へ!』(岩波ジュニア新書・2016)もある。

スティーブン・H・シュナイダー著『地球温暖化の時代―気候変化の予測と対策』(ダイヤモンド社・1990)は、この書が発行されて30年を経ているが、温室効果のメカニズムを解明し、それが地球の気候と社会に及ぼす影響を検証し、そして直ちに着手すべき温暖化対策を論じる。1990年代以降は温暖化問題をめぐって国際政治や経済が動くことになるだろうと指摘していたが、まさしく今日2020年代は世界的にそのような動きになってきた。

そのほか、矢沢 潔著『地球温暖化は本当か?―宇宙から眺めたちょっと先の地球予測』(技術評論社・2007)、田中 優著『地球温暖化―電気の話と、私たちにできること』(扶桑社新書・2021)、宇佐美 誠著『気候崩壊―次世代とともに考える』(岩波書店・2021)がある。

  • 独立行政法人(現・国立研究開発法人) 国立環境研究所地球環境研究センター編著『地球温暖化の事典』

    独立行政法人(現・国立研究開発法人) 国立環境研究所地球環境研究センター編著
    『地球温暖化の事典』

  • 日本気象学会地球環境問題委員会編『地球温暖化―そのメカニズムと不確実性』

    日本気象学会地球環境問題委員会編『地球温暖化―そのメカニズムと不確実性』

  • 小西雅子著『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』

    小西雅子著『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』

  • スティーブン・H・シュナイダー著『地球温暖化の時代―気候変化の予測と対策』

    スティーブン・H・シュナイダー著『地球温暖化の時代―気候変化の予測と対策』

地球温暖化がもたらす水災害の激甚化

地球温暖化の影響と思われる、さまざまな異常気象災害が起こっている。船瀬俊介著『温暖化の衝撃』(三一書房・1997)では、食糧パニック、大干ばつ、熱波襲来、ヒートアイランド、森林火災、北極・南極氷河の減少、海面上昇、生物の異変、暴風雨の襲来、大洪水、大寒波、猛吹雪、冷夏について、きめ細やかに追っている。

マッティン・ヘードベリ著『世界の天変地異』(日経ナショナルジオグラフィック社・2021)によると、2005年(平成17)米国フロリダ州をハリケーン「カトリーナ」が、2013年(平成25)米国オクラホマ州を「ムーア竜巻」が、2017年(平成29)パキスタンを熱波が襲った。2018年から2019年にかけてオーストラリアを大洪水が襲った。

デイビッド・ウォレス・ウェルズ著『地球に住めなくなる日』(NHK出版・2020)では、日本を含むアジアの大部分が居住不可能になる、4℃上昇で北極圏にヤシの木が生える、2050年までに気候難民が10億人となるなど気候崩壊の戦慄の未来を予想する。ゲルノット・ワグナー/マーティン・ワイツマン共著『気候変動クライシス』(東洋経済新報社・2016)は、文明と環境の破壊にどう向き合うかを経済学者が追究する。また、気候変動で激変する地球を描くクリスティーナ・コンクリン/マリーナ・プサロス共著『地図から消える土地』(扶桑社・2022)は、海面が上昇し、海水が酸性化し、河口地帯は洪水に見舞われ、多様な生物が絶滅するという。

タイム誌編集部編『地球温暖化』(緑書房・2009)は、TIME誌の写真でわかる地球温暖化問題とその解決法を論じる。食糧のトウモロコシを燃料にする。電球を電球形蛍光灯に変える。照明にLED、すなわち発光ダイオードを使用する。地熱を利用する。社員の通勤時間を短縮する。バスに乗る。オンライン決済にする。窓を開ける。グリーン電力を買う。肉食を減らす。マイバッグを使用する。地元の農家をサポートする。樹・竹を植える。ネクタイを外す。コンピュータの電源を切る。終業時間には明かりを消す。消費を減らし、分かち合い、無駄なく暮らす。これらのことは、日常の生活のなかで可能なことである。田中 充・馬場健司編著『気候変動適応に向けた地域政策と社会実装』(技報堂出版・2021)では、地方自治体の政策を追究する。

  • デイビッド・ウォレス・ウェルズ著『地球に住めなくなる日』

    デイビッド・ウォレス・ウェルズ著『地球に住めなくなる日』

  • クリスティーナ・コンクリン/マリーナ・プサロス共著『地図から消える土地』

    クリスティーナ・コンクリン/マリーナ・プサロス共著『地図から消える土地』

  • 田中 充・馬場健司編著『気候変動適応に向けた地域政策と社会実装』

    田中 充・馬場健司編著『気候変動適応に向けた地域政策と社会実装』

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