機関誌『水の文化』72号
温泉の湯悦

水の余話
水は社会を映す鏡である

豊かな地下水を汲み上げ、いつでも誰でも飲めるようにしてある公共の井戸。水が平等に配られる国はあまりない

豊かな地下水を汲み上げ、いつでも誰でも飲めるようにしてある公共の井戸。水が平等に配られる国はあまりない

滝沢 智

滝沢 智(たきざわ さとし)

東京大学大学院工学系研究科 教授。1983年東京大学工学部都市工学科卒、同大大学院博士課程修了。長岡技術科学大学助手、建設省(当時)土木研究所主任研究員、東京大学工学部助教授、アジア工科大学助教授(JICA派遣)などを経て2006年から現職。

 
 

きれいな湖の水は、晴れた空や山々を映し出す鏡のように見えますが、もう一つ、世界各国の水利用の状況は、その国の社会経済を映す鏡になっています。

皆さんはタンカーマフィアという言葉を聞いたことはありますか?今日、開発途上国の多くの都市では、十分な水が供給されないため水の奪い合いが生じています。水道事業者が供給できる水量は、都市の水需要のごく一部しか満たすことができず、社会的地位が高い人は24時間給水を受ける一方で、所得や社会階層が低い人々はわずかな時間や水量しか給水されず、水売りに高い料金を払って水を買っています。このような状況のなかで、タンカーマフィアと呼ばれる人は、水道管から違法に水を抜き取って高値で住民に売ることで、水の支配を拡大しています。

日本の水道が世界に誇れる点は、低い漏水(ろうすい)率や高度な水処理技術などいろいろとありますが、もっとも誇れるのは水の平等性です。同じ都市に住む人は、所得や社会的な地位に関係なく水道をいつでも利用可能で、同じ料金表に従って水道料金を支払います。日本人には当たり前のことですが、世界の多くの都市では、この当たり前が実現できていません。反対に、社会経済の不平等の拡大とともに、水の不平等も拡大しています。今後も、世界の多くの都市で人口増加とともに水需要が増大するため、水不足はさらに深刻になります。

水の不平等に対して私たちがまずできることは、水の日や防災の日に近くの給水ステーションで20Lのポリタンクに水を汲んで自宅まで運ぶことです。水を運ぶという行為がいかに大変か、これが毎日続くとしたらどれだけの時間と労力がかかるのかを実感できるのではないかと思います。

水の平等を実現するために、私たちが取り組むべき多くの課題があります。

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