糸島市の小水力発電産官学の取り組み

福岡県糸島市

2011年(平成23)に創立100周年を迎えた九州大学は、福岡県西部の糸島地域〈伊都キャンパス〉に2019年(平成31)の移転完了を目指し、学生・教職員約1万8700人の移転を進めています。糸島市は2010年(平成22)1月1日に前原市、志摩町、二丈町の1市2町が合併して「人も元気 まちも元気 新鮮都市 いとしま」として誕生した新しい市。2012年(平成24)現在の人口は、10万572人、行政面積216.15Km²。福岡市中心部から車で40分程の距離にありながら、海も山もある自然に恵まれた観光地としても人気が集まっています。

そんな糸島市と九州大が地元の白糸行政区とスクラムを組み、地域エネルギーとして小水力発電を行なおうというのが〈白糸の滝1・2・3夢プロジェクト〉です。

産官学の取り組みは各地で見られますが、研究段階で終わってしまっている例が多い中、始動までのスピード感と稼動にこぎ着ける実行力に興味を引かれ、ここに至るノウハウと秘訣に注目しました。

〈白糸の滝1・2・3夢プロジェクト〉とは

 3段階の目標を掲げ、将来的に、白糸行政区が委託管理する〈白糸の滝ふれあいの里〉を小水力発電をメインとする環境エコパークにすること、及び白糸行政区の活性化を図るためのプロジェクト。

ステップ1:1998年(平成10)に観光用施設として建設され、6年前から休止している水車を再生し発電。学生が手づくりした超小型水力発電機〈みどりくん〉を設置し、小水力発電の仕組みを多くの人に知ってもらう。

ステップ2:滝下の落差約30mを活用し、発電機を設置。年間7万kW(電気代140万円)を使用しているふれあいの里の休憩所(レストハウス〈四季の茶屋〉)に電力を供給する。

ステップ3:滝から白糸集落までの落差約100mを活用し、32戸の集落への電力の供給、または売電のための小水力発電施設を設置する。

発電量の目標スペック
発電量の目標スペック

ページの先頭に戻る

コーディネーターの大きな役割

藤本 穣彦

藤本 穣彦 ふじもと ときひこ
九州大学工学研究院環境都市部門学術研究員

新しい〈学〉の在り方を志向する九州大学

 九州大学では2004年(平成16)の法人化以降、大学の研究成果を社会に広く還元しようと、自治体や企業などの学外組織との連携に力を入れてきました。特に移転を進めている伊都キャンパスの地元・糸島市とは、2010年(平成22)5月に「相互の資源を活用し、産業の高度化や新産業の創出、地域課題の解決、教育活動及び診療活動の進展など、地域社会の振興に寄与すること」を目的に〈九州大学と糸島市との連携協力に関する協定〉を締結しました。糸島市側も学研都市推進課を設置し、糸島市は〈糸島市九州大学連携研究助成金制度〉を創設して、共同研究を支援しています。

 近年、我が国の科学技術政策についても、「社会のための科学技術(=Science for Society、社会技術)」という新しい技術概念が提唱されるようになりました。社会の問題解決、地域の課題解決のための科学技術の在り方を示したものです。実験室での研究結果や開発された技術は、社会や地域へ本格的に導入される前に、地域住民との十分な議論や合意形成などといった、人的・社会的条件も含めて、あらゆることを想定した社会実験を行ない検証する必要がある、という考えを前提としています。

〈大学〉〈地方自治体〉〈地域社会(あるいは地域コミュニティ)〉が、社会や地域の抱える具体的な課題を共有し、解決に向けた協働の実践を展開することで、創造的なアイデアや取組みが生まれます。それをきっかけとして主体が形成され、継続的な活動となり、地域社会は持続的に活性化されていきます。そもそも、街が元気でないと良い学生は来ません。良い街であれば、学生が楽しくクリエイティブに過ごせるようになり、良い学生が集まります。大学と地域とは共生関係にあり、共に育つ関係にあります。自然豊かな糸島地域に、九州大学という知の総合拠点があるというのは、地域にとっても大学にとっても財産でもあり、双方がこの恵まれた条件を生かしていこう、という気運が盛り上がりを見せているところです。

課題解決型のアプローチ

 今回の産官学のプロジェクトがうまく進んでいるのは、九州大学大学院工学研究院環境社会部門教授の島谷幸宏先生の考え方や進め方の影響が大きいと思います。島谷先生は、「自分たちの研究は、地元の人たちに喜んでもらったり役立ててもらったりすること。そのために、地域の課題を包括的に解決するやり方を一緒に考えることだ」、と私たち若手の研究者に声をかけています。地域のみなさんの喜びや将来にわたる持続的な幸福の実現に全力を尽くすのが研究者の在り方である、と明確な目的意識を持っています。そこが一般的な研究者と少し違っていることかもしれません。

 ですから私たちは、まず現場に立ち、実践します。一見、時間やコストがかかっているように見えますが、地域の抱える課題をきちんと抽出し、地域との信頼関係を築けなければ何事も進んでいかないわけですから、実際にはそれが一番の近道なんだと気づかされました。

 特に私たちが今回考えている小水力エネルギーの利用について考えてみると、水は、稲作の伝来以来、地域のみなさんがずっと昔から使い続けてきたものです。地域のみなさんによって合意されてきた水利用のルールがあって、それには明文化されているものとそうでないものがあります。私たちは、そのルールに従って、新しいアイデアや新しい利用法を積み上げていかなければならないのです。地域固有のルールを知った上で、地域のみなさんがやりやすいやり方を導入しなくては、我々が新しく何かをやろうとしても前に進めることは難しいでしょう。

 したがって私たちのやり方は、先に技術があって、つまり「こういう良いものができました。利用しませんか」、と地域にもちかけるのではなくて、まずは、地域に入り現場に立つ。そして、地域の水や土地の利用方法とその考え方をよく理解するように心がけます。同時に、その地域の抱える課題やみなさんの懸念や不安を聴き取り、感じ取っていきます。その上で、それらの課題を包括的に解決するにはどうしたらいいかを考えていく、というスタイルを取ります。

抽出された白糸行政区の抱える課題・希望
1 入り込み客の季節変動が大きい(年間14万人のうち、半数は8月に集中)。
2 年間を通じて、一定の電気消費量がある(年間140万円の電気料金)。
3 子どもにとって、学びの場所になってほしい。
4 観光客の滞在時間を長くし、ゆっくり散策してほしい。
5 夏場以外の季節にも訪れてほしい。
6 白糸の滝を流れる水の力を使いたい。

水は地域密着型のエネルギー

 小水力発電導入のためには、次のようなプロセスを念頭に置く必要があります。最初のステップは、「やろう!」という地域の合意形成を出発点に、「どこで、どういうふうにやろうか」と考えていくステップです。ここでは水利権や漁業権など、地域が先行して有する権利との調整や、生き物や景観への環境影響を評価し、発電計画を策定することになります。

 次に、「誰が主体となってやるか」を考える必要があります。適正技術(=適正な価格で、適正な技術を、適正に導入すること)を見分ける目が必要であり、事業主体の形成や資金集めに知恵が絞られることになります。
 小水力発電の場合は、発電機だけとか水車だけをつくっても「製品」にはなりません。水車、発電機、配電盤、制御盤などの全体がパッケージになっていないと安定的に稼動させられないからです。また、つくった電気の利用方法や日常の維持管理の方法まで考えた「パッケージ・システム」として導入しないといけません。

 2012年(平成24)7月に施行された「再生可能エネルギー全量買取制度」の影響もあり、小水力発電についても技術開発が急速に進んでいます。明和製作所さんとの打ち合わせは約1年前の2011年(平成23)8月から始まりましたが、最初は「うちはモーターのメーカーだから。逆に回したら発電するという原理はわかるけど、発電機を製造するとなると簡単ではない」と懸念されていました。しかし、白糸の滝で共同の実践を重ねる中で、前向きに取り組んでもらえることになりました。

 白糸行政区のみなさんも「3〜4年前から白糸の水で発電できないかという議論はずっと出ていたけど、どうやって進めたらいいか、何から進めたらいいかわからなかった」とおっしゃっていました。「水車の再生を行ない、電力を起こしたことで、予想以上に多くの人たちが関心をもっていることに驚くと同時に、是非白糸で進めていきたいという思いを新たにした」、と青木・白糸行政区長は語っておられます。

 なんでもそうですが、始めるときには力がいるんです。小水力発電についても、興味本位でのことだったら「面白そうだからやろう」となるかもしれませんが、企業の事業としてやろうとなると、誰も成功例を見たことがないわけですから半信半疑になるのもわかります。

 白糸の滝での小水力発電の導入ステップに、6年間止まったままとなっていた水車を利用することにしたのは、「水の力で水車を動かして、水車の力で発電機を回す。水の力で電気が生まれるんだ」ということを、目の前で、みんなで実感したいという思いからでした。滝壺の所で取水して水車を回し、今まではそのまま川に水を戻していたんですが、3mぐらいの小さな落差も無駄にしないで発電できることをデモンストレーションできました。

 ステップ1というのは、実はみんながつながるための過程だったんですよ。協議を進めていたとき、「研究室が主体となって計画や構想づくりで終わってはダメ。現場で実際に発電するモノを見せてほしい。それには、九州大学の学生にも積極的に参加してもらえる場をつくるべきだ」、と私たちに言った人がいました。それが、糸島市商工観光部学研都市推進課長だった渡辺孝司さんです。下水道設計コンサルタントを経て、旧・前原町の下水道の専門職員に転職された方で、2010年の新市誕生とともに新設された学研都市推進課を立ち上げ、九州大学と糸島市との連携と交流を担当してきた方です。渡辺さんは、退職後の2012年(平成24)5月より、九州大学の島谷研究室に籍を置き、今でも地元と大学を結ぶ仕事に尽力しています。

〈白糸の滝1・2・3夢プロジェクト〉産官学の関係図
〈白糸の滝1・2・3夢プロジェクト〉産官学の関係図
(図版提供:藤本 穣彦さん)

 渡辺さんの強い意向で、九州大学エネルギーサークルEneQ(エネキュー)のメンバーが加わりました。学生たちへの技術協力として、明和製作所さんや林電気工事さんが協力してくれるようになりました。連携研究で糸島市からいただいた予算を大幅に超えることになりましたが、学生たちの積極的な参加を通じて、新しい連携が拡がり、信頼が醸成され、協同関係は深まっていったように思います。

 糸島でプロジェクトがどんどん進んでいくのは、地場に力があるからなんです。白糸行政区のみなさんが熱心で、アイデアが豊富にある。技術もある。糸島市の行政も柔軟です。自然エネルギーの積極的な活用が、地域づくりの重要な鍵を握っている、ということを地元の行政がしっかりと理解しているように思います。明和製作所さんのような企業が賛同してくれたことも大きな推進力になりました。小水力発電は地域の自然条件(=地形や場所)の特性に対応して設置・運営していかなければならないので、地元の企業がかかわることが後々まで重要になってくると思います。「白糸モデル」のやり方や技術が他の地域にも広がっていく。群馬県の桐生市でも、群馬大学工学部の宝田恭之先生や天谷賢児先生が、桐生市と緊密に連携しながら小水力発電と電気自動車の組み合わせでプロジェクトを進めておられます。このように、自然エネルギーに基づいた地域づくりのいろいろな取組みが、地域の特性や課題ごとにバリエーションを持って、どんどんできてくるのが大切なんだろうな、と考えています。

計画策定シート
計画策定シート(図版提供:藤本 穣彦さん)

地域に還元できる研究を

 私は工学研究院に所属していますが、社会学者です。叱られるかもしれませんが、社会学者は工学的な知識や技術について、苦手意識を持っているように思います。他方で、「新しい工学・土木」の在り方を示す島谷先生のビジョンは非常に学際的です。「地域の課題や社会の問題を包括的に解決するために、我々に何ができるか」を、島谷先生はブレることなく探究していきます。
 島谷研究室で働かせていただきながらわかってきたのは、地域の課題や社会の問題の解決を総合的に考えるためには、各分野の専門家を集めてきても議論は前に進まないということです。「学際的な」人材が集まるから総合的な議論が実現できるんだ、ということがわかりました。「開かれた専門性」、とでも呼んだらいいのでしょうか。その姿勢は、地域に入って何かしようとするときにも役に立つものです。白糸行政区でのプロジェクトは、そのことの一つの証明とも思えます。

 私の、社会学者の役割も見つかりつつあります。プロジェクトの実践や展開の過程を書いて記録する仕事です。実践の中で生まれた議論やアイデア、拡がった関係や変化、印象的な出来事などを記述し、共有の物語とすることです。書くときには、学術論文でも、みなさんに了解を得て実名で書くようにしています。実践をフィードバックするための記録という側面を大切にしているからです。白糸の活動をまとめた『小水力エネルギー論文集』を、青木行政区長が50冊手にとり、「白糸集落全体に配って、集落みんなで勉強するときの教材にします」と言ってくださったとき、これでいいんだと確信しました。学術的な評価を得るというのは難しいかもしれませんが、「共に実践する地域のみなさんが喜んでくれたり、役立ててくれることに貢献する」というのが、島谷先生のいう新しい時代の研究者の要請に応えることにもなっていると思うからです。

ページの先頭に戻る

糸島市と白糸行政区、九州大学のみなさんのお話

  • 青木 一良さん

    青木 一良さん

    白糸行政区長

  • 馬場 貢さん

    馬場 貢さん

    糸島市経済振興部部長

  • 阿部 聡寛(としひろ)さん

    阿部 聡寛(としひろ)さん

    糸島市経済振興部学研都市推進課課長

  • 渡辺 孝司さん

    渡辺 孝司さん

    九州大学工学研究院環境社会部門学術研究員

  • 藤本 穣彦さん

    藤本 穣彦さん

    九州大学工学研究院環境都市部門学術研究員

地域の課題に向き合う〈白糸の滝1・2・3夢プロジェクト〉

青木(以下、敬称略) 白糸の滝は、標高900mの羽金山から流れ出る川付川にあり、中腹530mに位置します。滝から600m下流には、32世帯、人口131人の白糸行政区の集落があります。
 1991年(平成3)に旧・前原市に周辺の土地を譲渡し、翌年から自然公園〈白糸の滝ふれあいの里〉をスタートさせました。まだ道路も整備されていなかったのでお客さんも今ほど多くはなかったのですが、それ以前にも地元で運営していました。
 糸島市商工会女性部があじさいをたくさん植えて、10万株になった。それがまた評判になっています。わずか131人の行政区ですから、コミュニティーを守るのもなかなか苦しい状況になっています。そこで、交流人口を増やそうとして頑張った結果が、年間14万人が来てくださるという成果につながったのだと思います。
 九州では珍しく雪が積もるほどの地域です。ですから、冬場の営業は期待できないんです。最終的な目標をエコパークとしたのは、夏場だけではなく、秋冬にもお客さんに来ていただくことを考えてのことです。電気代が年間約7万kW(約140万円)かかっていますから、まずはそれを自家発電でまかなうという提案にも期待しています。

消費電力量の季節変化
消費電力量の季節変化(資料提供:糸島市学研都市推進課)

入り込み客数の季節変化
入り込み客数の季節変化(資料提供:糸島市学研都市推進課)

馬場 白糸の滝ふれあいの里のレストハウス〈四季の茶屋〉の建物は辺地対策事業、林業構造改善事業の補助金をいただいて市で建てて、管理運営委託を白糸行政区にお願いしています。

青木 生活用水は、全部、井戸です。ちなみに〈白糸の滝ふれあいの里〉で使っている水も、地下水です。簡易水道ではなくて、個々で汲み上げています。

藤本 汲み上げのための電気代も結構かかっています。また、浄化槽などにも電気代がかかっていて、それをどうにかできないか、というのが、最初の課題だったんです。

渡辺 当時、私は糸島市商工観光部学研都市推進課長として、糸島市と九州大学との連携や交流促進を担当していました。小水力発電プロジェクトが始まる前にも、別の交流事業で白糸行政区とかかわっていました。
 実は私は、新潟の佐渡島の出身なんです。親爺が農協の職員。当時、農協は発電所を持っていて、小さいころ、親爺に連れられて発電所に行った記憶があった。それで、水が豊富にある地域ということと小水力発電が結びつきました。
 九州大学の島谷幸宏先生に、「是非、ここを研究フィールドにして小水力発電の研究をやってください」とお願いしたところ快諾いただきました。それが、去年(2011年〈平成23〉)のことです。
 すごく早い展開なんですが、その前から島谷先生とはおつき合いがあって、打ち水大作戦なんかを一緒にやっていたんです。また、偶然ではありますが私の恩師が島谷先生と水の分野で交流があって、10年ぐらい前からプライベートのおつき合いをしていた。ご縁があったんでしょうね。声をかけたときには、たまたま島谷先生も宮崎県の五ヶ瀬でも小水力発電に取り組んでいて、タイミングも良かったのです。

研究だけで終わらせない〈官〉の仕掛け

馬場 糸島市は2010年度(平成22)に、1市2町が合併してできた市です。同年に広範囲な連携協力と継続性、発展性を目指し、九州大学の博士課程の大学院生を含む研究者を対象に、1研究あたり100万円を上限とする〈糸島市九州大学連携研究助成金制度〉を創設しました(100%補助)。

①糸島市内を研究フィールドとして活用する
②地域・行政課題の解決や地域資源の掘り起こしなど糸島市の地域振興に資する

 と認められる研究に対して支援を行なっています。この制度は、行政内部のみならず市民にも研究課題を募集するとともに、研究者には市民を対象とした研究成果報告会への参加を条件とするなど、市民にも開かれた制度です。2010年度(平成22)は予算額500万円に対し、応募件数18件、採択件数は6件。2011年度(平成23)は予算額1000万円対し、応募件数20件、採択件数は10件となっています。
 行政側からも、各部署に「九州大学に研究してほしいことがありますか」と呼びかけて、課題を挙げてもらっています。

渡辺 これらのプロジェクトでは、最後に必ず市民の前で成果を発表してもらうことになっています。研究者のみなさんに、何をやっているのかわかるように市民に説明してもらって、意思の疎通を図っているのです。6月30日〜7月1日に行なった〈小水力エネルギーシンポジウム in 糸島〜白糸の滝1・2・3夢プロジェクト〉も、その成果発表の場であったわけです。大勢の市民が参加され、白糸行政区からも30人近い住民が聴きに来て、太鼓の演奏も披露してくださいました。

馬場 税金を投入する以上、何をやっているのか、成果は上がっているのか、という点を明らかにしなくてはならないのは当然です。しかしそれ以上に、小水力発電のことは白糸地区の住民の方々がこれだけ盛り上がっているわけですから、九州大学も糸島市も真剣に取り組まざるを得ないわけです。みんなが手を抜くことができない状況になれば、結果として成果が上がってくるはずです。
 それに〈地域資源〉をいかに生かすか、という研究ですので、机の上だけの研究とは違っています。

阿部 地域の中で一つの課題をクリアすると、すぐに次の課題へ挑戦する、ということの繰り返しですから、私たちにも地域の方々から「ここはクリアしたから、次の段階に進むために県の補助金を取ってきてもらいたい」と要望が出されるわけです。そういうテンポで一つひとつ課題を解決していくから、前に進んでいきます。

馬場 前のラーメンにしても(2010年度に採択された、糸島産の原料を使ったラーメンの開発に関する調査研究のこと)今回の小水力発電にしても、正直言って、流れが速くて乗り遅れないようにするのが精一杯です。
 糸島はお蔭さまで観光ブーム。お客様が大変多いのです。しかし、昨年の3・11のあとに福島第1原子力発電所の事故を受けて、観光・行楽の自粛ムードに加え玄海原発が近くにあるというマイナスイメージもあり、一時期観光客が落ち込みました。再生可能な自然エネルギーに取り組むことで、そのイメージが徐々に払拭されています。ですから、渡辺さんが小水力発電に着目されたことは、非常に時宜にかなったことだったと思います。
 昨年度、糸島市も環境都市宣言を行い、今年度から環境部にエネルギー政策係というセクションができ、県の補助金をいただいて、小水力発電導入計画の策定に取り組んでいます。

藤本 白糸行政区のステップ2のシステム設計予算を、この中に組み込んでいます。今年度末までにシステムの基本設計を完成させて、来年度中にステップ2の設置までこぎ着ける予定です。今、県が画期的な制度を整備して、再生可能エネルギーに対して、調査に関しては500万円までの事業に関して10分の1、仕組みに関しては1億円までの事業に対して2分の1の補助金を出しています。県にも環境政策室という部署が新設され、非常に盛り上がっているところです。
 また、白糸行政区で実施しようとしている区間の水利権は、市の管理です。農業用水の取水口も白糸行政区の水利権が発生している地点からされていますので、小水力発電をしたあとにその地点までに水を返せば問題がないということです。土地も山頂まで白糸行政区のみなさんの持ちものなので、小水力発電を実施するには、非常に条件が整っている地域です。

小水力発電は合意形成が肝

渡辺 小水力発電をやるときに一番大変なのが、地元との合意形成。ここではそれが最初にクリアできたから、スピード感のある活動ができたんですね。それは青木さんをはじめ、白糸行政区のみなさんが問題意識を持っておられるということに尽きると思うんです。ここをどう活性化していくのか、という問題意識を持っておられる。しかし、私たちがまったく方向性の違うことを提案していたら、賛同していただけなかったと思います。私たちも何度も足を運んできて、ここが白糸の滝、川辺に植えられたあじさい、そうめん流し、ヤマメ釣りなどを資源とする水の里だと理解していた。そこで一致したから、賛同してくれたんだと思います。
 小水力発電というのは合意形成が難しいということで、福岡県においてもなかなか手が挙がらないそうです。それで、再生可能エネルギーのほとんどが太陽光発電ばかりだったようです。ところが白糸行政区では、他所で障害になっている地元の合意形成が進んでいて、みなさんが逆に小水力発電をやりたい、と言っている。それで県としても、他の地域のモデルになってほしいとの考えだと思います。悩んでいる地域は多いので、既に多くの方が白糸行政区に視察にみえています。

小水力発電を推進する専門家の存在

渡辺 もう一つ、小水力発電のネックになっているのは、専門家の不足です。実際にやりたいと思っても、適切なアドバイスをするコンサルタントがいないのです。本来はコンサルタントがやればいい仕事であって、九州大学が介入する必要はないんですが、実際に地域が困っているわけですから、その課題解決に当たって役に立つことをしなくてはいけない、と思って動いています。社会実験ということでコストが上がるということはあるかもしれませんが、条件に応じた適正価格がどこら辺なのか、ということをキチンと提示していくことが、大学の役割として求められていると思います。

藤本 何が適正価格か、という点が不明瞭になっている背景には、技術の見極めができていないということがあります。現在、九州大学では、明和製作所さんとの発電機の共同開発と平行して国内外のいろいろな水力メーカーへとのヒアリングも進めていますので、基本設計を九州大学が受けることで、適切なメーカーや業者選定に対してアドバイスができます。そういう意味でも、適正価格での導入という面からもモデルケースになれるんじゃないかと思います。もちろん、詳細な設計や図面の作成はコンサルティング会社にしかできないのですが、核となる方針の部分を九州大学が受け持つということです。
 また、コストカットという点でいうと、地域の方の協力は大きいですね。

産官学がwinwin関係になるには

馬場 行政としても白糸行政区としても、今回の産官学の取り組みは、とても有り難いものでした。でも、九州大学側に、何かメリットはあったのかと、少し心配しているのですが。

藤本 地域の課題を一緒に解決できるということは大きな魅力ですし、中山間地の展望をどう開いていったらいいか、ということはみんなの悩みでもあるので、それに対する新しい方向性を見出すことに役立っています。九州大学にとっても、充分有意義なプロジェクトですよ。
 また、大学は全国に発信することを得意としています。シンポジウムも、その一つの方法です。次に続いていくきっかけがつくれるんですね。特に島谷研究室では、事例にどれだけ深くかかわれるかが研究の質を高めるという発想ですから、本当に有意義なプロジェクトにかかわらせていただいた、と考えています。
 大学も2006年(平成18)に教育基本法が改正されて、地域連携とか社会貢献を、大学の果たすべき役割としなくてはいけない時代になっているんです。地域・社会連携は大学経営の大きな柱となっています。ですから、大学が立地する地域の課題を解決することは、大変意義のあることなんです。

馬場 学生さんの反応はどうですか?

藤本 学生にとって、地域の大人にかかわるチャンスというのは、なかなかないんですね。ですから、非常に勉強になった。実際に卒業論文に、このことを書いた学生もいます。学生の中には、エネルギー政策をやっていた者もいて、今まで頭の中だけで考えていたことが、明和製作所さんや林電気工事さんに指導してもらいに行ったり、白糸行政区に来て地元の方からいろいろ教えていただくうちに、多くのことを学んだようです。工学部でもモノづくりをやらなくなっているんです。電動ドリルや工具を持ったことがないような学生も、鍛え上げていただきました。

青木 確かに、危なっかしい手つきでした。

渡辺 私がすごいなと思ったのは、〈白糸の滝ふれあいの里〉は、冬場にお客さんが一人でも二人でも、閉めないで営業しているところです。ここは駐車場代も入場料も取らないで営業していますから、本当にすごいと思います。そういうところに、地元がポリシーを持って続けておられることに感心させられました。

阿部 名勝地というだけでは、地域は守っていけないんです。だから青木さんをはじめ地元の人は、ちゃんとお金が回っていく仕組みをつくっている。そういう努力の積み重ねで、これだけのお客さんがいらっしゃるんだと思います。

青木 夏を中心に、その前後の季節をいかに引き延ばせるか、が勝負なんです。それで、毎年、何か一つは新しい食べものを開発しています。来てくれた人が、一度きりじゃなくて何度も来てくれるためには、そうした魅力がないとダメだろうな、と思うんですよ。
 400年も続く寒禊(かんみそ)ぎという行事があります。12月18日の午前0時に行なわれる熊野神社のお祭りなんですが、ここの水に入って禊ぎをします。冷たいというより、痛いですね。そこで振る舞っている食べものを、昨年から売り出しました。昔は子どもの数だけ、振る舞っていました。食べものに不自由した時代でしたから、祭の日ぐらいは腹一杯食べさせる、という意味だったと思うんですよね。祭では10年ぐらい前から配るのをやめていたんですが、それを復活させてみようということになりました。
 本来は、コンニャクも沢庵も刃物を使わずに手でちぎってつくります。まあ、お客さんに出すのにそこまでできませんから、今は包丁を使っていますが。名前も禊ぎ飯としました。本当はコンニャク飯と言っていたんですが、禊ぎ飯と名づけたらみなさんが「何かな?」と興味を持ってくださって好評です。

禊ぎ飯
禊ぎ飯

渡辺 産官学でこれだけ熱くなれたのは、やはり当事者である白糸行政区の真剣さを抜きにしては語れません。

馬場 糸島は福岡空港から50分ほどで、手つかずの自然も残るこんな所がある、ということで、人気が高まっています。人口も10万人で推移しています。しかし、やはり働き口がないということで、勤めは福岡に出る方が多いです。課題としては、若い人たちがここで働きながら暮らせる地域にしていく、ということがあります。
 そういう課題を抱えた中で、産官学でどんどんいろいろなプロジェクトが行なわれていますから、どんな化学反応が起こるか楽しみです。

ページの先頭に戻る

地域の企業としてできること

生野 岳志

生野 岳志 しょうの たけし
株式会社明和製作所 代表取締役社長

転換を迫られるものづくりの現場

 九州大学伊都キャンパスは明和製作所から約4kmの距離にあり、当社の3階の窓から、何一つ隔てるものなく一望できます。物理的に近かった九州大学が、今回のプロジェクトで心理的にも近くなりました。

 当社は三菱電機の協力工場として、初代のころから戦後の混乱期をものづくりで支えてきました。1970年代に会社組織を整備したのですが、そのころは今宿(福岡市西区)という場所で操業していて、三菱電機の電動工具をつくっていました。その後三菱電機は電動工具事業から撤退し、当社は1990年(平成2) 糸島に移転し、独立した経営を行なうようになりました。

 ただ、ものづくりは急には変えられません。業務用の電動工具に特化して日本各地の専業メーカーさんにそれぞれ専用に設計したモーターや機器を提供することを事業の柱にしました。また電動工具を丸ごとつくれるだけの技術や設備がありますから、それを応用した産業機器や動力ポンプなどをつくっています。もう一つの柱が電力関連で何十万ボルトもの電流を瞬時に遮断する業務用のブレーカー(電力遮断器)向けにも専用モーターを供給しています。この分野は安全と信頼性が第一ですので、少々コストが高くても日本製が重視され、いったん採用されると長年にわたって受注が見込めます。

 とはいうものの、日本国内では新たな電力需要は見込めませんから、補修にしか需要がありません。2000年代に入ってからは中国など発展途上国向けの輸出が順調に伸びてきていましたが、2008年(平成20)のリーマンショックで需要が一気に冷え込み、また超円高の進行と定着で日本の遮断器メーカーが国際入札で勝てなくなってきてしまいました。リーマンショック以降、我々もやっと8割ぐらいまで回復してきましたが、多分、何も新しいことをやらなかったら、5年後には会社がなくなっているでしょう。そこで2009年(平成21)の50周年を機に、未来へのビジョンと新規事業方針を打ち出しました。その重点の一つがモーター技術を生かした環境問題への貢献、もう一つが地域への貢献です。

 この地に50年もいながら、なかなか地場の仕事をしてこなかった。そういうところに九州大学のほうから声を掛けていただいた。糸島にある企業ということで声を掛けていただいたのですから、お応えしていきたいと思いました。

技術力を生かして環境に貢献

 3代目とは言いながら、実は私は血のつながりはなくて、たまたまご縁があってここに来ました。来たからには使命を感じていますから、今まで当社がやってきた技術と経験を生かせることをやっていきたい。それで、モーターをつくってきた会社として、環境に貢献できることを、と考えました。

 そもそも世の中の電気の半分は、モーターが消費しているんです。家庭内でも、モーターはエアコン、冷蔵庫、パソコンなどに使われています。これの効率を高めて省エネに貢献することはモーターメーカーの責務ですが、さらに今までガソリンや油圧で動かしてきた機械を電動化していくことで、より積極的に環境問題に貢献できないか、と考えました。

 九州大学との小水力発電での連携の前に、電動バイクの販売普及への取組みと小型EV(電動車両)向け駆動装置の開発を先行させていました。

 EVへ取り組むといっても、車両全体の開発・製造に取り組むのは無理がありますし、乗用車以上のクラスのEVの普及は大手メーカーでも苦戦しており、経済産業省のロードマップでも本格普及は2030年(平成32)以後という見方をしています。我々は自社の強みであるモーターやギアの設計製造技術を生かし、EVの心臓部である駆動装置を、制御機能も含めて提供することを考えました。また対象とする車両を電動2輪・3輪、そして4輪でも一人乗り・二人乗りまでの超小型モビリティと言われる新しいカテゴリーに、焦点を絞って取り組んでいます。

 現在の法律では、軽自動車より小さい4輪車両としては一人乗り専用のミニカーという区分が原付の位置づけで認められているのですが、要望の高い二人乗りのできる小型車両区分は現行法規では存在していません。そこでこれからの高齢者の増えるまちづくりを考えて、国土交通省が超小型モビリティ導入に向けたガイドラインや認定制度を導入し、来年1月から地方公共団体の申請に基づいて公道を走れるようになりました。当社でも地元の糸島市と共同での申請を予定しています。この新しいカテゴリーには大手自動車メーカーよりもむしろ中小ベンチャー企業が次々と参入の動きを見せており、国土交通省では2013年(平成25)から3年間の半額補助金制度を導入して、その動きを後押ししようとしています。

 開発と並行して、すでに中国では年間3000万台以上製造されて本格的に普及している電動バイクの取扱いも始めました。中国で普及しているもののほとんどは自転車と自動二輪の中間の位置づけで、日本で普及している原付2種と同等の性能が出るものはほとんどありません。そこで通勤通学や観光用になら十分に使用できるものを選定し、整備メンテナンスができる範囲に限定して販売をしています。またより多くの人々に電動バイクの楽しさを体験してもらうために、観光用レンタルを行ない非常に好評です。またこの取り組みは地元の観光協会やお店と連携した動きとなり、糸島市内の30カ所以上のお店が電動バイクの充電スポットとして登録されています。開発と並行して販売を行なうことで、開発や普及へのいろいろな課題が見えてきました。

ネットワークから次のステップへ

 このようなことを進める中で、小水力発電の話が持ち上がってきました。伊都キャンパスに移ってからの九州大学は、このような自然環境に立地する大学として、環境に配慮した社会の構築を目指しています。水素による燃料電池や小型風力などさまざまな研究が行なわれています。今回、小水力の分野で島谷教授に声を掛けていただきましたが、最初は躊躇していたんです。やはり、開発の問題だけでなく、ビジネスにしていくには、法律の規制など、超えなくてはならないハードルがたくさんありますから。

 それでも、学生さんが〈みどりくん〉という発電機をつくるのに協力してもらえないか、という要請には応えさせていただきました。これに協力しているときに、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助事業があると知らされ、いろいろ調べてみたところ、結構、いけるんじゃないかという感触を得ました。小水力発電、その中でも特に今後の普及拡大が期待される100kW以下のマイクロ水力発電向きの良い発電機がないという声を聞きました。良い発電機というのは、効率性能・品質・価格・調達性・メンテナンス対応という、多岐にわたってバランスの取れたものが欲しいということなのです。落差、流量が十分ある場合には悩む必要はないのですが、マイクロ水力発電領域で落差・流量が限られる場合には、水車、増速機、発電機の効率が大きな問題となり、落差や水量の条件に応じて適した水車を選択する必要があります。

 ただユーザーの立場に立った場合、悪条件に適用するために高額ででも高効率な発電機を設置するということはあり得ません。現状より安い価格でさらに適用範囲が広い発電機が求められているのです。そこに我々の持っているレアアースフリーモーターの技術や歯車の製造設備、電動バイク用のアウターローターモーター(外側にローターがあるタイプ。低回転で大きなトルクや発電量を得られる)が役立てられるんじゃないか、と気づきました。

技術屋としての腕の見せどころ

 通常水力では60〜70%の発電効率が得られると考えられがちですが、実際にはマイクロ水力発電では良くて50%、実際には20〜30%ということも多いのです。それは①落差流量が低く発電に十分な回転数が得られないこと ②回転数を上げるために増速機構を入れた場合に、そこで水車出力の大部分が消費されてしまうこと、が主な原因です。一般的な電動機をベースとした発電機では回転子が毎分1000〜3000回の速さで磁束を切ることによって電磁誘導作用で起電力を発生させる構造となっていますから、水車の回転数がそれに満たない場合には、増速のためのギアやプーリー(滑車)を装備して発電機に適用する回転数を上げる必要があります。または発電機自体の外周を大きくすると同時に極数を増やすことで、低速でも磁束を切る回数を増やす方法があります。

 これには ①回転子を発電機の内側ではなく、外周に置くアウターローター構造 ②回転子と固定子の位置関係を通常の内と外(回転軸のラジアル、つまり放射状の方向)ではなく、上と下(回転軸の垂直方向)に置くアキシャルギャップ型構造 ③回転体に積層ケイ素鋼板などの通常の鉄心を用いないコアレス型 などの例があります。アウターローターやアキシャルギャップ型の場合は、出力の割には外周サイズが大きくなってしまう欠点、またコアレス型の場合は大出力には向かないなどの欠点があります。

 またいずれの場合も、中国からの調達量の確保や価格の高騰が問題になっているネオジムやディスプロシウムといったレアアースをふんだんに使った希土類磁石を、効率を高めるために用いる必要があります。希土類磁石は極数の数(多いものでは64極)だけ貼り付けなくてはならないため、材料コストが通常のモータの十数倍になっています。また価格については、材料コストだけでなく、特殊構造を製作するための加工費、専用構造をつくるための金型投資、そして何より市場での販売数量見込みといった製造面・ビジネスモデル面での要素が、技術開発要素以上に大きな決定要因ですし、最終的にはユーザーがキロワットあたりいくらで発電機が設置できるのかというところまで落とし込まなくてはなりません。

 そのためには必ずしも、100%メイドインジャパンにこだわるのではなく、アジアへの玄関としての福岡県の立地を最大限に活用し、事業化においては国内製にこだわるメリットがない部材は中国・東南アジアから調達して組み合わせ、付加価値の高い制御技術や統合ノウハウをブラックボックス化するなど柔軟に対応する必要があります。

クリーンな電気を何に使うかも

 また、小水力への取り組みを進める中でEVビジネスと発電機ビジネスというのは互換性があって、相乗効果になるということに気づきました。

 3.11の原発事故以後、節電に対する意識そして再生可能エネルギーへの風向きがガラッと変わりました。一面で見るとEVというのは今まで電気を使う必要のなかったものにまで電気を消費するのか、という批判にもさらされます。ただEVの電池は巨大な移動式蓄電池として電力の平準化に役立たせることができるし、その電気を再生可能エネルギーでまかなうことができればこんなに良いことはありません。節電と石油消費削減の両面で環境に貢献することができるからです。

 また発電機へ取り組むスタンスも、EV事業のスタンスと同様のアプローチを取ることができます。EV事業では心臓部の駆動装置のプロバイダーという立場と、完成車の販売普及及び、メンテナンス推進の二本立てで進めていますが、発電ビジネスへの取り組みも同様に考えています。単品としての発電モーターを開発して販売するだけでなく、パートナーと組んで小水力発電機全体のシステムの提供とその設置施工まで手がける。さらにはその電力の活用の部分も含めたトータルのソリューション提言を視野に入れています。今は全量売電してしまうのが一番お得ですが、それに頼り切ってしまっていいのでしょうか。補助金に頼らずに採算が取れる電力の活用方法の一つとして、EV給電サービスや電池交換システムは非常に有力だと考えます。

 あとは設置のところです。設置は「小水力発電がなかなか進まない原因はこれだ」と言っていい程、重要なファクターです。自社の目の前の水路で実証実験を行なうだけでも、市役所に話しに行って、水利組合に許可を取って。水利組合からは、総会に出て説明をしてくれと言われました。結局、県の管理だということで県にも説明に行きました。みなさん、こういうところでめげてしまうんでしょう。これからは規制緩和するといっていますが。

 また糸島という土地柄を考えると、小水力発電電力を農業用途でもぜひ活用できればと考えています。ハウスの照明や冷暖房やさまざまな機器の動力。今は、電動農業機械といってもすぐに電池が切れてしまう。田んぼの真ん中で、それを充電できるようになったら普及するでしょう。

 電動バイクの魅力を高める上でも、小水力発電による充電インフラを整備することは重要です。今はまだ電動バイクはガソリンバイクと比べて航続距離が短いことが大きな弱点になっています。それがどこでも充電できるようになると便利になります。九州大学は敷地が広いですから、通学通勤だけでなくキャンパス内で利用してもらえばクリーンなイメージが高まります。明和製作所は小水力のプロジェクトと並行して、九大生の通学定住問題に取り組む「糸島モビリティ推進プロジェクト」にも参加しているんですよ。

 充電インフラの一つの選択肢として、電池交換システムが考えられます。共通インフラとしての交換システムができたら充電時間がゼロになって便利です。これは誰でも考えることなんですが、全国規模で考えると、みんながてんでにやっているのでとても共通のものはつくれません。ですから、少なくとも地域で統一することをしたい。その実証試験を今年から始めています。

産業の地産地消

 今は何の話をしていても「中国だったら半額でできる」とかいう話になってしまうんですが、我々としては「産業の地産地消」を標榜しています。そこには継続的なメンテナンスサービスという付加価値もつきます。我々がずっとつくってきた電動工具のモーターには、もう付加価値がつけられないんですよ。ただのモーターじゃないか、と。しかし、小水力発電はすべてがカスタムメイドで標準化しにくい代わりに、だからこそノウハウや技術が生かせるという側面がある。手離れが悪いところに、逆にビジネスチャンスがある。そこが面白いと感じます。小水力発電をやることになって、そういう目で見ると適地は無限にあるなあ、と。見方が変わりますよ。もちろん、クリーンエネルギーを使っているということは、観光資源としても価値を持つと思います。そういう成功モデルを、この地域から発信していきたいですね。

 お蔭さまでNEDOの委託事業として採択されまして、初年度の今年はフィージビリティスタディとして目標に掲げた内容が実現できるかどうかのデータを取ります。そして2年目に向けての具体的なビジネスプランを構築し、3年目には実用化、という流れで進めます。

 バッテリー交換実証実験を2012年(平成24)11月1日〜12月31日の期間で行なっていますが、バッテリーステーションには糸島のレストランや工房など、既に充電スポットとして稼動しているところから3カ所を選んで協力していただいています。充電スポットは、地元のクラフトショップのオーナーさんの発案です。電動バイクの販売を行なう中で、お客様が工房めぐりをするのに、電動バイクレンタルと合わせて充電スポットのサービスがあったら喜ばれるだろうし、工房の宣伝にもなって一石二鳥だというところから始まりました。

 その後、我々は観光用電動バイクの普及に取り組んで、4台の電動バイクを駅前から動かすようになりました。充電スポットが20カ所ぐらいになったところで、多くの方々に認識していただけるようになり、多様な連携が広がってきました。

顔の見える関係が

 他所では、発電機の開発が先行して「良い種があれば芽が出る」と待っているのに、なかなかチャンスに恵まれない例を聞きます。ところが糸島の場合は、畑(場所)と蒔く人(コーディネーター)が先行していたお蔭で種(明和製作所の発電機)は大したことがなかったんだけれど、計画がどんどん進んだ。ですからニーズが先にありますから、我々が最適なものを供給できればすぐにでも始められる。そういう状況です。

 我々としてはモーターの供給だけじゃなくて、設置のところにかかわることで、なんとかビジネスの付加価値を高めていきたいと思います。うちの強みは、設計開発者と製造技術を持った人間が一つの敷地内にいるところ。それを生かしていきたいですね。大量生産には向かない体制なんですが、だからこそ小水力発電に向いている、と思っています。

 発電機と電動バイクをどちらも取り扱うことでいろいろ面白いアイデアも出てきます。例えば電動バイクのバッテリーを充電するには、100V交流の家庭用電源からアダプターを介して、電圧を下げて直流電流を流し込みます。家庭電源にしようとすると、100Vの交流にしなくてはなりません。最初から電動バイク用ということであれば、直流で電圧もあまり上げないでやる、という方法もあります。そういうことをNEDOの実験の中ではやっていこうとしています。

 ビジネスモデルという面では、マイクロ水力発電でも50kWくらい出力があれば別ですが、数キロワットの発電量で発電や充電インフラ単独では、正直言って人を雇って採算をとることは難しいと思います。だからこそ地域の人がついでに面倒を見ていくことで、回していくことが求められます。九州大学があることで、そういう役割を学生さんに担ってもらう、ということも考えられますね。そこにスマートフォンであるとか、ICカードの認証システムであるとか、ITをうまく組み合わせていくことが可能です。

 学生さんは、どうしても福岡市に住みたがるんです。糸島市はなんとか、それを呼び込みたい。そういうときに「糸島市の学生住宅には、電動バイクのシェアリングサービスがついています」というようなサービスをすれば、糸島市の付加価値を上げることに役立つのではないでしょうか。

 糸島は海側の観光スポットが人気ですが、「山もあるよ」と。白糸の滝だけでなく、お寺やキャンプ場、そしてそれを結ぶ林道などにも魅力がありますが、今はあまり知られていません。山のほうは道が狭くて車がすれ違いできないような所もありますから、そこをEV専用道路にするといい。そうなると山道にも使えるパワフルな電動バイクを開発する必要がありますね。

 電動車両はパワーがない、と思われていますが、試乗していただいてわかるようにパワフルなものもできるんですよ。つい最近会社の敷地内に試験用のスロープをつくって、登坂能力の性能試験が構内でできるようになりました。今後、公道での社会実験も行なう計画です。地域密着型で資源を考えていくと、小水力発電だけに留まらずに、そういう夢がどんどん広がるのです。

(2012年8月24日)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページの先頭に戻る