へぎと呼ばれる木の器に盛りつけられた「へぎそば」。一口大に丸められたそばはまるでかせ糸のようだ
撮影協力:小嶋屋総本店
デザイン活動家
ナガオカケンメイ
1965年北海道生まれ、愛知県育ち。その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」、常に47都道府県をテーマとする日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」、その土地らしさを持つ場所を2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動を展開。2013毎日デザイン賞受賞。
東京に暮らして30年が経った頃、デザイナーという仕事の意味や将来性を考え直すきっかけとしての民藝運動に出会いました。一言でその魅力を言うと「その土地から生まれたもの」。
これまでずっと海外のデザインに憧れて色々なものをデザインしてきましたが、デザインも植物や人と一緒で「ふるさと」があることで個性が足元から伝わって性格になったり感受性になっていく。そう考えるようになってから「伝統工芸」と呼ばれるものこそデザインなのだと思い始めました。土地から生まれたそうした食や生活道具や民話や祭りを「デザイン」と考えることで若い世代にも関心が湧く。まさに今の日本がそうなっていると感じます。
そんな僕はこの頃から「47都道府県」に関心が湧き、一つのテーマで毎回47都道府県からものを集めて日本を俯瞰で眺めるように感じるミュージアム「d47 MUSEUM」を考え、渋谷ヒカリエの8階に作りました。そして2015年8月に、47都道府県のローカルな麺から日本の食の個性を見る企画展「47麺MARKET」を開催。日本じゅうから集めた麺たちはやはり、その土地の風土や物語から生まれていました。
絹織物の産地の新潟県十日町市では織物を作る工程で使う海藻のフノリを使って「へぎそば」が親しまれ、過疎化が深刻な石川県奥能登地区では耕作放棄地を活用する「金沢大地」という企業によって「能登の蕎麦」が生まれ、福井県武生(たけふ)市(現・越前市)を視察した昭和天皇がそこで食した蕎麦があまりにも美味しかったことから「あの越前蕎麦が食べたい」と語ったことが「越前蕎麦」の名の由来となり広まったり、奈良時代から精進料理として食べ伝えられた鳥取県大山(だいせん)地区では「大山蕎麦」にその物語を今も感じることができる。山口県川棚温泉では江戸時代に藩主から治安を守り土地の美観を整える意味で庶民にも「瓦」を使うことが許されたことから瓦への親しみがユニークな「瓦そば」を生み出しました。
そんな様子を記録しなくてはと思い、47都道府県のその土地の「らしさ」をテーマにトラベルガイド「d design travel」を発刊。現在33都道府県を刊行し、残り14県を今も一つ一つ取材しています。
若い頃は海外や都会、特に東京に憧れていました。しかし環境や地域への関心が増す中では、やはりエネルギーを使ってものを中央に集めるのではなく、その土地を訪ねてそこにある風情や土地の力を感じながら食べたり、ものづくりに触れたりした方が心も豊かに整います。
そんな僕も今は18歳まで過ごしたミツカンのある半田市の隣、愛知県知多(ちた)郡阿久比町(あぐいちょう)に知多のものを紹介する店「d news agui」を作り暮らしています。
土地の水や環境、祭りや文化から生まれる感性こそ、次の新しいものを生み出す純粋な力。47都道府県に限らずその土地にある食文化とは、長きに亘り伝えていく大切なメッセージなのだと思います。何気なく食べる蕎麦にも。