機関誌『水の文化』75号
琵琶湖と生きる

[湖人]

琵琶湖と生きる
【清掃活動】

自分の好きな水辺はきれいな方がいい

『水の文化』59号の特集「釣りの美学」で取材させていただいた「淡海(おうみ)を守る釣り人の会」。その後、さらに多様な団体・企業と組んで清掃活動の規模を拡大している。あれから5年が経ち、副代表兼事務局長となった武田みゆきさんと再会した。

お気に入りの砂浜で語る武田みゆきさん

お気に入りの砂浜で語る武田みゆきさん

淡海を守る釣り人の会 副代表兼事務局長
守山市環境コミュニケーター
武田みゆき(たけだ みゆき)さん

滋賀県草津市出身。飼育員に憧れ専門学校を経て滋賀県立琵琶湖博物館の飼育員となる。その後、大津市にある「ウォーターステーション琵琶」で環境団体の支援に携わる。2018年ドイツで環境リーダー研修を受講。2021年から守山市環境コミュニケーター。2023年2月、日本環境NPOネットワーク代表理事に就任。

生まれた時からずっと琵琶湖を眺めてきた

周囲を元気にしてくれる、活発な印象の武田みゆきさん。その原動力を尋ねると、「毎日眺めて、毎日きれいだと思う琵琶湖の存在です」とキッパリ。武田さんにとって特に元気がもらえる場所という守山市のみさき自然公園そばの湖畔へ連れて行ってもらった。

「ちょっとしんどいなーってなったとき、ここに来て、靴下を脱ぎ、琵琶湖に足をつけるんです。それで、あー、これでエネルギー満タンやなってなるんですよ」

武田さんに促され、編集部も裸足になって湖水に足をつけてみた。暑い日だったので湖水は温かく、足裏に触れる砂が心地よく、琵琶湖との距離が一気に縮まった気がした。ここからは、北へ伸びる琵琶湖の奥行きも見渡せ、日本一のスケールを体感できる。

琵琶湖近くで生まれ育った武田さん。子どもの頃からの遊び場といえば、旧草津川とその先に広がる琵琶湖だった。川ではゴリ(ヨシノボリの稚魚)を追いかけたり、湖では貝を探したりして遊んでいた。

「ほんまに川と湖で遊んで育ったという感じです」

武田さんが子どもの頃は、家の周囲では農家と漁師が野菜や魚を物々交換するスタイルがまだ残っていて、琵琶湖と暮らしの距離が今よりだいぶ近かったと言う。

そんな武田さんが釣り人たちと一緒に、2017年(平成29)から始めたのが琵琶湖の清掃活動だ。

琵琶湖東部(湖東)の水辺で遊ぶ人びと

琵琶湖東部(湖東)の水辺で遊ぶ人びと

大好きな水辺が汚れている それが嫌で拾いつづけた

「ごみ拾いにこだわっているわけではなくて、もともとは目の前にあるから拾っていただけ。自分の好きな水辺はきれいな方がいいですから。私は『淡海を守る釣り人の会』で清掃活動を始める前からごみを拾っていました。ごみ拾い歴は割と長いんですよ」

そして、2018年(平成30)に環境NPOリーダー海外研修で環境先進国のドイツを訪れたことから、武田さんは環境リーダーとして活動していく覚悟を決める。

「この時に一緒に行った全国の第一線で活動している環境リーダーたちに刺激をもらい、自分の活動に向かう気持ちにもスイッチが入りました」

2021年(令和3)からは、守山市環境政策課環境コミュニケーターという立場で、子どもたちはもちろん、教員も対象にして、環境教育の推進に向き合っている。環境NPOリーダーが集まる日本環境NPOネットワークにも属する武田さんは、コロナ禍でも何かしないといけないと考えた。そして、これぞと思うリーダーたちに声をかけて始めたのが、「#あしもとから」という活動。毎月15日に全国で一斉にごみ拾いをして、一斉にSNSに上げるもので、「知っているようで知らない、自分たちの地域のことを足元から見直そう」という思いから名づけた。誰でも参加でき、足元からじわりじわりと広がっている。

自然や環境を守るための第一歩が「清掃」活動

「ごみを拾ってその先は?と聞かれるんですが、拾いつづけないとあかんもんやからね。先も何もないですよ」と武田さんは笑うが、誰もが聞いたことがある世界的な企業からも「一緒にごみ拾いをしたい」と問い合わせがくるようになった。今、企業は生き残るために、脱炭素や生物多様性の保全に取り組まないといけない時代だ。琵琶湖での清掃活動はその第一歩として、さまざまな企業から熱い視線が送られている。

「毎回100人くらい参加者が来て、ただのごみ拾いなのに、皆さんめっちゃ楽しみに来はるんですよ。楽しいという気持ちが最強で、義務感や使命感では続きません」

人それぞれ参加する楽しみはあるのだろうが、そのステージが琵琶湖であることも楽しみの大きな要因になっているはずだ。

「参加者のほとんどが滋賀県外から。琵琶湖のためにって、全国から来てくれはります。琵琶湖を守るとか、水辺を守るのって、やっぱり最後は人じゃないですか。好きになってからじゃないと守りたいと思わへんから、好きになってもらう機会を増やすことが大事だと思います」

ごみ拾いはあくまで第一歩。一度活動した企業にはもっと踏み込んでほしいものの、釣り人の会から誘ったりはしない。1回活動してみて、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」まで進むかどうかは、その企業に任せるスタンスだ。

  • 淡海を守る釣り人の会が2023年6月に実施した企業との清掃活動

    淡海を守る釣り人の会が2023年6月に実施した企業との清掃活動  提供:淡海を守る釣り人の会

  • 淡海を守る釣り人の会が2023年6月に実施した企業との清掃活動

    淡海を守る釣り人の会が2023年6月に実施した企業との清掃活動  提供:淡海を守る釣り人の会

  • 淡海を守る釣り人の会が2023年6月に実施した企業との清掃活動

    淡海を守る釣り人の会が2023年6月に実施した企業との清掃活動  提供:淡海を守る釣り人の会

湖とともにある暮らしが未来に続くために

では、武田さんが目指す将来像とはどのようなものなのか。

みんなが環境のことを考えて行動することが日常で、この先どうしていくかを、次の世代の当事者たちと一緒に考えていけたらいいなと思っている。さらに、琵琶湖がより身近な存在になっていて、例えば湖魚を食べることなど、もともとある文化が、新しい時代に沿った新しい形で受け継がれたらいいと考えている。

近年、メディアなどが琵琶湖を取り上げる機会が増えているそうで、それは琵琶湖と一緒に生きていくこと自体がサステナブルにほかならないから。

「ようやく世の中が琵琶湖の魅力に気づいてきたなと思います」と、武田さんは笑みを浮かべた。

おいしい琵琶湖
ゴリとスジエビの佃煮

おいしい琵琶湖 ゴリとスジエビの佃煮
撮影協力:駒井健也さん

(2023年8月21日取材)

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