機関誌『水の文化』54号
和船が運んだ文化

食の風土記6 六田麩(山形県東根市)
伏流水と「もったいない精神」が生んだ
六田麩

特徴はこの分厚さと食感。煮崩れしにくいので、家庭でも重宝されている

特徴はこの分厚さと食感。煮崩れしにくいので、家庭でも重宝されている

水と風土が織りなす食文化の今を訪ねる「食の風土記」。今回は、ふっくらもちもちとした食感が特徴の「六田麩(ろくだふ)」です。江戸時代に宿場町として栄えた六田地区では、大切な宿客を自慢の麩料理でもてなし大変喜ばれたそうです。いまや麩料理は、六田の家庭の食卓の強い味方。「もったいない精神」が育んだというルーツを訪ねました。

水の恩恵を受けた宿場町

奥羽山脈の西山麓、村山平野に位置する山形県東根市。市の西部にある六田地区では、江戸時代から麩づくりが盛んに行なわれてきた。グルテン(注1)を主原料とする麩には、豊富な水と小麦粉が欠かせない。

東根市一帯は奥羽山脈を源とする白水川、野川、乱川という3本の川がつくり出した扇状地で、この地形が生み出す伏流水が六田周辺で湧出していた。また、古くから紅花や葉煙草の主産地であった六田では、これらの連作障害(注2)を防ぐ方法として小麦を植えたという。

羽州街道が通る六田は交通の要所として栄え、江戸時代には六田宿として賑わった。享和年間(1801〜1804)に上方よりやってきた職人が麩の製造に欠かせない「水」と「小麦」が六田にあることを知り、その技術を伝えたことが「六田麩」の起源とされる。

(注1)グルテン
水で練った小麦粉に含まれるたんぱく質の一種。小麦加工品をつくるうえで弾性を決める重要な要素となる。
(注2)連作障害
同じ土地で同じ作物を繰り返しつくりつづけると起きる生育不良、収量減などを指す。

果樹王国ひがしね案内人の会 会長の太田浩雅さん

果樹王国ひがしね案内人の会 会長の太田浩雅さん

肉や魚に代わる万能の麩

六田麩は、長い木の棒に巻きつけて焼き上げる独特な形の焼麩だ。グルテンの含有量が一般的な麩の3倍ほど多く、もっちり肉厚で、噛むと弾力がある。食べごたえもあり、肉や魚と同等のたんぱく源にもなる。

「麩づくりは重労働でした」と話すのは、観光ボランティアガイド「果樹王国ひがしね案内人の会」会長の太田浩雅さんだ。太田さんの実家は1862年(文久2)創業の麩屋だったが、5年前に廃業した。昔は毎朝3時に起きグルテンをつくったという。

かつて麩は肉や魚などの保存がきかない夏場に食べることが多かった。しかし、1950年代後半に冷蔵庫が普及すると徐々に衰退。最盛期は六田に10軒ほどあった麩屋も4軒となった。しかし今も、どの家庭の冷蔵庫脇にも棒状の麩がぶら下がっているほど、麩料理は食卓の定番だ。

「手軽で煮くずれしにくいので、みそ汁や煮物、鍋物の具として一年中食べます。野菜が不作のときも代わりに麩を食べるんです」と太田さん。東根では芋煮に必ず麩が入り、学校給食にも麩の献立がある。

食文化を守るために

現在操業する4軒の麩屋のうちの一軒が、1860年(万延元)創業の「文四郎麩(ぶんしろうふ)」だ。文四郎では1日に2000本の麩を製造し、販売店や市内の学校に卸す。

「グルテンをつくる際は強力粉と水を練り合わせたものに水を加え、約3時間かけてデンプンを洗い流します。この工程に大量の水が必要なのです」と説明するのは、六代目・齋藤文四郎さんとともに店を切り盛りする息子の幸信さんだ。

六田麩にグルテンが多い理由は、貧しかった山形藩ならではの「もったいない精神」だと六代目は言う。節約するために少量の小麦粉でつくったところ、焼くのは難しいけれどグルテンが多い肉厚な麩が完成した。その精神は今も生きており、洗い流したデンプンは捨てることなく、久寿(くず)餅(注3)の原料として関東などへ出荷している。

六代目は六田麩をPRしたいと、麩のメニュー開発に余念がない。麩かりんとうや麩ドーナツなどのお菓子のほか「麩の唐揚」も考案した。

「先人がもたらした六田麩の可能性を発信することで、全国の人に食べていただきたい。それが自然の恩恵を受けて商いしてきた私たちが地域にできる恩返しです」と六代目。

地域で大切に受け継がれる六田の麩を、ぜひ一度味わってほしい。

(注3)久寿餅
原料は小麦粉からグルテンを分離させた後の浮き粉で、主に関東地方で食べられている。「葛餅」の原料は葛粉。

  • ?強力粉に六田の伏流水を加えて練ったもの

    ①強力粉に六田の伏流水を加えて練ったもの

  • ?さらに練って何度も水で洗い流すとグルテンができる

    ②さらに練って何度も水で洗い流すとグルテンができる

  • ?グルテンに小麦粉を混ぜたものを1本分の量に切り分ける。六田ではほんの少ししか小麦粉を混ぜない

    ③グルテンに小麦粉を混ぜたものを1本分の量に切り分ける。六田ではほんの少ししか小麦粉を混ぜない

  • ?熟練した職人がグルテンをのばしながら棒に巻きつけていく

    ④熟練した職人がグルテンをのばしながら棒に巻きつけていく

  • ?10〜15分ほどかけて1本ずつ焼いていく

    ⑤10〜15分ほどかけて1本ずつ焼いていく

  • ?棒から抜き取った麩を一晩乾燥させて完成

    ⑥棒から抜き取った麩を一晩乾燥させて完成

  • 文四郎麩の六代目・齋藤文四郎さん

    文四郎麩の六代目・齋藤文四郎さん

  • 六代目とともに伝統の麩の製造に取り組む齋藤幸信さん

    六代目とともに伝統の麩の製造に取り組む齋藤幸信さん

  • 「文四郎麩」の敷地内にある井戸。伏流水が湧き出している

    「文四郎麩」の敷地内にある井戸。伏流水が湧き出している

  • 文四郎麩が経営する麩料理処「清居(せいご)」の一品「煮物」(焼き麩と季節の野菜)。これ以外にも造りやあんかけなどさまざまにアレンジされた麩の懐石料理が味わえる

    文四郎麩が経営する麩料理処「清居(せいご)」の一品「煮物」(焼き麩と季節の野菜)。これ以外にも造りやあんかけなどさまざまにアレンジされた麩の懐石料理が味わえる

  • ?強力粉に六田の伏流水を加えて練ったもの
  • ?さらに練って何度も水で洗い流すとグルテンができる
  • ?グルテンに小麦粉を混ぜたものを1本分の量に切り分ける。六田ではほんの少ししか小麦粉を混ぜない
  • ?熟練した職人がグルテンをのばしながら棒に巻きつけていく
  • ?10〜15分ほどかけて1本ずつ焼いていく
  • ?棒から抜き取った麩を一晩乾燥させて完成
  • 文四郎麩の六代目・齋藤文四郎さん
  • 六代目とともに伝統の麩の製造に取り組む齋藤幸信さん
  • 「文四郎麩」の敷地内にある井戸。伏流水が湧き出している
  • 文四郎麩が経営する麩料理処「清居(せいご)」の一品「煮物」(焼き麩と季節の野菜)。これ以外にも造りやあんかけなどさまざまにアレンジされた麩の懐石料理が味わえる


(2016年9月2日取材)

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    機関誌 『水の文化』 54号,食の風土記,水と生活,食,山形県,麩,技術,ものづくり,料理

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