• 機関紙 56号目次

水の文化 56号 雲をつかむ

雲入門
いつでも、どこでも、  見上げれば雲はそこにある
雲の案内人に聞く「雲の魅力」

インタビュー
村井昭夫
(むらい あきお)さん

雲の案内人・石川県立大学客員研究員・気象予報士

石川県金沢市生まれ。信州大学卒業。北見工業大学大学院博士課程修了。雲好きが高じて気象予報士(No.6926)となる。2012年9月に雪結晶の研究で博士(工学)取得。「Murai式人工雪結晶生成装置」で日本雪氷学会北信越支部雪氷技術賞(2007)受賞。著書に『雲三昧』『雲のカタログ』『雲のかたち立体的観察図鑑』『空の図鑑』『雲百景』『雲の見本帳』、訳書に『驚くべき雲の科学』がある。雲の撮影と著述業、雪結晶の研究に専念するため、2017年3月末で中学校教員を退職。ブログ「雲三昧」で雲と空の写真や動画、情報を公開中。

(左)『雲のカタログ』(草思社 2011)
(右)『雲の見本帳』(エムディエヌコーポレーション
  2016)
(左)『雲のカタログ』(草思社 2011)
(右)『雲の見本帳』(エムディエヌコーポレーション 2016)

ふわふわと空に浮かび漂う雲。その魅力はいったいどこにあるのか――。本特集のナビゲーターとして、「雲好き」が高じて雲の写真集・書籍をこれまで7冊上梓した村井昭夫さんにお会いした。村井さんが雲に心惹かれる理由を尋ねることで、雲の魅力が浮き彫りになるはずだ。村井さんが撮影した雲の写真を眺めつつ、基礎知識や撮影の心得などを学ぶことからスタートしよう。

手前の雲は下層の積雲群、奥に見えるのは上層の巻雲。手前の雲は下層の積雲群、奥に見えるのは上層の巻雲。高度が違うことがわかる (P.6〜13の雲の写真はすべて村井昭夫さん提供)

「雲」との出合いは教材づくりから

―雲に惹かれたきっかけとは?

今春、定年まで数年残して退職しましたが、私は中学校の理科の教員でした。石川県教育委員会の指導主事になったのが40歳のとき。若い先生たちを指導する立場になり、「教員自身が楽しめるような教材をつくろう」と思い、教材のテーマを「雲」に決めたのです。それが雲に心惹かれるようになったきっかけです。

理科や社会の教員は「周辺の知識」が大切です。教科書をそのまま教えても、生徒は興味を抱きにくいもの。実際に植物を採りに行く、トカゲを触ってみるといった好奇心をもとにした経験が必要なのです。教員自身が遊ぶように学び、そのなかからおもしろいと思ったことを教材にすれば、きっと生徒たちも関心をもつはずだと考えたのです。

当時、私と同じような考えの教員が数名いましたので、彼らと一緒にトルコの皆既日食やスウェーデン・アラスカのオーロラを観に行きました。私は大学時代に気象学を学んだこともあって「雲で教材をつくろう」と考えたのですが、実はあまり知らなかったので雲について改めて勉強し、写真も撮るようになったのです。

どこでも観察できる唯一の自然が「雲」

―雲の魅力とはなんでしょうか。

一つめは「どこでも観察できる」ということでしょう。日食やオーロラ、珍しい鳥を見るには、その場所に行かないといけない。ところが雲は、空さえ見られれば誰でも観察できますね。朝起きて窓を開けても、玄関から一歩出ても、たとえ会議中だって窓さえあれば雲を見ることができます。

また、雲は「まちなかに残された唯一の自然」でもあります。つまり、もっとも身近で最後まで残っている自然なのです。空を見上げるだけで、太古から繰り返されてきた雲の発生と消失を見ることができます。

三つめは「同じ雲には二度と巡り合えない」ということ。雲は刻一刻と形を変えますし、大きさもさまざまです。

気に留めない人の方が多いと思いますが、実は私たちの頭の上では時間とともにいろいろな雲が湧き、流れ、あるいは消えています。そんな自然の営みが繰り返し起きているのは、おもしろいですよね。

雲の基本は10種類 まずは眺めることから

―雲について簡単に教えてください。

雲は、空気が何らかの原因で上空へ持ち上げられたときにできる現象です。雲の正体は大気に含まれる水蒸気が凝結してできた水滴や氷の粒。直径0.1mm以下と小さいので軽く、地上に落ちることができないため空に浮かんでいるのです。

また、雲の基本は10種類です。これを「十種雲形(うんけい)」と呼びます。これは1956年(昭和31)、世界気象機関(注)によって定められたもの。雲ができる高さを三つに分け、さらに塊、層状、降水を伴うかなどで分類しています。私たちが日ごろ呼んでいる「ひつじ雲」は高積雲(こうせきうん)、「うろこ雲」は巻積雲(けんせきうん)が正式名称です。

誤解されやすいのですが、「飛行機雲」は10種類に含まれていません。飛行機を発明してから出現するようになった人工の雲だからです。

―私たちのような「雲の初心者」はまず種類を覚えるべきですか?

たしかに、雲を見ていると「あの雲はなんですか?」と必ず聞かれますからね。ただし、分類として10種類は粗いですし、雲は動きながら変化します。例えば高層雲が発達して雨を降らせる乱層雲になることもある。それに十種雲形からさらに「種」「変種」「副変種」など細分化されているので、雲の種類で引っかかって挫折してしまうよりも、まずは雲を見て、興味をもったら少しずつ種類を覚えていくのがよいでしょう。

―きれいな雲を見つけやすい時間帯や季節はあるのですか?

まず時間帯ですが、雲には凹凸がありますので、太陽の光が横方向からあたるとき、つまり朝と夕方は陰影や立体感が出やすく、日中よりも美しい雲を見つけやすくなります。

ただし、上空に現れた雲の形や並びがきれいで、空も青く澄み、横からあたる光の角度もちょうどよいという「きれいな雲の条件」がすべてそろうのは非常に稀なことです。

季節ごとに現れやすい雲はありますが、このあとどんな雲が現れるのかの予測は難しいです。というのも、地上にいる私たちが見られる雲の範囲はあまり広くないんですね。雲の高さにもよりますが、せいぜい30km程度。ですから、次に来る雲がものすごく美しい並びかもしれないし、さっき通り過ぎた雲は芸術作品のような形だったかもしれません。

例えば積乱雲が発達して生まれる「かなとこ雲」なんて30分くらいで消えてしまいます。つまり、雲と人は一期一会なのです。

(注)世界気象機関
世界の気象業務の調和と推進に必要な企画・調整活動にあたる国連の専門機関の一つで略称はWMO(World Meteorological Organization)。1950年3月23日に設立。本部はスイスのジュネーブにある。2017年、インターナショナル・クラウド・アトラス(ICA)を30年ぶりに改訂し、雲の新しい種・変種などが追加された。

夕暮れの高積雲。空の色を活かすと幻想的な写真が撮れる夕暮れの高積雲。空の色を活かすと幻想的な写真が撮れる

雲が好きになると生きる楽しみが増える

―村井さんのように「雲好き」と呼ばれる方々は男性が多い?

私の印象だと3分の2は女性ですね。男性がマニアックになりがちなのに対して、女性は雲を見ること、写真に撮ることを純粋に楽しんでいます。雲や空、虹などの情報を常にSNSで共有している女性グループもありますよ。

―写真に撮るのはなぜでしょう?

雲を好きになると、その次に「雲について勉強する」「雲の撮影にハマる」という二つの楽しみ方が生まれます。私は雲好きが高じて気象予報士の資格を取りました。

雲を見ていると「自分で撮りたい」と思うのが人間の性(さが)のようです。雲に限らず鳥や鉄道も被写体として人気ですが、きれいな写真を手に入れたいのならプロの写真集を買えばよいのに、わざわざ自分で撮るのだから不思議ですね。

―雲の撮影で大切なことは?

常にカメラを持ち歩くことです。「あっ、いい雲だ!」と思ってからカメラを取りに行ってもたいてい間に合いません。雲は神出鬼没ですから、見つけたらパッと撮る。備えとしては、自分の生活圏内で空が見渡せて、電線が邪魔にならない開けた場所をいくつか見つけておくといいでしょう。クルマで通勤している人なら、違反せず安全に駐車できる場所を覚えておくと役立つはずです。

雲を撮るなら広い範囲を写せる広角レンズがあると迫力が出ますので、レンズが交換できる一眼レフカメラかミラーレスカメラがお勧めです。ただし、最近のスマートフォンのカメラは高性能なので、雲と空をパノラマで撮影するのも楽しいです。それにスマートフォンならサッと取り出して撮れますからね。

―これから雲を見てみようと思う人たちにアドバイスを。

楽しみ方は人それぞれでよいと思います。種類はわからなくても「何かに似ている雲」ばかりを撮り集めてもいいですね。雲が好きになると人生の楽しみが増えます。私には「何の目的もなく暮らしている」という瞬間がなくなりました。歩いていても、自転車に乗っていても、山を登っていても―。

今、この瞬間にも雲は湧いています。ぜひ空を見て、自然の不思議さ、雄大さに気づいてください。いつでも、どこでも、見上げればそこには雲があるのですから。

十種雲形 
雲の基本は10種類。これは世界共通の分類 [ ]内は通称

上層雲 (5,000m〜12,000m)

  • (1) 巻雲(けんうん)
[すじぐも、しらすぐも]
    (1) 巻雲(けんうん)
    [すじぐも、しらすぐも]
  • (2) 巻積雲(けんせきうん)
[うろこぐも、さばぐも]
    (2) 巻積雲(けんせきうん)
    [うろこぐも、さばぐも]
  • 巻層雲(けんそううん)
[うすぐも、かすみぐも]
    (3)巻層雲(けんそううん)
    [うすぐも、かすみぐも]

中層雲 (2,000m〜 7,000m)

  • 高積雲(こうせきうん)[ひつじぐも、まだらぐも]
    (4)高積雲(こうせきうん)
    [ひつじぐも、まだらぐも]
  • 高層雲(こうそううん)[おぼろぐも]
    (5)高層雲(こうそううん)
    [おぼろぐも]
  • 乱層雲(らんそううん)[あまぐも]
    (6)乱層雲(らんそううん)
    [あまぐも]

下層雲 (地表付近〜2,000m)

  • 積雲(せきうん)[わたぐも]
    (7)積雲(せきうん)
    [わたぐも]
  • 
層積雲(そうせきうん)[くもりぐも、うねぐも、まだらぐも]
    (8)層積雲(そうせきうん)
    [くもりぐも、うねぐも、まだらぐも]
  • 層雲(そううん)[きりぐも]
    (9)層雲(そううん)
    [きりぐも]

対流雲 (雲底は下層、雲頂は上層)

  • 積乱雲(せきらんうん)[かみなりぐも、にゅうどうぐも]
    (10)積乱雲(せきらんうん)
    [かみなりぐも、にゅうどうぐも]

『雲のカタログ』『雲の見本帳』を参考に編集部作成

十種雲形の名前のルール『雲のカタログ』『雲の見本帳』を参考に編集部作成

雲の種類と高さ、形、雲ができるしくみ

雲は高さや形によって10種類に分けられている。ただし、積乱雲と乱層雲は層をまたぐ雲は高さや形によって10種類に分けられている。ただし、積乱雲と乱層雲は層をまたぐ
『雲のカタログ』を参考に編集部作成

空気が上昇する主な原因 
雲ができるのは空気の上昇がきっかけ。代表的なのは上記の3パターン空気が上昇する主な原因
雲ができるのは空気の上昇がきっかけ。代表的なのは上記の3パターン
『雲のカタログ』を参考に編集部作成

雲ができるしくみ
空気が上昇すると温度が下がり、水蒸気が凝結して水や氷の粒になると雲ができる雲ができるしくみ
空気が上昇すると温度が下がり、水蒸気が凝結して水や氷の粒になると雲ができる
筆保弘徳さん監修・著『まなびのずかん 気象の図鑑』(技術評論社 2014)を参考に編集部作成

雲の代表的な種・変種・副変種(例)

基本となる十種雲形から、見た目や並び方、特徴によってさらに細分化されている


見た目の形状で分類

  • 高積雲の「レンズ雲」
    高積雲の「レンズ雲」
  • 積雲の「雄大雲」
    積雲の「雄大雲」
  • 層積雲の「塔状雲」
    層積雲の「塔状雲」
  • 巻層雲の「毛状雲」
    巻層雲の「毛状雲」

変種
並び方や厚さなどで分類

  • 巻積雲の「蜂の巣状雲」
    巻積雲の「蜂の巣状雲」
  • 高積雲の「波状雲」
    高積雲の「波状雲」
  • 巻雲の「もつれ雲」
    巻雲の「もつれ雲」
  • 高積雲の「半透明雲」
    高積雲の「半透明雲」

副変種
部分的な特徴や付随してできる雲で分類

  • 積乱雲の「かなとこ雲」
    積乱雲の「かなとこ雲」
  • 高積雲の「尾流雲」
    高積雲の「尾流雲」
  • 高層雲の「乳房雲」
    高層雲の「乳房雲」
  • 積雲の「ずきん雲」
    積雲の「ずきん雲」

(注)いずれにもあてはまらない雲形もある
『雲のカタログ』『雲の見本帳』を参考に編集部作成

成長する積乱雲

「積乱雲」が発達して「かなとこ雲」を形成するまでの9分間の変化。短時間に雲が変わる様子がよくわかる

「積乱雲」が発達して「かなとこ雲」を形成するまでの9分間の変化。短時間に雲が変わる様子がよくわかる

11番目の雲「飛行機雲」

古い飛行機雲の横に新しい飛行機雲が生まれる。飛行機雲は十種雲形には含まれないが、身近な雲の一つだ

古い飛行機雲の横に新しい飛行機雲が生まれる。飛行機雲は十種雲形には含まれないが、身近な雲の一つだ

夕暮れを活かして撮る

太陽が沈んだ直後の、青に染まった空と高積雲
太陽が沈んだ直後の、青に染まった空と高積雲
黄金色に輝く高積雲の夕焼け
黄金色に輝く高積雲の夕焼け

たまには雲に近づきたい

分厚い乱層雲を抜けた先に広がる別世界。飛行機の窓からは地上では見られない、雲のほんとうの姿が見られる
分厚い乱層雲を抜けた先に広がる別世界。飛行機の窓からは地上では見られない、雲のほんとうの姿が見られる
飛行機から撮影した、地表に落ちる積雲の影
飛行機から撮影した、地表に落ちる積雲の影

昼とは少し違う「夜の雲」


月明かりに照らされる高積雲。「夜は太陽や地表の光や熱を受けないので、昼とは少し異なる表情を見せます」(村井さん)
月明かりに照らされる高積雲。「夜は太陽や地表の光や熱を受けないので、昼とは少し異なる表情を見せます」(村井さん)

何かににている雲を撮る

空に浮かぶ魔女の顔。
空に浮かぶ魔女の顔。「難しいことは考えず、童心にかえって雲を楽しむのもいいですよ」(村井さん)
こっちに向かってくるゴジラのように見える積雲
こっちに向かってくるゴジラのように見える積雲

雲はスマホでも楽しい!

スマートフォン内蔵カメラで撮ったパノラマ写真。一眼レフカメラとはまた違う雰囲気が楽しめるスマートフォン内蔵カメラで撮ったパノラマ写真。一眼レフカメラとはまた違う雰囲気が楽しめる

(2017年4月12日取材)

PDFダウンロード

読者アンケート
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

目次

ひとしずく(巻頭エッセイ) 自分が飲んでいる水の源 池澤夏樹
特集 雲をつかむ  
入門 いつでも、どこでも、見上げれば雲はそこにある 村井昭夫
知恵 銘茶を支える、雲による天気読み 静岡市葵区
最新研究 天気予報の今と台風研究の最前線 筆保弘徳
文化 中世の絵巻に見る「雲」の役割 五味文彦
生活 「雲の監視」でフライトはより安全に ANA
表現 「ただそこにあること」が雲の魅力 黒井 健
 雷雲を追いかける男 青木 豊
 今、この時代だからこそ、雲を哲学する価値がある 小林康夫
文化をつくる たまには楽しみたい「雲 時間」 編集部
水の文化書誌47 セーヌ川は流れる 古賀邦雄
食の風土記 8 塩の節約と島の自然が生んだ「くさや」 編集部
魅力づくりの教え 8 
流れを創る事業者たち松山市中心市街地と道後温泉
中庭光彦

ページの先頭に戻る