機関誌『水の文化』28号
小水力の包蔵力(ポテンシャル)

小水力発電の普及は住民参加型の発電所運営が鍵
環境を自分たちの力で守るエコ意識

太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、化石燃料に替わる新しいエネルギー源を調査・研究し、国内外の情報を日本に普及させる活動を行なっているのが、財団法人新エネルギー財団(NEF)です。 「日本の風土に適した小水力発電」と言われますが、海外ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。その現状や、日本が果たしている役割についてうかがいました。

(財)新エネルギー財団

上松 秦介
(財)新エネルギー財団
水力本部調査部

上松 秦介

礒野 淳一

(財)新エネルギー財団
水力本部国際部
礒野 淳一

橋本 雅一

(財)新エネルギー財団
水力本部国際部
橋本 雅一

橋本 信雄

(財)新エネルギー財団
水力本部国際部
橋本 信雄

『新エネ大賞』
(財)新エネルギー財団は、新エネルギーの普及促進を図ることを目的に「新エネ大賞」(新エネバンガード21)を実施している。平成8年度(当初の名称は「21世紀型新エネルギー機器等表彰」)から、公募で集められた新エネルギー機器の開発及びその導入普及啓発などの活動の内、優れたものを表彰している。
「新エネ大賞における新エネルギー」の定義は次のとおり。1.太陽 2.風力 3.雪氷(雪、天然氷) 4.バイオマス(発電/熱利用/燃料)5.廃棄物(発電/熱利用/燃料) 6.温度差 7.クリーンエネルギー自動車 8.天然ガスコージェネレーションシステム 9.燃料電池 10.その他再生可能エネルギー(小水力/地中熱/波力など)。
山梨県都留市の「小水力市民発電所元気くん1号」(コラム「水力発電のまち アクアバレーつる」参照)は平成18年度第11回「新エネ大賞」優秀導入活動地方公共団体部門で『新エネルギー財団会長賞』を受賞している。水資源が豊富な地域特性を活かして、市民参加型の小水力発電所を設置し、併せて普及啓発につながる広報活動の実施している点が、行政主導の導入促進事業の規範として高く評価されたことによる。

小水力発電ヨーロッパでの事情

ヨーロッパ諸国でも、日本と同じように大規模水力発電の開発がほぼ終わり、比重は小水力に移っています。ヨーロッパでは発電力1万kW以下を「小水力」ととらえていますが、地球環境問題の高まりで、再生可能エネルギーによる電力供給の比率を大きくすることが求められており、その一つである小水力開発についても議論が行なわれています。

国際エネルギー機関(IEA : International Energy Agency)の水力実施協定に1995年、当時の通産省、外務省、科学技術庁から実施機関として指定され、当財団が調印し、以後そこでの活動を通して情報を収集しています。現在この実施協定に加盟しているのはノルウェー、フィンランド、スウェーデン、カナダ、ブラジル、中国です。

再生可能エネルギーにかかわる実施協定には、水力をはじめ、太陽光、地熱、バイオマスなど10の実施協定があります。当財団は、加盟当初から水力実施協定の中に設けられた環境分野及び、教育分野の作業部会の活動に参画し、2006年度からは小水力作業部会の活動に参画しています。現在、参加各国やヨーロッパ小水力協会と連携して、最新技術を探ったり、情報を集めています。

ヨーロッパの河川は、日本に比べると年間流量が比較的安定しています。灌漑水路もよく整備されています。EU15カ国で運転中の小水力発電所は約1万4000カ所あり、その出力計は1万800MWにもなります。近年は、既設発電所の設備更新が活発に行なわれているようです。さらに閘門(こうもん)開閉の水位差を利用して、タービンをつけて無駄に流れてしまうエネルギーを回収したり、イギリスの湖水地方でも石積み建屋の中に景観を壊さないように設置された発電所など、未利用のポテンシャルを環境と適合してうまく開発している例があります。

各国の小水力開発の促進策としては、長期固定価格買取制度(Feed in Tariff)やグリーン電力証書が、多くの国で採用されているようです。やはり再生可能なエネルギーをもっと増やそうという視点から、法体系を整備して強力に後押ししようという姿勢が見受けられます。

インドネシア・コタワイ発電所

インドネシア・コタワイ発電所
4村430戸を対象とした出力93kWの電化計画。流量0.57m3/s、落差37m。自然の岩場(淵)を利用し、取水ダムを省略。発電用水車はインドネシア製のクロスフロー水車。
写真提供:(財)新エネルギー財団

東南アジア諸国での地方電化

東南アジアには、まだ未電化地域が多いですね。例えばポルポト独裁という不幸な歴史を持つカンボジアは、国内に水力発電所が2カ所あるだけで、ほとんどがディーゼル発電となっており、国全体の供給能力も30万kWに満たない。しかも、その8割は首都プノンペンで消費されてしまいます。隣国のタイやベトナム、ラオス(予定)からの輸入電力などでその場をしのいでいる状況ですが、その3国ももちろん電気が余っているわけではありません。

「電化率を100%にしよう」というのが、東南アジアの国々共通のエネルギー政策ですが、多くの国の中央政府にもそのために必要な資金はなく、大規模な発電施設の開発財源は海外援助に頼っている現状です。

当然、未電化地帯には、まだ送電線もきていない所がかなりあります。日本では送電網(グリッド)が整備され、大規模発電所からの電力供給(グリッド電力)が100%なされているのに加え、自然エネルギー用にマイクログリッド(小規模送電網)の可能性についても議論されているわけですが、東南アジアでは基本的な送電網が整備できていない状態なんです。彼らも電気が欲しいから送電線がくるのを待っているけれど、くる保証はない。だから別の形で電化を進めたい。これがアジアの課題です。

ところが、そういう村にも電化製品はあるんです。自動車用のバッテリーを充電して、例えばテレビを見ていたりする。東南アジアの貧しさと一口に言っても、今晩の食に困る所もあれば、自然採集でそこそこしのげるような、日々の食糧に困るほどではない所もあるんです。極端な話、雨露がしのげる家があり、近くに川とバナナの木があれば「大丈夫」、というような大らかさもある。そういう所では、電灯はもっとも基本的な電気使用ですが、冷蔵庫よりテレビやカラオケなどの情報・娯楽ツールの需要が高いんです。

ラオスやベトナムでは、「ピコハイドロ」と呼ばれる500W規模の水力発電装置が20ドルほどで売られています。家の裏側に流れている小川でも、石などで小さな落差をつくれば、そこに入れるだけで発電できるタイプです。個人レベルで手軽に使えて便利ですが、端子部分や家に電力を引き込む電線が剥き出しで、感電の危険性も大きいため安全性を高める必要があります。未電化の集落では、電気がくるのを待っていたら10年も20年もかかりそうなので、「自分で使う電気は自分でつくろう」、という気運を感じますね。そこで日本などが援助して、電力会社からの配電系統がつながっていない地域でも電化が進められるようにしています。

一番簡単な電源はディーゼル発電機です。しかし、これに使う軽油は値上がりを続けています。ディーゼルを使っている人たちから、「燃料費が払えなくて止まってしまった」、「軽油を節約するために、今まで5時間給電していたのを2時間にしなくてはならない」などの声を聞きました。

そこで、大きく期待されているのが、小水力発電なんです。24時間発電できる小水力なら、昼も夜も電気が供給され、夜中も仕事や勉強ができる。それで生活レベルが向上し、電気を買うお金にも困らなくなる。ローカルな地域の人々にとって大事なことは、大きな発電所をつくって送電線を引くことに時間をかけるのではなく、送電線が無くても早く電力の恩恵を手に入れるようにすることなんです。

小水力発電で、こうしたプラスの循環ができればいいなと思っています。

フィリピン・マハグナオ発電所

フィリピン・マハグナオ発電所
3村300戸を対象とした出力65kWの電化計画。流量0.45m3/s、落差25m。水圧管路に日本の技術基準で定められている管厚より薄い管を使用。発電用水車はインドネシア製のクロスフロー水車。
写真提供:(財)新エネルギー財団

マイクロ水力発電の実証試験

当財団では1996年から、インドネシア、ラオス、ベトナム、フィリピン4カ国の未電化地域で、単独系統のマイクロ水力発電の実証試験を行ない、マイクロ水力発電所を建設・運営支援してきました。

この実証試験の目的は、日本国内の規制基準にとらわれずに、発電設備の大幅な合理化・簡素化・海外資機材の導入などを行ない、それらの耐久性・運用性・性能を評価することでした。また、副次的効果として、海外の未電化地域の電化を進める手助けができるという意味もありました。

発電所の規模は、いずれも100kW前後。この規模の発電所を実証試験の対象としたのは、300kW以下の日本の発電所をすべて調べた結果、100kW規模のものが一番多かったためです。

また、実施地域では1世帯当たりの消費電力が150〜200W。そのため、100kW規模の発電所で対応できることを基準に計算し、候補地を300〜500世帯の集落に絞りました。

発電所の建設に最適な場所を見つけても、需要地が離れていればアクセスのための道路つくりから始めなくてはならず、実現は難しいため、候補地選びは難しかったですね。一番困ったのは、流量観測です。水力発電の計画を行なう場合、日本なら最低10年間の観測データを参考にしますが、アジアの大半の国には河川の流量を観測するシステムが整備されていないんです。

対象国のうち、ベトナムだけは一部包蔵水力調査を行なっていましたが、前提条件が違う上、充分な観測ではなかったため、必要なデータは得られませんでした。結局、1年中でもっとも雨量の少ない乾季の流量を調査し、その量で100kWの発電が可能な地域を実証地点に選びました。

実証試験の期間は6年間。最初の1、2年で調査と建設を行ない、残り4年は試験運転をしてデータを収集しました。

水力発電の場合、耐用年数は30〜40年ですから、私たちが引き上げたあとは、地元の人たちが責任を持って管理していかなくてはなりません。ですから地元の人たちによる組合組織をつくって、試験運転期間の4年間で管理、運営を覚えてもらってから引き渡す形にしたんです。

これは、このプロジェクトの大きな成果の一つで、発電所の保守管理の中では、村人総出で取水ダムに堆積した土砂を定期的に取り除いたり、運転日誌を几帳面に記録したりして、技術的にも経済的にも自立した管理・運営ができるようになり、現在も順調に運転が続けられています。

ベトナム・ナチャ発電所

ベトナム・ナチャ発電所
5村552戸を対象とした出力120kWの電化計画。流量0.30m3/s、落差54m。水路は地元でも補修可能な石積み水路。発電用水車はイギリス製のターゴインパルス水車(ノズルから噴き出す水の力で水車を回す中・高落差用水車)。
写真提供:(財)新エネルギー財団

モチベーションアップ

フィリピンのレイテ島中部につくったマナグナオ発電所のように、試験運転直後につまずいてしまった例もあります。

ダナオ湖から流れるアワサン川の上流につくったこの発電所は、流量や河川勾配、それに村へのアクセス面でも恵まれ、順調にスタートしたはずでしたが、当初目論んでいたほど電気が使われず、いきなり運営難に見舞われたのです。徴収した電気代だけでは作業員の給料が払えず、運転員は仕事を放棄してしまいました。

初期投資費用が準備できないことが原因でした。電気メーターや屋内配線は利用者の自己負担としたため、そのお金が払えない人たちが大勢いて、需要が増えなかったのです。そこで、「貸付」という方法が考えられました。ローンを組んで、地方政府からお金を貸し付けることで、電気メーターや屋内配線の経費を払うことができるような仕組みをつくったのです。多数の人に重荷にならない程度の少額金融を行なうマイクロ金融の手法を取り入れたわけです。

しかし、これだけでは根本的な解決にならないため、その地域にもともとあったマニラ麻の産業を利用した村おこしを考えました。

マニラ麻はアバカという植物の葉を漉いてつくられます。それまでは漉いて繊維にした状態で出荷していましたが、それを紙やロープなどに加工して売ることにしたのです。繊維のままより、二次製品として出荷するほうが収入は増える。それに加工の過程で使う電気も増えるため、村の電化組合も潤います。電力を投入し、生業が豊かになって、現金が入るようにしたわけです。

これらの実行の過程で、ワークショップを頻繁に開きました。我々が年に2、3回の頻度で村に行くとき、村の人に集まってもらい、ディスカッションします。期限を決めて目標設定を行ない、前回立てた目標は達成できたか、できなかった場合何が悪かったのか、解決するにはどうしたらいいか、誰が責任を持つか、といったことをみんなで話し合っていく、ワークショップによる参加型の計画手法を含むPCM(ParticipatoryCommunity Management)を用いました。

効果は絶大でした。マニラ麻の産業は発展し、電気の需要も増えて、安定して給料を受け取れるようになった運転員は継続して働いています。

人から説明されるだけではなく、常に目的意識や問題点をコミュニティの中で話し合うことで、みんなやる気が出てきました。施設を大事にするようになるし、運営もうまくいきます。電化に限らず、アジアでプロジェクトをうまく進めるには、この「応分の責任を自発的に持ってもらうこと」が鍵になる気がします。そうすれば、責任に応じた富が少しずつ手元に貯まり、暮らしを良くするために投資に回せるかもしれないし、それが地域を活性化する元手にもなります。

日本の技術援助の一環で、施設見学を通して途上国同士の情報交換を行なう場合があります。ラオスの村で組合員が自主運営している発電所を、カンボジアから見学に行ったそうです。その際、視察に参加したカンボジアの人々は大いに刺激を受けて「これなら俺たちだって、ちょっとがんばればできる」と言ったそうです。先進国といった遠い国の事例ではなく、レベルの近い国の成功例を見せるとやる気がわくんですね。これはモチベーションを上げるのに大いに役立ちます。このことは、日本でもたぶん同じでしょう。

ラオス・ナムモン発電所

ラオス・ナムモン発電所
7村469戸を対象とした出力70kWの電化計画。流量0.55m3/s、落差18m。取水ダムは布団籠をコンクリートで補強した構造。発電用水車は日本製のポンプ逆転水車(ポンプを逆転させる構造)。
写真提供:(財)新エネルギー財団

まず取り組みたいのは「標準化」

アジアでの実証試験で、簡素化した設備でも安全性を確保しながら運転できることがわかりました。しかしながら、コスト削減のためにはこれだけでは充分ではありません。

同様な計画諸元の開発計画に対する電気機器などの「標準化」もその一つであると思います。一般に日本の水力技術者は、とことん効率を追及します。落差が少しでも変わると、それに合わせて設計も変えるんです。そのこだわりのために、小水力発電の装置や設備もカスタムメイド傾向となってしまいます。「標準化」した製品開発、もっというと少々条件が変わってもほどほど効率がいい「緩い製品」の開発が、コスト削減に貢献する可能性があります。

海外には、すでに何段階かの標準タイプを市販しているメーカーもあります。ベトナムのナチャ発電所に採用した「ターゴインパルス水車」などもその一つです。

こうした標準型の発電装置の開発は、コスト削減の一策と思われます。

「環境を自分たちの力で守る」エゴ(エコ)意識

日本の場合、アジアの未電化村の人たちのように「発電が自分の生計に結びつく」切実さはありません。日本で小水力発電を進める鍵になるものがあるとすれば、それは環境意識だと思います。

小水力発電を含め自然エネルギーを利用した発電は、他の電源に比べて経済性に劣るものの、環境に負荷を与えないで電気をつくることが可能です。それを使えば少しでもCO2の排出量を減らすことができますから「環境に配慮した生活を送りたい。そのために多少高い電源にも投資をする」という、良い意味での自己満足意識が満たされるでしょう。

小水力発電の普及も、そこに「環境を自分の力で守る」という意識が加われば、ぐっと推進力が増すはずです。



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