機関誌『水の文化』45号
雪の恵み

新エネルギーとしての雪資源
克雪から利雪へ

雪は、人間の基本的な生存権を大事にする〈環境未来都市〉をつくるのに有効だ、というのが媚山政良さんの考えです。視線の先には、いつも人の暮らしがある媚山さん。現代技術や科学を駆使することで、雪がいかに人の暮らしを豊かにするか、教えていただきました。

媚山 政良さん

室蘭工業大学大学院工学研究科教授 工学博士
媚山 政良(こびやま まさよし)さん

1946年北海道札幌市生まれ。室蘭工業大学工学部卒業、北海道大学工学研究科博士課程修了後、1976年より室蘭工業大学文部技官、83年より同大工学部機械システム工学科熱流体講座熱エネルギー研究室助教授。専門分野は熱工学、放射熱伝達、雪工学など。雪冷房・空調システム、冷温乾燥などさまざまな冷熱利用の研究、施設の設計を行なう。1985年氷室型農産物長期貯蔵庫(北海道幕別町)、1994年全空気方式雪冷房システム(山形県舟形町)、1996年低温もみ貯蔵施設(北海道沼田町)、1999年冷水循環式雪冷房システム(北海道美唄市)、2000年沼田式雪山(北海道沼田町)、2005年雪山-雪洞式雪冷房システム(北海道豊浦町)など。
主な論文、著書に『圧縮式冷凍機によるガスタービンの吸気冷却』(日本機械学会論文集 1976)、『冬期間の自然冷熱エネルギーの利用に関する研究(氷室型農産物長期保冷庫の開発と実証実験)』(日本機械学会論文集 1987)、『雪−空気直接熱交換による空気の冷却』(空気調和・衛生工学会論文集 1998)、『熱交換器ハンドブックV編第11章 雪冷房システム』(省エネルギーセンター 2005)、『雪山横穴空洞式熱交換システムの開発に関する研究(イチゴ育苗ハウスへの雪冷房システムの利用)』(日本雪工学会誌 2007)など。

雪エネルギーの位置づけ

西暦2100年は特別な年です。今のまま使い続けていると、地下の資源は2100年には枯渇する、といわれているのです。

化石燃料の枯渇に対応するための方法として〈環境未来都市〉を構想しました。環境未来都市には、例えば大容量の排熱があるデータセンターの誘致やSmart Complex 構想(下の図を参照)が考えられます。

雪の冷熱を活用すれば夏の冷房にかかるコストを抑えられますから、積雪寒冷地でのデータセンターの実現は将来有望と思っています。私はそれをホワイト(雪)データセンターと名づけて、積極的にプレゼンテーションしています。

Smart Complex 構想というのは、〈共同体の複合体システム〉です。域内のエネルギーを効率良く利用し、生活基盤となる食物と住環境(暖冷房)の確保も図る、自給を基本とした新集落を想定しています。

熱は、温度順に適切な用途に利用するとエネルギーロスが減って環境負荷が軽減できます。そこに雪を冷熱として組み込むメリットがあります。雪は厄介ものとして、捨てられてきました。札幌市だけでも雪対策経費は年間150億円。1人当たりに換算すると1万円ぐらいになります。

私は札幌出身なのですが、札幌で育った子にとって雪は避けては通れない存在です。中学校のそばの河川敷は雪捨て場で、春先になると汚れた雪が目につきました。降っているときはあんなにきれいなのになんで汚れてしまうんだろう、と思って「何だか可哀想だな」と心に引っ掛かっていました。

雪捨て場というのは、悲しい呼び名ですね。札幌市では一冬に1800万m3の雪を排雪していますから、底辺775m角のスペースに10階建て(30m)の箱があるとすると、それがいっぱいになるぐらいの容積の雪が毎年捨てられて、ただ融け去っています。冷熱エネルギーととらえたら膨大な資源である1800万m3の巨大な氷山を、みすみす川へ捨てていることになります。雪の無念の泣き声が聞こえませんか。

雪には、冷熱エネルギー利用以外にもさまざまな意義と効果が挙げられます。

  • 省エネルギー効果(石油の代替)
  • CO2の排出抑制
  • 臭気・塵埃(じんあい)の吸収・吸着(フィルター効果)
  • 作物などの鮮度維持・でんぷんの糖化
  • 豪雪地帯と他の地域との差別化
  • その他:保湿効果、消音効果、芸術・遊びの素材

大学に入ってからはエンジンやボイラーの研究をしてきました。実は大学に入ってから「雪貯蔵の研究をやってみたい」と教官に話したところ、「春の終わりには雪なんか全部融けてしまうじゃないか」と反対されました。それで気持ちを封印してきたのですが、こんなに多くの可能性を秘めた雪は、まさに自然からの贈りものです。降らないところには存在しない資源だと考えると、厄介もの扱いはできなくなります。

そこで発想を180度転換して、克雪ではなく利雪と考えてみよう、と提案するようになりました。

雪融け水の効用

 雪の結晶は、中に核を持った六角形です(左図)。日本の雪の場合、核になっているのは中国の黄砂か日本海の塩。雪は融けるに従いザラメ状になっていきますが、そのときに核を表に押し出す性質があります。
 下から排水できるようにした容器に雪を詰めて上から25%まで雪を融かすと、この性質で表に押し出された核、つまり不純物が融けた水によって押し流されて容器の下から流れ出し、残った純水だけを取り出すことができます。これで硬度5度以下の超軟水になります。
 雪融け水は分子が小さくなるため、生物が吸収しやすいのです。実は、雪融け水が二日酔いに効くことは、経験則として実感していました。吸収しやすい水になるからでしょうね。この超軟水を農業に利用して、冷熱エネルギー以外にも雪を活かそうと考えています。

コージェネレーションにおける冷熱

 排熱を回収して利用することを、コージェネレーションと呼びます。ディーゼルエンジンサイクルは発電効率では火力発電サイクルにかないませんが、排熱も利用すると熱利用率を80%まで高めることが可能です。
 コージェネレーションをディーゼルエンジンで実現し、地域で電力とともに熱を「とことん」利用するモデルを以下のように考えてみました。

  • 菜種油や藻から精製した、再生産が可能な燃料を使う。
  • 熱併給発電(コージェネレーション)の主機として、ディーゼルエンジンを採用。
  • 周囲のコージェネレーションやソーラー発電とつなぐスマートグリッドを形成し、発電した電気は積極的に蓄電する。
  • 熱の遠距離輸送は困難なので、熱源であるコージェネレーションに近接して熱を有効活用する。

 このモデルからは、発電と熱を利用する新しい都市の在り方が見えてきました。持続可能な方法で生産された燃料を使えば、化石燃料に頼らなくてもディーゼルエンジンを動かすことができます。そして熱利用の部分に、今まで捨てていた「雪」を資源として活用しようと気づいたのです。

雪の意外な利用法

 氷の結晶はサッカーボールのような形をしていますが(上の図を参照)、その中心部には空間があり、ある温度と圧力を与えるとプロパンガスやメタンガスの分子を取り込むことができます。この状態を3日間ほど維持すると燃える雪ができます。
 冗談のような話ですが、世界に31億頭も飼われている牛、羊や山羊のゲップに含まれるメタンガスは、温暖化ガス総量の5%(国によっては 30%超)に達するといわれています。今は遺伝子組み換えやメタンガスを出す原因になっている胃の中の微生物を変更することで、ゲップを抑える研究が行なわれているほどです。
 ゲップのメタンガスを雪に閉じ込めて燃料として利用するというのは、雪の有効な利用法の一つになり得るのです。

雪利用の一般的な特徴

  • 雪の融解熱が大きいため、夏までの保存は比較的簡単な断熱構造体を用い容易に行なうことができる。
  • 雪の融解温度が0゚Cであるため、低温の安定した熱環境をつくり出すことができる。
  • 雪の表面積は広いため、空気を用いても水を用いても簡単な装置により冷熱を抽出することができる。
  • 冷熱を使用しても冷凍機によるような温排熱を排出しない(ヒートアイランド形成にかかわらない)。
  • 融解しつつある雪の表面で水溶性のガスと塵挨の吸収除去ができる。
  • 雪の冷熱を利用する装置、システムは簡素な構造でできるため安価であり、維持・管理は容易である。
  • 電力(化石燃料など)の大幅な節約ができる(1tの雪利用で13ℓの石油を節約し、35kgのCO2削減)。
  • フロンガスを使用しない。
  • 除雪と組み合わせることにより、雪対策に費やした経費、エネルギーを回収できる。
  • 0゚C以下の状態を冷凍機との組み合わせ、あるいは、寒材を利用することによりつくり出せる。
  • 太陽熱など他の自然エネルギーとの組み合わせ利用が可能である。
  • 夏まで保存する貯雪庫、貯雪槽、雪山が必要である。
  • 毎年、雪を集める必要がある。

氷室(ひむろ)の効能を実証

37歳で助教授になって自分の研究室を持ったころ、市内の若い技術者たちと「ヒートパイプ(注1)研究会」をつくる機会がありました。

優秀な青年技術者ばかりで、当初のヒートパイプの製造技術の開発という研究目的を半年で達成してしまったので、残りの半年間、何をしようかということになり、長年温めていた雪の可能性を氷室で実証実験することになりました。

農業のことは全然わからなかったのですが、導いてくれる人がいて、中川郡幕別町の農家の納屋を借り、雪の貯蔵庫を併設して長芋の「氷室貯蔵」に取り組みました。

長芋というのは貯蔵が大変難しく、減耗というのですが、しなびやすいのです。ところが氷室に入れたところ、300日経っても減耗率が5%以下で、農家の人がとても喜んでくれました。長芋よりも貯蔵が難しいごぼうも減耗率が低いことがわかり、農業普及員も驚くほどの成果につながりました。

しかも野菜、特に根菜類は凍りたくないものですから、でんぷん質が凍りにくい糖分に変わるので甘くなります。ジャガイモでもサツマイモより甘くなるんですよ。

植樹のための苗木を氷室で保存することも教えられました。生長させないようにするためらしいのですが、こうすると活着率が高くなるそうです。私たちが開発した氷室で育てた苗木が知床に植えられて、世界遺産になった。そう思うと、私まで誇らしい気持ちになります。

戦前はあちこちに氷室があって、沖に漁に行くにも雪を積んでいったそうです。進駐軍が来た途端に、そういうものは一切なくなった、と現地の人が言っていました。奈良には氷室神社という神社もありますが、私たちが開発を行なった当時には技術も記憶もまったく伝承されていませんでした。

氷室の記録は日本書紀にもあるほど、歴史が古い。そのころは毎年のことですから経験則で「こうやったらこれぐらいの雪が残る」ということで氷室をつくっていたのでしょう。

しかし産業化するには、確かな裏づけがないとなりません。私の仕事は、工学的な裏づけの上で、確実なものを設計することです。

(注1)ヒートパイプ(Heat pipe)
熱伝導性が高い材質のパイプ中に揮発性の液体を封入し、パイプ中の温度差を利用して液体を動かすことで、熱を移動させる仕組み。NASAにより人工衛星中の放熱に利用されたのが実用化の端緒である。

氷と雪の違い

氷室と雪室の違いは?と気になるかもしれませんが、特に違いはありません。

水は1m3で1t、比重は1です。比重が0.7(1m3で0.7t)以上が氷、0.7以下になると雪と呼ばれます。比重0.7というのは、通気性があるかないかの分かれ目です。雪崩が起きて遭難したときに、比重が0.7以上になると通気性がなくて人は呼吸できません。

雪はいわば、密度の低い氷です。氷をつくるには冷凍機が必要となり、その冷凍機を動かすには石油を燃料とした発電機が必要ですから、氷を1tつくるためには約10ℓの石油が必要となります。もしも降った雪を1tそのままで使えば、石油の消費を節約でき、約30kgの炭酸ガスの放出を抑制することができるという計算になります。

こういうメリットが認められて、雪氷熱利用は新エネルギー法(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)の施行令が改正された2002年(平成14)に新エネルギーと指定されました。

降ったばかりの雪の比重は0.2ぐらいしかありませんが、自重で少しずつ圧縮されていき、氷にもなります。ですから氷室と呼んでも雪室と呼んでもいいのですが、私たちが敢えて雪室と呼ぶのは、雪は運びやすく、整形しやすいという利点があるからです。つまり、冷熱エネルギー源として貯蔵するには、雪の状態で動かすほうが都合がいいのです。

雪は降らないけれど気温が低くなる地域では、氷をつくって代替できます。土を凍らせて凍土という形で冷熱を蓄える研究を、帯広畜産大学が進めています。雪国の湖の底には一年中5゚C程度の雪融け水が貯まっていて、もちろんダム湖の底も同様ですから、冷熱エネルギー資源は探せばまだまだ眠っているのです。

集めて貯めるとエネルギー

今の私たちは昔と違い、重機と手軽な断熱材と設計能力を利用することができます。これらを活用すれば、効率の良い冷熱エネルギー貯蔵が、昔よりはるかに簡単に実現できます。

実際、2009年(平成21)北海道の新千歳空港では雪山を築き、木の皮のバークで被覆する試験を行ない、翌年オープンした新ターミナルに雪冷房を開始しました。

新千歳空港の年降雪量は2〜3mに達します。各航空会社が飛行機に付いた雪や氷を落とすために融雪剤を吹きつけると、駐機場の雪と一緒に川に流れてしまうため、国土交通省は除雪した雪を貯蔵し融雪剤が自然に分解されるのを待つことにしました。

この雪解け水は約3゚C。それを5月から9月の5カ月間、冷房に生かすことになったのです。

雪を冷熱源として利用する面積は、約27万m2に及び、予想年間必要冷房負荷(9万7500GJ/h)の内の約18%をまかないます。この結果、CO2排出削減量は約1200t/年になりました。

縦100m、横200m、深さ2〜3mの貯雪ピットと呼ばれる巨大な空間に、除雪された雪が高さ約9mまで積まれます。

断熱用に厚さ5cmの発泡スチロールをポリエチレン製シートで挟んだカバーをかぶせるだけで、夏でもほとんど融けません。将来的には最大貯雪量を倍にして、CO2排出量2100t/年削減を目指しています。

地域密着型エネルギー

北海道は自然冷熱エネルギー利用の先進地です。

美唄市を例に挙げると、世界初の雪冷房マンションが1999年(平成11)誕生しています。美唄市が雪にこだわったのは、昭和30年代初期のエネルギー政策転換にあります。黒ダイヤ、つまり炭鉱景気に沸いたあとの地域経済は、農業を基幹産業へ転換して頑張ってきました。今では、北海道内3位、国内8位の稲作収量を誇る稲作地帯です。

ご多分に漏れず少子高齢化が進んでいますが、地域経済とエネルギーの自立を目指すために、雪を核とした産業クラスターを形成しようと取り組んでいます。

年間降雪量8〜11mの特別豪雪地帯であるということは、空からタダで資源が降ってくるということ。その資源をどうやったら利用できるかと、2004年(平成16)に自然エネルギー研究会(会長は専修大学教授 山上重吉さん)を立ち上げました。研究の目標の一つに雪山を選び、まずは、その模型づくりを行ないました。

翌年には実際に雪山を築造し、失敗もありましたが、後年、雪山による冷風利用の実用化に漕ぎ着けるなどの成果を得ることができました。

しかし私は、成果の中で最大のものは「雪山職人の連帯感」ではなかろうか、と思っています。働く人が楽しめない技術は継承されません。雪山や雪室をつくることで育まれた連帯感は、地域コミュニティを結びつけ、雪国の自立を後押しする強い力になります。

2100年への贈りもの

経済評論家の内橋克人(うちはし かつと)さん(注2)は

「今は競争よりも共生が大切。共生とは、連帯と参加と協同を原理としFoods(食料)・Energy(エネルギー)・Care(自給圏・権)など人間の基本的な生存権を大事にするということです」

と述べ、基本的な生存権であるFとEとCを大切にするという価値観の下で新たな基幹産業を創出し、持続可能な社会に変えるという経済モデルを提唱しています。

私が考えている〈環境未来都市構想〉は、内橋さんがいう基本的な生存権を雪国で実現するための設計図です。

地下の資源枯渇への懸念に対して、「沿岸海洋下にあるメタンハイドレートなどを代替すれば大丈夫」という楽観論もありますが、私は有限なエネルギーを使いきることに今の我々の無責任さと奢りがあるように思います。未来の子どもたちが所有するはずのエネルギーを使いきることが、なぜいけないのかをはっきりさせ、使用を避けたほうがいいと考えています。

2100年まではあと87年。私たちは生きてはいないけれど、子どもたちに未来を保障する責任がある。そのときに食の地産地消、エネルギーの地産地消、人の地産地承の実現が鍵になると思います。

地産のエネルギー、雪の活用は循環型社会への移行にとって、大変大きな切り札になるはずです。

(注2)内橋克人(1932年〜)
神戸新聞記者を経て、経済評論家。大量生産・大量消費を前提とした日本経済の弱点、市場原理主義に警鐘を鳴らしている。

(取材:2013年7月24日)



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