水と風土が織りなす食文化の今を訪ねる「食の風土記」。今回は、黒部川流域の伏流水を用いてつくられる夏の風物詩「水だんご」です。
砂糖と塩を混ぜた青きな粉をかけていただく「水だんご」
北アルプスの中央部を源とする黒部川。その水は地中にしみこみ地下水となり、富山県の黒部市と入善町の海沿いから湧き出る。これらは「黒部川 扇状地湧水群」として1985年(昭和60)の名水百選に選ばれている。
なかでも黒部市の生地(いくじ)地区は「生地の清水(しょうず)」と呼ばれ、湧水が多い。共同の洗い場や水汲み場など十数カ所残る。さらに、地中に鉄管を打ち込みくみ上げる自噴井戸「掘り抜き」の水を、今も多くの世帯が使っている。掘り抜きの数は約600。人びとは、上水道と井戸水を用途によって使い分ける。
「生地まち歩きマップ」を片手に清水を巡るとあちこちから水音が聞こえる。この街で夏に食されているのが「水(みず)だんご」だ。昔から、生地では夏になると冷たい湧水を利用してつくられた水だんごが店先に並び、夏の風物詩として親しまれていた。
生地公民館で「水だんご伝承『生地あいの会』」の方々とお会いした。代表の濵松佐知子さんを含めメンバーは9名で、この日は8名が来てくれた。見学だけのつもりが、「これつけて!」と衛生キャップを手渡され、軍手をはめ、さらにビニール手袋も重ねてはめた。編集部も水だんごづくりに挑戦した。
2001年(平成13)4月、生地に賑わいを取り戻したいと考える有志が「生地あいの会」を結成し、さまざまな活動を行なってきた。活動の一つとして、生地に伝わる水だんごづくりを絶やしたくないという思いから、水だんごをつくっていた河田屋さんからつくり方を教えてもらうなどして、水だんご伝承にも取り組んだ。
当時、週末に営業していた休み処「あい」やイベントを通じて、自分たちでつくった水だんごを提供し、水だんごづくり教室なども開いた。こうした活動が評価され、2022年(令和4)に「とやま食の匠」(注)に認定されている。
あいの会は2025年(令和7)3月に解散となった。しかし、「水だんご伝承」だけは残したいと、濵松佐知子さんが代表となって発足したのが水だんご伝承「生地あいの会」だ。
水だんごは上新粉と片栗粉を5対1の割合で混ぜた粉を使う。熱湯を注いで練り、蒸気が通るようにちぎって蒸し器に入れ、さらに餅つき機へ。1~2分搗(つ)いて取り出し、とり粉をつけながら直径2cmほどの棒状に伸ばす。長さ2cmに切り、粉をふるって落とし、最後は清水や掘り抜きの冷たい水で洗う。この仕上げこそ、水だんごの名の由来だ。
(注)とやま食の匠
富山に残る多彩な食文化を残そうと、その普及活動を積極的に行なえる個人や団体を認定する制度。
できあがった水だんごをいただいた。ぷりぷりしているが押し返すほどではない。白玉や餅とは違う不思議な食感。ひんやりしただんごと、甘じょっぱいきな粉の舌触りがいい。いくらでも食べられそうだ。
「食感のよさは、断面がきれいに整っているからです。河田屋さんの教えを受けたメンバーは、そこにもこだわっています」
そう話すのは、今年3月に解散するまであいの会の会長だった今浜保さん。今浜さんによると、水だんごは6月から9月頃まで食べていた。
「お盆には水だんごを家でつくったり、あるいは店で買ってきたりして、供え物にしていました」
濵松さんたちは、かつて10cmくらいの棒状で売られていたと話す。
「人数が多ければ細めに、少なければ厚めに、と人数に合わせて切り分けられるので便利でしたね」
メンバー7名のうち、4名の家には掘り抜きがある。外から嫁いできた人は、清水を見て「大切な水を捨てているようで『もったいない!』と思った」と口をそろえる。
夏でも手を10秒間浸けていられない冷たい水があるから生まれた水だんご。「水ダゴ」とも呼ばれて親しまれるこの涼菓が、いつまでも受け継がれますように。
(2025年5月27日取材)