第18回里川文化塾は、福岡からおはなしプロデューサーの川原ユウジさんをお迎えして、東京都水道歴史館(東京・文京区)にて、親子で体験する読み聞かせイベント「水のおはなし会」を実施しました。水を題材とした6冊の絵本の読み聞かせを通じ、子どもも大人も楽しみながら身近な水について考えをめぐらすひとときとなりました。
おはなしプロデューサー
ヴォイスメイクスクール理事長兼校長(福岡市)
川原 ユウジ かわはら ゆうじ
声と言葉をテーマに人材育成プロデューサー、おはなしプロデューサー、司会者として多方面で活躍中。絵本イベントは、福岡、東京、シンガポールで絵本の読み聞かせ公演出演。ラジオ番組はFM福岡「絵本ファンタジー」パーソナリティ、テレビ番組はNHK「おはよう日本」「福岡いちばん星」などに出演。九州大学大学院 芸術工学府シンポジウムで講演や岩田屋コミュニティカレッジ「絵本の読み聞かせ方」講師など講演活動を積極的に行ない、心と心をつなぐ語り手を育成している。
ミツカン水の文化センターアドバイザー
古賀河川図書館長 水・河川・湖沼関係文献研究会
古賀 邦雄 こが くにお
ミツカン水の文化センター事務局
原田 朱野 はらだ あやの
ミツカン水の文化センターは、「使いながら守る水循環」を学ぶ場として「里川文化塾」を開催しています。これまでの里川文化塾では、大人向けのフィールドワークを中心にプログラムを企画してきましたが、水の大切さは大人だけでなく、未来を生きる子どもたちにこそ伝えたいことでもあります。
そこで第18回は少し趣向を変えて、未就学児から小学生までのお子さんとそのご家族を対象に、「水」をテーマとした読み聞かせの会を行ないました。
小さいころにお父さんやお母さんに読み聞かせてもらった絵本の記憶は、温かい思い出としていつまでも心に残るものです。今、親子のコミュニケーションを育む体験として、「読み聞かせ」が改めて注目されています。読み聞かせは、自分で黙読するのとはまた違い、お話を「声」として耳から聞くことで、子どもの集中力を高め、想像力を豊かにし、本の世界に興味を持つきっかけになるともいわれています。
探してみると、絵本や児童書の中には、水を題材としたものが数多くありました。今回は、その中から「河童のお話」と「水の循環」をテーマに6冊の絵本を選びました。語り手には、おはなしプロデューサーとして活躍する川原ユウジさんをお招きし、プロによる読み聞かせを大人も一緒に楽しみました。また、会場である東京都水道歴史館の見学や、水に関する絵本・児童書の展示も用意しました。
6月の第2土曜日。梅雨の時期で空模様が心配されましたが、当日は暑いほどの晴天になりました。「水のおはなし会」には、3歳から小学3年生までの幅広い年齢のお子さんが集まりました。そしてお母さんだけでなく、お父さんやおばあちゃんも多数参加してくださいました。
はじめに、ミツカン水の文化センターの後藤喜晃センター長が「今日は、里川文化塾としても初めての新しい試みです。読み聞かせを通して、お子さんたちに水が自分たちにとって大切なものなんだということを感じてもらい、家に帰って親子で水の話をするきっかけになってくれればいいと願っています」と開会の挨拶をしました。
続いて、川原ユウジさんが前に立ちます。
「こんにちは!」
よく通るやさしい声が響いたとたん、子どもたちが一斉に川原さんに注目しました。みんな、これから何が起こるのだろうと真剣なまなざしで集中しています。語りかける「声」の持つ力の大きさを感じます。
すると、「絵本を読む前に、最初にみんなで『あいうえお体操』をしようと思います」と川原さん。
「あひるの『あ』はどんな口かな? 口を縦にあけて、ほら歯が見えますよ」。
両手を使って口のかたちを見せながら、子どもたちと一緒に大きな声で「あー」と発声します。「い」は口を横に開いて「いー」、「う」は口を小さくすぼめて「うー」、「え」は口角を上にあげて笑うように「えー」、そして「お」は口にたまごが1つ入るように「おー」。いつの間にか大人も子どもも笑顔で元気よく、「あー、いー、うー、えー、おーっ」と大きな声を出していました。
現代の子どもたちは、話すときに口をあまり大きく開けなくなっているそうです。正しい口の開き方を知ることは、とても大切だと川原さんは言います。一緒に大きな声を出して子どもたちの緊張がほぐれたところで、いよいよ読み聞かせの始まりです。
第一部は、昔から「水辺の妖怪」や「水の神」として知られる河童のお話です。
ヒサクニヒコ 作・絵(国土社)
頭にお皿、背にこうら。カッパの体ってどうなっているんだろう? いたずら好きの困り者。カッパの1日ってどんなふうだったの?
川内彩友美 編者(講談社)
人間から仲間はずれにされて、うさ晴らしに悪さばかりしている孤独な河童。旅のお坊さんから、人間に生まれ変わるためにはどうしたら良いのか聞いた河童は、日照りが続く村に現れて、命がけの雨ごいをするのでした。(©愛企画センター)
杉山亮 作/軽部武宏 画(ポプラ社)
ピシャッ ピシャッ……かっぱのぬれた足音が背後からせまりくる! 語りつぎたいおばけ話絵本シリーズ第三弾!
最初の絵本は、『杉山亮のおばけ話絵本 河童』。小さな女の子が釣りに行った父親の帰りを家で待っていると、そこへ現れたのは……。ちょっと怖い河童のお話に、子どもたちはあっという間に引き込まれていました。お話が終わって、川原さんが「河童、触ってみる?」と本を差し出すと、みんなこわごわ河童の絵にタッチして大騒ぎです。
2冊目は、テレビ番組でおなじみの『まんが日本昔ばなし』の絵本から、「河童の雨乞い」。人間と仲良くなりたいと願う河童の切ない姿は、一緒に聞いている大人の胸にも迫るものがありました。
3冊目はがらっと雰囲気を変えて、河童の生態を詳細に解説した『カッパの生活図鑑』です。河童のからだはどうなっているの? 河童の好きな食べ物は? 河童のお仕事は何? 1つひとつに詳しい説明とユーモラスなイラストが描かれていて、河童がとても身近な存在に感じられる楽しい絵本でした。
河童というのは、川や沼といった自然の水環境の象徴ともいえます。ときには人間にとって不気味で恐ろしい存在ですが、私たちの生活に豊かな恵みを与えてくれる大切な友だちでもあります。さまざまな河童のお話は、自然と人間とがどうすれば仲良く共存できるのかを考える1つのきっかけになったのではないでしょうか。
第一部が終わると、子どもたちが年齢別に2つの班に分かれて、本日の会場である東京都水道歴史館の館内を見学しました。
小学3年生以上の大きい子たちの班は、歴史館の説明員の方の解説を聞きながら館内の展示を見て回ります。江戸時代につくられた木製の上水管の実物展示を覗きこんで、「ここを水が通っていたんだ」「どうして木なのに水もれしないの?」と興味津々。江戸から現代までの水道の歴史を見学し、昔の人たちが生活水を得るためにさまざまな苦労や工夫を重ねてきたことが、今、毎日使っている水道につながっているのだということをしっかりと学んでいました。
小さい子たちの班は、「どうぶつクイズ」を楽しみました。「展示のなかに隠れているどうぶつたちを何匹見つけられるかな」。探検隊の気分で館内をくまなく歩き回って、展示パネルの挿絵などに潜む動物を元気よく発見していました。
レクチャーホールに戻ると、水に関する児童書・絵本の展示コーナーに集まり、思い思いに絵本を手にとって開いていました。「かっぱ」「森と水」「たまがわじょうすい」などさまざまなテーマで本を展示しましたが、とくに、さっきお話を聞いたばかりの河童の写真やイラストが載っている絵本は大人気でした。これらの児童書・絵本の収集は、古賀邦雄さん(古賀河川図書館長 水・河川・湖沼関係文献研究会)にご協力いただきました。
また、読み聞かせが上手になりたいというお父さんが川原さんに質問をして、読み聞かせのミニレクチャーを受ける場面もありました。
第二部は「水の循環」をテーマに、ふだん何気なく使っている水は、どこから来てどこへ行くのかを絵本を通じて学びました。お父さん、お母さんにも読み聞かせに参加していただき、その楽しさを体感していただきました。
ウォルター・ウィック 著/林田康一 訳(あすなろ社)
美しい写真と共に水の様々な働きについて学ぶ知識絵本。肉眼では見えない一瞬をとらえた写真が、身近な水とH2Oを結びつけます。
ジョアンナ・コール 著/ブルース・ディーギン イラスト/藤田千枝 訳(岩波書店)
クラス遠足が浄水場見学になって、がっかりしていたフリズル学級でしたが、しぶしぶ乗りこんだスクールバスは、気がつくとなんと雲の上に……雨粒に変身した子どもたちは、身をもって水の循環を体験します。
村松昭 作(偕成社)
発見とおどろきのある日本の川・多摩川。神様とお使いの男の子が雲にのって源流から河口までを空からみていく、鳥瞰地図絵本。(偕成社ホームページから引用許諾)
見ているだけで旅をしているような世界が村松さんの持ち味。山梨県甲州市の源流から羽田沖の東京湾までをめぐりながら、自然の様子や川と人とのかかわり、地域の歴史などを伝える。(朝日新聞 2008年3月25日から引用許諾)
受賞歴:日本図書館協会選定図書、全国学校図書館協議会・選定図書
『日本の川 たまがわ』は、空から眺めた多摩川流域の様子を緻密に描いたイラストが圧巻の絵本です。小さい子には少し難しい内容かと思われましたが、イラストを一緒に見ながらみんな楽しくお話を聞くことができました。
『水のたび フリズル先生のマジック・スクールバス』は、フリズル先生とクラスの子どもたちが体験する、ドキドキハラハラの奇想天外な浄水場見学のお話でした。ときどきページに出てくる「水の情報コーナー」は、お父さん、お母さんに順番に読んでいただきました。おうちでの読み聞かせに慣れていらっしゃるのか、皆さんとても上手に読み上げるので、子どもたちも喜んでいました。
6冊目は、『ひとしずくの水』。蛇口から落ちる水滴やシャボン玉など、普通には見ることのできない、さまざまな水の性質をとらえた美しい写真をみんなで楽しみました。
これですべての読み聞かせが終わりました。最後にみんなでもう一度「あいうえお体操」をして、「おはなしの会」は終了です。
ミツカン水の文化センターの皆さんと一緒に本を選ぶところから始まり、それから本読みの練習をしたり、版元へ許諾の手続きをしたりといった準備を3カ月ほど重ねてきました。
今回は、絵本を通して身近な水について考えるということで、私にとってもいつもと少し違った読み聞かせの会でした。ふだんのお話は5分から長くても7分くらいで、今回のように10分を超えることはあまりないのです。でも、小さなお子さんも、最後までとてもよくお話を聞いてくれましたね。
水に関する絵本は、探してみたらたくさんありました。科学や自然環境というと、どうしても難しい勉強になってしまいがちですが、こうした絵本を使えば小さいお子さんでも、お父さんやお母さんと一緒に楽しみながら学べるのではないでしょうか。
みなさん、今日はご家庭に戻って、ぜひ読み聞かせを楽しんでください。そのときに大事なのは、上手に読もうとか、間違いなく読もうとするのではなく、絵本に愛情を傾けることです。リズミカルに言葉を歌うようにして、お子さんに話しかける気持ちで読んでみてください。そうすると、読み手の自分も楽しくなると思います。それが一番です。子どもに読んであげるという態度では、なかなか子どもは楽しみません。自分も一緒にリフレッシュして絵本の世界を楽しもうという気持ちが大切です。
読み聞かせを楽しいと感じた子どもは、自分から本を読むようになります。そして次は自分がママやパパに本を読んであげたいと思うようになるのです。
今度、河童の本を見つけたら、ぜひ一緒に読んでください。今の子どもたちはゲーム世代、デジタル世代といわれますが、アナログの読み聞かせのすばらしさを1人でも多くのお子さんに、そしてそのご家族に体感していただきたいと思います。
「小さな子どもでも楽しめる企画でよかった。カッパについて詳しく話す機会がなかったので、読み聞かせは楽しかった」(40代女性)
「とてもわかりやすく話してくださり、よかったです」(50代女性)
「カッパの図鑑は本当に信じてしまうくらい詳しく、今5歳ですが、いくつくらいまで信じているカナ、と楽しく思いました」(40代女性)
「館内見学は幼稚園児には難しい展示かと思いましたが、楽しませていただきました」(30代男性)
「第二部の『めぐる水・旅する水』は、面白い視点の絵本でした」(30代女性)
「本日のような親子参加できる企画があれば楽しく過ごすことができます」(40代男性)
「読み聞かせに親の参加や、歴史館見学にクイズなどがあり、1日子どもの興味を引きつけ、親子の会話へとつなげるきっかけづくりが散りばめられていて、とても工夫された企画だと感じた」(30代女性)
「カッパは伝説の中だけの生き物だと思っていました。絵本展示コーナーは、絵本に触れて、好きに読めたのでよかった」(40代女性)
「子どもが絵本の読み聞かせを通して、興味を持ってくれた。1人で資料を見るだけとは食いつきがちがう」(30代女性)
子どもたちも感想を寄せてくれました。
「ここにきていちばんこころにのこったことは、すいどうかんのことです。水をだいじにしようと思いました」
「カッパの話がこわくておもしろかった」
「えほんたのしかった」
第18回里川文化塾「水のおはなし会〜河童の伝説とめぐる水の物語〜」は、約4時間という長いプログラムでしたが、子どもたちは最後まで騒ぐこともなく、集中して読み聞かせを楽しんでいました。ページをめくるごとに、怖がったり、笑ったり、絵本の世界に素直に入っていく子どもたちのまっすぐな心がとても印象的でした。
今回は、子どもたちが読み聞かせを通じて絵本に触れ、親子で身近な水について考えるとてもいい機会になったのではないかと思います。
(文責:ミツカン水の文化センター)