機関誌『水の文化』39号
小水力の底力

小水量発電の未来とは

小水量発電の未来とは

小水量発電の未来とは

小水力発電の中でも100kW以下のマイクロ水力にこそ、できることがある、と言う小林久さん。マイクロ水力には、かつての村の鎮守の神社のような役割があってそれはエネルギーを地域に取り戻す希望だ、と考えています。多くの困難を乗り越えてきた小水力発電。再生型自然エネルギーが注目される中、等身大の可能性を探ります。

小林 久さん

茨城大学農学部地域環境科学科教授 農学博士
小林 久(こばやし ひさし)さん

1955 年生まれ。1977 年新潟大学理学部地質鉱物学科卒業、1981 年静岡大学大学院農学研究科農芸化学専攻(修士)修了、1996 年東京農工大学大学院連合農学研究科生物生産学専攻(博士)修了。民間コンサルタント会社勤務、コンサルタント事務所主宰を経て、1997 年より茨城大学農学部助教授、2007 年より現職。2000 年より東京農工大学大学院連合農学研究科教授併任。全国小水力利用推進協議会理事。専門分野は、農村計画学、地域資源計画学。
主な著書に『有機性資源の利活用(改訂農村計画学)』(農業土木学会 2003)、『地域の力で自然エネルギー!』(岩波書店 2010)、『「水」の力、「土」の力』(生産性出版 2010)ほか

マイクロ水力にこだわる理由

私が、中小水力発電(3万kW以下)より小水力発電(1000kW以下)やマイクロ水力発電(100kW以下)を推進しようとしているのには、理由があります。

中小水力発電は一定の採算性が見込めるので、国が「自然エネルギーを優先する」と言いさえすれば、電力会社によってかなり開発されると思います。固定買取制度の導入により、その傾向はいっそう進みます。しかし、小水力発電(以下、1000kW以下の水力発電を「小水力」と表記)は、〈地域〉という言葉がいいのかどうかわからないのですが、それぞれの場所でやり始めないと、なかなか開発できません。経済性が低く、当面の事業としては割に合わないからです。

小水力は、町づくり、村づくりのために市町村が、構成員の福利のために土地改良区や協同組合が、場合によっては個人が「面白いから」という理由で開発しても構いません。中小水力発電とは、求めるものが違っていいのです。

昔は、木を伐り出したり山菜を取りに行ったりする山に祠(ほこら)をつくりました。祠は、地域の資源を生産供給する場だから畏敬の念を持ち、みんなで大切に維持するための象徴としてつくられたのだと思います。小水力発電所も、同じようにできないかと思います。

地域の水でエネルギーをつくるというのも、地域の大切な資源を生産するということになりますから、そこに注連縄(しめなわ)とは言いませんけれど、何かそれらしいシンボルをつくって、みんなが感謝するようになったりしたら素晴らしい。小水力発電は、地域にとって、そういう存在になれるのではないか、という気がしているんですね。

ですから、投資先を探している人だとか、儲け話を仕込んでくるような人だとか、金儲けを優先する企業だとかが、お金を集めて地方にドカンと小水力発電所をつくることに、私はあまり賛成できません。

水が、ただ流れていたり、きれいなだけではなくて、エネルギーという価値も生み出せるというところが、ものすごく大きな意味を持っているので、水は新しい価値を生む資源として、地域はその資源生産の場として、新たな意味を持つ可能性がある。地域と密接に結びついた資源生産を実現することができれば、治水の意味でも利水の意味でも、距離ができてしまった人と水や地域資源との関係が、再び近しい間柄になれるのではないでしょうか。

小水力発電の現状

新エネルギーに指定されたことや、さまざまなところからの働きかけが功を奏して、小水力発電は注目されるようになりました。しかし、固定買取の話が出たことで、また大きく様変わりしました。例えば、補助金は今、バタバタと削られています。経済産業省は、制度自体は残っているけれど、2010年(平成22)の後半から、新規分の採択はしないという方針を打ち出しました。

今残っているのは、農林水産省関係の補助金です。そういう意味では、『水の文化』28号「小水力の包蔵力」以降、ものすごく情勢が変化しました。一時期は、補助金競争のように、経済産業省も農林水産省も環境省も支援事業を実施しました。しかし、現在は次の段階に進んで、再生可能エネルギー利用促進の枠組み自体が、さらに変化したといえます。

私は、小水力発電の促進に関して、新たな枠組みは必ずしも有効であるとは思いません。水力の場合、もともと経済産業省が持っていた中小水力発電開発を支援するスキームに則って、3万kW以下、いわゆる中小水力と呼ばれる領域の開発における採算性を見込んで、固定買取価格が決まってきている、と考えてよいと思います。

特に3000kWとか1万kWの開発は、技術的には問題なく発電所はつくれるけれど、若干採算性に問題があるという理由で弾かれていた地点の開発です。たとえていえば、バックヤードに保管されている発電所適地という、電力会社の在庫のようなものです。条件が整えば、いつでもつくれるのです。買取価格が1円上がれば採算性の問題が解消する、さらに1円上がれば充分な利益が出るというような開発適地は、補助金云々ではなく、固定買取価格が上がると自動的に開発される、という構図です。

実は経済産業省と電力会社は、そのような地点をすべて把握しています。その地点把握の調査は包蔵水力調査と呼ばれ、莫大な国費を使って1910年(明治43)から全国規模で実施され、調査結果が蓄積されています。最も新しい調査は第5次のもので、結果は資源エネルギー庁が日本の水力エネルギー量としてまとめています。一方、この包蔵水力調査では把握されていなかったダム、水路などの既設構築物の遊休落差や余剰水圧(未利用落差)に関しても、経済産業省は1999〜2007年度(平成 11〜19 )にわたって「未利用落差発電包蔵水力調査」という調査を実施しています。

これらの調査実務は電力系のコンサルタントが行なっていますので、経済産業省と電力会社は、いくらの買取価格でどこが開発できるかを把握しているわけです。

水力発電出力規模別分類

「小水力発電事業化へのQ&A(改訂版)」(2005年〈平成17年〉(社)農業土木機械化協会)をもとに編集部で作図
編集部注:発電規模による分類は、時代や考え方によって異なる場合があります。

固定買取と小水力

中小水力を含めて、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーからつくられる電力を一定価格(注1)で、一定期間、電気事業者に買い取らせるという仕組みを定めた法律が、先の国会で成立しました。この法律は、現時点では割高な電力生産設備だが、将来的には望ましい電源なので、採算性が担保できる価格で必ず売れるようにして、設備導入やエネルギー資源利用を促進し、量産効果やマーケットメカニズムにより経済性改善を狙うというものです。特に太陽光発電に関しては、国として大いに進めたいと特別扱いされ、すでに2009年(平成21)から買取制度が運用されてきました。

非住宅用の40円は、導入促進にかなり寄与するかもしれません。

私は、他の再生可能エネルギーも同様に扱ってほしいと思っています。ヨーロッパでは種類別、規模別に利用促進が期待できるように、買取価格をスライドさせるチューニングという方法を取り入れています。

一般的に、小水力では、300kW、100kWに経済性の分岐点があるといわれています。現在の整備量の水準では、どうしても小さい発電システムはコスト高になってしまい、現状では、1000kW以下の小水力発電施設は、年間に20カ所程度しか整備されません。仮に、数千kW、1万kWと同額の買取価格を設定するのであれば、100〜1000kWは4分の1、100kW以下は2分の1の整備費支援が受けられるような補助金制度は残してほしいと思います。小水力に関して、1000kW以下の施設が新エネルギーという枠に入っているのは、経済性が劣るという理由ですから、何らかの配慮があってもよいはずです。

ところで、1kWの太陽光パネルのコストが、おおむね50万〜70万円ですね。数十kWの小水力発電の設備コストはまだ高くて、1kW当たり200万〜300万円かかります。しかし、通常の稼働率でいうと太陽光パネルは10%強、ざっと年間1000時間で1000kWhの発電量になります。一方、小水力発電は年間に6000〜7000時間は稼働してくれますから、1kW当たり、発電能力で6000〜7000kWhの発電をします。稼働率を視野に入れて計算し直すと、小水力は1kW当たり太陽光の6〜7倍の価格でもいいという計算になり、1kW当たり360万円で太陽光と同水準の設備コストと考えてよいということになります。つまり、年間導入量が桁違いに少ないにもかかわらず、すでに小水力は太陽光パネルより安いということです。

そうは言いながら、5kWの設備を入れようとすると、太陽光パネルは300万円で済みますが、小水力発電は1000万円。ここがネックなんです。ですから、小水力を対象に固定買取による利用促進を期待するのであれば、太陽光と同じような考え方で規模別に価格をチューニングする、あるいは集落や数十軒がまとまってコミュニティ単位で取り組めるように補助金制度を設けることが望ましいと思います。

小林久さんが提案する小水力の買取価格
数千kW、1万kW の施設に比べたkW価格の差額
300〜1000kWの発電施設 : 5円くらい
 100〜300kWの発電施設 : 10円くらい
 100kW以下の発電施設 : 15円くらい

(注1)買取制度小委員会の余剰電力の買取価格
住宅用太陽光発電(10kW未満)
48円/kWhから42円/kWh
非住宅用太陽光発電(学校や病院など)
24円/kWhから40円/kWh
(2011年〈平成23〉2月)

  • 発電設備の能力と実績

    発電設備の能力と実績

  • 発電設備の能力と実績

規制緩和が進む

1年半前ぐらいから、電事連(電気事業連合会)と国土交通省が「水力エネルギー有効利用対策検討WG」というワーキンググループを動かして、水力をエネルギー資源として使うことを前提に、前向きな議論をしているという話を聞いています。電事連ですから、規模の大きな水力が多いと思いますが、水力発電をするために望まれること、必要なことが、しっかり国土交通省に伝わり、前向きな議論がされているようです。

具体的には、国が管理している直轄区間以外の河川、知事が認可している一級河川からの既存の水利用を使って小水力発電を行なう場合、既存の水利許可を与えている知事の判断でよろしいという通達を出すところまできています。

また、地震直後の4月30日までの暫定対応として、1秒たりとも許可取水量を越えてはいけないという従来のルールを、1日平均で取水量を管理してもよいという措置がとられました。常に変化する自然の水の流れを相手に、秒単位で管理するのは相当難しく、うっかり越えてしまうことがないように、通常は95%ぐらいにセーブして取水し、多いほうに振れても水利権量を超えないようにして発電を行なっていました。それを1日平均にしてもらえば、若干多く取水することがあっても、1日のうちに調整すればよいので、100%取水が可能になります。これで、発電量は、すぐに5%ぐらい上げられます。

さらに、3・11の緊急対応では、水利権量以上の取水をしたため、国交省から取水を制限されたり、禁止されたりしていたJRの信濃川発電所とか、東電の塩原発電所などの取水制限処分を取り消す、あるいは維持流量分を削って発電量を増やすなどの暫定措置もとられました。

私もビックリしたのですが、確か地震直後の14日、16日にこのような規制緩和のための通達が出されました。ワーキンググループでの議論という下地があったためと評価できます。

小水力利用促進において、水利権にかかわる規制緩和が最も大きな問題だという人が多い。しかし、私は「公費を注ぎ込んだ施設」の使い方、公共財の在り方に関する、より中核的な法律の本筋を問い直すことのほうが、もっと重要な問題だと考えています。既存施設の新たな利用、地域・地球と将来の持続性や便益の実現のためには、「公費を注ぎ込んだ施設」の使い方、公共的利用に関して、もう少し幅広い解釈を求めてもよいかもしれません。そのためには、「公共とは何か」という、本格的な議論が必要です。

実現のための心構えとは

最近では自治体の長が「小水力発電をやろう」と言い出して始まるケースが増えています。そういうときには、まずは担当になった人に興味を持ってもらいたいと思います。「やらされている」という感覚でいたら、うまくいきません。スタート時に、担当者が、興味と関心を持つことさえできれば、必ずうまくいきます。

「やらされている」という感覚の担当者の場合は、機械の性能や仕様にあまり疑問も持たないので、例えばコンサルタントの言いなりになって、必要以上の設備になったり、価格が高くなる恐れが生じやすい。一方、興味を持った担当者は、関心や疑問を持って理解しようとしますので、事例を調べたり、実際に見に行ったりして、知識も、視野も、人脈も広がるので、より妥当な判断ができるようになります。

例えば、適地がどこにあるか、ということに関しても、興味を持った人たちは、自分の足を使って探すようになります。そうすると、「昔、ここでも発電していた」とか「水車があった」というお年寄りの声を拾うこともできる。今なら、まだ「おらが村に電気を」という大正、昭和初期の記憶を持つ人が残っていて、眠っている地元の情報を集めることができます。

小水力の場合は、利水だけではなく災害、治水も関係しますから、お年寄りからも専門家からも、「知恵を借りる」という意識が大切です。適地探しと並行して、地元についてくわしい人と出会えれば、地域の資源を開発する上でのヒントがいっぱい見つかります。熱心に取り組む人は、必要な情報や知恵を集めるためのツテを探せるのです。

適地に関して、堰はとても重要な情報です。これは、「おらが村の電気」よりさらに古い歴史を遡ることになるのですが、今はもうつくらなくなってしまった山の上のほうの田んぼの水を取水する堰の記憶は、小水力発電の適地選定にとても役立ちます。「上にも、昔は田んぼがあってね」というお年寄りの記憶をたどって堰を見つけることができれば、有力な小水力候補地を探したことになるかもしれません。

村史をひもといたり、年配の方の記憶を頼ったりして集める歴史的資産は、小水力開発ではとても大切なのです。したがって、小水力発電に取り組むということは、地元学のように地域を見直すこと、地域を見立て直すことにつながるんです。

自治体が小水力に取り組む場合、集めた情報はどんどん公開するといいですね。自治体内部にだけではなく、例えば河川事務所などにも情報を示しながら、相談するとよいと思います。そうすれば、いざ決まったときに、すぐに、調整作業や手続きに入れます。

電力需給をデザインする

各家庭の電力消費は、分ごと、時間ごとに違い、日によってもデコボコがあります。電子レンジと一緒にドライヤーを使うときもあれば、冷蔵庫しか使っていないときもある。だから、1戸、1戸の電力需要を満たすような発電システムの設計はとても難しいといえます。しかし、需要が塊になると、電力消費が平準化されて、必要な電力量の推計ができるようになり、需要に見合う電力供給システムを設計できるようになります。

例えば、30〜40戸の家庭の電力需要が塊になると、分単位の需要が、ある幅の中に収まるようになります。こうなると、常に使う電力量、つまり常に供給しなければならない電力量を決めることができます。これがベースフローと呼ばれる部分で、現在の大規模電力システムでは、原子力、石炭火力と一部の水力がまかなっている部分です。ちなみに電力需要が30〜40戸で塊になったとき、ベースフローは15kW程度で、1軒当たり400〜600Wです。

一方、朝や夕方にはテレビを点けたり、電子レンジを使ったりするので、電力消費は増加します。これをピーク需要といいます。30〜40戸が塊となるピーク需要は、25〜50kWで1戸当たり最大で1.5kW程度の水準です。40戸の家庭が、同時に電子レンジやドライヤーを使うことはないので、塊になるとピークも平準化されるのです。

このように、30〜40戸の塊の電力需要は20kW程度のべースフローと20〜30kWのピークに対応する電力供給でまかなうことができます。この電力供給を、小水力で全部やろうとすることは難しいかもしれません。しかし、ベースフローを供給するだけでも、購入する電力量を下げることはできます。さらに、ベースフローを小水力発電で供給し、数時間のピーク需要を他の供給方法で補うということがデザインできれば、自立した小規模な電力需給ユニットをつくることができます。

例えば、太陽光発電と水力発電を組み合わせて、発電量が需要を上回るときはバッテリーに蓄電し、ピーク時に放電して利用する。あるいは、太陽光発電の電力で、水力発電に使った水をもう一度汲み上げて、ピーク時に追加の水力発電を行なう。揚水水車ならぬ、揚水太陽光パネルですね。小水力の場合、バッテリーだけではなく、ピーク需要をまかなう仕組みはいろいろ考えられます。

このような仕組みが進むと、スマートグリッド(注2)と呼ばれるようになり、EV(electric vehicle:電気自動車)への給電など含めて、本格的に自立分散型の電源を活用する段階に到達できます。

別の方法もあります。一例がデマンドコントロール(注3)です。

デマンドコントロールというのは、需要の上限に合わせるのではなく、供給量に合わせて優先順位の低い需要から切っていくという発想です。例えばパソコンにはバッテリーがあるので、供給量が足りないときはデマンドコントローラーで電源を切ってしまえば、その分だけ使用電力を下げられます。電化製品も優先順位をつけて、供給にあわせて需要側をコントロールすれば、比較的容易に需給マッチングが可能です。私は、このような需要側の制御も採用すべきだと主張してきました。私は、発電した電力は全量売電し、需要はすべて買電でまかなうという方法も否定しません。小さなエネルギーをうまく使えるような仕組みを、形式にこだわらずにデザインをすればよいと思います。

(注2)スマートグリッド:smart grid
デジタル機器による通信能力や演算能力を活用して、電力需給を調整することを目指した新しい電力網。中央制御コントロールの限界を見極めた、自立分散的な制御方式を採用し、電力網内での需給バランスの最適化と、事故などに対する対応性能を高めることで、必要となるコストを最小に抑えることを目的としている。
(注3)デマンドコントロール:demand control
電気料金の契約基本料金は、使用する瞬間最大電力(デマンド値)で決められるため、デマンド値を制御することで電力供給契約(アンペア契約)を低く抑えることが可能になる。電気料金を節約するほか、電力需要の全体量を抑えることに役立つ。需要者の使用電力を監視し、時々刻々と変化する使用電力を監視し、設定したデマンド値を超えると予測されると制御機能が働く〈デマンドコントロール装置〉の利用が進んでいる。

電気の質を下げるとコストが下がる

企業にとっての電力消費はコストですから、既にギリギリまで節電しています。この夏は、その上での節電要請ですから、多くの企業は本当に乾いた雑巾を絞るような努力をしたと思います。対して、家庭の節電は、まだまだ余地があります。電力需要を見てもわかるように、年々伸びている、というか増えているのは、家庭と事務系事業所の使用分です。

以前、富山でやったシンポジウムには、家庭の主婦や働く女性も参加してくれました。そこで、電気の質の話をしました。周波数や電圧が安定しているという電気の質も重要ですが、電気の質で最も大事なことは停電しないことです。その意味では、霞が関に供給されている電気が日本で最高品質といってよいかもしれません。

さて、そのシンポジウム参加者に「1年間に数回、1時間程度停電する電気だったら、どう思いますか?」と聞いたところ、女性陣は「我慢できる」と答える方がほとんどでした。ところが、そこに電力会社の人が出てきて、「いや、1時間でも停電すると困る方がいらっしゃいます」、それは「熱帯魚を飼っている人です」というのです。確かに、熱帯魚の水槽は、電気が止まると困るかもしれません。ほとんど停電しない電気供給の仕組みは熱帯魚のためですか、と言ってみんなで笑いました。

なぜ電気の質の話をしたかというと、周波数や電圧の変動が少なく、停電しない電気の供給には大きなコストが必要だからです。日本は、安定した周波数・電圧で、ほとんど停電しない電力を、山奥の1軒まで届ける仕組みを維持し、電力会社は、そのことが誇りなのです。しかし、本当に賢い電力供給システムでしょうか。年に数回停電するかもしれないけれど、電気代は2分の1です、といったら、そのような電気を選ぶ人がいるかもしれません。

供給する電気の質は、コスト、発電・給電のデザイン(設計)に大きく影響しますので、小規模で自立型の電力供給システムをつくる場合、使う側が暮らし方を考えて、どう使いたいのか、どこまで許容できるのかを合意することは、とても重要です。

小規模分散型の自然エネルギー供給を導入する場合、生産側の条件と需要側の条件、そして採用する技術と電気の質に対する許容水準などを、複合的に検討して、より合理的で妥当なシステムについて、多様な側面から、需要者を含めてデザインする必要があると思います。

新たな価値を生み出す小水力

甚大な被害を受けた今回のような地震は、多くの教訓を残します。しかし、常態にないことが自然であり、想定外も起こり得るのが自然です。今回の本質的な教訓は、「想定して何でも分析できる、制御できると考えること自体が間違いだ」ということ。しかし、それを受け入れられるかは疑問です。

被害を回復する膨大な作業を、本質的な教訓を活かして、マイナスをゼロにする作業ではなく、プラス側へ向かう作業にできないものでしょうか。想定外のことが起こっても対応できるという地域をつくることは、プラスに向かうための一つのアイデアではないでしょうか。そのためには、現行システムを見直す必要があるかもしれません。

私は、大規模集中型電力システムを見直すことが、プラス側に向かう一つのアイデアだと考えています。今回の福島第一原発の処理に地域がまったく関与できないという事実を見るまでもなく、大規模システムは地域の意思決定や人を排他し、技術を含めて集権的になりがちです。想定外のことが起こったときに、地域が自ら判断し、行動できるような、分権的な意思決定が行なえるような方向に向かって回復作業ができないものか、と思います。

そのためには、「回復の先のプラス側」に、地域が自らのものとして取り扱える仕組みを思い描くことが求められます。地域の主体的な小水力開発は、そのような自らのものとして取り扱える仕組みをつくり出すことです。しかも、それは「地域からエネルギー」という新たな価値を見い出す、生み出す作業でもあります。当然、このような試みは、被害を受けなかった地域でも、大いに取り組んでいただきたいものです。

しかし、地域が主体的に自らのものとして取り扱えるものは、一般的に地域性があり、どこでも共通というわけにはいきません。例えば、大きな都市がある平地で、小水力の適地を見い出すことは困難です。ただし、丹念に探せば探せないわけではありません。電力という新たな価値を生む小水力には、地域に応じたポテンシャルが、各地にまだまだあると思います。

分散複合型の可能性は

自然エネルギーなら何でもいいわけではありません。地域の人が、自分たちのためになるような方法で開発することに意義があります。

私が提案するような小水力発電を進めるには、発電・送電の分離とか、9電力体制の見直しとか、超えなくてはならないいくつかのハードルがあります。 

3・11でそれらの気運に火がついたように思えたのですが、残念ながら世の流れはメガソーラー発電とかウィンドファームの大規模風力発電といった、大規模電力システム維持の方向にシフトし始めています。自然エネルギーはエネルギー密度が薄いので、場所や時、それぞれのエネルギー資源の都合に合わせて生産したり、利用したりしないと有効活用ができません。

大規模システムの都合で抑制させられたり、停止させられたりすると、無駄が多くなります。ですから、自然エネルギーを基幹的なエネルギーとする社会を本気でつくろうとするのであれば、現行の大規模集中電力システムを根本的につくり替える必要があります。大規模集中型システムに合わせて、自然エネルギーの生産を拡大させると、小規模な自然エネルギーの需給、融通、流通の仕組みが回せなくなり、結局は現行システムを温存せざるを得なくなり、歪な形で自然エネルギーの利用が進むことになる可能性があります。私は、この点をとても危惧しています。

納めるべき所に納めるべき物がきちんと納められてこそ、整理整頓ができる。部屋を片付けるとき、てんでんバラバラにモノを納めていくと、どこに何があったかわからなくなってしまいます。それと同じで、現在の自然エネルギーブームは、取り敢えずこれ、取り敢えずこれ、という場当たり的なことが行なわれているような気がします。全体の供給は中央集中でコントロールしているのに、後づけで場当たり的に電力が生産され、結局半分も利用できないというようなことが起こるかもしれません。あとから見て、失敗だったということも出てくるでしょうし、無駄が多いと思います。各自然エネルギー資源の開発量も、しっかり見積もって、足りない分をどうするかについてもちゃんと考えなくてはなりません。

本当はこれを機会に、国が東電を買い取ってしまったらよかったという気もします。お金はかかりますが、補償も国の責任で行なえます。一括管理されている大規模集中型電力システムのインフラ、特に送配電網が公共財になって、フリーアクセスを実現しやすくなって、今までとはまったく異なるエネルギーシステムのデザインができるかもしれません。大規模集中型を根本的につくり直して、自然エネルギーを最大限活用するための本格的な分散複合型に向かえるかもしれません。

送配電システムを分離すると、発電事業者がどう送電・給電するか、電気販売事業者がどのように電力を調達・給電するか、送配電網管理者がどのような管理を行なうべきか、まったく新しい概念でそれぞれに技術開発や制度設計をすることが必要となります。その手間とコストが膨大だから、なかなか既存路線から抜け出せないのです。

しかし、小さな自然エネルギーの電源を活かせるように電力システムを根本的につくり直すことができれば、多様な規模・種類の電源から電力を調達し、多様な需要家が好みに応じて電源を選べるような未来の電力需給の仕組みが実現できます。そうすれば、自由競争が生まれるし、地域ごとに融通もできるようにもなる。売りたければ売れるし、余っても売れる、足らなかったら買えるようになる。

私は、こっちのほうが強い仕組みではないかという気がします。分散した電源や需要が需給調整しながら、あるいは近隣の分散電源と融通し合いながら集合して全体が成り立つようなエネルギーシステムで、細胞が集合して生物個体が成り立つ、個体が集合して群集が成り立つような仕組みです。

エネルギーシステムを根本的につくり替えるには、時間もお金もかかるけれど、今回は災いを転じて本格的な自然エネルギーの未来にシフトする良いチャンスだと思ったんです。しかし、どうやら今回も踏み切れないようです。踏み切れないとしたら、やはり今までどおり大規模集中型でやらざるを得ない。原発が、部分的にメガ何とかに変わるだけかもしれません。

残念ですが、私は地域の小水力発電にかかわるところから、今までのように自然エネルギーの可能性を追求していきたいと思います。

(取材:2011年7月1日)

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