機関誌『水の文化』39号
小水力の底力

工業高等専門学校の心意気
鶴岡工業高等専門学校

本橋 元さん

鶴岡工業高等専門学校機械工学科教授 
博士(工学)
本橋 元(もとはし はじめ)さん

1959年横浜生まれ。山形大学工学部を卒業後、東北大学大学院、山形大学助手、民間企業などを経て、2000年鶴岡高専機械工学科に着任、2010年同学科長。小型風車・マイクロ水力発電システムの開発に従事し、地方自治体等の自然エネルギー利用の取り組みを続ける。

2010年(平成22)10月16〜17日、山梨県都留市において、第1回小水力サミットが、「流れる水で地域が輝く」をテーマに開催された。初日のシンポジウムとパネルディスカッションに続き、2日目は「自治体の課題と挑戦」「小水力による農山村のエネルギー自立」「市民エネルギー事業としての小水力」「小水力甲子園〜高専生・高校生交流会〜」の四つの分科会に分かれて、事例発表と討議が行なわれた。

分科会4の「小水力甲子園〜高専生・高校生交流会〜」では、山形県の鶴岡工業高等専門学校と岐阜工業高等専門学校(ともに独立行政法人国立高等専門学校機構)、富山県立富山工業高等学校、山梨県立谷村(やむら)工業高等学校、熊本県立球磨工業高等学校の5校から、日頃の研究の成果が発表された。

若者の理系離れが懸念される中、自ら考え、つくり、実験を行なっている学生たちの発表からは、課題に取り組み、克服していく真摯な思いが伝わってきた。

中でも興味を引かれたのが、鶴岡工業高等専門学校(以下、鶴岡高専)の機械工学科5年生奥泉暢之くんが発表した「開放型マイクロ水車の実証試験と水車による水路のゴミ対策」だった。実際の小水力発電所でも水路のゴミはいつも頭の痛い問題である。技術的な開発に留まらずに、実際に設置した場合の課題まで視野に入れた研究に、大いに感心させられた。

そこで、指導教授である本橋元先生に、テーマ設定などの指導法を含め、お話をうかがってみた。

  • 国土地理院基盤地図情報(縮尺レベル25000)「山形」及び、国土交通省国土数値情報「河川データ(平成19年)、農業地域データ(平成18年)」より編集部で作図
    この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の基盤地図情報を使用した。(承認番号 平23情使、第357号)

風車から水車へ

「私が小水力発電の研究に携わったのは、クロスフロー風車の研究から始まっています。山形県の庄内町というと、みなさん、ウィンドファーム立川を思い浮かべられますが、私の前任者である丹(たん) 省一名誉教授が立川の風車にもかかわっているものの、当校の卒業研究とは直接の関係はありません。そもそも高効率のプロペラ型風車は、風切り音が騒音となって住宅街には設置しづらいという問題がありました。クロスフロー風車は風切り音がほとんど発生しないため、騒音の面からは有効なのですが、出力が低い。そこでクロスフロー風車に案内羽根をつけることで、出力の向上を目指しました」

本橋先生は、クロスフロー風車をもとに、風を水に置き換えて、効率良く回転する機構を研究してきた。その発端は、意外なことにネパールにあった。

「ネパールの山奥で電気が欲しい、という話が事の起こりです。山形県大石田町の寺の和尚さんから、偶然持ち込まれた話ですが、私も以前ネパールに行ったことがあって、現地の状況を知っていたので、風車よりも水車のほうが適しているだろうということで、研究を始めました。ネパールは急峻な山が多く、水の流れが急なので、そういう場所でも発電できる水車の開発を思い立ったのです。ただ、ネパールの話はそこまでで終わってしまいました」

「風と水というのは、流体力学の観点から見ると、同じ仲間です。水は風に比べて、比較的安定しています。また、密度の高いエネルギーを持っています。あとの違いというと、風の場合は、持っているエネルギーの範囲が広い。ちょっと台風がくると、風速20mも珍しくありません。水の場合は、そんなに極端に速さが変わることはありませんから、設計しやすいんです」

ただ、実験的に設置している所は農業用水路なので、田んぼに水を入れない時期は、水車にはほとんど水が掛かっていない。特に今年は6月末から7月上旬にかけて変化が激しく、水路からあふれるぐらいの大雨が降ったのだが、それ以降まったく雨が降らず、その後お盆明けに再び大雨に見舞われた。

このような気候条件や、水路に設置するわけだから、上流の取水状況などで水量が変化することは避けられない。実際に設置する場合には、変化する条件にどう対応していくかにも、工夫を重ねたという。その詳細は、写真のキャプションを参考にしていただきたい。

工業高等専門学校とは

工業高等専門学校は、主に工学・技術系の専門教育によって、実践的技術者を養成することを目的にした教育機関。後期中等教育段階を包含する、5年制高等教育機関と位置づけられている。

5年間の一貫した技術教育によって、実践的技術者を養成。その教育成果は産業界からも高い評価を得、5年制の課程を終えた卒業生の就職率は、ほぼ100%となっている。一方、進学を希望する学生の要望に応えるため、2年制の専攻科も設置されている。専攻科の修了生は、大学評価・学位授与機構の審査に合格することにより、学士の学位を取得できる。

設置初年度の1962年(昭和37)には、国立12校が開校。鶴岡高専は翌年に開校し、2期校と呼ばれる。2011年(平成23)4月1日現在、高等専門学校は国立51校、公立3校、私立3校の全部で57校ある。

みなさんの中にも、工業高等専門学校と聞くとNHKの高専ロボコン(アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)を思い起こす人があるだろう。1988年(昭和63)から続く、息の長い大会である。鶴岡高専でも全国大会に何度も出場し、1992年(平成4)から3年連続でアイディア倒れ賞を獲得している。課題ゲームの成績よりも独創的なアイディアが求められる当大会では、名誉ある賞といえるだろう。

また、風車のほかにもソーラーカーの研究も行なっている。ソーラーカーは公道を走れないという制約があるため、性能試験のためにラリーにも参加。2006年(平成18)は全日本学生ソーラー&FCカーチャンピオンシップのハーフクラスで、燃料電池ハイブリッド部門に参加し、2位となった。

このように、学校での学びがどのような役に立つか、実際にどんどん社会に出て行って、試していく気風を持った学校なのだ。

オープンクロスフロー水車

蕎麦屋の横にあるような、昔ながらの木製の水車は、ほとんど水が上から掛かる〈上掛け〉タイプ。

本橋先生が研究してきた水車はケーシング(外枠)を持たないオープンクロスフロー型。では、オープンクロスフロー型水車には、どのような特性があるのだろうか。

オープンクロスフロー型は上から掛かった水が水車の内部を抜けるので、いったん羽根に当たって力を発生させた水が、水車の下部でもう一度羽根に当たって仕事をするという、効率の良い水利用ができる。模型実験では、上掛け水車の約3倍の出力が実証された。

庄内平野の農業用水路の落差はほとんどが1m以下であるため、発電効率の高い水車の開発が、一番の課題だったのだ。

「模型実験では、羽根の枚数と長さ、角度を違えて試作したクロスフロー水車で、実験的に検証していきます。

回転数を変えながら、回ろうとする力、つまりトルクがいかに上がるかのデータを取ります。落ちてくる水と同じ早さで水車が回ると、早い回転が得られますが、水に逆らっていないのでトルクは得られません。ですから空回りするだけで発電はしません。逆に止まっているものに風や水が当たると、一番大きな力が得られますが、止まっているわけですから発電機を回す、という仕事をしていません。

ですから止まっているよりは動いているほうが良くて、水に逆らわずにトルクが得られなくなる状態よりゆっくり回転するという範囲の中で、最適な回転数が得られる水車を実験的に求めていくのです。

スーパーコンピュータがあれば可能かもしれませんが、図面から理論値で割り出すのは難しい。ここでは学生と一緒に実験をやったほうが、早く確実にデータが取り出せます。
 

実験により、羽根の枚数と長さ、角度が同じでも、全体の大きさが大きいほうが発電効率が良いことがわかっています。水が水車のどこに当たるか、水量などによっても、発電効率は変わります」

実験を積み重ねて得られたデータは、それぞれの学生が地道に取っていったものだ。水車自体の効率を検証して条件下でベストなものをつくるために、学生たちが毎年、コツコツと実験を繰り返した賜物が、これらのデータである。

「ケーシングを持たないクロスフロー水車の特徴は、だいたい四つに集約できるでしょう。

  1. ゴミが水車の上を通過するので、特に除塵機を設ける必要がない
  2. 少水量・極低落差で発電可能
  3. ケーシングがないため、軽量で安価、メンテナンスが容易
  4. 土木工事が不要で、設置工事が容易

ただゴミはそのままにしておくと、日本海まで流れていってしまうので、何らかの方法で除塵したいと考えています」

昨年の小水力サミットで発表した奥泉くんは「ゴミ対策」をテーマに選んだが、オープンクロスフロー水車との対比のため、胸掛け水車を使った実証試験を行なっている。

  • 縦横に走る用水路に設けられた落差工に、発電機が連続して2基設置されている

    縦横に走る用水路に設けられた落差工に、発電機が連続して2基設置されている。(もう1基はこれより少し下流側に)。

  • 発電に使われた水は、まったく汚されず減ることもないため、条件さえ合えば何回でも使い回すことができることを証明している。

    発電に使われた水は、まったく汚されず減ることもないため、条件さえ合えば何回でも使い回すことができることを証明している。

  • 水車に水を掛ける〈導水路〉

    水車に水を掛ける〈導水路〉(イラスト参照)の位置を変えられるようになっていて、メンテナンス時には、両脇のレールに沿って〈導水路〉を前に移動させて、水が水車に掛からないようにできる。水が水車のどこに当たるか位置調整も可能で、左に見える木材はそのためのスペーサー。〈導水路〉は中央に凹みがつけられ、水量が少ない場合に水を集めて、水車が効率よく回るように工夫されている。写真を見ても、中央部に水が多く集まっていることがわかる。

  • オープンクロスフロー水車

    オープンクロスフロー水車

  • 縦横に走る用水路に設けられた落差工に、発電機が連続して2基設置されている
  • 発電に使われた水は、まったく汚されず減ることもないため、条件さえ合えば何回でも使い回すことができることを証明している。
  • 水車に水を掛ける〈導水路〉
  • オープンクロスフロー水車

使い方も視野に入れる

風車から水車への転用のきっかけはネパールではあるが、本橋先生は、山形の庄内地方はもともと農業用水路が発達しているから、小水力発電ができないだろうかと思い、10年ほど前から研究室内で模型実験を続けてきた、という。

「田んぼに電気があれば、農作物を監視する映像を配信して盗難防止をしたり、水温管理、水門の自動開閉などができるようになります。
こちらの地域でも農業従事者の年齢が高齢化する傾向にありますので、電気を使ったシステムを導入することで作業負担が軽減できます」

本橋先生の発想は、まさに地域エネルギーとしての小水力利用の典型だ。

課題設定が前進の鍵

本橋先生は、「地域固有のクリーンエネルギー資源の実用化に向けた実証試験」(鶴岡市の「緑の分権改革推進事業」)の一環として、寺川用水路の第29号落差工と第30号落差工において、マイクロ水力発電の実用化を検証する実証試験を行なった。

その報告書の終わりには、

「機械・電気の技術に留まらず、水路や農業での水利用時期と発電並びにメンテナンス時期まで、総合的な判断が必要である」

「実施にあたっては、多くの法律上の問題も乗り越える必要があり、専門的な知識を持った構成員をも必要とする」

とある。農業用水には既存の水路が整備されているから、他の場所よりも小水力発電がやりやすいと思われがちだが、時期によって変動が大きい水量の問題などを考えると、一概に有利だとはいえないことがわかった。

これらの研究は卒業研究としてやっているもので、授業の一環ではない。ただ、研究発表をしているので、卒業研究生以外の学生にも、本橋先生がこのような研究をやっていることは周知されている。

使い方の設計も必要

今年度の卒業研究生、機械工学科5年生の阿部健太さんにも話をうかがった。

「僕の先輩が去年の11月ごろに、企業説明のために学校に来たんです。その中に水力発電の仕事があったので『自分もやってみようかな』と思って卒業研究に選びました。

研究は、まだ始まったばかり。現在、水路に設置されている水車は、先輩方が水車の形とか水路の勾配で発電効率がどう変わるか、という地道な研究をして開発したもので、僕はかかわっていません。

僕がテーマにしようと思っているのは、水車に水が掛かってくる所の形状を変えることが、発電効率にどう影響するか。

水が水車の羽根に当たって、羽根が少し動く。その間、水が羽根に当たらない時間があって、動いた羽根にまた水が当たりますよね。断続的に水が当たることになるから、常に水が当たっているより、騒音が大きい。水車に水が掛かる所の形状を変えることで、常に水が当たるようにできれば、騒音も解消できるようになるんじゃないか、と考えています。

先程、本橋先生が言っていたように、羽根の枚数と長さ、角度、全体の大きさ、水量や羽根への水の当たり方など、たくさんの条件が複合的に影響し合うので、最適なモデルを探し当てるのは大変です。しかし、そういう地道な実験を先輩たちがやってきてくれたので、今度は自分が〈水が掛かる所の形状〉という点に絞って、データを取っていこうと思っています」

卒業研究は、今年1年でまとめなくてはならないが、あと2年間ある専攻科の期間に、研究範囲を広げていきたい、ということだ。

「風力と水力はエネルギーとしては近いものですけれど、水のほうが人の生活により近い気がします。そんな水力から、エネルギーをうまく取り出すことができたらいいなあ、と思うのと、水は恐い側面も持っているから、制御することもちゃんと考えなくてはいけないと思います

水力に限らないとは思いますが、大きな力を持ったものを制御してうまく利用するということは、結局は使いこなす人間の側の問題なのだと思います」

科学技術の方向性や内容が、改めて検証される昨今、若い人からこのような発言を聞くと心強い。

理系離れについても聞いてみた。

「この学校にいると、そんなことは少しも感じません。

卒業研究発表は、4年生が聞きにいって自分の研究テーマを決めるのに参考にするんです。僕が聞いて面白いな、と思ったのは、野菜を容器に入れて圧力をかけて漬物にする研究で、一定の圧力をずっとかける場合と、圧力をかけたりかけなかったりを繰り返す場合で、どちらがうまく漬物になるか、という実験です。『こんなのも研究になるんだ』と感心しました。

自分だけで考えていると、一つの考えに凝り固まってしまいますが、ときどきほかの人の意見を聞くことも大切だと思いました」

阿部君が最後に言ってくれた言葉は、これからのエネルギー開発の進むべき道を示すものだ。

「小水力発電なんて、電力需要に果たせる役割は微々たるものじゃないか、と考えるのではなくて、マイクロ水力だからできることを考えていく。今、田んぼの土をかき混ぜる耕耘機のようなものを開発しているんですが、用水路で発電した電気で、その耕耘機をチャージできたらいいですよね。水車の設計だけでなく、使い方の設計も必要だということです。基礎データはコツコツと取っていく必要があるけれど、得られた電気をどこでどう使うかまで考えないと、用水路を有効に使った小水力発電はできませんしね。

結局、僕らがやっていることって、人の生活が楽になるように、科学を使うことなんですよね」

今後の日本において、自然エネルギーの果たさなくてはならない役割は、否応無しに増えていくことだろう。そのときには、「たかが知れている」とか「コストや効率が悪い」の一言で片づけられる時代ではなくなっているに違いない。いかに効率的にエネルギーを取り出せるかが問われていくことだろう。

工業高等専門学校の学生たちの柔軟な頭脳と心意気に、大いに期待が寄せられる。

  • 風車から水車に展開するきっかけとなった装置。

    風車から水車に展開するきっかけとなった装置。

  • 羽根の角度、枚数、幅など、さまざまなタイプを試して最適なモデルを検証した。

    羽根の角度、枚数、幅など、さまざまなタイプを試して最適なモデルを検証した。

  • 実験装置。

    実験装置。

  • 実験装置。

    実験装置。

  • 研究室には、風力発電の実験装置も置かれている。

    研究室には、風力発電の実験装置も置かれている。

  • 機械工学科5年生の阿部健太さん。

    機械工学科5年生の阿部健太さん。

  • 〈導水路〉の最適な形状をテーマにしようと考えている。

    〈導水路〉の最適な形状をテーマにしようと考えている。

  • 風車から水車に展開するきっかけとなった装置。
  • 羽根の角度、枚数、幅など、さまざまなタイプを試して最適なモデルを検証した。
  • 実験装置。
  • 実験装置。
  • 研究室には、風力発電の実験装置も置かれている。
  • 機械工学科5年生の阿部健太さん。
  • 〈導水路〉の最適な形状をテーマにしようと考えている。


(取材:2011年7月25日)

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