雪を貯蔵して、夏の冷房に活用している住宅があります。モチベーションを高めているのは、環境意識。システム導入にはコストがかかりますが、融けて消えてしまう雪が、エネルギーとして充分活用できることがわかりました。快適な室内環境とエコをかなえる、雪冷房の実力をうかがいました。
有限会社山良工務店代表取締役
山田 正人(やまだ まさと)さん
1967年、新潟県魚沼市生まれ。県立小出高校卒業後上京、(株)丸吉(現(株)ジャパン建材)入社。その後、地元建設会社を経て、(有)山良工務店入社。2004年(平成16)より現職。
新潟県魚沼市では、新エネルギーの活用を進めるために2004年(平成16)に〈地域新エネルギービジョン〉を策定しています。
2007年度(平成19)には、〈新エネルギーを考える会〉を立ち上げ、燃料に木を使ったストーブや太陽光発電などの研究会を月に1〜2回ずつ行なっていました。当社では14〜15年前から太陽光パネルの設置を手がけていたこともあり、その研究会に参画しました。
そのときに長岡技術科学大学の上村(かみむら)靖司先生が講師として来られ、雪を使った冷房はどうか、ということを提案されたのです。
年度末には、雪と薪を活用して魚沼らしいライフスタイルが提案され、その成果は〈ユキ★マキプロジェクト〉として、提言書にまとめられました。
提言書を出した2007年(平成19)の翌年から、魚沼市が雪冷熱エネルギー住宅に対しても補助金を出すようになりました。その補助金を利用して、2010年度(平成22)当社で最初に雪冷熱エネルギー住宅を建築しました。その後、2012年度(平成24)に2軒、施工しています。
換気のためのファンは電動です。魚沼市役所環境課で1シーズンのデータを収集し検証してもらったところ、エアコンだと1万3000〜1万4000円かかるところ、ファンを動かすための電気代だけですので、700円ほどで済むという試算が出ました。
魚沼というのは、新潟県内で最も暑くなることの多い地域です。冬の雪も多いのですが、夏に暑くなるので雪を溜めておくモチベーションは高いのです。
ちなみに暖房や屋根の融雪のために使われる灯油代なども馬鹿になりません。
勾配の緩い屋根で融雪システムを導入しているお宅では、燃料に灯油やガスを使っていますから、屋根の雪の処理にもお金がかかるのです。家やその年の降雪量などによっても違いますが、1シーズン20万〜30万円程度の灯油代がかかっています。最近になって灯油が値上がりしたことで、薪ストーブやペレットストーブへの関心が高くなりました。
最初に手がけたお宅は、傾斜地に建つため基礎部分が高くなった高床式の住宅です。その基礎部分の一部を雪室にしました。
雪室の壁と天井と床下に断熱材を入れて、春先のザラメになった雪を、家庭用除雪機で雪室に入れていきます。わざわざザラメ雪を入れるのは、入れた雪が締まり、長期保存に都合がいいからです。
最初の年は4月末の雪を貯蔵したのですが、この辺りは結構黄砂が飛んできて雪が汚れます。構造上、雪室の塵が室内に入ることはありませんが、やはりきれいな雪を入れたいということで、今年は3月に作業しました。
このお宅では約40帖の面積を冷房するのに約31tの雪を貯蔵しました。雪室の床面積は16帖、高さは普通の居室と同じ2.4mです。10月を過ぎても雪が残っていて、次シーズンに備えて融かさなくてはならないほどでした。
もともと締まっているザラメ雪を入れるのですが、時間が経つにつれて雪に圧がかかって氷に変わります。それで、ますます融けにくい状態になって保存されます。
実は雪冷房システムには、除湿や除塵、消臭効果があることもわかってきました。
雪室から得た冷熱を室内に取り込み、室内の暖かい空気を雪室に送る、という仕組みで冷房しますが、暖かく湿度の高い空気が雪室に送られて冷やされたときに、湿気は雪室の天井などに結露して、乾いた冷風が室内に送り込まれます。その際に、湿気も塵も臭いも雪室で落とされるのです。その代わり、雪室の雪はだんだん黒く汚れていきます。雪冷熱エネルギー住宅第一号のお宅には煙草を吸われる方がいるのですが、室内には煙草の臭いがまったくしません。
エアコンの冷房と同じで、温度設定ができるのですが、湿度が低いのであまり温度を下げなくてもひんやりして、快適な環境をつくることができます。
このように長所がたくさんあるのですが、設置コストが高いのが悩みの種です。工法としては難しいことではないので、どなたでもできると思うのですが、魚沼市では今のところ当社でしか取り組んでいません。
雪冷房にかかる費用の7割が市からの補助金の対象となりますが、採択されるのは1シーズンに1軒だけですし、期間が3年ということで始まった補助金制度ですので、いずれ終了するかもしれません。そういう事情なので、なかなか普及は難しいというのが現実です。
電気代を浮かせて、施工費用の元を取ろうと思うと無理があるのですが、環境に負荷をかけない生活をしようという視点で見たら、大変意義のあるシステムだと思います。実際に、導入されたお宅ではそういう意識でも生活されています。
雪冷熱エネルギー住宅といっても、立地条件などでいろいろなやり方があります。もう1軒のお宅では、家の横に屋根のない雪室をつくっておいて、母家の屋根から落ちる雪を直接受け止める形になっています。この方法だと除雪機を動かす燃料代が節約できますし、手間がかかりません。
もともと氷室の伝統がある地域でして、農業関係や酒蔵では、今でも雪を活用した冷蔵貯蔵が行なわれています。
自然に降る雪が、夏の冷房のエネルギーになるということになれば、生活の支障にもなっていた雪への見方が変わるのではないでしょうか。雪室の横に保冷室をつくって、野菜や飲みものを貯蔵するのにも利用されています。
この地方は、有名な米どころです。それも、雪のお蔭。夏暑くて冬雪深いという自然からの恵みです。
大羽賀(おおはが)一夫さん
あまり関心はなかったんですが、ちょうど建て替えるときに工務店さんから「市のほうから補助も出るし、やってみないか」と誘われたので、採用してみました。普通は基礎部を高くとって駐車場にすることが多いのですが、傾斜がある土地なので駐車場にはできず、どうせ物置ぐらいにしか使えないのなら雪室をつくるのもいいかな、と思いました。
電気料金の伝票も並べて見ているのですが、やはり夏の利用料金は減りましたよ。ただ、1階にしか冷風がいかないので、2階はエアコンを使っています。1階のリビングにいると快適なので、夕飯が済んでも、家族みんなでここにいる時間が長くなりました。
クーラーは冷たくなりすぎるけれど、この冷房はちょうどいい。雪の所を通ってくる風だから湿気てしまうようなイメージだけれど、逆に湿気が取れた空気がくるんですよ。不思議ですね。
特に蒸してきたときに、ファンを回すと快適です。
シーズンの変わり目には、雪室を一度空にして、塵を掃除して湿気を乾かさないとカビ臭くなってしまうんですよ。だから、あまり雪が残るのも問題なんです。
雪室に雪を入れる作業は、朝からやれば一日で終わります。4月に入ると黄砂も飛ぶし、杉花粉がすごくなる。それで今年は3月に作業しました。
前の家のときは雪下ろしをしていましたが、建て替えのときに自然落下するような4寸勾配の屋根にしてもらいました。この辺の家は、みんなそうなっていますね。敷地に余裕さえあれば、そのほうが楽ですから。そうして庭に溜まった雪を、家庭用除雪機で雪室に入れています。
2階は子どもと孫が住んでいて、昼間は仕事に出ているから雪冷房はいらないだろう、と導入しなかったのですが、日当たりが良いせいもあって帰ってくると暑いんだそうです。
1階で快適なことを体験してしまっているので、やはり入れればよかった、と後悔しています。どうせ雪が余るんだから、追加工事で2階にも入れられないか、山良さんに相談しているところです。
瀬下(せしも)克志さん
家って、自分の興味のある部分にお金をかけるじゃないですか。庭にお金をかけたり、内装に凝ったり。私はエネルギーや環境のことに関心があったので、この家では趣味を実現したようなものです。
雪冷熱エネルギー以外にも、薪ストーブと太陽光発電、父の代から使ってきた太陽熱温水器などの機器類を導入したほか、断熱材も標準以上のものを使い、お風呂で使った水をトイレの流し水に再利用したり、自分なりにできるところを工夫しました。とことん突き詰めたらどういう暮らしができるのかな、と思って建てた実験住宅なんです。
新潟県のガイドラインではロータリーエンジンの除雪機で雪室に雪を入れるのが標準になっているのですが、落雪式で直接雪室に入るようにしてみたらどうかな、と考えました。そうすれば除雪機を買う必要もありませんし、燃料もいりませんから。
雪のシーズンが終わってから完成した家なので、今、入っているのは山良さんが入れてくれた雪なのです。実際に、自分で実験ができるのは次のシーズンからになります。降雪量は年によってものすごく変動がありますから、一応、少雪の年でもこの程度の屋根の面積があれば大丈夫だろう、という計算はしています。まあ、ダメならダメで暑さを我慢すれば済むことですから、そんなに厳密に考えていません。
雪冷房もさることながら、食品貯蔵庫としても優れものです。野菜や果物、米の保管以外に飲みものもたくさん置いておけますから、ママ友の集まりなどでも重宝しています。
コストダウンにも気を配りました。業務用の扉は高価ですので、家庭用の扉でも断熱性能の高いものを使用しました。ファン室を仕切って独立した部屋にすることで、二重扉にして冷気を保つようにしてあります。
雪貯蔵室からくる冷気は、0〜5゚Cなので、そのまま使うには冷たすぎるのです。それでガイドラインでは外気と混ぜて温度を調節するとありましたが、独立させたファン室で熱交換することでファン室をクッションに使おうと考えました。結露するときの融解熱(気体に含まれる水分が液体になるときに発する熱)は意外と大きいので、ファン室で熱交換することで、融解熱を抑え雪の節約にもなります。パイプも熱伝導率が良いステンレス管にしてもらいました。
冷風の温度は26゚Cぐらいなので、そんなに冷えるわけではないのです。それなのに湿度が低いからか、充分に涼しく感じられます。そういう身体で感じることは、単に気温や湿度といったデータからはわからないかもしれませんね。
新潟県十日町市の樋口さんという方が、20年以上前に利雪住宅をつくっておられました。大羽賀さんや樋口さんのお宅を見学させていただいて、いろいろ教えていただいたことで、この家をつくることができ、とても感謝しています。
降るときはしっかり降るし、冬が明けたらあっと言う間に暑くなる。ここは世界で一番、四季がはっきりした地域です。生まれ育ったのもこの地ですし、雪とは嫌でもうまくつき合っていかなくてはなりません。雪がこうして役に立ってくれるなら、いいのかなと思っています。
(取材:2013年8月1日)