東川町はイベントが多い。2019年以前は、春から夏にかけて毎週のように町のどこかでイベントが開かれた。町民自ら企画したものも少なくない。講師の交通宿泊費、謝礼などに使える補助金(上限100万円)が利用できることも後押しする。自身もイベントを手がける東川町東川スタイル課の菊地伸さんに話を聞いた。
2日間にわたるコンサートやダンスパフォーマンス、キッズステージなどで盛り上がる「ひがしかわどんとこい祭り」
(写真は2019年以前のもの)(提供:東川町)
目下はコロナ禍で中止が目立ちますが、町主催のみならず、民間団体の主導、移住者コミュニティの企画など、たぶん周辺のまちに比べたら極端に多いです。
一つには補助金制度の充実があります。人づくり地域づくり支援事業補助金のほか、3年前から企業版ふるさと納税を財源に「チャレンジ補助金」を運用しています。東京都足立区にある土木専門工事関連の会社が東川町の取り組みに共感され多額の支援をいただくなかから、町民活動の活性化のために創設した補助金です。
移住者は「環境を活かしてどう楽しむか」に熱心です。デザイナーやスノーボーダーなど専門スキルの高い方も多い。例えば移住者コミュニティが提案し、元からいる人たちも混じり合い、企画が始まったりします。東川町の生まれ育ちではない人を移住者と定義すれば、過去25年で人口の5割が移住者となりました。農地転用の宅地造成が始まった当時は、農薬散布や町内会運営などを巡って新旧住民に軋轢が生じ、初めからうまくいったわけではありませんが。
移住・定住の促進はあくまで手段の一つに過ぎず、施策の目的は一貫して「町民を幸せにする」ことです。手前味噌ですが住民の役場に対する信頼感は他の町より高いはず。幸せづくりに懸命な役場が間に入って障壁を一つずつ乗り越え、町民としての立場を共有できるようになり、ようやくそれが実を結んできました。人口を維持し店舗が増えて外部からも注目されています。「東川に住んでいる人ってまちを自慢したがるよね」は来訪者からよく聞く言葉です。
高校時代から始めて中断していましたが、役場に入って4~5年目に町内の仲間とバンドを結成しました。音響の人とも知り合い、意気投合して、最初は町民文化祭の音響や照明のサポートをしたんです。それがすごく喜ばれて。民間団体にすると宝くじが原資の補助金で音響や照明の機材を買えたので「東川イベントサポートクラブ」を立ち上げ、同時期に旭川近郊のアマチュアバンドの野外フェス「羽衣音楽祭」も始めました。以後、機材の必要な町内のイベントにはことごとく僕らがかかわっています。業者に依頼すると多額の費用が発生しますが、僕らなら機材の損料(償却費や維持修理費)1万円程度で済みますから。
そうです。ただし、ここからが役場の絡んでくる話なのですが、次第に職員としてイベントの企画段階から相談に乗ったり、町の補助金の案内などをするようになりました。ちなみに、僕らが始めた羽衣音楽祭についてはお金をかけないことがモットーなので、補助金はこれまで一度も受けたことがありません。
その一つかもしれません。あるシンクタンクが東川町を取材して分析し「呼び込み力の高い町」という結論を出していました。移住してきた人が、自ら情報発信して人を呼び込んでくる町は、よそにあまりないそうです。「何が一番の成功事例ですか、写真の町ですか子育て支援ですか?」とよく聞かれるのですが、一つには絞りきれません。幸せづくりの施策が組み合わさり、振り返ってみると点と線がつながっていたのです。
(2020年11月18日取材)