かつて駅などに水飲み場があったような記憶はあるが、今は喉が渇けば自販機やコンビニで飲みものを買うのが習慣化している。そこで、誰もが気軽に利用できる水飲み場や給水機、マイボトルに無料で水を入れてくれる店舗などの「給水スポット」を増やして環境負荷を軽減し、地域貢献も果たそうとプラットフォーム「Refill Japan」はつくられた。その活動にインターンとしてかかわる2人の若者は、なぜ参加し、それによって水への意識がどう変わったのか。
水飲み場や給水機、マイボトルに無料で水を入れてくれる店舗など給水スポットを増やす「Refill Japan」
「ロハスフェスタ」で設置した仮設給水ステーション(上)
Refill東京のアクションに参加した若者たち(左下) カフェでの給水シーン(右下) 提供:水Do! ネットワーク
街なかに給水スポットがたくさんあったらどんなことが起きるだろう?そうなったらいつでも喉を潤せるし、マイボトルが空になってもすぐに水で満たせる。使い捨ての飲料容器を減らすことができれば地球の資源とエネルギーの無駄遣いを抑えることになる。おしゃれな給水機の周りでは待ち合わせの人たちがひしめき、水をもらいに寄ったお店ではコミュニケーションも増えるはず……。
そんな未来像を現実化するため、2019年(令和元)5月に発足したのが「Refill Japan(リフィル・ジャパン)」だ。リフィル(refill)とは詰め替えや補充という意味で、街なかに給水スポットを増やすことに取り組んでいる。
母体となっているのは、NGO 水Do!(スイドゥ)ネットワーク。「水道水を飲もう」を合い言葉に、カフェなどでの給水サービスの提供や既存の水飲み場の確認とマップ化、イベントなどでの仮設給水機の設置とPRなどを行なっている。多くの人が飲みものとして水道水を積極的に選ぶことで使い捨て容器の消費を減らし、環境負荷の低減と地域の水資源保全、さらに潤いのあるまちづくりまで推進したいと考えている。
2010年(平成22)6月、国際環境NGO FoE Japanの活動としてスタートした「水Do!キャンペーン」を、2014年度からより大きく展開するために立ち上げたのが水Do!ネットワークだ。事務局長を務める瀬口亮子さんは、FoE Japanのスタッフとして、廃棄物の発生抑制と地球温暖化防止の両方を担当していた。
「当時、日本はすでにペットボトルのリサイクル率が9割とかなり進んでいて、多くの人が『分別してリサイクルすることがエコ』という風潮でしたが、ライフサイクルアセスメントを実施したところ、ペットボトル入り飲料水と水道水の環境負荷には相当な差がありました」
それを表したのが下のグラフ。東京大学の平尾研究室による試算を瀬口さんたちがグラフ化したものだ。冷水機の電力や水筒の生産エネルギーを含めてもこれだけの差がある。
「逆説的に捉えると、ペットボトル入り飲料水を1本飲むのをやめるだけでエネルギーと資源を相当減らせて、温暖化も抑制できるのです。そこで『水道水を飲もう』というキャンペーンを始めました」
津々浦々に整備された水道の水を積極的に飲むことで、地域の水資源にも関心が高まるはずだ。今、海ごみとマイクロプラスチックへの注目度が高まっていることも追い風となっている。
Refill Japanは団体ではなく、市民団体や自治体、企業などさまざまな主体が参加できるプラットフォームだ。給水スポットの条件は「誰でも無料で使えること」と「水道水であること」。そのため、会員制の場所や輸送エネルギーのかかる宅配水などは対象外とする。また、公共の水飲み場や水を無償で提供する協力店舗は、「地域Refill団体」と呼ばれる人・団体がそれぞれの地域で開拓を続けている。
「今は12都府県に地域Refill団体があります。さらに増えていく予定で、ゆくゆくは47都道府県に広めたい」と瀬口さんは語る。
給水スポットはマップ化し、スマホやパソコンから見られるようにしている。各地に広がる給水スポットをマップに登録する作業を手伝っているのが、筑波大学大学院博士前期課程2年の神島駿太郎(こうしましゅんたろう)さんだ。
神島さんは1997年(平成9)生まれ。インターンとして2年ほど活動。きっかけは大学4年でイギリスに留学したことだ。
「学内の至る所にウォーターリフィリングステーションという給水スポットがあり驚きました。しかも学内のコンビニエンスストアにはペットボトル入りの水が一切売っていない。そうした取り組みが学生主体で進められているのです。しかし筑波大学に給水スポットはほぼなくて、自販機頼り。『ぜひやってみたい』と思って調べてRefill Japanを知り、イベントで仮設給水ステーションの運営を手伝ったのが始まりです」
神島さんは留学とRefill Japanのインターンになってから「水道水を飲もう」という気持ちが強くなったという。
「家の水道水を水筒に入れて飲んでいます。ペットボトルの飲料水はまず買いませんし、ペットボトル飲料を買うことも減りました」
実は、神島さんは化学系の研究室に在籍し、環境にやさしいプラスチックの研究に取り組んでいる。
「プラスチックを植物由来に置き換えていくことで枯渇資源である石油への依存量を減らしていきたい。また、ごみ問題に関しては生分解性のプラスチックを研究しています。例えば、農業用フィルムなどに使えばそのまま堆肥化できますから」
Refill Japanは給水スポットをさらに広げるため、各地での現場活動などに加えてSNSでの情報発信に力を入れている。そのSNSへの投稿を手伝っているのが、早稲田大学創造理工学部建築学科4年の本多みずほさん。1999年(平成11)生まれだ。父親の仕事の都合で小学生の時は中国にいて「水道の水を飲んではダメ」と言われて育った。
「ですから『そのまま飲める日本の水道水はすごい』という認識はありました」と本多さんは言う。
「50年後の未来を考える」という大学の課題で水道のことを調べるなか、Refill Japanに連絡してイベントを手伝ったのがインターンになるきっかけ。かかわって何か意識は変わったのか。
「問題意識をもって参加したのでそれほど変わりませんが、街なかにある水飲み場に気づくようになりました」
その経験から、もっと多くの人が水の問題に興味をもつには、給水スポットだけでなく、都市のなかで「水のサイクル」がわかるような場所を増やすことも必要ではないかと考えている。
「雨水を下水道に流すのではなく、ゆっくり地中に浸透させる構造を持った『雨庭(あめにわ)』など実際に水のサイクルが機能していることが目で見てわかるものを増やせれば。景観としてもいいと思います」
日本の水道水のよさを身をもって知り、今は都市計画系の研究室に所属する本多さんならではの着眼点といえる。
神島さんは、水問題あるいは水を通した環境問題に目を向けてもらうには「人が大切」と言う。
「一番いいのは水不足など水の大切さを実感できる環境に身を置くことですが、今の日本でそれは難しい。ですので、私は瀬口さんのように問題へ真剣に取り組んでいる人の姿を実際に見ることが一つのきっかけになると思います」
自身の気づきや疑問をきっかけにNGO・NPOに飛び込んでいく行動力ある若者たち。志をもった先駆者とともに行動することで、彼ら彼女らの意識やアイディアはさらに研ぎ澄まされていく。
(2021年8月16日取材)