機関誌『水の文化』2号
水情報との上手なつきあい方

伝説の地は、また、棚田地帯

伊根町に残る船屋

伊根町に残る船屋

富山 和子

伝説の地は、また、棚田地帯 ―対談を終えて―

紙数の都合で今回はふれることは出来ませんでしたがこの丹後の地は、海に面しては見事な船屋の漁村、そして陸を見れば、一面の棚田地帯でもあります。とはいえ船屋は、今では舟が大型化して使えず、人が使わねば家屋は朽ちかけ、沈みつつあります。それを、観光のため町並み保存のためコンクリートで打ち付けたりして、何とか外形ばかりは保たせていると聞きました。

一方棚田は、世が世なら田植え時には水を張って、その美しさと広がりのスケールでは恐らくは日本でも指折りに数えられたことでしょう。けれど、ご多分にもれず放置され、そこここが崩れ、雑草や雑木が侵入して廃墟化が始まっていました。

最近は棚田ブームで、休日ともなればカメラマンが殺到します。けれど棚田は、それを作るにも維持管理するにも、最も過酷な労働が強いられた農業でした。

政府の試算によれば、この先中山間地の耕作放棄地は四十万ヘクタールにものぼる、とのことです。四十万ヘクタールという農地がどのような広さか、あなたは想像できますか。例えば、福井、石川、富山の北陸三県と日本有数の穀倉、新潟県の農地を合わせても三十万ヘクタールに届くかどうか、というほどの広さです。それほどの広大な面積が、棚田地帯だけで放棄されていく。それは日本中の海岸線が侵される風景です。そして棚田が放棄されたとき、つまりは人がいなくなったとき、森林もまた放棄され、廃墟化していくということです。棚田と森林とは、そんな関係があります。

美しい水の文化、棚田。棚田についても、いつか本誌で光を当てたいと思います。

耕作放棄により荒れ始めている所も見える棚田

耕作放棄により荒れ始めている所も見える棚田



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