機関誌『水の文化』75号
琵琶湖と生きる

水の文化書誌63
SDGs ―― 持続可能な開発目標を考える

古賀 邦雄

古賀河川図書館長
水・河川・湖沼関係文献研究会
古賀 邦雄(こが くにお)

1967年西南学院大学卒業。水資源開発公団(現・独立行政法人水資源機構)に入社。30年間にわたり水・河川・湖沼関係文献を収集。2001年退職し現在、日本河川協会、ふくおかの川と水の会に所属。2008年5月に収集した書籍を所蔵する「古賀河川図書館」を開設。
平成26年公益社団法人日本河川協会の河川功労者表彰を受賞。

持続可能な開発目標とは

ロビン・クラーク/ジャネット・キング著・沖大幹監訳『水の世界地図』(丸善・2006)によれば、私たちの生存のカギは、海洋から蒸発する水のうち、ある程度の量が陸上に降り、河川を潤し土に水を与えそして地下の帯水層を補塡してくれることにある。これは自然の水循環のなかで淡水供給の可能な部分であり、私たちはこれに依存して生きている。世界の水供給は危機に瀕している。スーザン・ヴァーデ文・ピーター・H・レイノルズ画『みずをくむプリンセス』(さ・え・ら書房・2020)は、西アフリカのブルキナファソで毎朝母と一緒に水汲みに出かける少女の話である。多くの女性たちも水汲みに通う。「ずっとずっと とおくまで きょうも わたしは みずを くみにいく つめたくて きれいな みずが あるといいな いつのひか きつと」。今、アフリカでは井戸を掘る運動が起きている。

世界は戦争や内戦、難民、さらに貧困、人種差別、環境破壊などさまざまな問題に直面している。こうした地球規模の問題を解決するために「誰一人取り残さない」という理念のもと、国際連合の加盟193カ国が達成を目指すのが2030年までの持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)だ。SDGsには17の目標が定められた。その過程を追ってみる。

岩田元喜・文『基礎からわかる!SDGs』(メディアックス・2021)は、1972年『成長の限界』の出版が人類に警告を与え、その後、次のように持続可能な開発目標が制定されたと記す。1980年「持続可能な開発」の概念が公表され、1992年リオで「地球サミット」開催。1997年地球温暖化への世界的取り組み「京都議定書」採択。2000年開発途上国の課題解決を目指す「MDGs」(ミレニアム開発目標)採択、2012年リオ+20「アジェンダ21」採択、2015年SDGsの17の目標が国連総会において全会一致で採択された。

17の目標は、①貧困をなくそう②飢餓をゼロに③すべての人に健康と福祉を④質の高い教育をみんなに⑤ジェンダー平等を実現しよう⑥安全な水とトイレを世界中に⑦エネルギーをみんなに、そしてクリーンに⑧働きがいも経済成長も⑨産業と技術革新の基盤をつくろう⑩人や国の不平等をなくそう⑪住み続けられるまちづくりを⑫つくる責任つかう責任⑬気候変動に具体的な対策を⑭海の豊かさを守ろう⑮陸の豊かさも守ろう⑯平和と公正をすべての人に⑰パートナーシップで目標を達成しよう、と定められている。

17の目標のうち、①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、⑥安全な水とトイレを世界中に、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさも守ろうについて、気候変動に対する具体策を追ってみたい。

  • 『水の世界地図』

    ロビン・クラーク/ジャネット・キング著・沖大幹監訳『水の世界地図』

  • 『みずをくむプリンセス』

    スーザン・ヴァーデ文・ピーター・H・レイノルズ画『みずをくむプリンセス』

貧困をなくそう、飢餓をゼロに

深井宣光著『小学生からのSDGs』(KADOKAWA・2021)によると、世界には家にお金がなく学校に行かせてもらえず、毎日16時間働いている子どもが約1億6000万人いる。これは世界の子どもの10人に1人の割合である。食べるものがずっとなくて栄養不足で死んでしまうほどに苦しい生活をしなければならない世界の人が8億1100万人いる。こちらも10人に1人の割合である。

世界の子ども3890万人の5歳未満が栄養不良である。飢餓で苦しむ国では食べ物が少ないので痩せるイメージがあるが、長く食べものが手に入らないと肥満や過体重で体調が悪くなる。日本では「最後におなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」と遺していった母子の悲しい事件が起こった。日本の子どもの貧困率は1980年代から上昇傾向で、今日では、7人に1人が貧困状態にあり、特にひとり親世帯の相対的貧困率は深刻で、ほぼ2世帯に1世帯が貧困状態にある。一方では食品ロスがある。2019年度には年間570万トンの食品が捨てられており、これは日本人一人あたりお茶碗1杯分ほどのご飯が毎日捨てられている計算だ。みきつきみ著『すぐできることからがんばってしようこどもSDGs』(弘文堂・2021)が詳しい。

『小学生からのSDGs』

深井宣光著『小学生からのSDGs』

安全な水とトイレを世界中に

本田 亮著『ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本』(小学館・2021)によると、2017年時点で安全に管理された水を使うことができない人は21億人いて、毎日800人の乳幼児が汚れた水による下痢症で亡くなっている。安全に管理された飲み水とは、自宅にあり、必要なときに入手でき、排せつ物や化学物質に汚染されていない水源から得られる水で、基本的には30分以内で汲めるきれいな飲み水である。齋藤孝著『こどもSDGs大図鑑365』(実務教育出版・2022)は、世界で水道水が飲める国は、日本を含めてオランダ、フィンランド、デンマークなど12カ国しかないと記す。日本人は恵まれている。

バウンド著・秋山宏次郎監修『数字でわかる!こどもSDGs―地球がいまどんな状態かわかる本』(カンゼン・2021)によると、家にトイレがなくて外で用を足している人が6億7300万人もいる。排泄物がきちんと処理されないと、汚染された水を使わざるを得ないので、繁殖した細菌で感染症にかかったりする。ひと目を避け、明け方などに草むらや道端で行なう排泄は危険である。11月19日は「世界トイレの日」。同監修『SDGsキャラクター図鑑―地球の課題がよくわかる!』(日本図書センター・2022)、バウンド著・岩附由香監修『親子で学ぶSDGs』(扶桑社・2021)、佐藤真久監修『SDGsのサバイバル―クイズでわかる地球のためにできること!』(朝日新聞出版・2022)などがある。

『ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本』

本田 亮著『ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本』

海の豊かさを守ろう

Think the Earth編著・ロビン西画『未来を変える目標SDGsアイデアブック』(紀伊國屋書店・2018)は、人間は太古から海の恩恵を受けながら暮らしてきたと記す。しかし、今では人間の経済活動に伴い、海の環境が大いに変わってきた。大量のゴミが捨てられ、プラスチックゴミが海を汚染し、海の生きものに悪影響を及ぼしている。海を汚すゴミを巨大なフェンスで回収し、海流や風を利用してゴミを自然に集める方法が行なわれている。このまま魚を獲りつづけると水産資源が減少する可能性が出てきた。それを防ぐために魚や牡蠣の養殖が進んでいる。上田隼也監修『みんなで調べよう・考えよう!―小学生からのSDGs丸わかりBOOK』(主婦と生活社・2022)、たかまつなな著『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版・2020)、保坂直紀著『海洋プラスチック―永遠のごみの行方』(KADOKAWA・2020)などを参考書籍として挙げておく。

『未来を変える目標SDGsアイデアブック』

Think the Earth編著・ロビン西画『未来を変える目標SDGsアイデアブック』

陸の豊かさも守ろう

松葉口玲子監修『地球ときみをつなぐSDGsのお話―考える力と思いやりの心がそだつ』(学研プラス・2022)によれば、地球上の生きもの13万種類以上を調査した結果、森林の開発によって3万8000以上の種が絶滅の危機にあるという。森林の役割は水を蓄え、土砂崩れを防ぎ、二酸化炭素を吸収し、気候をやわらげ、海の生きものに栄養を運ぶ。開発によって失われる森林は、世界で年間330万haに上る。地球温暖化となり、山火事や水害が増加の一途をたどる。陸上の生態系は動物も含め密接につながっている。オオカミが減少すると、シカが増え若芽を食べてしまうので、草木を食べていた虫やネズミが減り、どんどん生きものが減少する。国内の絶滅危惧種は、ヤンバルクイナ、ライチョウ、アカウミガメ、ラッコ、ムツゴロウ、オオクワガタなどがある。植林を施し、森林を守っていくことが重要である。蟹江憲史監修『マンガでわかる!はじめてのSDGs図鑑―10才から知っておきたい』(永岡書店・2021)、同監修『12歳までに身につけたいSDGsの超きほん』(朝日新聞出版・2021)、笹谷秀光監修『大人が本当に答えられない!?ニッポンのSDGsなぜなにクイズ図鑑』(宝島社・2022)を挙げる。

『地球ときみをつなぐSDGsのお話―考える力と思いやりの心がそだつ』

松葉口玲子監修『地球ときみをつなぐSDGsのお話―考える力と思いやりの心がそだつ』

気候変動に具体的な対策を

高橋真樹著『こども気候変動アクション30―未来のためにできること』(かもがわ出版・2022)は、気候変動の対策として具体的な行動を次のように指摘する。ペットボトルよりマイボトルを使う。マイバック&マイ容器を使う。できるだけ包装されていないものを選ぶ。身の回りのプラスチックを減らす。洋服はみんなで使う。ものを大事にする、修理して使う。地域のものを食べる。食品ロスをへらす。ゴミ拾いをする。生ゴミをコンポストで減らす。使わない電気を消す。照明器具をLED化する。部屋を断熱構造にする。太陽光発電をつけ、使う。自然エネルギーを使う。電気自動車などCO2の少ない乗り物を使う。動植物を育てる。

すなだゆか著『はじめての脱炭素―見て、知る、サステナブル』(小峰書店・2022)によると、人間の活動で石油、石炭、天然ガスを使い、二酸化炭素を増やしてきた。そのため、世界の二酸化炭素排出量(2019年)は367億トンとなり、地球の温暖化が進み、暴風雨や旱魃など異常気象が進んだ。フィリップ・バンティング著『きみの地球を守って』(光文社・2022)、丸山啓史著『気候変動と子どもたち―懐かしい未来をつくる大人の役割』(かもがわ出版・2022)、渡邉優著『SDGs辞典』(ミネルヴァ書房・2022)も詳しい。

最後に、グレタ・トゥーンベリ編著『気候変動と環境危機―いま私たちにできること』(河出書房新社・2022)を掲げる。世界の学者104人が結集し、日本ではただ一人沖大幹先生が論じている。

  • 『こども気候変動アクション30―未来のためにできること』

    高橋真樹著『こども気候変動アクション30―未来のためにできること』

  • 『気候変動と環境危機―いま私たちにできること』

    グレタ・トゥーンベリ編著『気候変動と環境危機―いま私たちにできること』

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