機関誌『水の文化』16号
お茶の間力(まりょく)

里川研究掲示板

ミツカン水の文化センターでは2004年度より、共同研究『里川』を開始いたします。1年目は「里川とは何か」と題し、里川についての概念設計を行います。フォーラムのテーマセッションに登壇頂いた各研究者を応援団に、研究経過を随時報告して参ります。

共同研究「里川」を開始

「水の文化交流フォーラム」開催  人、それぞれの里川があった

2003年10月20日に「水の文化交流フォーラム2003 なぜ いま 里川なのか コンパクトシティを考える」を東京にて開催いたしました。里川研究のキックオフとなるフォーラムです。概要版を現在センターホームページにて公開しておりますが、まもなく詳細版も公開する予定です。

【特別講演】
「水に対する感性の歴史」
アラン・コルバン ソルボンヌ<パリ第1>大学教授
コメンテーター:高橋 裕 国際連合大学上席学術顧問・東京大学名誉教授
【テーマセッション】
「なぜ里川とコンパクトシティか?」
陣内 秀信 法政大学工学部教授
「セーヌ川も里川だった」
嘉田 由紀子 京都精華大学教授、滋賀県立琵琶湖博物館研究顧問、水と文化研究会世話役、子どもと川とまちのフォーラム代表
「バーチャルウォーターが結ぶ里川と世界の水問題」
沖 大幹 総合地球環境学研究所助教授、東京大学生産技術研究所助教授(併任)
「都市の水辺遊びからつくる里川」
鳥越 皓之 筑波大学社会学系教授
【パネルディスカッション】
「里川の文化モデルとコンパクト社会」

「なぜ いま 里川なのか」をめぐり行われたテーマセッションでは、里川をテーマに4名の報告者がプレゼンテーションを行った。

陣内秀信氏は、エコロジーと歴史の観点からの都市づくりが必要であることをまず訴えた。その視点から見るならば、東京は実は巨大な村とも呼べるものであり、集まっているコミュニティの多くを川が結んでおり、川を中心にそれらを再生すればコンパクトシティ像まで辿れるのではないかと論じた。その意味では、それぞれの地域で「里川」がもつイメージの喚起力は見逃せないと指摘した。

嘉田由紀子氏は、水の供給系(動脈)と排出系(静脈)を共に把握しないと、水への総合的な関わりが難しいということを踏まえると、上下水道との関わり方は文化面でも重要であることを唱えた。さらに、人と水との物理的、心理的、社会的距離が離れてしまった現在、川とどのように距離感を取り戻すのかが問題であり、「見ること」が強調される現代社会における、水との対し方も課題であることを訴えた。また、水には怖さもあり、それを里川思想の中でどのように位置づけるのかが課題であることも付言した。

沖大幹氏は、ヴァーチャル・ウォーター論の説明を行った後、里川を考える際に、「?に役立つから愛す」のではなく、里川だから愛するという関係、つまり、川よりも、川と人の関係が重要と報告。自分が川と密接な関係を結び、共にその川を愛するという思いやりが大事であり、そのためには、目に見えない川の価値に思いをはせ、大勢の人が川を物語るのが必要条件であることを指摘した。現在水に困っている人、将来の世代など、今触れられない水を考えることが必要であり、それには感性の問題を避けて通れないと述べた。

鳥越皓之氏は、コミュニティが豊かになると川に愛着がわき、川を利用し川に関わることでコミュニティを豊かにすることもできるという構図について報告した。さらに、所有権というものは、処分権と利用権から成り立っており、多くの地域で、住民が川の利用権を実質的にもつことにより、現状では行政等がもつ処分権を浸食し、所有の逆転と呼べる現象が起きていることを報告。ここをしっかりと押さえれば、後に政策、価値観、文化などの変化が追いついてくると述べた。

この日は熱のこもった討議が行われ、参加者も200名を越す盛況となりました。「里川」は、「里山」の概念を意識した新しい言葉。一見馴染み深く感じるものの、実は各自が違ったイメージを抱いている言葉です。それだけに、フロアからの発言もそのような思いを反映したものとなりました。参加者アンケートに記入いただいたコメントをいくつか下に紹介します。

里川とは、みんなで守る居住地に近い川。ならば、農村部だけではなく、都市にこそ里川はあるべきだし、そのような里川像も構築していかなくては、というのがこのフォーラムでのセンターからの問題提起でした。質問、コメントとも、里川の「里」の意味に集中していることがわかります。いわゆる農村の二次的な自然利用空間として川を捉えている人もいれば、あるべき都市モデルとして里川に可能性を感じた人もおり、まさに各人にとっての里川があるといってもよさそうです。

大事なことは、「自分が暮らす居住地と生活の中で、川を総合的に位置づけよう」という願いです。この点については会場のみなさんと共通のスタートラインに立っていることを、ひしひしと感じさせられたフォーラムでした。

  • トレヴィーゾ 水の通るコンパクトシティ

    トレヴィーゾ 水の通るコンパクトシティ

  • 近い水、里川の仕組み 昭和30-40年代

    近い水、里川の仕組み 昭和30-40年代

  • 日本の仮想投入水総輸入量

    日本の仮想投入水総輸入量

  • アラン・コルバンを囲んで左より陣内秀信、鳥越皓之、嘉田由紀子、沖大幹の各氏

    アラン・コルバンを囲んで左より陣内秀信、鳥越皓之、嘉田由紀子、沖大幹の各氏

  • トレヴィーゾ 水の通るコンパクトシティ
  • 近い水、里川の仕組み 昭和30-40年代
  • 日本の仮想投入水総輸入量
  • アラン・コルバンを囲んで左より陣内秀信、鳥越皓之、嘉田由紀子、沖大幹の各氏

アンケートに寄せられたコメント

  • ◆里川ということをイメージすることでまちづくり、地域づくり、環境問題へと広く関わることができることを認識できた。決して、川の領域だけの話ではないことが理解できた。
  • ◆河川に対する新しい視点が与えられた。
  • ◆水道ができたことで井戸端がなくなり、人々の生活が変化してしまったというが、このフォーラムで取り戻せる人々の距離を感じた。所有の逆転。住民が地域の管理主体可能になるといい。主体を取り戻さなくてはいけない時代がめぐってきたのだろうか。
  • ◆住人が仮の住居に一時的に必要にせまられて住んでいるように、『ふるさと』としての愛着を持てるコンパクトシティを地域の住民が作り上げられると思う。
  • ◆公共事業に社会的合意形成の動きがある昨今の国内において、「里川」という動きは、住民にとっても一番身近なテーマであると思う。
  • ◆里とは何か、もう少しつっこんでほしかった。「ふるさと」の歌に代表される、のどかな、なつかしいイメージだけでよいのか。里川はいったいどこを目指しているのか、これからも追求してみたいと思う。
  • ◆里川とコンパクトシティに共通するものは、物質や生命がうまく循環し、その循環が見え、その循環にかかわっていることと思う。
  • ◆「都市と農村の共生」が唱えられ、国民の農的生活への動きが高まっている中で、都市における農的生活の推進が重要と考えているが、里川、コンパクトシティがその方向にあることをうれしく思った。
  • ◆長年産業界に身を置いてきたが、自然・地球・生命に対する加害者でなかったか?という自責から、里山・里川・環境について考えていきたい。
  • ◆里川を都市から見るということは逆転の発想だと思った。私の住んでいる小石川はもう消えてしまったし、銭湯、豆腐屋も少しずつ減っていく。だんだん「水の風景」が消えていくようで寂しい気がする。


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