「里川で何をイメージしますか?」。こんな問いかけを出発点に、多分野の方が抱く現代里川の特徴を探ろうと「里川対談」を開催することにしました。第一回のゲストは、多自然型川づくりのために全国をまわる島谷幸宏さん。沖大幹さんがホストとなり「治水と川づくりから見る里川」をテーマに、かなり踏み込んだ対談となりました。ここでは、そのさわりだけをご紹介します。
東京大学生産技術研究所助教授
(地球水循環システム)
沖 大幹さん
1964年生まれ
九州大学大学院教授
(河川工学、河川環境)
島谷 幸宏さん
1955年生まれ
どういう川が里川かという話になると、各人が里川のイメージを持っていることがわかりますが、島谷さんにとっていい里川、悪い里川を教えてください。
里川というのは、思いを込められる身近な川であり、幼いころの記憶でもあるのです。だから、今の状況が悪いからといって悪い里川というのは存在しないはず。川には、その川ごとの美しさがある、あるいはあったのです。地元の方に多くの思いを持たれる川、思い出を残す川、そういった身近な生活の中の川が里川だと思います。京都の鴨川もいいし、金沢の浅野川、佐賀の多布施川なんかもいいですよね。多自然型川づくりを早くから言われていた関正和さんは「『多自然型川づくり』の『多』というのは、多神教の『多』」とおっしゃっていた。川の石ころ一つひとつに、神が宿っていると。要は、川の個性を見なさいということで、それは私も同感です。優先順位はつけられない。地元の川を地元で守ったり、再生したりするべきでしょう。
河川技術者は、川によって異なるいろいろな美しさを見なくてはいけない。
そうそう。でも、いつの間にかその「いい所」を見つけられなくなってきている。つまり、目利きができなくなっている気はします。川の美しさだけではなく、どこで堤が切れたら危険かという治水の目利きもできなくなっている。川の流下能力ばかりに目がとられ、流域全体の構造を見なくなってしまったことも原因の一つかな。
僕は「マニュアルができて技術滅ぶ」と教わりましたが、やはりマニュアルができると没個性になるおそれがありますか。
必ずしもそうとは限りません。川の個性を尊重する必要はあるのですが、技術レベルの平均点を上げるためのマニュアルは整備する必要があると思います。それと同時に人を育てることが重要と考えています。ぼくは「河川マイスター制度」という塾のような形で、技能集団を育てていければと考えています。
マイスターはいいですね。芸術家ではなく職人で、ある程度の普遍性はあるけれど、言葉にならない訓練も必要となるわけですね。ところで、そのいい川、美しい川を取り戻そうと思っても、いまの都会の住まい方と必ずしも相容れないところはありませんか。
東京を例に取ると、都心には自然が残っている川はあまりありませんが、20〜30km圏まで行くと「天然河岸」が見られるいい川、いわゆる里川がけっこう残っている。こういう場所が残っている川の中流部にちょうど改修が進んできていますが、いまの技術では護岸を固めなくても河川改修は可能ですから、里川の保全は可能なのです。都心でも、広重、北斎の描く川に戻したら、世界中から見に来るよ。隅田川の川幅を100mぐらい広げて浮世絵の世界に戻す。ソウルの清渓川(チョンゲジョン)だって、あれだけ復元したのだから、それぐらいのことをやってみたらいい。
(2005年6月29日)