第4回世界水フォーラムinMEXICO報告会が、4月22日にコープイン京都で行なわれた。
第4回世界水フォーラムが、メキシコシティーで3月16日〜22日に開催された。前回は2003年(平成15)に京都で開催されたので、3年ぶりである。参加者数は1万9766名。日本からも皇太子徳仁親王殿下と橋本龍太郎元首相が参加し、皇太子が「江戸と水運」の基調講演を行ない、橋本元首相が議長をつとめる国連「水と衛生に関する諮問委員会」が行動計画を発表した。
これらオフィシャルな話は、世界水フォーラムの主催者である世界水会議のホームページに詳細が掲載されているので、そちらを参照されたい。日本語では、NPO日本水フォーラムも要約情報を提供している。こうした国際会議の広報文書は、外交文書と同じで、一言一句が意図を持って書かれていることが多いので、それを想像しながら読むのもなかなか楽しいものである。
さて第4回のテーマは「地球規模の課題のための地域行動」。もともと世界水フォーラムは、「さまざまなステークホルダーが参加して淡水利用について討議する世界最大の場」と自らうたっている。地域の現場で安全な淡水にアクセスできない人々が、地球上には14億人いるという現状は前回と変わっていないが、そこで最もしわ寄せを受けるステークホルダーが子ども、女性、低所得者である。しかし、彼らの声はなかなかこうした国際会議のテーブルに届かないという現実もある。
そこで本誌では、子ども特派員として世界水フォーラム取材に参加した「子どもと川とまちのフォーラム」の5名の子どもたちの目を通した会議の様子を伝えてみたい。
イギリス・テムズ川の舟運研究者であり、水問題にも深い関心を持つ皇太子は、前回の第3回世界水フォーラムの名誉総裁であり、今回も基調講演を行なった。
子ども特派員たちは、皇太子と在メキシコ日本大使館主催のレセプションで、言葉を交わした。会期中に子ども特派員が発行した新聞を見て「こういう文化を学ぶことは大切だから、頑張ってくださいね」と、一人ずつに声をかける皇太子の気さくな一面に触れたそうだ。
「時間が長くなって、橋本元首相から『そろそろ殿下を離してあげてください』と言われた。でも、私も『オランダの人に取材して、国ごとに助け合うことが大切だと言われました。国と国とを結ぶ絆も必要と思いました』と話したら、うなづいてくれました」と、三谷英里さんはうれしそうに語ってくれた。
日本では難しいこうした触れ合いが、国際会議では少し立場を離れて子どもたちと水問題の意見交換ができたという、微笑ましいエピソードだろう。
カッパの絵を見せて「川に関する伝説はありますか?」と質問した特派員もいる。東出一真君だ。特派員として参加できなかった友だちから、「カッパのことを聞いてきて」と頼まれたからだという。
相手は、世界水会議プログラムディレクターのポール・ファン・ホフウェーゲンさん(オランダ)だ。ポールさん曰く「僕が以前いたインドネシアでは、水をいいものと見てきたので、物語も良いイメージのものが多い。ところが、オランダ人は水と闘ってきたので、悪い伝説が多い」と話してくれたという。
そのポールさんは世界水会議の指導的立場の一人でもある。オープニングセレモニー後、彼らが質問したのは、この会議への期待についてだった。
「よく話し合って、水問題の解決法を見つけたい。例えば、お金について、汚染について、一人ひとりができること。さらに、豊かな国が貧しい国を助けることの大切さに気づいて、行動していくことを期待したい」とポールさんは答えている。
「子どもなのによく取材できるね、という大人も多いんだけど、海外の人は、子どもだからといって馬鹿にしないでちゃんと答えてくれた気がする」と北川あゆさんは話してくれた。
「統合的水資源管理における統合的洪水管理の適用」という分科会に参加した特派員もいる。洪水対策の必要性や、地方政府に基づいた地方計画などさまざまな議論がかわされたというが、特派員の記憶に残ったのは、質疑応答でのエジプト人参加者の言葉だった。
「あなたがたは、洪水をいつも治めてしまう。けれど、溢れさせて、台地に恵みを与えるようにポジティブに考えたらどうか。昔のエジプトはそうだった」と。
松尾英将君は、そのことを伝える記事の中でこう書いている。
「目の前で水の大切さについての議論がされていたとき、自分も皆に伝えたいことが数多くあった。それが言葉の壁と発言する勇気のなさによって遮られてしまったのは残念なことだ。今回のワークショップを通して、英語をはじめ、異国の言葉を学ぶことと、勇気を持って発言することの大切さを改めて実感できた気がする」
川端薫子さんは、そんな言葉の壁をものともしないで井手慎司さん(子どもと川とまちのフォーラム副代表)の通訳のもと、果敢にインタビューしたようだ。
「分科会が終わってから、オランダのベンさんに『魚が棲めるような堤防をつくるための工夫はありますか』と聞きました。『そのような堤防はないけれど、自然を残したい川の周りには木を一杯植えて、動物たちがすみやすいようにしている』と教えてくれました。これからも一杯取材して、いろいろなことを知りたいです」
と話してくれた。
国際会議には言葉だけではなく、いろいろな壁が存在する。例えば、分科会のコーディネーターも、宣言をとりまとめる強力な権限を持って壁になることもある。討議の場に来ていない当事者が多数いるということも、一つの壁といえるかもしれない。しかし、暫定的であっても宣言を取りまとめていかないとアクションは動かない。そんな対話の現場で、国を代表するような参加者も、今後どのような勇気を育んでいくのか、大きな問題を提起されている気がする。
会議運営のやり方にしても、お国柄や価値観が反映している場合が多い。秒刻みで進んでいく日本の時間と違って、メキシコでは時間がずっとノンビリ進んだということもあるだろう。こうした価値観、文化の違いが、水にかかわるさまざまな問題の根っこにある。子ども特派員は、身をもってその根の深さを学んだに違いない。
ロシアとインドネシアからの子どもたちを同行させようという試みも、アクシデントに拍車をかけることになった。ロシアからの参加者は1日遅れて、インドネシアからの参加者はビザの問題で結局入国することがかなわなかった。事前の情報の少なさ、現地での大会運営の不手際は、慣れない外国で子どもたちにさぞかしプレッシャーを与えたことだろう。
しかし、子ども特派員はたくましくその困難をかいくぐり、見るべきもの、感じるべきものをちゃんと経験して帰ってきたようだ。
「ブースも立派なところと簡単に済ませているところの差があった。でも日本のブースだけが、ものすごく明るいのは目立っていた。田圃のきれいな写真が並んでいたけれど、外国の人が見てどうなかなあ、と思った」
「日本はルールをちゃんと守れる、という点では誇れると思う。恥ずかしいところもあると思うけれど」
というような言葉が、特派員からぽんぽん飛び出してくる。
特派員たちは、会議の取材後、近郊のチャパラ湖まで足を延ばし、メキシコの子どもたちと先住民の儀式を体験したり、水質調査をしたという。「母なる大地」という概念に基づいて、常に自然を敬ってきたウィチョール族と出会い、「私たちにとって自然とは何だろう?」というテーマを持った特派員もいる。
世界の水指導者が集まった国際会議と、地元の水文化体験。このいわば対極の世界に触れ、特派員は第4回世界水フォーラムをどのように評価したのだろうか。
「今回の会議のテーマがグローバルチャレンジのためのローカルアクション。でも、その割にはローカルな人が少なかった気がする。地元の漁師さんや、本当に直接水に関係のある人が参加すればよいのに」
このつぶやきを、われわれ水に携わる者は「子どもの言葉」と流さないことが求められているのかもしれない。