機関誌『水の文化』26号
クールにホットな2107

マイカーから公共交通機関へ
モーダルシフトを進めるカーシェアリング

カーシェアリングは、地球温暖化を防止するための「CO2削減」に貢献できるのか。 そもそも、カーシェアリングとはレンタカーとどこが違うのだろうか。 日本ではまだ馴染みがない、カーシェアリングのシステムについてオリックス自動車(株)レンタカー営業本部カーシェアリング担当の高山光正さんにうかがった。

編集部

カーシェアリングという言葉からは、「エコ」「共有」という環境にも人にも優しいイメージを感じます。

でも、使いたいときに我慢したり、遠くのステーションまで借りに行ったり、「不便」と隣り合わせではないのかしら? という一抹の不安も残ります。

国の実験段階からかかわってきた高山光正さんが、そんなカーシェアリングへの疑問に答えてくれました。

カーシェアリングは、地球温暖化を防止するための「CO2削減」に貢献できるのか。 そもそも、カーシェアリングとはレンタカーとどこが違うのだろうか。

カーシェアリングは、地球温暖化を防止するための「CO2削減」に貢献できるのか。 そもそも、カーシェアリングとはレンタカーとどこが違うのだろうか。

なぜカーシェアリングが始まったのか

日本のカーシェアリングは、経済産業省の「電気自動車とカーシェアリングを組み合わせた社会実験」のプロジェクトとして、1999年から横浜と多摩の稲城市で始まりました。今回のプロジェクトでは自動車メーカー、電気メーカーなど実験に参加する企業が一体となって開発を行ないました。

通常、社会実験的なプロジェクトでは、何年か実施してある程度の結果がわかれば終了することが多いのですが、今回は参加していた各企業から「カーシェアリングのような新しいビジネスが、日本でもうまく馴染むのかどうか、フィージビリティスタディ(プロジェクトの可能性や妥当性、投資効果などを調査すること)を続けよう」と話が進み、2002年2月にCEVシェアリング(株)を設立、今年の4月からはオリックス自動車(株)に統合され、現在では東京、神奈川、名古屋でカーシェアリング事業を展開しています。

カーシェアリングを事業としてスタートさせてから、今年でちょうど5年が経ちました。

私がカーシェアリングにかかわったのは、ある自動車メーカーに勤務していたころに、エンジニアとして電気自動車を「モーターショー」のコンセプトカーとして提案したことがきっかけでした。モーターショーのコンセプトカーとして、電気自動車と、当時ヨーロッパで広がりはじめていたカーシェアリングの発想とをセットで提案したのです。その後、電気自動車の普及のために国の実験事業(電気自動車によるカーシェアリング)がスタートし、自動車メーカーから国の財団に出向し、ゼロからカーシェアリング事業に取り組んだわけです。それから今まで、言い出しっぺは後に引けない、日本でもカーシェアリングをなんとか広めたいという気持ちで携わっています。

事業としては海外で軌道に乗り始めていますし、認知度が上が利用者さえ集まれば成り立つ仕組みだと確信がありましたので、不安な部分もありましたが、海の物とも山の物とも知れない、とは思っていませんでした。

高山 光正さん

オリックス自動車(株)レンタカー営業本部 カーシェアリング担当 高山 光正さん

レンタカーとの違い

カーシェアリングは、もともとスイスで始まった仕組みです。町中のセルフタクシー的な概念と、仲間同士で車を買って共同保有しようという概念が融合して、今のカーシェアリングの仕組みができています。日本ではまだ馴染みがなく、「レンタカーとどこが違うの?」と思われることが多いので、そのあたりからご説明したいと思います。

カーシェアリングは、簡単に言ってしまうと、会員制のレンタカーというような仕組みかもしれません。ただ、レンタカーと少し違うところは、レンタカーの場合、店舗の営業時間内でなければ借りることができないのですが、カーシェアリングはいつでも利用することができます。「ステーション」と呼ばれる近場の駐車場で、無人で貸出・返却ができるのです。

ですから、マイカー感覚で使える「会員制のレンタカー」といったらよいでしょう。

保険はレンタカー以上に手厚い保険に加入しており、利用料金の中に含まれていますから保険料の追加支払いは不要です。ガソリン代も利用料金の中に含まれており、レンタカーのように返却ごとに満タンで返す必要はありません。万が一ガソリンが足りなくなって給油する場合は、車に搭載している専用カードで給油ができますので、お客様にガソリン代を立て替えていただかなくて済みます。

レンタカーとライバルであるかのように誤解されやすいのですが、カーシェアリング事業というのはレンタサイクルに近くて、「ちょい乗り」が中心になります。1人もしくは2人での移動に利用されることが中心なので、車のラインナップも軽自動車や小型車にして利用料が安くて済むような仕組みにしています。大きな車は必要ありませんし、もしも大きな車にすると、時間あたりの単価を高くしなくてはならなくなります。初めてカーシェアリング事業を立ち上げたスイスのモビリティ社の車種構成を見ていただいても、それは明白です。

また、長時間・長距離利用の場合は、レンタカーのほうが安いので、組み合わせて使っていただくことをお勧めしています。ちょい乗り利用は少人数・短時間利用が主なのでカーシェアリングの車でもいいのですが、長時間利用の場合は家族や友だちといった大人数で行動することが多いので、レンタカーでミニバンや四輪駆動をお借りいただいたほうがいいでしょう。当社でもTPOに合わせて車を使っていただくことを提案しており、カーシェアリングの会員であるお客様にはレンタカーを格安でご提供しています。

日頃一人でしか乗らないのに大きな車を運転していた人が、小さい車で済む場面では小さい車を使うという習慣が定着すれば、環境面でも貢献できるのではないかと思っています。

また、カーシェアリング事業を日本でスタートしようとすると、今のところ、レンタカー扱いもしくは共同使用扱いという2通りの方法しかありません。交通システム的な仕組みで動かそうというときに、車検証に全員の名前を書く(共同使用扱いの場合)というのは現実的ではない。あくまでもレンタカー事業として対応したほうがいい、ということです。

IT化が普及を促進

スイスのカーシェアリング事業は、1988年の誕生からもうすぐ20年が経ちますが、1995年から1999年にかけて急激に成長しています。

その理由は、非常にローテクな段階からスタートしたカーシェアリングのシステムが、この時期に改善されたことにあります。

スタート時は、車のキーを金庫のような箱に入れておいて、金庫の鍵は各自が持ち、予約した人は金庫から車のキーを取り出して利用する。終わったら乗ったキロ数、時間を車載のノートに書く、というような方法を取っていました。

ただ、この方法では人数が増えると対応できなくなります。意図的でなくてもノートのつけ方を間違えると次の利用者に迷惑がかかるといった弊害も出てきます。そこで、自動的に無人で記録をつけていく仕組みが開発されました。その結果、利便性が高まり飛躍的に利用者が増えたのです。

同時に自治体などが支援するようになっていきました。実は海外では、カーシェアリングは公共交通の1つとして認識されており、さまざまな交通機関との連携が図られています。例えば、1枚のカードで路面電車、バス、カーシェアリングのすべてに対応できるようになっているのです。

当社のカーシェアリングの仕組みについてですが、すべての車にオンボードコンピューター・ICカードリーダー、表示装置などを搭載し、軽帯電話を経由することでデータセンターにアクセスするということが大きな特徴です。

会員になると非接触ICカード(キーカード)が交付されます。交通や電子マネーなどにも使われるカードシステムで、他のICカードが使用できるように開発しています。ゆくゆくは、日本でも電車もカーシェアリングも1枚のカードで利用できるようにと考えています。

また、特筆すべきことは、もともと国の実験からスタートしたこともあり、「共同利用のASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)システム」というセンターシステムのソフトを提供できるようになっています。ですから、各地域でマンションに設置したいと希望する事業者には「みんなでセンターをシェアリングしましょう」という発想で運営しています。

実は名古屋や関西、金沢などでも、少し仕組みは違っていますが相互乗り入れをして、地元の事業者と一緒になって普及させる取り組みを行っています。つまり競合会社ではなく、相互送客していくことで利用者へのメリットを増やし、普及を促進させようという思いがあります。

最近はオリックスだけでなく、他のレンタカー会社でも始められており、業界で高い関心を集めている事業です。市場がどんどん広がって、知名度が上がれば利用者も増えてくれると思いますので、参入企業が増えることは大歓迎です。

加入する理由

利用者のカーシェアリングへの加入のきっかけについては、「車両コストを低く抑えたい」、「タクシー代を節約したい」ということなどが主な理由になっていましたが、最近では環境への配慮という観点からの利用も増えてきています。大手電機会社なども公共交通とカーシェアリングを組み合わせて使用する取り組みを始めています。このような利用は普及の加速にもつながるので、大いに期待しています。

個人の場合は、郊外部から都心部に引っ越した場合、高層マンションでは特に駐車場代が高いですが、それを節約するためにカーシェアリングを利用される場合が多くなっています。主な利用内容は、買い物とお子さんの送迎です。

「都心部の各駅にステーションを増やしてほしい」というご要望にはまだ応じきれていません。そういった場所は地代が高いので、なかなか駐車場が確保できないのが現状です。

マンションカーシェアリングを導入している例は、100世帯のマンションから1000世帯を超えるものまでさまざまです。また、都心型と郊外型では特性が違い、都心型ではファーストカー的な利用ですが、郊外型ではセカンドカー的な利用になることが多いです。

郊外型では、ご主人が車を乗って行ってしまったあとに、奥さまがカーシェアリングを利用されるといった形です。当然のことながら都心型マンションはファーストカー的に使うため使用頻度は高く設置台数が必要で、郊外型マンションでは設置台数が少なくて済む、とか、こういう点がまさにカーシェアリング業者のノウハウといえるところでしょう。また、カーシェアリング利用可能人数は使い方にもよりますが、車1台あたり20人から30人。法人なら50人くらいまでは問題ないでしょう。システム上で運用状況がわかるので、混み合ってきたら1台追加する、というのも、ノウハウといえますね。

やはり既存のマンションに入っていくのは難しく、新築のときにカーシェアリング付きということで導入していただいています。

ただ、デベロッパーは個別の物件毎に動きますから、どこかで導入されたからといって、一連の流れで広がっていくというのは今のところ難しいのが現状です。

海外のカーシェアリング

ヨーロッパではスイスから始まってドイツなど各国に普及していったのですが、アメリカにもカーシェアリングの普及は飛び火しています。90年代の半ばから各都市で行なわれるようになりました。その中で急成長したのがジップカー社という企業です。

この会社の特徴は、町中の300〜400mごとにステーションを設けていることにあります。要するに、マイカーと同じ感覚で使えるところが成功の秘訣です。カナダのトロントやイギリスのロンドンにも進出し、会員数は8万人を超え、今やスイスを抜いて世界最大のカーシェアリング会社となっています。

人口当たりの会員数はスイスが一番です。スイスの人口は横浜市の約2倍である740万人、カーシェアリングの会員数は7万人、車の台数は1850台で、人口の約1%が会員です。アメリカは、人口当たりの人数ではまだまだスイスに及びません。

面白いのはアメリカ・フィラデルフィア市の取り組みです。業務用の車や公用車というのは、ほとんど月曜から金曜までしか使われないことに着目し、土日には住民に使ってもらうというものです。公用車をカーシェアリング業者にアウトソーシングすることによって、自分たちの経費節減にも役立つという、一挙両得の仕組みです。しかも、低公害車を普及させていこうというのですから、一石三鳥かもしれません。海外ではこういった取り組みが進み始めています。

日本は、規模からいうとまだまだです。当社も名古屋と東京で展開していますが、事業規模は海外に比べるとまだまだ小さく、まさにこれからといった状態です。まずは、広く皆さんに知っていただく必要があると思っています。

コスト意識の向上で無駄な利用が抑えられる

そもそもカーシェアリングというのは、費用の軽減というところから入っています。私たちの料金設定は、携帯電話と同じで利用状況に応じてプランが選べるようになっています。たくさん使える人はAプラン、少ししか使わない人はBプランを選んでいただいています。いずれにしても、マイカーとカーシェアリングの利用分岐点はおおよそ年間9000kmになります。つまり9000km以上走る人は同じ車種ならマイカーのほうがお得だということです。

特に首都圏にお住まいの方は、年間2000km程度しか走らない人が多いということなので、そうなってくるとカーシェアリングを利用したほうが、月額にして3万円程度はお得だということがわかります。

このように、加入のきっかけは費用の軽減なのですが、実際には交通問題、環境問題への対応策として有効だということがわかってきました。渋滞緩和、公共交通機関の活性化、空質改善、温暖化防止、駐車場問題の解消といった、さまざまな利点があることがわかりました。

スイスの例ですが、移動手段別の距離(年間)を入会前と入会後で比較したグラフがあります。それによれば、車を持っていたときには年間9000km程度は走行していた人が、カーシェアリング入会後は2600kmに減っているのです。これは、カーシェアリングが利用毎に料金が表示されるため、自分の移動にかかるコストを意識するようになるためです。逆に、マイカーの場合は購入するときには価格を気にするのですが、いったん買ってしまうと「使わないともったいない」といった気持ちで、ついつい乗ってしまう。すぐ近くのコンビニへ行くだけなのに、無駄に乗ってしまう。カーシェアリングではこうした利用がなくなるのです。

このような理由から、カーシェアリングは温暖化防止に効果があると評価されるようになっています。海外では環境に貢献しているビジネスだと認められています。

我々が目標にしているのは、都市ごとにカーシェアリングを整備していきたいということです。今は出発地から目的地まで車を利用していたとしても、今後は最寄駅まで電車を利用し、そこからカーシェアリングを使ってもらう。そうすれば渋滞に巻き込まれることもなく移動の時間短縮にもなりますし、コストも削減できます。また自分自身が渋滞の原因にもならずに済みます。環境にも優しいというわけです。

ステーション数の確保は地代がネック

日本のカーシェアリング事業については当社が一番大きいといっても、まだ会員数1000人の規模です。ですから、現在のステーション配置についても、アメリカのジップカー社のように密にできていません。拠点も東京、神奈川、名古屋で68箇所、車も90台です。

CEVシェアリング(株)としてスタートして以来小さな規模で事業展開していましたが、2007年4月からオリックス自動車と統合しましたので、今後はオリックスのレンタカーネットワークをうまく活用してカーシェアリングを普及していこうと考えています。

蒲田プロジェクトと名づけた展開では、オリックスのレンタカーネットワークであるレンタカージャパレンの蒲田営業所の店舗から半径2km以内の場所に10カ所のステーションを配置しました。

都心部の新しい街づくりの一環として、例えば東京駅の周辺などで、ビル毎に1台ずつ車を置くことができれば、テナントサービスにもなりますし、地域交通としての発展も望めます。現状では、東京駅の丸の内側に3ヵ所、八重洲側に2カ所の拠点をつくったところです。

丸の内側には、「オリックスカーライフプラザ丸の内」という店舗を4月にオープンしたため、カーシェアリングについてダイレクトにアプローチできるようになりましたから、これから需要も伸びると思います。

今はまだ拠点が少ないため、地元の駅で乗って東京駅で乗り捨てるという使い方はできません。ワンウェイでの貸出を実施しようとすると、駐車場を多く確保しなくてはならないのです。会員数が増え、駐車場がもっと確保できるようになれば、すぐに実現できます。ただ、都心部の駐車場代が高いことがネックになっています。

新しい概念、新しいライフスタイルなので、普及するまでには時間がかかるとは思っています。駅前の土地や自治体の土地を、駐車場として安く提供していただくなど、何らかの後押しがあると助かります。

公共交通機関へのモーダルシフト

カーシェアリング普及の可能性としては、現在展開している公共交通機関の1つとしての役割、マンションの付帯設備としての役割、そしてまだ実際には事例のない自治体の公用車への適応やリゾートでの交通手段などが考えられます。

国土交通省関連の財団で、交通モビリティエコロジー財団という組織があり、その財団と当社の共同で実施したアンケート調査を行ないました(2005年)。その調査によれば、スイスと同じように、日本でも年間の移動距離が減るという結果が出ました。一方アメリカの場合は、車の利用方法が少し違っているので、利用抑制作用はスイスや日本ほど顕著に表れないようです。

モーダルシフトの観点で見ると、カーシェアリング加入後に公共交通機関の利用が増えています。広域ネットワークということでいえば、電車との連携で使いやすくなっていきます。全国的なネットワークで広げていきたいと思っています。

私たちの考えるカーシェアリングの目的は、車への過度な依存をやめよう、ということです。それは、車を一切使わないということではなく、公共交通との連携でうまくバランスをとりたい、ということです。

今までは車の保有率がどんどん増え、人口は郊外に広がり、低密度化していく、という図式でした。住む人が低密度化することで、公共交通のサービスが低下していた。ある意味で悪循環に陥ってしまった。その悪循環をどこかで断ち切って、逆廻ししながらバランスを取りたい、と思っています。もちろんカーシェアリングだけでそんなことができるわけではないのですが、今までのTDM(交通需要マネジメント Transportation Demand Management自動車の効率的利用や公共交通への利用転換など、交通行動の変更を促して、発生交通量の抑制や集中の平準化など、「交通需要の調整」を行なうことにより、道路交通混雑を緩和していく取組み)であるコミュニティバスやパーク&ライドといった仕組みと一体になって、この逆廻しを進めていかなければ、マイカーが持つ「便利さ」という魅力には太刀打ちできません。

そういう意味でカーシェアリングを普及させたいと奮闘していますが、日本ではまだまだこれからというところです。

特にこれから高齢化社会が予測され、また若年者にとっては公共交通期間は不可欠ですから、カーシェアリングを普及させることは、公共交通機関の再生のためにも役立つと思います。

最後に、金沢での取り組みについて、ご説明します。

金沢ではバス事業者が、ICカード型定期券・乗車券を、カーシェアリングの会員カードとしても使えるようにしています。さらに『エコポイント』という仕組みを設定しました。バスに乗ってもカーシェアリングを利用しても、町で買い物をしてもこのポイントが貯まり、ポイントをバス運賃に変換することができます。これによりバスとカーシェアリングで充分だという地域住民の支持を増やしていこうとしているところです。

海外では、このような取り組みは既にあるのですが、日本では初の試みです。

車の趣味性は減少傾向に

モーターショーでコンセプトとして提案したのは、確か1995年のことで、スイスの事例が軌道に乗る以前のことでした。と言いますのも、そのころはあまり海外の事例には関心を払っていなかったのです。このようなコンセプトは、何もスイスに限らず、日本でもコミューターカーのような発想として1960年代からアイデアとしてはありました。そのアイデア自体はヨーロッパでもずいぶん昔からあったのです。時代が下るにつれ、情報通信やコンピューターの技術が発達したことで、推進しやすくなりました。

国の実験としてカーシェアリングに携わっていた時代は、そのようなインフラが徐々に整備されてきたため、それらを生かしながら仕組みをつくってきたというわけです。もしその時代以前であれば、もっと難しかっただろうと思います。もしそうであれば、私もカーシェアリングは無理だと思っていたかもしれません。今はICカードが社会に浸透してきたことも追い風になっています。

日本のカーシェアリング利用者が、スイスのようにすぐ人口の1%になるとは思っていません。しかし、日本では多くの人が利用しただけでも意義があると思うのです。

日本で難しいのは、車が所有者意識を満たす存在である、というところですね。日本の車文化は海外に比べて異質なのです。「車は持つべし」という意識は、高度経済成長期に日本の産業育成のために利用された感覚のようにも思えますが、海外にはそのような意識はありません。

車には趣味性と道具性がありますが、日本人は趣味性が強いように思います。ただ、ここ最近では日本の車社会の感性も成熟してきており、欧米に近づいてきたのではないか、そのことが新車の売れ行きの鈍化として表れているのではないかと思っています。特に最近の若い世代では、車にお金を投資しようという考えの人が減ってきています。

先に申し上げたフィラデルフィア市のように、日本でも週末の利用などについて自治体と市民が連携していけば、自治体にとっても利用者にとってもメリットがあるのですから、うまくいくことになるのではないでしょうか。

マイカー依存型社会というのは、環境問題について真剣に考えるべき今日において、改善していかなくてはならない。カーシェアリングを利用することで、バランスが取れたらというのが私たちの最大の趣旨です。

公共交通機関が発達した都市・近郊部では、自家用車が車庫で眠っているサンデードライバーが少なくありません。実際のカーシェアリングは、そういった人にぴったりのシステムです。

 

環境にもお財布にも優しいカーシェアリングの仕組みは、マイカーから公共交通機関へのモーダルシフトを進める切り札としても、大いに期待が寄せられます。



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