機関誌『水の文化』26号
クールにホットな2107

お天道様のエネルギー

北野 大さん

北野 大(きたの まさる)さん

1942年、東京に生まれる。明治大学工学部卒業。東京都立大学大学院博士課程修了。(財)化学品検査協会、淑徳大学国際コミュニケーション学部教授を経て、2006年より明治大学理工学部応用化学科教授。環境科学会理事、日本分析化学会会員。2004年日本分析化学会・技術功績賞受賞。2006年環境科学会・学会賞受賞。 著書に、『環境ホルモンから家族を守る50の方法』(監修 かんき出版1998)、『ゴミ・リサイクル・ダイオキシン』(共著 研成社1999)、『いまだに、たけしの兄です』(主婦と生活社2000)他。

私はね、恥ずかしいんですよ、環境問題の専門家なんて言われると。本当は英語の先生になりたかったんです。ところがお袋は、奉公に出てから苦労して裁縫を身につけたもんですから、「腕に職をつけなくてはいけない。技術が一番。技術は泥棒に盗まれることもない」というのが人生訓。我々兄弟3人は、否応なしに工学部に行かされました。

卒業後、たまたま勤め先で化学物質の環境汚染を研究していたら、ちょうど社会的にも問題になった時期と重なりましてね。その後も、化学物質のリスクコミュニケーションとか安全管理とか、新しく始めたものが、偶然、社会のニーズと合っていた。ここまで運だけで生きてきた、結果オーライの人生なんです。

今、環境問題で我々のライフスタイルが問われていますよね。だから科学者も論文を書くだけじゃなく、発言しなくちゃいけない。その意味では、私も少しは世の中の役に立てるかなと思います。難しい環境の話をしても、なかなか聞いてもらえませんが、「北野武の兄貴」という興味で私の話を聴いてくれる人がいますからね。

最近は、「循環型社会にしよう」と話しています。今後は地球環境を守りながら、資源を有効利用する技術が求められると思うんです。キザっぽい言い方をすると、「地球環境との共生」が、次の100年のキーワードだと思います。

一番心配なのは、エネルギーです。人類は長い間太陽のエネルギーを利用してきましたが、産業革命以降、化石燃料に変えましたね。いわば地上の太陽から地下の太陽にシフトしたわけですが、これはいずれ枯渇するし、地球も汚してしまう。

だから、またお天道様のエネルギーに戻って、太陽光発電や風力発電をもっと活用すればいいと思います。スペースシャトルでソーラーパネルを宇宙に運んで発電するとか。でもあるいは、核融合で地上にもう一つ太陽をつくれるかもしれません。あと50年ぐらいかかるかもしれませんけれど。

技術の方向性でいえば、「より速く」とか目的だけを重視するものには賛成できないですね。今、真空状態のトンネルをつくって、ロケットで人や物をボンッと送る技術が考えられていますが、そんなに急いでどうするんでしょう。

飛行機や新幹線ができてから便利になりましたが、「旅」は単なる「移動」になってしまいました。でも、この前乗った新幹線が、何かの都合で徐行したんです。そうしたら、ゆっくり景色が楽しめました。思わぬところにお宮の鳥居を発見したりね。こういう過程が面白いのに、今の技術はそこを軽視している感じがします。

料理もそうでしょ。いまはハーフメイドのものが、電子レンジですぐ調理できる。昔の「お袋の味」が「袋の味」になって、味気ないですね。つくるとか、待つことにも喜びがあるのに。

それと最新の技術って、ブラックボックス化してきましたね。中身がわからないし、壊れても自分で直せない。我々が子供のころは、なんでも自分たちでつくったり分解したりしたものです。今は技術が進みすぎて、人々が創意工夫する余地がなくなってきた。

日本には天然資源が少ないので、人間を資源にするしかないんです。そのためには技術や科学教育が必要だから、小中学校でも創作や実験の時間を増やしてほしい。そうしないと、ますます科学離れが進みそうです。

技術の進歩に人間のモラルが追いついていけないことも、今の大きな問題だと思います。インターネットを悪用する人間がいるでしょ。科学者もデータを捏造したり、「いい音楽を聞かせると、きれいな結晶の氷ができる」なんてエセ科学を広める人間もいる。

残念ながら人間は、規則を破ったり、過ちを犯すものなんです。だからそれを前提に安全管理を考えたり、モラル教育もしていかなくちゃいけない。技術がいくら発達しても、それを使うのは人間なんですから。

2107年の社会がどうなるかは、予想もつきません。医学や脳科学は目覚しく発展するでしょうが、生まれたとたん遺伝子で寿命を調べるような社会は嫌ですね。神秘的な部分には、手をつけてほしくない。人間は生きものである以上、寿命も体格も頭脳も個人差があります。多様性があるから社会が成り立つんです。

100年後の社会は、どんな人にもチャンスが公平に与えられたり、弱者にとって優しい世の中であってくれたらいいなと思います。



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