機関誌『水の文化』28号
小水力の包蔵力(ポテンシャル)

ミニ発電でくるくる地域づくり
〈長野県大町市〉NPO地域づくり工房

背後に大町ダムを控えたコヲミ平ミニ水力発電所。

背後に大町ダムを控えたコヲミ平ミニ水力発電所。

マイクロ水力発電で、地域おこしに取り組んでいる市民団体があります。 地域の個性を生かした仕事おこしをしよう、と旗揚げした「NPO地域づくり工房」の小水力発電への取組みに学びます。

編集部

内発型の開発を目指す

「NPO地域づくり工房」は、2002年の10月に発足し満5年を迎えた、長野県大町市にある市民団体だ。

「NPO地域づくり工房」の代表理事である傘木宏夫さんは、国からの援助や補助金、プロジェクトに頼りがちな傾向が強い中で、地域の個性を生かした仕事おこしをしていこうと、有志で会を発足させた。

会の理念は、「市民からの仕事おこし」。もともと大町は、戦前から昭和電工、東洋紡といった大企業の立地があり、戦後はダム開発があり、近年ではオリンピックがある、というように外からの開発によって発展してきた地域だった。そのような体制に慣れてきてしまったために、そうしたことが望みにくい時代になった近年、苦戦を強いられるようになっている。

まず発足からの半年間、《仕事おこしワークショップ》を計6回行なった。このワークショップは、地域で見捨てられている資源、生かされていない資源、いわば「ニッチ」を探そう、ということを目的に行なわれた。

部屋を埋め尽くした人たちが、「この地域で生かされていないもの・こと・人・情報」をカードに書き出して、壁全面に貼った模造紙に分類しながら貼っていった。次に青い紙に「では、それを生かすためにはどうしたらいいか」ということを書いて出してもらった。ただし、「行政に何かしてもらう」というのは禁句だよ、というルールだったそうだ。

それらの意見を再び整理していって、最終的に6つのプロジェクト案が残ることになった。

その後、話合いを進め、「菜の花エコプロジェクト」と「くるくるエコプロジェクト」の2つが誕生した。なにぶん弱小貧乏団体なので、最初に立ち上げたときに寄附してもらった虎の子50万円をそのプロジェクトにあてるため、無計画なことはできない。できるだけ効果的に使えるように、計画は慎重に吟味された。

誰でも経験があると思うが、アイディアというのは思いつきだけだったらいくらでも出てくるもの。しかし、具体的な一歩を考えること、つまり自分たちが持つ資源をどう活用するかを見極めることとなると難しい。それを半年間、ワークショップという形で、なだめたり叩いたりしながら練ってきたというのだ。

クモの巣状の水路

小水力、いやマイクロ水力発電とも言うべき「くるくるエコプロジェクト」は、市内に張り巡らされた用水路を資源として生かそうというものだ。

大町には2つの土地改良区があって、それを1枚の水路図にまとめてみた。そこに書かれた水路を全部つなげると、実に220kmにもなるという。この辺りには、山から南に向けて標高100mから200mの扇状地が広がっている。鹿島川と高瀬川という2本の川が流れている間を、クモの巣のように支流が張り巡らされている。

信濃大町駅から「NPO地域づくり工房」の事務所まで歩いてきても案外気がつかないのだが、自転車で来るとずっと登り坂だということがよくわかるという。実際に、南に行くときは自転車を漕がずに行って、帰りは押して帰るほどの傾斜がある。この「勢いよく流れる水路網」が地域おこしの元手となると考えたわけだ。


  • 大町市水路図

    大町市水路図

  • 信濃川千曲川の流域は広大だ。

    高瀬川と鹿島川がつくった扇状地を浮き彫りにしている水路図。NPO地域づくり工房の壁に大きく張り出されている。それにしても、信濃川千曲川の流域は広大だ。

  • 大町市水路図
  • 信濃川千曲川の流域は広大だ。

農業水路は宝の山

農業用水路には、田んぼに水を入れる、山から出てきた冷たい水を温める、酸素を混ぜる、という3つの目的があって、そのため水路の途中に落差工(らくさこう)というのをつける。

田んぼに対して水平に水を送っておいて、ストンと落とす。こうして勾配を調整しているのである。山から引いてきたまま田んぼに入れると勢いがつきすぎるとか、水が温まらないとか、勾配の調整が難しいとかいった不都合なことがあるからなのだが、落差工を利用するとそれらがうまくいくのである。水が落ちるときに、空気が一杯混ざるというメリットもある。

落差工は50mから100mに1カ所ぐらいずつあるので、大町市内全体でいったら、それこそ無数にある。こういうものを地域のエネルギーとして生かせないか、そのエネルギーを利用して地場産品をつくれないか、そしてそこを地域の新しい拠点として、遊び学習やらイベントやらを展開していこうじゃないか、というのが「NPO地域づくり工房」のコンセプトなのだ。

こうした計画案が2003年3月にまとまって、春に実行委員会が発足した。

初期の段階から、傘木さんたちは何が障壁になるのか、といった議論を重ねていった。

一つは、技術的な課題。本当にこんな小さな水路で発電ができるのか、という疑問が、まずあった。

また取れた電気を有効に使えるのか、ということも問題だ。よくいわれるのは、水力発電で取れた電気の波形は非常に雑で、安定していないため「粗雑な電気」と言われたりする。そんな電気を、果たしてうまく使っていかれるのかどうか。

最大の難関は、制度の壁であった。本当に、水利許可が取れるのだろうか。

水利権を取るには、たとえ水利権者が富山県や長野県であっても、発電に関しては、国の許可を取る必要がある。1kW以下のマイクロ発電のようなものであっても、基本的には水利権を取得しなければならない、という通達が過去にも出ていたのである。

全国の事例を調べてみたところ、黙ってやっているところはあることもわかった。しかし、傘木さんたちは「NPOとして取り組むということは、小水力発電の可能性を社会に広げていくことを目的として考えるわけだから、黙ってやるのではなく、正面から申請書を出そう」と考えた。

ところが国土交通省からは、「前例がないのでダムと同じ書式で出してください」と言われ、つくった書類は、厚さ2.5cmにもなった。しかも、実験ということで申請しているので、毎年更新。

各関係機関の同意に関してもその都度取らなければならない。かなり面倒なことは事実であるが、傘木さんたちは正々堂々と正攻法でいくことを選んだ。

また農業用水路の三面コンクリート張りというと、環境破壊という見方が強い。

「でも、こうして小水力発電をやるようになると、違う見方ができます。三面コンクリート張りの必要悪の部分があるんなら、そのミチゲーション(mitigation開発事業が環境に与える影響を緩和するための保全行為)としてのミニ水力発電の可能性ということは、今後充分考えられると思います」

という傘木さん。

農業人口が減ってきている中で、農業水路の存在価値がそんなところで見出されたら、新しい可能性が生まれるだろう、とも言う。

3カ所同時スタート

記念すべき2003年の10月18日、駒沢ミニ水力、川上ミニ水力、小西ミニ水力の3つの発電所が、公開実験で同時にスタートした(小西ミニ水力は現在は閉鎖)。3カ所同時に始めたということで、多方面から大変注目された。

まず川上ミニ水力の川上博さんは、ワークショップの中で行なった関係者分析(関係機関の役割、問題、現状を把握することを目的に、プロジェクトに関連する個人、機関、グループを分析すること)という手法で個人名を挙げていく中で、登場してきた人。こんなすごい人がいるよ、と紹介されてワークショップにかかわってもらううちに、「くるくるエコプロジェクト」の顧問を引き受けるようになった。旧国鉄で変電所の仕事をしていた技術者だった。

以前から「自分の家の前を流れている水路を使って水力発電がしたい」と思っていたが、いろいろな手続上の問題があって諦めかけていた。そんなとき、「NPO地域づくり工房」と出会ったという。

駒沢ミニ水力発電所は、「くるくるエコプロジェクト」の実行委員長、駒沢一明さんがつくったもの。いつも自分の家の横を流れる水路を見ながら「発電したいなあ」と思っていたそうだ。

小西ミニ水力発電所は、育苗家の小西国広さんが始めた。小西さんは、21基ものビニールハウスを持っている。実はビニールハウスで花を育てるというのは「電気を花にする」といわれるほど、電気を大量に使う仕事である。それを商用電力でやっていたんでは競争力がつかないから、自分の畑の横を流れている水路から発電ができないものか、というのが動機だそうだ。

実行委員会を立ち上げて検討しているという記事が取り上げられたとき、それを見た駒ヶ根の建設会社の社長が、「これまでの建設会社は公共土木に頼ってきたが、水力発電というのはエンドユーザー対応の仕事だ。落差や水量に合わせて、すべてオーダーメイドの必要がある。そういうものに対応するには、地元の水利をわかっている中小企業の仕事になるだろう。だから勉強のためにも協力させてほしい」と言って、駆けつけてくれた。

しかし今、傘木さんたちは小西ミニ発電所の件で土地改良区のことを、もっと思いやるべきだったと反省している。

「水利権というのは、豊臣の時代からの歴史があるものです。そういうことに対して、我々の配慮が足りなかった、と思っているところです。コミュニケーション不足の一言に尽きます。そういう意味では、非常に良い勉強になりました」

また、水利というものは、こういった歴史的な背景を持っているのだ、ということを感じた一件だったともいう。

データ的な裏づけが取れるところまで実験が続けられなかったので確かなことは言えないが、小西ミニ水力発電所は8.9kWの出力があり、傘木さんは「継続していたら事業的にも成立できるのではないか」という手応えを得たという。

養殖池に設置されたコヲミ平ミニ水力発電所。「見える」ミニ発電としては、迫力満点。

つくった電気の使い途

水力発電は粗雑な電気だ、といわれている。電気の波形がうねる部分があるため、大手の発電会社はその部分をカットして、安定したところだけを供給している。しかし、ミニ水力発電では発電量が少ないのだから、不安定部分を捨ててしまったらもったいない。

粗雑な電気をいかに使うか、という解決方法の一つは、蓄電池に充電して全部使うというもの。しかし、変換したときのロスがあり、装置が大きくなってしまうというデメリットがある。

そういう意味で、害獣避けの電柵や熱に変換して使えば、無駄なく全部使える。まだ手掛けていないが、傘木さんが是非やってみたいものに「融雪」がある。これも、無駄なく使える良い方法に思える。

たとえ変換しなくても、買電のために送電すると、そこでもロスが生じる。だから何に利用するか、効率の良い利用方法を考えてから取り組むことも重要になる。

発電方法に関して言えば、それぞれの地域の特性を考えて、水力でも風力でも太陽光でもいい。大町市は地図を見たらわかるように、水力に大きなポテンシャルがあるから、そこに着目することに意味があるのだ。

自然エネルギーによる小規模発電の鍵は、地域特性に合わせて、発電方法と使い途を選択するところにある、と言っても過言ではないだろう。

見て楽しい発電所

「NPO地域づくり工房」の発電所の特色の一つには、「見て楽しい」ということがある。水が回っている、うねっている、落ちていく、という姿が見えるのは、魅力的だ。大町は観光地でもあるので、「見て楽しい」という要素は重要だ、と思ってやっているという。

また国産の発電機を使った場合、1kW以下の小さな発電所で採算を取るというのは、ほとんど無理。それでも普及させていくんだ、というインセンティヴは、単にエネルギーとしてだけではなくて「地域資源」としての存在価値を認めるところにある。

傘木さんは、「見て楽しい発電機」を増やしていくという戦略で、10年間で10カ所ぐらいのミニ水力発電所をつくっていきたいと考えている。

似たような地形の地域から視察に来ることも多いという。その場合、「NPO地域づくり工房」は他地域の手伝いはしない。代わりに登録している会員企業などを紹介しているそうだ。

実は、水利許可が必要とされない場合もある。河川に指定されていない沢水をはじめ、落ち水や残水と呼ばれる水利の用途が終わった水、例えば工業用水や浄水場の水は、取り込むときには使えないが、使い終わって河川に戻っていく途中の水は、許可がなくても使える。

「NPO地域づくり工房」の申請がきっかけとなって、発電を始めた例も意外と増えているという。

「NPO地域づくり工房」は「くるくるエコプロジェクト」を含めた活動だけではなく、商店街を中心に流通する地域通貨を後押ししたり、多角的な取り組みにチャレンジしている。
下:工房の向かい側の商店。建物とアーケードの屋根の角度を見ると、かなりの坂道だ。歩道の下には暗渠化した水路があり、傘木さんは、商店街の中でもマイクロ発電の可能性を探っている。

小水力発電所は、これからどうなる?

実験ということで立ち上げているプロジェクトなので、いつまでもこの状態を続けているわけにはいかない、という悩みもある。

ただ「NPO地域づくり工房」には、年間で2000人を越える人たちが見学や視察に来る。環境学習やエコへの関心の喚起という、啓発のための拠点としての実績ができつつあるのも、また事実。発電のために水路を利用しようという人がもっと増えれば、法の整備も進んで、もう少し楽になるだろう。申請する人が多くなって運動にまでなれば、状況が変わる可能性だってある。

つまり、小水力発電技術を、利用方法と結びつけて事業化し、それを地域産業振興に結びつけるという点において、「NPO地域づくり工房」の力量が問われつつあるのだ。

傘木さん自身、実践的な運動はやってきたけれど、政策提言を示し多くの人が参加する運動を興すところには、「まだ至っていない」という認識があるという。

例えば申請書に関しても、1kW未満のマイクロ水力発電レベルであれば、許可制ではなく届出制で充分というシナリオもあるだろう。規制緩和によって改善されたらもっと多くの人が取り組みやすくなるのではないか。

そのためには、もっと政策的なバックアップが得られるような活動にしていかなければいけないな、とみんなで話し合っているという。

ミニ水力発電のレベルでは、電力エネルギーのことだけを言っていたら支持されない。もっと違う切り口で、例えばそれにかかわる人や地域に与える影響、電力とは違う意味でのエネルギーをアピールしていかなければ、支持は得られない。

「電力エネルギーと人的、地域的エネルギーをセットで訴えていきたい」

と傘木さんは考えている。

例えば事務所がある商店街でも、水路を使ってミニ水力発電をやろうという声がある。実は暗渠になっている水路には、いろいろな物が捨てられて流れてくる。水力発電をやるときには流入物がないということが必要条件になるので、水力発電に取り組むことで「水を汚さないで使おう」と訴えていくこともできる。水に関心を向けることができる。

大町は河川の最上流にあたる地域。そこで水を汚していたらいけない。そういうことに気づくきっかけとしても、ミニ水力発電は大変役に立つだろう。

小学校で話をする機会もあるそうだが、話し終わって最初の質問に「水の何が電気になるんですか?」と聞かれたそうだ。

「我々は当たり前に考えているけれど、そこから話をしなくちゃいけなかったんだと思いましたね」

と傘木さんは言う。

「水が落ちるときの力強さを子供たちが知っていたら、そこから電気ができることや水にはエネルギーがあるんだ、という話が実感できると思います。そこら辺のプールの水とは違うんだ、ということが納得できると思う。そういう意味でも見て楽しい発電というのは、水の力を知らせる意味があると思います」

川で泳ぐ子供が減ってきている中で、ミニ水力発電は水の力を思い起こすことにも貢献できるのではないかな、とも言う。

「倉阪秀史先生の永続地帯という考え方も、大変面白いと思いました。それで2003年の11月に来ていただいてお話をうかがいました。
 すぐにそこまではいかないとしても、大町はダムの町で、万が一、日本が諸外国から経済封鎖されたとしても、電気を売って外貨が稼げるだけの力を持っているんです。都会はやっていかれないでしょうが、大町は独立を宣言してもやっていかれる。これは極端な話ですが、大町はそういう意味で永続地帯となれる素質を持っています」

ダムは環境的には負の遺産という側面もあるが、その歴史があるからこそ、この町には電力にくわしい川上さんのような人材がいる。そしてコンクリート三面張りの農業用水路も、環境的には負の遺産という側面もあるけれど、ミニ水力発電に生かそうと思ったら大変大きな財産になる。そういう先人たちが築いてきた遺産を、持続可能な地域づくりに生かしていこう、というのが「NPO地域づくり工房」の目標だ。

「NPO地域づくり工房」の仕事は、こうした遺産を次の世代に「見えるように」つないでいくことなのだ。

  • 三面張りの用水路に設置された駒沢ミニ水力発電所。
    ベトナム製の発電機は渦巻く水でプロペラを回すタイプだ。プロペラの軸が垂直で、上部にある発電機へダイレクトに回転を伝える。風呂桶のような青いバットの下にパイプが長く伸びているのは、落差をつくって水の位置エネルギーを取り出すため。発電された電気は、すぐ近くの畑の電気柵に用いられているが、発電機からの配線が少々心もとない。



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