専用蛇口の水栓
小金井市中央商店街
JR中央線の武蔵小金井駅南口から、徒歩3分。小金井市中央商店街を過ぎ、小金井街道と連雀通りが交差する前原坂上交差点を左折すると、六地蔵と井戸があります。
「商店街っていっても、みんな通り過ぎちゃうよね。みんなが足を止めてくれる何かいい方法はないかな」と、商店街の活性化に悩む商店主たちが集まって勉強会を始めました。小金井は「水と緑のまち」がキャッチフレーズだから、水か緑で何かできないか、と言い出したのがきっかけです。
緑といっても立地的に難しい。水も国分寺崖線は有名だけれど、湧いて出るのはもっと下の野川のほうだし、という話になって、みんなであちらこちら視察に行ったりしました。すると結構井戸があって、自噴していたりしたんです。それで井戸を掘れないだろうか、ということになり、小金井市中央商店街協同組合で管理していた六地蔵の敷地に掘ることにしました。
六地蔵というのは、1707年(宝永4)に奉納された笠付きの六面地蔵尊のこと。前原坂上交差点は、かつて東西に延びる江戸道と南北の志木街道などが交わる六つの辻でした。
仏教では地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天界の六道があって、人間はこの迷界を生まれ変わって輪廻転生するとされています。六つの辻は六道の辻と見なされ、人が迷わないように六地蔵が祀られたのです。
浅井戸だと雑菌が入る恐れがありますね。不特定多数の人に利用してもらうためには、生の水を安心して飲める水質の井戸でなくちゃいけない。そこで小金井市と東京都から補助を受け、2004年(平成16)暮れに100mの深井戸を掘りました。
幸い、井戸掘削後1年に2回行なっている26項目の水質検査において「水質基準に適合」との結果を継続して得ています。硬度は145で、国内産の水としては珍しい中硬水です。石鹸はあまり泡立たないので洗濯には向きませんが、茶道家などからは高い評価を得ています。 浸透力と抽出力が高いことから、素材の味を引き出してくれる水です。
実際にこの水を使う飲食店もあります。パンやコーヒー、蕎麦のほか、商店街協同組合理事長の斉藤さんの和洋菓子屋さんはフルーツゼリーに使っています。
水を飲むだけなら、プッシュ式の蛇口を押せば、コップ1杯の水が出ますから、誰にでも飲んでいただけます。
もっとじゃんじゃん使いたい場合は、会員に。中央商店街の菊屋文具店で登録料500円を払えば、専用蛇口の水栓がもらえます。誰でも会員になれますし、市外の人も多いんですよ。2010年(平成22)3月現在で、登録利用者は3000人を超えています。
結構、ひっきりなしに利用者が来ますでしょ。毎日通ってくるうちに、健康になったよ、というお年寄りもおられるんですよ。杖をついてきたのに、忘れて置いて帰ってしまったりね。そういう意外な効果もあります。
商店街に設置した石のお地蔵さんも6体になりました。市内在住の作詞家 星野哲郎さんが「365歩のマーチ」にちなんで命名した「しあわせ地蔵」は、リュックサックを背負ったウォーキング姿。武蔵小金井駅南口から、市内をゆっくり巡っていただきたいという商店街の願いが込められています。
ここからは多磨霊園もほど近く。門前町には石屋さんが並びます。地蔵さんも、地元の石屋さんに協力してもらいました。地場の産業で活性化したいという気持ちの表れなんです。
小金井市は雨水浸透ますの設置率世界一を誇る町(2010年〈平成22〉4月の設置率53.4%、設置数5万8000基)。第3回日本水大賞において、グランプリも受賞しています。急激な都市化で減少した湧水を、なんとか復活させ保全していこうと目指してきました。
「水と緑のまち」がお題目で終わらないように、商店街も率先して頑張っています。