隅田川リバーサイドを走るランナー。川岸にシャワーやロッカーを備えたカフェがオープンするなど、利用しやすい環境が整いつつある
今、ランナーたちに大人気のスポットがある。隅田川リバーサイドだ。皇居周辺よりも道幅が広いうえ、水際を走れるので爽快感が違うという。潤いのあるこの水辺、実は洪水対策と表裏一体のものだった。
両岸に沿って遊歩道や緑地が整備されている隅田川テラス。さわやかな川風に吹かれながらランニングやウォーキングに汗を流す人たちの姿が目立つ。舗道の幅が広く、自転車は通行禁止なので、安全で快適に走り、歩けるのがうれしい。
公益財団法人東京都公園協会は、2015年に『隅田川リバーラン&ウォークマップ』を発行した。信号に中断されない約5kmのおすすめ4コースをガイド。冊子のQRコードを読み取ればスマートフォンにもマップをダウンロードできる。
「川べりは都市の貴重なオープンスペース。ラン&ウォークで健康的に隅田川テラスを使い、もっと多くの方々に水辺の魅力を感じていただきたい」(東京都公園協会水辺事業部・渡辺千秋さん)との狙いで制作したものだ。
マップは都内の公園や沿岸区の観光案内所などで配付。新富町のホテルが、マップとタオルと水を特典に付けた宿泊プランを提供して好評を博し、他の宿泊施設にも波及。近隣住民も観光客も入り交じって、隅田川テラスはランナーとウォーカーの新スポットになりつつある。
隅田川テラスの整備は、1985年(昭和60)に東京都が着手した「スーパー堤防」整備事業の一環として進められてきた。旧来のコンクリート直立型のいわゆる「カミソリ堤防」は、高潮による水害からまちと人々の暮らしを守る一方で人と川を隔ててしまう。対して盛土による幅の広い堤防用地と緩やかな勾配をもつスーパー堤防は安全性と耐震性に優れるうえ、潤いのある水辺を復活させ、人を招き寄せる。
都は隅田川の背後の市街地再開発や建て替え事業などのタイミングに合わせてスーパー堤防も同時に整備。現在、両岸総延長46kmのうち約3割がスーパー堤防化されている。
「スーパー堤防には盛土による荷重を支えるための根固めが必要です。それが堤防の川側のスペースつまり『テラス』にあたります。こちらの整備を先行して進めてきました」(東京都建設局河川部低地対策専門課長・冨澤房雄さん)。スーパー堤防に不可欠の機能を提供する隅田川テラスが、ひと足お先に水辺の潤いを取り戻しているわけだ。
神田川、日本橋川との合流部や水門など、隅田川テラスが分断されている箇所がある。「水門の耐震工事などと合わせ、スロープや橋などを設置して、連続してラン&ウォークできるように整備している」と冨澤さんは話す。
また、隅田川テラスの夜間照明も整備中。夏場は気温の下がる夜間にランニングやウォーキングしたい人は多いし、防災目的もある。「壁を照らしたりするなど、橋梁のライトアップをテラスが引き立てるための統一したデザイン」(河川部計画課・榮麻希さん)で整備するという。
隅田川テラスを歩くと目につくのは季節の花々。水辺に憩う人たちの目を楽しませる花壇は「花守(はなもり)さん」と呼ばれるボランティアの地域住民が世話をしている。
花苗の多くは東京都公園協会が提供し、花守さんのグループが春と秋に花を植え、テラスの散水栓の鍵を預かり、用意したホースを使って水やりをする。川辺の花壇は日陰がなく照り返しも強いので、盛夏になると週に2回以上の水やりが必要だ。
「墨田、台東、中央、江東の4区で20団体ほどあり、400名を超える花守さんが活動されています。皆さんとても熱心です。隅田川の特長は地域の方々がテラス管理の一部を担っていること」(東京都公園協会水辺事業部調整課水辺公益係長・渡邉陽一さん)
親水環境のハードとソフトを整備するのは行政の役割だが、ふだん気持ちよく使えるように気を配るのは、川を大切にし、水辺の草花を愛でる近隣の人たち。隅田川テラスを快適にラン&ウォークできる裏には、地域住民によるこうした地道な公益活動があることを忘れてはならないだろう。
(2017年8月23日取材)