機関誌『水の文化』66号
地域で受け継ぐ水遺産

水の余話
水っ子

鳥越皓之

鳥越皓之(とりごえ ひろゆき)

1944年沖縄県生まれ。大手前大学学長、早稲田大学名誉教授。元・日本社会学会会長、日本環境社会学会会長。著書に『水と日本人』(岩波書店)、『自然の神と環境民俗学』(岩田書院)、『花をたずねて吉野山』(集英社新書)などがある。

「水(みず)っ子」とよびたい人たちがいる。なによりも水が好きな人たちのことである。青森県の方言では、河童のことをスイッコというが、水っ子はまさに河童のようだ。

私は長い間、水の研究をしてきたので、学部のゼミや大学院には、いつも水っ子が混じっていた。かれらはなによりも水が好きである。それは歩いていて、川に出くわすと、ワーと感動し、湖に出くわすと、ワーと感動し、井戸に出くわすと、頭を井戸に突っ込む人たちである。

少年・少女にも、水っ子がかなりいそうだ。高校生であった関野真紀子さんも水っ子の一人で、高校時代、柿田川についてのすばらしい“卒業論文”を自主的にしあげた。その内容は豊富な図表と写真。一部の図表は一字一字を丁寧に手書きしたものである。柿田川をどれだけ丹念に歩いたかがよく分かる。彼女は静岡県に住んでいたが、どこかで私を見つけ出したのであろう、私が当時勤務していた兵庫県の関西学院大学に進学してきた。

私は水を研究してきたが、水っ子にはなれなかった。水っ子がうらやましい。水っ子を観察していると、かれらはあきらかに水と恋愛関係にある。こうした水と恋愛関係にある中学生や高校生の若い水っ子がいまも全国にまちがいなく存在している。それは心強いことである。

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