日本では果実を食後の「フルーツ」として食すことが多いが、海外ではサラダに果実を混ぜるなど、野菜と区別なく食べるそうだ。季節ごとに多種多様な果実が手に入る日本で、もっと食べる機会を増やすにはどうしたらよいのか。果実を食材と捉えてさまざまなレシピを提案する『季節の果実をめぐる114の愛で方、食べ方』の著者である料理家の中川たまさんに、実際に果実料理をつくっていただいたうえで、果実に着目した理由や日々の食事への取り入れ方などをお聞きした。
中川たまさんによる果実料理。右から「ビワと砂肝のスパイス炒め」「チェリーとレンズ豆のサラダ」
「ブルーベリーとズッキーニ、ミントのサラダ」
インタビュー
料理家
中川たま(なかがわ たま)さん
神奈川県逗子市在住。自然食品店勤務後、友人2人とケータリングユニット「にぎにぎ」を立ち上げる。2008年に独立し、季節の野菜や果実を活かしたレシピや洗練されたスタイリングを書籍や雑誌などで展開。果実を食材の一つとするおかずやおつまみ、おやつのレシピも多数提案。著書に『季節の果実をめぐる114の愛で方、食べ方』『暦の手仕事』『旬弁当』など。
子どものころから、私にとって果実は身近な存在でした。両親が大分出身で、果樹園をやっている親類も多くて、夏ミカンやサクランボ、カキなど、わが家にはいつも果実がありました。
見た目も愛らしく、香り豊かに季節の変化を知らせてくれる果実が大好きで、そのうち自然と料理にも取り入れるようになりました。メインの食材としてはもちろんですが、果実にはビネガーとは違った酸味や、砂糖には出せないやさしい甘さなどがあるので、果実を調味料としても捉えています。そうすると活用の幅がぐんと広がるのです。
わが家の食卓に、季節の果実が登場しない日はありません。
ひと昔前まで、果実の入った料理といえば給食の酢豚くらいでした。酢豚のなかの甘いパイナップルが苦手だった人も多いと思いますが、あれは缶詰を使っているからなんですね。新鮮なパイナップルだったら、まったく印象が変わると思います。
フルーツはそのまま生で食べるものだという先入観がある人は、「料理に果実?」と拒否反応を起こしてしまうかもしれません。でも果実を旬の調味料と考えれば、もっと自由に献立に取り入れられます。
まず試していただきたいのはサラダですね。いつものサラダに、グレープフルーツやイチゴなど好きな果実をたっぷり載せてみてください。ドレッシングを控えめにしても、果実の酸味がアクセントとなっておいしく食べられます。
ソースに使うのもおすすめです。刻んだトマトとタマネギをピリ辛味にしたサルサというメキシコのソースがありますが、私はよくトマトの代わりにプラムやパイナップルでサルサをつくってステーキなどに添えます。果実のほのかな甘みと酸味がお肉の味を引き立ててくれるのです。また、リンゴやキウイをピクルスの代わりにタルタルソースに混ぜてもいいですね。
基本的に、同じ旬の野菜と果実はよく合います。例えば今が旬のチェリーやブルーベリーには、ゴボウよりもキュウリやズッキーニの方が合わせやすい。料理を考えるときは、同じ季節のものを取り入れるのが自然ですね。
また同じ種類の果実でも、出はじめの時期と旬の終わりでは、みずみずしさや風味、果汁の量などが全然違ってきます。初期はみずみずしいけれど果汁は少なく、終期はややしなっとしているけれど果汁は多い。そうした変化も知っていると、組み合わせのヒントになると思います。
果実を炒めるというと驚かれるのですが、ジャムやコンポートにできる果実は、たいてい炒めたり煮込んだりしてもおいしいです。ビワのコリコリした食感は砂肝と相性がよくて、一緒に炒めるとワインにも合う一品になります。
レモンのようにはっきりした味の果実は確かに使いやすいですが、主張が強すぎて料理全体がレモンの風味になってしまうことがありますよね。その点、ビワやイチジクなど酸味が少なく、ちょっとぼんやりとした「大人の味」の果実は、合わせる食材を邪魔することなく、料理に奥深さを加えてくれるので、上手に使えばとても優秀な果実なんですよ。
そうですね。今、若い人を中心にさらに果実離れが進んでいるようです。昨今は「なんとか果実を食べてもらおう」と品種改良によって果実はどんどん甘くなっています。種がなくて食べやすいもの、皮がむきやすいものなども次々登場しています。その一方で、夏ミカンや甘夏といったかつてよく食べられていた果実は、市場でほとんど見かけなくなりました。
新しい味の果実に出合えるのはうれしいですが、果実がもつ本来の味、苦みや酸味などが消えてしまうのは悲しいことです。若い人には、できれば昔ながらの果実も敬遠せずに口にして、目が覚めるような酸っぱさを体験してほしいです。
新鮮でおいしい果実があったら、まずはそのまま味わうのが一番です。でも果実は当たり外れが多いもの。もしも味がいま一つだったら、調味料のつもりでサラダに入れてみたり、煮込み料理に使ってみたりしてください。
特に旬の果実をたくさんいただいて食べきれなかったときなど、私はジャムをつくったり、ビネガーや砂糖に漬けたりして保存しています。そのジャムや果実酢をドレッシングや料理にも使うことで、長く果実を楽しむことができるのです。
ジャムは使い勝手がよくて、炭酸水に入れて飲む、カレーに混ぜると味に深みが出ます、ドレッシングにしてもいいですね。また、思いがけず大量の果実を一度に手に入れたときは、低温のオーブンでじっくり乾燥させて、ドライフルーツにするのもおすすめです。
キッチンに立って果実を調理していると、フレッシュな香りが広がります。それだけで私は心が癒される。まさに天然のアロマです。
主役にも脇役にもなれる果実には、無限の可能性があると思います。皆さんもいろいろ工夫して、ぜひ果実のある生活を楽しんでください。
材料(2人分)
つくり方
材料(2人分)
つくり方
材料(2人分)
つくり方
材料(4人分)
つくり方
レシピ提供:中川たまさん
※季節の食材は水分量や甘みが異なるため、レシピを目安に調味料の分量を加減して好みの味に
※食材を洗う、皮をむくなど通常の下ごしらえは省略
※計量単位は、大さじ1=15ml、小さじ1=5ml
(2021年5月24日取材)