機関誌『水の文化』69号
Z世代の水意識

Z世代の水意識
調査チーム座談会

生活意識調査から探る「Z世代の水意識」とは?

ミツカン水の文化センターは、1995年(平成7)から毎年6月に「水にかかわる生活意識調査(以下、生活意識調査)」を実施し、集計結果を発表している。これは生活者の水とのかかわりや意識を明らかにすることを目的とした定点調査で、継続性を重視しながらも時代のトレンドを踏まえた設問なども随時取り入れている。Z世代が生まれたのは、くしくも生活意識調査がスタートした年とほぼ同じだ。そこでZ世代が生まれ育った社会環境を生活意識調査で振り返ることで、Z世代の水や環境への意識を多少なりともつかむことができるかもしれない……と考え、過去26年間の20代のデータを整理した。それを踏まえて生活意識調査に携わる調査チームと編集チームの12名で座談会を行なった。

X世代、Y世代、Z世代の調査対象年
参加者
参加者 計12名
調査チーム7名=
後藤、田端、小林
日本能率協会総合研究所:稲富、加藤、永田
SYNCA:久保
編集チーム5名=
浦本、松本、前川、手塚、中野
「水にかかわる生活意識調査」の概要

調査対象は、1996年以降は東京圏、大阪圏、中京圏に居住する20~69歳の男女。2009年まではファクシミリ調査で約600サンプル、2010年以降はインターネット調査で1500サンプル

座談会で用いたデータについて

○今回の目的
上記の生活意識調査のデータを用いて、Z世代の水や環境への意識を推測・想像することが目的。今の20代とかつての20代を比較することでZ世代の特徴を浮き彫りにする

○本特集の「世代」の定義
X世代=1965年(昭和40)~1980年(昭和55)生まれ
Y世代=1981年(昭和56)~1995年(平成7)生まれ
Z世代=1996年(平成8)~2012年(平成24)生まれ
※生年には諸説あるが、今回はこの区分を採用した

○データ整理方法
過去26年間のデータから「20代」をピックアップ。1995~2000年を「20年前の20代=X世代」、2010~2015年を「10年前の20代=Y世代」、2020年を「Z世代」としてデータを比較し、Z世代の特徴を見ていく。一部の設問では2021年の調査データも活用した

水への関心が薄れている?

編集T 過去26年間のデータから「20代」をピックアップして一部再集計したもののうち、まずはもっとも身近な「水道水」から見ていきます。水道水の得点は、X世代ではボリュームゾーンが5点台だったのが、Y世代で8点まで評価が上がって、Z世代ではまた少し下がっているようですね(図1)

調査T 2000年(平成12)前後から各地で高度浄水処理の導入が進み、以前と比べておいしく感じるようになったと言われています。しかし、その後はペットボトル入りの飲料水やウォーターサーバーなどが台頭した結果、水道水を飲む機会自体が減ってきているのでは、と考えられます。

調査 おいしさは相対比較だから、選択肢が増えれば水道水への評価も厳しくなりますよね。昔は水道水しかなくて、校庭や校舎で蛇口からゴクゴク飲んだものですが、今は子どもに水筒を持たせる学校も増えていると聞きます。

調査 コンビニで水を買うのがあたりまえのZ世代にとって、水道水は飲む水というより「使う水」になったのかもしれません。気になったのは、水道水の味や品質に不満がある人も減っていること。そもそも彼らは水にあまりこだわりや関心がないのでは?

調査 そうですね。いいか悪いかは別として、今の時代、水の存在が特別なものではなくなってきている。それが若い人たちの水への無関心につながり、いろいろな傾向となって表れていると私は解釈しています。

調査 昔に比べて今は渇水による断水や取水制限といった体験や記憶があまりないので、水の大切さを感じづらいのかもしれません。

調査 たしかに、水のありがたさを感じる時として「渇水などで給水制限が行なわれている時」を挙げている人は、X世代が5割以上だったのに対して、Z世代は2割程度に減っています(図2)

  • X世代と比較すると、Y世代、Z世代では平均点が上がっている。Z世代の半数が7点以上

    X世代と比較すると、Y世代、Z世代では平均点が上がっている。Z世代の半数が7点以上

  • 「給水制限が行われているとき」が、X世代は約5.5割、Y世代は3~4割だが、Z世代では2割程度。給水制限が減っていること、水道以外の方法で水を得ることが理由なのか

    「給水制限が行われているとき」が、X世代は約5.5割、Y世代は3~4割だが、Z世代では2割程度。給水制限が減っていること、水道以外の方法で水を得ることが理由なのか

衛生意識の高まりが節水にも影響を?

調査 節水については、X世代は半数以上が「多少は節水している」と答えていたのが、2013年(平成25)以降は「節水・再利用は気にしながらも、特に何もせずに水を使っている」がトップになっています(図3)。節水意識はあっても、日常の場面で面倒なことはしたくないのでしょうか。

編集 最近はトイレや洗濯機などの節水技術が進化しているので、自分がやらなくても機器がやってくれるという安心感もあるような気がします。

調査 風呂の残り湯の使いまわしが減っているのは、衛生意識の高まりとも関係があると思います。節水よりも残り湯における細菌の繁殖が怖いのでは?そして、今の若い人はそもそもバスタブに浸からずシャワーで済ませる人が多いので、生活様式の変化も考えなくてはいけません。

2013年から「節水していない人(節水・再利用を気にせず水を使っている+節水再利用は気にしながらも特に何もせずに水を使っている)」の割合が増えている

2013年から「節水していない人(節水・再利用を気にせず水を使っている+節水再利用は気にしながらも特に何もせずに水を使っている)」の割合が増えている

水辺に求めるのは刺激より「癒し」

編集 X世代では「水辺でしたいこと」として海や渓谷でのスポーツやレジャーを挙げる人が7~8割いましたが、Y世代は3割前後と激減しています(図4)。今の若い人は水辺にアクティブな刺激を求めないのでしょうか。唯一のZ世代としてはいかがですか。

調査 たしかに私も水辺では静かに癒されたい気持ちの方が強いですね。今はSNSが普及しているので、海や川のきれいな景色を撮影して仲間と共有することが楽しかったり、それを見て自分も行ってみようと思ったりする人が同世代には多い気がします。

編集 1990年代後半に河川法の改正があって、治水、利水に加えて河川環境の整備や保全が盛り込まれ、親水公園も次々とつくられました。人工的だけど景観がよく安全に近づける川の風景が、今の若い人たちにとっての水のイメージなのかもしれないですね。

調査 海や渓谷で遊ぶ人が減ったのは、今の若い世代に車を持っている人が少ないことも関係ありませんか? 遠くの海に電車で出かけるのは億劫なので、近くの川辺の散歩で済ませてしまうとか。

調査 美容や健康に対する意識が変わってきたことも大きいと思います。紫外線の肌への影響に関する知識も広まり、最近は日に焼けたくないという人が男女ともに非常に増えているようです。

編集 2010年ごろから若い人の間でナイトプールが流行していますが、その理由には、SNS映えする、日焼けしたくない、海はベタベタして気持ち悪いといった声が多いようです。

X世代では水辺でしたいことが多く挙がっていたが、Y世代では少なくなっている

X世代では水辺でしたいことが多く挙がっていたが、Y世代では少なくなっている

水の災害への不安と対策

編集 水と災害について、何か気づいたことはありますか。

調査 「日ごろ不安や心配に感じている項目」として、給水制限や水質の悪化などが挙げられていますが、全体的に数値が減少しています(図5)。2021年(令和3)の調査では、20代だけ「特に感じない」がトップとなっており、水への無関心がここにも表れていると感じました。ただし、災害時の備えとして市販のペットボトル入りの水を買いおきしている人は、他の年代に比べてZ世代は多いです(図6)。Z世代の4人に1人は水を1週間分買い置きしていますので、災害対策というよりも日常的に水をストックしておくのが習慣化しているのかもしれません。

調査 ハザードマップの認知度が上がっていて、2019年(令和元)には5割を超えました(図7)。近年、大きな水害が多く、行政や教育の現場でハザードマップの啓発や普及の取り組みがなされているからでしょうか。

編集 本誌62号の防災特集で取材した鬼怒川流域では2015年の「平成27年9月関東・東北豪雨」を教訓に、子どもたちにハザードマップなどを使った防災啓発活動を積極的に行なっていて、他の自治体にもどんどん広がっています。

編集 自分が今いる場所の天候や災害情報がプッシュ通知でスマホに送られてきて、それをネット上のハザードマップで確認するという行為が習慣化されてきました。リアルタイムに災害情報を得られることで、意識にどんな変化が起きているのか興味があります。

  • X世代では「飲料水や生活用水の悪化」「酸性雨」などが多く挙がっていたが、Z世代では少なくなっている

    X世代では「飲料水や生活用水の悪化」「酸性雨」などが多く挙がっていたが、Z世代では少なくなっている

  • 「買い置きしている人」は東日本大震災の2011年と2012年は上昇。そして2019年と2020年は45%以上の人が買い置きしている

    「買い置きしている人」は東日本大震災の2011年と2012年は上昇。そして2019年と2020年は45%以上の人が買い置きしている

  • Z世代の方がY世代よりも認知度が高い

    Z世代の方がY世代よりも認知度が高い

環境のために、という意識は強い?

調査 地球温暖化に伴う気候変動への危機意識の有無を10年前と比較すると、「(非常にあるいは少し)意識している人」の割合は、全体で65.5%から49.2%へと大幅に減少。特に20代はもっとも少なく4割を切っています(図8)。Z世代は環境問題への関心が高いイメージがあったので意外でした。

調査 温暖化に漠然とした危機感はあるけれど、今の日本では具体的に何かに困っているわけではないので、当事者意識が薄いのだと思います。

調査 地球温暖化に関心がないのではなく、SDGsのようにより広い視野で社会を捉える傾向にあるとはいえないでしょうか。たくさんの情報に囲まれて、いろいろ考えなければいけないなかで、温暖化や水問題は優先的に意識を向ける対象になっていないと考えられます。

調査 ところが、おもしろいことに「温室効果ガス排出ゼロを実現するために毎月払える金額」は全体平均が1265円のところ、20代は1470円ともっとも高いんです(図9)。つまり環境のために何かしてもいいという気持ちは強いのです。ただし、脱プラスチックでストローを減らそうといったわかりやすいアクションが目の前にあれば協力するけれど、地球温暖化を抑制するために自分の行動にどう落とし込むかを能動的に考えるほど熱心ではない、ともいえます。

調査 以前は社会問題を語ることはどこかまじめでカッコ悪いイメージでしたが、最近のメディアの取り上げ方などを見ていると、若者がSDGsについて考えること自体がトレンドというか、ある種ファッション化しているようにも感じます。もしそうであれば、例えば水の重要性を啓発するにしても難しく語るのではなく、若者が受け入れやすいスマートな伝え方にすれば「自分事」として捉えるようになるのではないでしょうか。

調査 今回、8年ぶりに「100年後の水を取り巻く環境」について尋ねましたが、全体として「海や川が汚染されている」「森林が荒れ果てている」といったネガティブな項目の数値が高いのは以前と変わりませんでした。Z世代の若者は、未来の水をどうとらえているのか、そこに希望はあるのか、本音を聞いてみたいですね。

編集 生活意識調査を長年続けてきたことによって、水と人とのかかわりのなかで時代とともに変化すること、しないことが見えてきた気がします。そもそも20年以上続けることを想定して設計されたものではないのですが、それゆえ今回は想像も含めて、思い切った推測ができました。今後は調査自体を、より「水」への意識や感謝につなぐために見直しながら継続していきたいと思います。

  • 「意識している人(非常に意識している+少し意識している)」は、2011年の52.7%に対して2021年は37.0%と減少

    「意識している人(非常に意識している+少し意識している)」は、2011年の52.7%に対して2021年は37.0%と減少
    ※2021年の「生活意識調査」のデータ

  • 年代別に見ると20代がもっとも高く1,470円となった

    年代別に見ると20代がもっとも高く1,470円となった
    (注)「10,001円以上」を回答した場合は不明として集計(12件)
    ※2021年の「生活意識調査」のデータ

(2021年6月8日/リモート開催)

座談会を終えて 編集部

過去26年間のデータから「20代」をピックアップして一部再集計し、20代の回答が「その年の全体よりもプラスマイナス10ポイント」となっている項目などに着目しながら意見を出し合った今回の座談会。Z世代のサンプル数も限られるため、はっきりと言えないことは多いが、時代背景とともに生活様式や衛生意識の変化もかなり影響していそうだ。

例えば水道水への意識。高度浄水処理が進みおいしくなったという話がある。その一方で、コンビニエンスストアや自動販売機などの販売箇所の増加とともに、軽くて便利なペットボトル飲料の普及など、かつてに比べて選択肢が広がったことで、水の飲料としての価値が下がっているのではないかといった話も出た。

ほかにも、SNSの普及によって水辺の価値観そのものが変わりつつある可能性や、若い世代が自動車を所有しなくなったことで行動圏に変化が生じて遠出の機会が減っているのではないかという推測もある。公共交通が発達している都市部と、車の所有台数が高い地域でも違いがあると思う。

一方、データを詳細に見ていくと、Y世代にはX世代とZ世代とは少し違う傾向があることもわかった。X世代が親として育てた子どもがZ世代にあたるが、Y世代が親として育てた子どもはまだ調査対象ではない。今後は時代背景だけでなく、家庭環境や教育なども考慮する必要があるのかもしれない。

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