機関誌『水の文化』69号
Z世代の水意識

Z世代の水意識
Z世代座談会

「学びの場」をきっかけに抱いた水への興味
──今、Z世代が感じていること

国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」に各国が取り組んでいる。何を大事にすべきか人びとの価値観が揺れ動くなか、1995年(平成7)年以降に生まれたZ世代の意識を知りたいと考えた。そこで、過去の学びや体験から水に対する関心が高く、今も水にまつわる研究や活動に取り組んでいるZ世代5名を招き、水を意識するようになったきっかけ、今後の社会や水環境に必要だと思うことについてお聞きした。(文中は敬称略)

高校時代から続く「水」への関心

──皆さんはどのように「水」とかかわり、どのような活動を続けていますか。井草さん、小泉さん、橋本さんは、SGH(スーパーグローバルハイスクール)に認定された出身高校の課題研究で、水にかかわるテーマに取り組んだそうですね。

井草 秋田県にある国際教養大学2年生です。静岡県立三島北高校では生活排水の課題を中心に取り組み、水問題の意識向上を目的とした授業案を作成しました。今は「ウォーターリテラシー・オープンフォーラム」の実行委員を務め、1カ月に1回はイベント企画を考えるため水に真剣に向き合う機会があります。

そのおかげで、シャワーのお湯を無駄に流さないとか、お皿を洗うときも油分をきれいに拭きとってから洗うなど自分の生活のちょっとした変化につながりました。

小泉 国際基督教大学2年生です。宮城県仙台二華高校では、ベトナムのメコンデルタでの海水遡上による塩害の課題に取り組み、現地でフィールドワークをしました。東日本大震災で津波の被害を受けた農地を、塩分濃度が高い環境に生息する「好塩菌(こうえんきん)」を使った堆肥によって回復した、という長崎大学の先生の論文を読み、それを利用して塩害を取り除き土壌回復できないかと考えたんです。

この方法を食糧問題などにも応用できないかと今も研究を続けています。また、昨年は所属しているIHRP(注)という団体で海洋プラスチック問題を高校生が研究するプログラムを運営しました。

橋本 東北大学農学部3年生です。小泉さんと同じ仙台二華高校では、カンボジアのトンレサップ湖の水上集落でフィールドワークをしました。湖上で生活しているのは貧しくて陸に土地を買えないからなんです。水上集落では、洗濯などの生活用水はミョウバンで湖水の汚れを沈澱させてその上澄みを使っていますが、大腸菌などは殺菌できないので飲用には使えず、ボトルウォーターを買っています。ですので飲料水の購入費が浮けば家計の負担が減り貧困から脱出できるのではないかと考え、雨水を活用するための雨どいと雨水タンクを現地で入手可能な材料でつくる研究に携わりました。

フィールドワークで気づいたのは、実はそれほど現地の人たちは困っていないということ。飲用水ではなく、生活用水としてのニーズならあったんです。また、支出に関するインタビューで、食費や学費以外の娯楽関係の出費に関しては、妥当な支出ではないと判断されるのを嫌ってか、なかなか明かしてくれませんでした。

この2つの気づきから、現地のほんとうのニーズを把握する大切さを痛感しました。それを踏まえ大学では、環境経済学コースで合意形成のしかたやインタビュー方法などのメソッドも学んでいます。

川俣 法政大学現代福祉学部2年生です。高校時代に3カ月間、オーストラリアへ留学したのですが、渡航前に髪の毛を短くしたり、シャワーを短時間で浴びる練習をしたほうがいいよ、と言われました。それまで一度も水に不自由したことがないので驚きでした。私のホームステイ先では水道水を飲みましたし、シャワーの時間も制限されなかったんですが、友人は5分でシャワーを終えるように厳命されたそうです。日本よりも値段がずっと高いペットボトルの水を大量に買っている家庭もありました。

この経験が心に残っていて、大学入学後は水の研究をされている野田岳仁先生の環境社会学のゼミに所属しました。今は東京都中央区佃(つくだ)に多く残る井戸を研究しています。花に水をやるため井戸水を汲みに行くと近所の方とお話しする機会があるなど、井戸は人と人とをつなぐ重要な役割を担っていることがわかりました。

(注)IHRP
Interdisciplinary High School Research Programの略。高校生のアイディアと専門家の知見を組み合わせることで社会問題の解決を目指すオンラインプログラム。

  • 井草さんが高校生のとき、「SGH甲子園」に出場した際に使用したポスター。

    井草さんが高校生のとき、「SGH甲子園」に出場した際に使用したポスター。SGH甲子園とは全国のスーパーグローバルハイスクール(SGH)の高校生たちが研究成果を発表し合う課題研究発表会
    提供:井草七海さん

  • 小泉さんが高校時代に取り組んだ課題研究の様子

    小泉さんが高校時代に取り組んだ課題研究の様子(上からベトナムのインタビュー終了後/カンボジアの協力者宅での水質検査)
    提供:小泉みのりさん

  • 小泉さんが高校時代に取り組んだ課題研究の様子(シンガポールにおける学会発表)

    小泉さんが高校時代に取り組んだ課題研究の様子(シンガポールにおける学会発表)
    提供:小泉みのりさん

  • 小泉さんが現在かかわっているIHRPの報告書表紙 提供:小泉みのりさん

    小泉さんが現在かかわっているIHRPの報告書表紙
    提供:小泉みのりさん

  • 高校時代に橋本さんがフィールドワークを行なったカンボジアのトンレサップ湖の水上集落

    高校時代に橋本さんがフィールドワークを行なったカンボジアのトンレサップ湖の水上集落
    提供:宮城県仙台二華高等学校

  • 現地で雨どい製作に取り組む橋本さん

    現地で雨どい製作に取り組む橋本さん
    提供:橋本椎奈さん

  • 川俣さんは大学のゼミで東京都中央区佃の井戸を巡って聞き取り調査を行ない、コミュニティにおける水場の意味を考えている

    川俣さんは大学のゼミで東京都中央区佃の井戸を巡って聞き取り調査を行ない、コミュニティにおける水場の意味を考えている
    提供:法政大学現代福祉学部 准教授 野田岳仁さん

水質を簡易測定するスマホアプリの開発

──石井さんは大学院で研究されながら会社も立ち上げていますね。

石井 中央大学大学院理工学研究科博士後期課程1年です。大きく分けると、水の専門家と一般の人々の二軸を対象に活動しています。前者は簡単にいうとAI(人工知能)を使った水道水の処理です。人口減で浄水場の職員の技術継承が課題になっています。河川水を水道水にするための処理は、その土地ごとに経験則のようなものが存在していて、完全には数式化されていません。それをなんとかAIでカバーできないかという研究をしています。

とはいえAIも万能ではありませんから、将来、専門家だけでは立ち行かない時代が来たとき、一般の方々の協力が必須になります。そのためには、まず水について知ってもらうのがいちばんです。そこで、水道水や河川水の水質を簡易計測できるスマートフォンのアプリを開発しています。AIにしろスマホアプリにしろ、開発したものを実際に使ってもらうには研究室に所属しているだけでは限界があり、関係者と連携しながら事業としても成立させなければいけません。そこで今年の4月から会社をつくり活動を進めています。

橋本 スマホアプリだけで、どうやって水質を測るんですか。

石井 正確にいうとリトマス紙のような試験紙が必要です。例えば自治体に協力してもらってアプリと試験紙を住民に配布し、どういうデータが集まるかを検証実験していきたいと考えています。

川俣 これから会社をどんな方向に発展させていくのですか。

石井 今の研究を仕事として引き受けられるようにしていきたいですね。少し微妙な問題ですが、水処理にかかわる企業にとってAIによる最適化が必ずしもよい方向に働くとは限らないんです。技術者である「人」がやることに信頼や安全を感じる人もいるため、AIをどう使えば最大限のメリットを享受できるのか……。その可能性を追究したいと思っています。

橋本 AIについてそういう捉え方もあるんですね。たしかにそうだなと思いました。今、私は就活中なのでとても参考になります。

  • 石井さんが水道水や河川水の水質を簡易測定するために開発したスマートフォンアプリ。起動→スタート画面→水質(ここではpH)測定画面

    石井さんが水道水や河川水の水質を簡易測定するために開発したスマートフォンアプリ。起動→スタート画面→水質(ここではpH)測定画面
    提供:石井崇晃さん

  • 石井さんが水道水や河川水の水質を簡易測定するために開発したスマートフォンアプリ。自分で測定した結果の履歴→他人も含めた測定結果

    石井さんが水道水や河川水の水質を簡易測定するために開発したスマートフォンアプリ。自分で測定した結果の履歴→他人も含めた測定結果(個人情報が含まれるため現在調整中)
    提供:石井崇晃さん

「実体」と「イメージ」に差がある日本の水道水

──日本の水環境についてはどうですか?水道水への意識や海外と日本の飲み水の違いなど感じたことをお聞かせください。

石井 今日の出席者のなかで一番多く浄水場に行っているのが私でしょう。浄水場でどういう処理をしているのかを知っているので、水道水には不安がありません。ですのでいつも水筒に水道水を入れて持ち歩き頻繁に飲みます。水環境を研究する身としては、マイクロプラスチック汚染を考えるとよくないと思いつつ、足りずにペットボトルを買うこともあります。

井草 友人が誕生日プレゼントにくれた名入りのマイボトルに水道水を入れて愛用しています。マイクロプラスチックのことを調査した友人のプレゼンもよく聞いていたので、1年間でペットボトルを買う本数を10本以下にしようと目標を立てたんですが、なかなか達成は難しいです。

橋本 1日2Lの水を飲むと体にいいと聞いたので500mlの水筒に水道水を4回入れ替えて飲んでいます。お茶もコーヒーもジュースも飲まないで、水分は水でとります。

小泉 私も1日2Lの話を聞いたことがあって、水を飲もうと心がけているんですけど、そんなにたくさん飲めません。どうしてもお茶やコーヒーが多くなっちゃいますね。

川俣 静岡県伊東市から去年東京に出てきて水道水を飲んだら「あれ、ちょっと違う……」と最初に感じてしまったので、ふだんはペットボトルの水やお茶を常備して飲んでいます。

井草 私も富士山のふもとの水のきれいなところで育ったんですが、秋田の水道水もそんなに差がなくて、おいしいと感じました。川俣さんと同じくオーストラリアにホームステイしたことがあり、また生水は飲まないほうがいいと言われたベトナムにも行ったことがあるので、日本はすごく水に恵まれているなと思います。

石井 私の知る限り東京都ほど設備に圧倒的なお金をかけて高度な水処理をしている自治体はないです。水質的な面で東京の水道水は何ら問題ありません。

川俣 そうなんですか。飲むようにしよう!でも、その話を聞いたうえでも、なぜだかやはり、生まれ育った地元の水に対する信頼感の方が勝るような気がします。祖母が水道水を汲んで「これは富士山の水ですごく冷たくておいしいんだよ」と言っていたのを覚えているからかもしれません。

石井 たしかに静岡など水のきれいなところにいたら、実際に味の違いを感じるかもしれませんし、そこはなんともいえませんね。

橋本 東京は、水源はきれいだと思うんですが、街なかを流れている川や水路など身近な水環境があまりきれいではないというイメージがあって、そこから引っ張られて水道水に対する気持ちにもバイアスがかかるのではないでしょうか。木々に囲まれた地元の水源ならば、自然から生まれたきれいな水だという認識がある。ペットボトルを買う人が多いのは、緑豊かな水源をイメージしたラベルの印象が強いこともあると思います。

石井 自然の湧水の方がおいしそうだし、管理された水道水より価値を感じる人が私たちの世代でも多いでしょう。ただし個人的には、湧水がほんとうにきれいなの?有害な細菌はいないの?と疑ってしまう自分がいて。検査・処理してあった方が正直、安心します。

小泉 農業に関する授業で有機農業と慣行農業の違いについて議論したことがあります。それぞれの農作物の味の違いは証明されていないんですが、なんとなくオーガニックっていいよね、という感覚的なイメージで前者を選ぶ人が多いんじゃないか、と。水についても同じなのかもしれません。

石井 そうですね。思った以上に水はイメージに左右される部分が大きいのかもしれません。研究を進めるうえでも大事な要素の一つだと感じました。

どこから来てどこへ行く?水が「自分事」になる社会

──今後こんな機会や体験があると、もっと水への関心が高まるのでは?と思うことはありますか。その結果30年後、こんな水環境と社会になっていてほしい、あるいはこうしたい、と考えていることがあれば教えてください。

小泉 中高生に研究活動の機会を提供する活動をしていますが、やはり教育が大事だと思います。私が水に関心をもったきっかけも中高での課題研究の授業でした。自分から一歩踏み出すのはハードルが高いし限界もあるので、学校教育で水に関する課題を取り上げる機会が増えてほしいですね。

井草 私も教育の影響が大きいと思います。水の奥深さ、水を通していろんなことを知ったきっかけがやはり教育でした。30年後は、発展途上国も今の日本のように水に不自由しない社会環境になっていたらすばらしいです。

川俣 皆さんのお話を聞いて、いろんな国の水事情を調べたくなりました。自分の研究につなげると、井戸をつくること、あるいは井戸を残すことが大事だと考えています。井戸が人と人とをつなぐ資源でもあるとしたら、井戸を大切にすることが水を大切にすることにつながるからです。災害時用の井戸も、さらに増えてほしいですね。

石井 カンボジアの人たちが意外に困っていない、という話はとても印象に残りました。日本人の価値観だけで現地を判断してはいけない。海外の研究では気をつけなければと思いました。

今後の話をすると、やはりアピールが大切かな、と。水道水が飲めることは知っていても、具体的にどう管理されているかは多くの人が知りません。もっともっと情報発信が必要です。携帯電話と水道を比べたら、生活するなかで止まって困るのは絶対に水道ですが、どちらの方に多くお金を払いますかと聞けば、きっと携帯電話でしょう。こうしたギャップを埋める方策も、変わらず飲める水道水を30年後も維持するには必要かもしれません。

橋本 ふだん使う水道の水源を知ることから始めて、水を自分の問題として捉えることが行動を起こすきっかけにもなるはず。水がどこから来てどう処理され、使った後はどこへ行くのか、水があってあたりまえと無関心にならず、そのことに認識が向く社会にしたいですね。それが人々の消費や行動の選択にもかかわってくると思います。

(2021年9月5日/リモート開催)

Column
共感力が高く、柔軟な心をもつ世代

水についてそれぞれ異なるバックボーンをもったZ世代5名に集まっていただいた座談会。最初は少しぎこちなかったものの、互いの自己紹介が終わると徐々に雰囲気が柔らかくなっていった。主要な話題が終わったあと、この座談会でおもしろいと思った点、友人に話したいと感じたことについて聞いた。

小泉さんは川俣さんが研究している「井戸」について強い関心を示した。日本で井戸を使っている場所を知らなかったし、災害用の井戸があることも初めて聞いたと言う。「すごくおもしろいので調べてみたい」と目を輝かせた。

水道水については、石井さんの東京の水の話題をきっかけに盛り上がった。橋本さんは「東京都の水がそんなに管理されているとは……誰かに話したい!」と言う。井草さんも「水って一番身近なはずなのに、知らないことがいっぱいあるんですね」と自分が秋田で飲んでいる水道水の水源を調べたいと話し、橋本さんも「地元や幼いころの経験はすごく根深いものなんですね」と深く頷いていた。

5名とも水については同世代のなかでは知識も経験も抜きんでているはずだが、知らないこともあり、「それってどういうことですか?」と素直に尋ねたり、「そうなんですか!」と共感する瞬間も多く見られ、互いに刺激を受けたようだった。

話を聞いていて全員に共通していると思う点は、高校や大学での学びとその経験がいかに大切かということ。水を起点とする教育、そして留学など他国での生活を体験することで日本と異なる「水環境」に触れ、それによって目が開かれていくようだ。

また、他者からの情報を素直に受け入れるだけでなく、「調べてみよう」と考える好奇心や探求心の発露も感じた。それらは理解を深めていくことになるだろうし、視野を広げる柔軟な姿勢がこの世代の特徴の一つでもあるのだろう。

逆にいえば、そうした学びや経験がなく、日本で普通に生活しているだけでは「水はあってあたりまえ」の環境なので、水の貴重さに意識が向くようになるのは難しいのかもしれない。

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